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ニホニア編 Side空
4日目 箒に乗って、空の旅
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ぼくは、いつもよりもゆっくりと、箒を飛ばしていた。
そのせいで、バランスを取ることにも苦労している。
箒の先にジェロームくんが乗っているので、速度を上げるのが怖かったのだ。
箒の先にお行儀よく座るジェロームくんは、ぼくを振り返った。『ずいぶん安全運転だね』
「今日は二人乗りだからね」
ジェロームくんは、あくびをした。『どこに向かってるんだっけ? ウェストサイド・ストーリー? 映画館ならさっき通り過ぎたぜ?』
ぼくは笑った。「違うよ。ウェスタン・ニホニア。映画見たことあるの?」
『あっちから来た魔法使いが見せてくれたんだ。ちっちゃな緑色の機械に入れて持ち歩いてた』ジェロームくんは、ダンシングニホニアにゃん(BL)のように、箒の柄の先で踊り出した。
見ているこっちはヒヤヒヤしてしょうがない。
「……どうやって引っ付いてるの?」
『俺も魔法使えるんだ』
「そうなんだ」
『そうでなきゃ、こんな細っこい箒の先に座ってられるわけないだろ』
「言われてみればそうだね」
ジェロームくんは、ニヤッとした。『俺はフロンジェリーヌのランヌで生まれた。近くの湾の真ん中には、荘厳な大聖堂が立っていてな。モン・サン・ミッシェルだ。そこのシスターに気に入られて、こっちもシスターを気に入ったんだ』
「美人だった?」
『可愛い女の子だった』
ぼくは笑った。「男って奴は……」
ジェロームくんはくしゃみをして、毛繕いでもするように、顔を前足で一回擦った。『それで、よく、その女の子が祈っているときに、そばにいたんだ。初めはなにやってんだこのガキ……、って思ったけど、ヒトってのは面白いな。祈ったり瞑想をしたりしているとき、周囲に漂う魔素を吸収しているんだ。そんなやり方があるなんて、その時まで知らなかった』
「それって、どうやって気づいたの?」祈りや瞑想による集中状態は、魔力を向上させるのにうってつけな方法の一つだ。
『言ったろ。俺も、生まれついた時から魔法を使えるんだ。魔素の動きも、見ようと思えば見れる。大聖堂にいると、魔力が向上するのに気づいて、ついでに女の子も可愛かったから、数十年ほど、大聖堂に住み着いたんだ』
「チャラいね」
『普通にやってるつもりなんだが、そうみたいだな。女の子は大聖堂の管理者になり、俺はマスコットキャラクターになった。だが、たくさんの人間にキャーキャー言われるのが嫌になってな。それで、シスターに挨拶をして、少しの間、旅に出ることにしたんだ。それが、2年前のことだ。それでも……、辛いよな。何かに優れたり、何かに突出した奴ってのは、どこに行っても周囲の奴らを惹きつけちまうもんだ。良くも悪くもな』ジェロームくんは欠伸をした。『別のところに行こうと思うんだ。あの書店は悪くないし、あの店主、俺に対しては良くしてくれるんだが、まるっきり良い奴ってわけじゃない』
「悪い人には思えなかったけど」
『ソラは甘いな。あいつから変な目で見られなかったか?』
「あー」ぼくは鼻を鳴らした。「あれ、なんだったの?」
『割引もされたろ』
「……うん」なんだか心臓の鼓動が大きくなってきた。
『旅人なら覚えておいた方が良いが、ああいう人柄はリスクが高いと思っておけ。ソラの精神衛生上、ああいう人間はよろしくない。みんながみんなそうじゃないが、そうだっていう場合が多い』
「どういうこと?」
ジェロームくんは、箒の下を見た。
もうウェスタン・ニホニアにたどり着いていた。
『このあとはどこに行くんだ?』
「ラシアに行こうかなって」
『そっか。俺は、そろそろフロンジェリーヌに戻ろうかと思う。途中まで一緒に行っても良いか?』
「良いけど、でも、一人旅しようかなって思ってた」
『話し相手がいるのは、ソラにとっても良いだろ』
ぼくは、考えるように唸った。「まあね」
『俺だって一人が好きだ。ずっと一緒にいるわけじゃない。ただ、箒に乗せてくれれば助かる』
ぼくは、ジェロームくんを見て、小さく笑った。
「自分の足で歩くのが面倒なだけじゃ?」
『バレたな』
ぼくは笑った。眼下にティムさんのサルーンが見えた。箒を傾けて、高度を落としていく。「着いたよ。なに食べたい?」
『奢ってくれなくて良い。自分の食い扶持は自分で稼ぐ』
「どうやって?」
ジェロームくんは、ウィンクをすると、クリーム色の砂地に飛んだ。
そのせいで、バランスを取ることにも苦労している。
箒の先にジェロームくんが乗っているので、速度を上げるのが怖かったのだ。
箒の先にお行儀よく座るジェロームくんは、ぼくを振り返った。『ずいぶん安全運転だね』
「今日は二人乗りだからね」
ジェロームくんは、あくびをした。『どこに向かってるんだっけ? ウェストサイド・ストーリー? 映画館ならさっき通り過ぎたぜ?』
ぼくは笑った。「違うよ。ウェスタン・ニホニア。映画見たことあるの?」
『あっちから来た魔法使いが見せてくれたんだ。ちっちゃな緑色の機械に入れて持ち歩いてた』ジェロームくんは、ダンシングニホニアにゃん(BL)のように、箒の柄の先で踊り出した。
見ているこっちはヒヤヒヤしてしょうがない。
「……どうやって引っ付いてるの?」
『俺も魔法使えるんだ』
「そうなんだ」
『そうでなきゃ、こんな細っこい箒の先に座ってられるわけないだろ』
「言われてみればそうだね」
ジェロームくんは、ニヤッとした。『俺はフロンジェリーヌのランヌで生まれた。近くの湾の真ん中には、荘厳な大聖堂が立っていてな。モン・サン・ミッシェルだ。そこのシスターに気に入られて、こっちもシスターを気に入ったんだ』
「美人だった?」
『可愛い女の子だった』
ぼくは笑った。「男って奴は……」
ジェロームくんはくしゃみをして、毛繕いでもするように、顔を前足で一回擦った。『それで、よく、その女の子が祈っているときに、そばにいたんだ。初めはなにやってんだこのガキ……、って思ったけど、ヒトってのは面白いな。祈ったり瞑想をしたりしているとき、周囲に漂う魔素を吸収しているんだ。そんなやり方があるなんて、その時まで知らなかった』
「それって、どうやって気づいたの?」祈りや瞑想による集中状態は、魔力を向上させるのにうってつけな方法の一つだ。
『言ったろ。俺も、生まれついた時から魔法を使えるんだ。魔素の動きも、見ようと思えば見れる。大聖堂にいると、魔力が向上するのに気づいて、ついでに女の子も可愛かったから、数十年ほど、大聖堂に住み着いたんだ』
「チャラいね」
『普通にやってるつもりなんだが、そうみたいだな。女の子は大聖堂の管理者になり、俺はマスコットキャラクターになった。だが、たくさんの人間にキャーキャー言われるのが嫌になってな。それで、シスターに挨拶をして、少しの間、旅に出ることにしたんだ。それが、2年前のことだ。それでも……、辛いよな。何かに優れたり、何かに突出した奴ってのは、どこに行っても周囲の奴らを惹きつけちまうもんだ。良くも悪くもな』ジェロームくんは欠伸をした。『別のところに行こうと思うんだ。あの書店は悪くないし、あの店主、俺に対しては良くしてくれるんだが、まるっきり良い奴ってわけじゃない』
「悪い人には思えなかったけど」
『ソラは甘いな。あいつから変な目で見られなかったか?』
「あー」ぼくは鼻を鳴らした。「あれ、なんだったの?」
『割引もされたろ』
「……うん」なんだか心臓の鼓動が大きくなってきた。
『旅人なら覚えておいた方が良いが、ああいう人柄はリスクが高いと思っておけ。ソラの精神衛生上、ああいう人間はよろしくない。みんながみんなそうじゃないが、そうだっていう場合が多い』
「どういうこと?」
ジェロームくんは、箒の下を見た。
もうウェスタン・ニホニアにたどり着いていた。
『このあとはどこに行くんだ?』
「ラシアに行こうかなって」
『そっか。俺は、そろそろフロンジェリーヌに戻ろうかと思う。途中まで一緒に行っても良いか?』
「良いけど、でも、一人旅しようかなって思ってた」
『話し相手がいるのは、ソラにとっても良いだろ』
ぼくは、考えるように唸った。「まあね」
『俺だって一人が好きだ。ずっと一緒にいるわけじゃない。ただ、箒に乗せてくれれば助かる』
ぼくは、ジェロームくんを見て、小さく笑った。
「自分の足で歩くのが面倒なだけじゃ?」
『バレたな』
ぼくは笑った。眼下にティムさんのサルーンが見えた。箒を傾けて、高度を落としていく。「着いたよ。なに食べたい?」
『奢ってくれなくて良い。自分の食い扶持は自分で稼ぐ』
「どうやって?」
ジェロームくんは、ウィンクをすると、クリーム色の砂地に飛んだ。
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