ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 7

木野 キノ子

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第2章 危急

3 ラルト・ディスタ・ディーブロイド小伯爵

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さて…一夜明けた日の朝。
フィリアム商会の支部入り口付近に、先代とトランペストの姿があった。
子供たちはまだ寝ているようで、そこにはいなかった。

「どうしても、出ていかれるのですか?」

ラルトが対応している。

「申し訳ありませんが、こちらにもひっ迫した事情がありまして…。
あの子たちのこと、くれぐれもよろしくお願いいたします。
あなた達なら、安心できる」

先代は…とても静かに、丁寧なお辞儀をした。

「う~ん、実は確認したいことがありまして…」

ラルトの発したその先の言葉が…他人の耳に届くことは無かった。
なぜなら…。

フィリアム商会支部の窓ガラスをすべて割る勢いで…、おびただしい数の矢が飛び込んで
来たからだ。

「敵襲――――――――――――っ!!」

ラルトのその声と共に、中にいた職員たちが、一斉に盾を持ち、矢を防ぐ。
朝だからお客さんいなくてよかった~。
いたら…矢を放ったやつ、死刑だがな。
盾だけでなく、各々の武器を持ち、非戦闘員は地下の防空壕に避難する。
寝ていた子供たちは、もちろん職員が抱えて連れてった。
武のファルメニウスだからこそ…こういう時の備えは万全だぞ、舐めんな!!

先代とトランペストは…ラルトが指示して、カウンターの分厚い机を盾がわりにしてもらった。

やがて…矢の雨が止んだ。

護衛騎士と守備隊が、外を伺いなら隊列を組む。

「どうだ!!外の様子は!!」

ラルトが尋ねると、

「囲まれています…ただ…あの兵は…」

「どうした?」

「近衛騎士団ではないかと…」

「はあ!!」

ラルトもこれには驚きを隠せない。

「人数が多すぎないか?」

「おそらく…予備兵を連れてきています」

「なんだと!!」

予備兵ってのはさ…何か有事が起こった際に、人数が足りなくなったりするじゃない?
そういう時のために確保してある兵…まんまや。
通常時は普通の貴族生活、有事は軍隊になるって具合よ。

「近衛騎士団が、何でウチを攻撃するんだ!」

「わかりません!!」

ダヨネー。

「聞いてみろ!!」

まんまやな、ホント…。

「なぜフィリアム商会を攻撃するんだ!!
明確な返答が無い場合、こちらも臨戦態勢を取らざるを得ない!!」

この世界の軍隊に所属する人って…高い確率で拡声器いらん人ばっかや…。

彼らからの返答は無かった…。
しかし、攻撃もやんだ。

暫く拮抗状態が続いたが、ほどなくして、

「ケイルクス王太子殿下のおなり―――――――――――っ!!」

近衛騎士団側から、やっぱり拡声器で言ったとしか思えないぐらいの声量が。

…………………………………。
って、何で王太子殿下がここに来る!!
わけわからん!!
横には…オリバー卿はわかるとして…、ジョノァド・スタリュイヴェもいるじゃん。
……まだ切ってねぇのかよ、そいつ!!おい!!

ラルトは…先代とトランペストに動かないよう、指示し、護衛騎士と共に前へ出る。

「ご機嫌麗しゅう、ケイルクス王太子殿下…。
ラルト・ディスタ・ディーブロイド小伯爵がご挨拶申し上げます」

まあ…すぐにでも問いただしたいところだろうが、ラルトは出来る男ゆえ、礼は欠かさない。

「一体…どのような理由があって、フィリアム商会を攻撃したのでしょうか?
ギリアム様にご報告しなければならないので、ご説明頂きたく存じます」

当然のことだから、相手が王族とはいえ、説明義務は生じる。

「あ~、実はだな…。
タレコミがあったんだよ」

ケイルクス王太子殿下は、割と余裕ありげにしゃべり始めた。

「このフィリアム商会支部に…」

少し、ワザとらしい間を置く。

「オルフィリア公爵夫人を…二度にわたって襲った賊が入り込んだってな…」

「!!」

ラルト…かなりビックリしたろうなぁ…。
でも、さすがっちゃさすが!!
絶対顔には出さない。

「そのような情報を…一体どこで?」

「それは…王家の企業秘密だ」

よく言うよ…。
隣にいる誰かさんからの、情報だろうよ。

「侵入者が居れば…すぐにわかりますよ?
この支部は…割と小さい方ですから、職員も少ないですし」

「職員じゃないのが、いるんじゃないか?」

「……確かにおりますが、私の見た限り、凶悪な人間には見えませんよ?」

「それは…こちらで調べるから、引き渡してくれ」

ケイルクス王太子殿下は微笑みながら、優しく言うのだが…。
ラルトは眉をひそめ、

「なぜでしょうか?」

「は?」

「そもそも…仮にオルフィリア公爵夫人を襲った人間だとしたら、ギリアム様がお調べになるのが
筋だと思われますが…。
王立騎士団はそう言った機関ですし」

すっごいド正論。
さすがラルト。

「い、いや…襲われたのが、狩猟大会だから!!
近衛騎士団の管轄だろう?」

「ルベンディン侯爵家でも襲われております」

「そ、そっちだって、最初近衛騎士団で調べることになっただろう!!」

結構焦ってるね…。
自分が行けば、平伏してすぐに引き渡すと思ったんだろうなぁ。
けどよ…職員だけならまだしも、フィリアム商会総括部にいる人間は…そんなに甘くねぇ。

「そうですね。
そして見事に、容疑者を死なせましたね」

さらーりと、言ってのける。
事実だから、ケイルクス王太子殿下、何も言えなくなってらぁ。

「少し…失礼すぎませんかねぇ…」

おや、ジョノァドが出たね。

「仮にも…ケイルクス王太子殿下のお言葉に…たかが小伯爵風情が、意見するなど
おこがましいですよ…」

能面笑顔は変わらないが…なんだか余裕が消えて…かわりに鬼気迫る感が出ている。

「……それは、認めます」

「なら…」

「ですが…」

ここからが、ラルトの凄い所。

「筋が通らないことには…例え己の首が飛ぶとしても、最後まで従ってはならない。
それがウチの家訓だと、父に幼いころから言われておりますので、引き渡しは拒否
いたします」

皆さまお気づきかと思いますが…ラルトは正真正銘、フォルトとエマの息子です。
そしてラルトは…見事にフォルトの性格を引き継ぎました。

「だいたい、ジョノァド卿は…散々ウチの家訓について、父から聞いているハズですが?
お忘れになるのは勝手ですが、私と父の行動は、変わりませんよ?」

かなり挑発的。
まあ…親子そろって、ジョノァドには煮え湯を飲まされているから、特に従わない。

ジョノァドは…能面笑顔だが、どんどん怒気を孕んでいく。
やっぱり…焦っているからこそ、余裕のあったころの平常心が、なくなってきている
みたい…。

「フォルトの小倅が…私にそんな口をきいていいと思っているのか…」

かなり…ドスの利いた声になっている。

「いいかどうかはわかりませんねぇ…私は筋さえ通して頂ければ、要求に従う気は
ありますので」

何だか…すごいオーラ合戦になってきた…。
ケイルクス王太子殿下…いつの間にやら置いてかれてる。

「少し冷静になってください、お二人とも!!
ケイルクス王太子殿下の御前です!!」

オリバー卿が入ったよ…。
この人も…出来る人なんだろうなぁ。
キンラク商会なんかにいても、いいこと無いぞって言ってあげたい。

「ラルト卿!!どうしても引き渡しは拒否するのですか!!」

「はい。
私が聞いた限りで、正当性があると思えませんので…」

きっぱり言い切る姿がまた…フォルトを彷彿とさせるよなぁ。
ジョノァド悔しそうだ。
フォルトに何度も、この姿を見せられて、自分の思惑潰されたの思い出しているんだろう。

「オルフィリア公爵夫人を襲った犯人ならば…どうしてギリアム様がお調べしてはいけないのか、
その理由を、私に教えてください!!」

一歩も引かないなぁ…ホント。
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