笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

文字の大きさ
16 / 300
第二章 勇者

修行再開

しおりを挟む
 カルド王国の宿屋『馬の小屋』では事件が起こっていた。いつものように仕事をしていると、仮面をつけた不審な男が女の子を抱き抱えながら入ってきた。しかも男は一部屋でシングルベットを頼んだではないか。


 宿屋の女将は流石に怪しく思い、どうして女の子を抱き抱えているのか聞いた。男はこれまでの経緯を話す、チンピラ二人に絡まれた事やそのチンピラが男の事を馬鹿にして女の子が怒り、疲れてそのまま寝てしまったため、ここまで運んできた事を……。


 事情が分かればこちらも対応しやすい。女将は急いで部屋の準備に取り掛かり、鍵を男に手渡す。男は鍵を受けとるとお礼を述べてそのまま部屋へと向かった。女将は女の子の容態を心配し、料理を作ってあげようと厨房へ姿を消した。




***




 「う、うーん」


 気がつくとそこは知らない天井だった。いつの間にかベットに横になっており、何故こんなところにいるのか思い出そうとする。


 「(……そうだ、確かあの三人と出会って、師匠が馬鹿にされたからそれに怒ったら私…………)」


 「おや、目が覚めたようですね」


 エジタスはずっと真緒の側にいた。


 「師匠……私……」


 「無理して喋らなくてもいいですよ」


 「…………」


 エジタスの言葉に甘えて喋らないように黙るが、やはり喋らないと気がすまない。


 「私は本当に駄目な奴です」


 「…………」


 「過去を克服できたのにちょっと馬鹿にされたぐらいで怒って、終いには気絶しちゃって師匠に迷惑を掛けてしまうし、まだまだ子供だ。ってことですかね」


 「マオさん……」


 真緒の話を最後まで聞くとエジタスはゆっくりと口を開いた。


 「あなたは私のために怒ってくれた。私が馬鹿にされてあなたはまるで、自分の事みたいにあの二人に怒鳴ってくれました」


 「それは、師匠の事を何も知らないのに好き勝手に言うもんだから、つい……」


 「それですよ、マオさん」


 「え?」


 「人間は基本、自己的主義者です。自分の事を最優先にして他人の事は後回しにしています。ですがマオさん、あなたは私の事を思って怒ってくれました。誰かのために泣き、誰かのために怒り、誰かのために笑う。そういう他人を思いやる心が大人になるために必要なことです。それが出来るマオさんはもう十分立派な大人ですよ」


 「し、師匠…………」


 涙が溢れだす。鼻水も垂れ、顔はぐちゃぐちゃになるが、これは嬉しさから来るものだ。真緒はエジタスに抱きつく。


 「……ジジョヴー!!」


 「おわ!マオさん離れてください。鼻水が服に付いちゃいますよ」


 「うう、ししょう……師匠」


 鼻声になりながらエジタスの服に顔を擦り付ける。


 「はぁ~、誰かに見られたら大変ですね~」


 その時、部屋の扉が開く。


 「失礼します、具合の方はどうですか?実は料理を作って……きた……のですが…………」


 「ああ~女将さん。これは違うんですよ」


 スゥーと静かに扉が閉められた。


 「女将さん!?話を聞いてください!女将さん、女将さーん!!」


 女将さんの誤解を解くのには数時間を要した。


 「これからは気をつけてください。いいですね!」


 「はい、すみません」


 女将さんは誤解だと分かると、真緒が食べた料理の皿を回収した。


 「美味しかったです。わざわざ作ってくださりありがとうございます」


 「それはよかった。これからお腹が空いた時は言ってね、腕によりをかけて料理してあげる」


 「はい!よろしくお願いします」


 「それじゃあ私はこれで失礼するわ。」


 そう言うと女将さんは部屋から出ていった。エジタスと真緒の間に沈黙が流れる。沈黙を破って真緒がエジタスに謝罪する。


 「……師匠、本当にごめんなさい」


 「いえいえ、女将さんの誤解も解けたので別に気にしていませんよ。それよりも今日はもう遅いですから、明日修行を再開しましょう」


 「はい、おやすみなさい師匠」


 「おやすみなさい。いい夢を……」




***




 「師匠、おはようございます!」


 「おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」


 カルド王国の草原。再びここでエジタスと真緒は修行を開始する。


 「はい、バッチリです」


 「それは良かった。さて今回はマオさんが勇者として目覚めた為、スキルや魔法が使えるようになっているので、その確認も兼ねて修行しましょう」


 「よろしくお願いします!」


 「うむ。それではまずスキルについてですが、マオさんは見たところ三つのスキルがあるようですね」


 「何でそんなことまで分かるんですか?」


 「それはスキル“鑑定”のおかげです。これは、調べたい対象の物を選択すると詳しい情報が分かります。マオさんも持っているので実際にやってみましょう。調べたい物を見ながら知りたいと強く念じて、言ってみてください」


 「はい!……スキル“鑑定”」


 真緒はエジタスのステータスを鑑定した。




エジタス Lv1

種族 ???

年齢 ???

性別 男

職業 道化師


HP 1/1

MP 1/1


STR 1

DEX 1

VIT 1

AGI 1

INT 1

MND 1

LUK 1


スキル

鑑定 一触即発 偽装 ???


魔法

空間魔法


称号

道楽の道化師




 「し、師匠……。この鑑定壊れていますよ…………」


 「え、どうしてそう思うんですか?」


 「だって、師匠のステータスが…………」


 「ああ~成る程。私の事を鑑定したのですか。それは私が“偽装”というスキルを持っているからですよ」


 「偽装?」


 「偽装は自身のステータスや情報などを偽ることの出来るものです。オール1なのはそのためです」


 「なんだ、そうだったんですか…………。ビックリしましたよ」


 「ですが、その様子なら鑑定は大丈夫そうですね。次のスキルに移りましょう」


 驚いたりはしたが軽蔑とかは全くなく、ただ純粋に意外だなと感じていた真緒。


 「次は“ロストブレイク”です」


 「これはどんな技なんですか?」


 「それを知るためにもまず、そのロストブレイクを鑑定してみてください」


 「分かりました。……スキル“鑑定”」




スキル ロストブレイク


太古の人達が考案したが誰にも使われることのなかった失われし一撃を放つ技。しかし、その強大な力のため自身の身を滅ぼす。




 「これってつまり…………」


 「発動する条件として自分の体力を削るということですね。とりあえず試しに使ってみましょう。あそこにある木に向かって使ってみてください」


 その言葉を聞いた真緒はグラム・ソラスを引き抜いて木に向ける。


 「はい…………スキル“ロストブレイク”」


 真緒はスキルを放った。すると木の真ん中にくっきりとした穴が空いていた。


 「うっ……」


 突如胸に痛みが走る。いったい何が起こったのかと真緒は自分を鑑定するとHP 750/800 と減っていた。


 「50も減ってしまいましたか。確かに強力ではありますがあまり多用するのは控えた方がいいでしょう」


 「分かりました!」


 「では三つ目のスキルの方もお願いします」


 「はい!…………スキル“鑑定”」




スキル 過去への断罪


過去での過ちを悔い改めさせる技。心の闇が深ければ深いほどダメージ量が増える。逆に心に闇を抱えていない人には効果がない。




 「これはまた使いどころが難しいですね」


 「相手の心に闇があるかどうか、分からないですもんね」


 「う~ん……ならその技は使わないようにするといいかもしれませんね」


 「そうですか?」


 「スキルにも当たりハズレがありますから気にしないようにしましょう。それにレベルが上がればスキルも覚えていくので心配要りませんよ」


 「そういうことでしたら、大丈夫です」


 真緒は使わないことに渋っていたが、新しくスキルを手に入れられると知ってからは素直に受け入れた。


 「ではスキルはこの辺にして、次はいよいよ魔法について修行していきましょう」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...