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第二章 勇者

卒業試験

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 「師匠ー!」



 宿屋を後にしたエジタスが真緒達のいる場所に向かっていると、まだ姿が見えていないのに前方から真緒が勢いよく駆け寄ってきた。



 「おやおや、マオさん。そんなに慌ててどうしたんですか?」



 仲間集めが終了した事を敢えて知らないふりをするエジタス。



 「師匠、お久しぶりです!」



 「お久しぶりって……まだ一週間あまりしか経っていませんよ」



 「私には一年以上に感じられました!」



 流石に言い過ぎなのでは?と思うエジタスだが、真緒にはそのぐらいに感じたんだろうと軽く流した。



 「そうですか……それで、今日はどうしたんですか?」



 「あ、忘れてました。おーい皆こっちこっち~」



 真緒が手を振る先に、走ってくる三人がいた。



 「マオぢゃん……ぢょっど、待っでほじいだぁ……」



 「急に走り出して、何かあったんですか?」



 「マオ、そちらの男性は?」



 フォルスが隣にいたエジタスについて聞いてきた。



 「ふふふ、皆さんご紹介しましょう。こちらにおわすのが私の師匠、エジタスさんです!」



 「ど~も初めまして道楽の道化師エジタスと申しま~す」



 両手を拡げ顔の横にやり、小刻みに振りながら真緒の紹介に便乗するエジタス。



 「ごの人がマオぢゃんの……」



 「師匠……」



 「…………」



 三人の反応は微妙と言うより、あまり良くはなかった。しかしそれも仕方がないこと。自分の恩人とも言えるマオが慕う師匠なのだから、さぞ凄い人だろうと思って見てみれば、驚愕。いやらしい不気味な仮面を被り、自身を道楽の道化師と名乗る奇妙な男だった。



 「実は師匠に言われていた卒業試験の仲間集め、無事完了しました!!」



 「何と!?もう終わらせたのですか?まだ一週間あまりしか経っていないのに?」



 「師匠を驚かせようと頑張りました!」



 「そうだったのですか~。狙い通り、驚きましたよ」



 知らないふりを突き通すエジタス。



 「師匠、それじゃあこれで……」



 「はい、お見事ですマオさん。卒業試験合格で~す!」



 「やったー!やったよ皆!」



 「よがっだだねぇ、マオぢゃん」



 「やりましたね、マオさん」



 「見事だ」



 「えへへ……」



 仲間達からの誉め言葉に照れる真緒。



 「それではマオさん。世界各地への旅、頑張ってくださ~い」



 「えっ、師匠は来てくれないんですか!?」



 てっきり一緒に来るものだと考えていた真緒は狼狽える。



 「当たり前じゃないですか、弟子と一緒に旅する師匠はいませんよ。弟子の旅立ちを見届けるのが、師匠に出来る最後の仕事なんですよ」



 「えー、一緒に行きましょうよ~」



 必死に食い下がるが、エジタスのパーティー加入を拒む者は他にもいた。



 「俺は反対だ」



 「フォルスさん?」



 「俺達の旅は何が起こるか分からない。マオ、お前の師匠が凄いのは認める。お前をここまで育ててきたからな……だが悪いけど俺はその人が強いとは思えない」



 「…………二人もそう思っているの?」



 「…………」



 「…………」



 「そんな…………」



 仲間からの否定的な言葉にショックを受ける真緒。



 「でも、師匠は「心外ですね~」……」



 何とか師匠の汚名を挽回しようとすると師匠自身の一言で遮られた。



 「フォルスさん……でしたっけ?そんなに強く見えませんか~?」



 「ああ、失礼だがそうは見えない」



 「ガーン!とてもショックです。……いいでしょう、皆さんにお見せしたいものがあります。少し私にお付き合いお願い出来ますか?」







***







 毎度お馴染みのカルド王国周辺の草原。エジタスと真緒達四人は互いに向き合う形で立っている。



 「師匠、ここでいったい何を?」



 「フォルスさん……」



 「何だ?」



 「あれを見てください」



 エジタスが指差す方向には、これまたお馴染みのキラーフットがいた。



 「だから?キラーフットなんて珍しくも何とも無いぞ」



 するとエジタスは遠くにいるキラーフットに合わせるように親指と人差し指で挟み込むような形を取った。そして……。



 「“圧縮”」



 親指と人差し指を勢いよく、くっつける。その瞬間、キラーフットは見えない“何か”に押し潰され、一面赤く染まった。



 「ヒィ!」



 「な、何だぁ!?」



 「何が起こったんですか?」



 「!!これは……」



 普段慣れない光景に小さな悲鳴をあげる真緒と、慣れているが何が起こったか分からず驚く三人。



 「空間魔法ですよ」



 「空間魔法?」



 「それって師匠の持っている魔法ですよね?」



 「ええ、そうです。対象の寸法を測る空間魔法の応用です。これは発動すると自動的に対象の大きさに合わせて見えない枠が張られます。その枠を無理矢理縮小させると、上と下から圧力に耐えきれず潰れてしまい、先程の“圧縮”になります」



 「空間魔法にこんな使い方があるなんて…………」



 「どうです?私だってなかなかやりますでしょう」



 仮面を被っているため、いまいち分からないが得意気な顔をしてるのは伝わってきた。



 「師匠!凄いです!!やっぱり一緒に行きましょうよ!」



 「だから言ってるでしょ、私は行きません」



 「そんな~、師匠そこを何とかお願いします」



 「俺からも頼む!」



 「え、フォルスさん?」



 真緒がエジタスに頭を下げてお願いしているとフォルスも一緒に頭を下げてきた。



 「あんたがマオの師匠なのは、今の魔法の応用でようやく納得が出来た。さっきの無礼を許してくれとは言わない。だがどうか、俺達の仲間になってくれないだろうか?」



 「無理ですね」



 「なぜだ!?」



 「先程まで仲間にしたくなかった人が、今度は仲間になってほしいと言う。手のひら返しもいいとこです。それにそんな簡単に頭を下げてしまうとは…………あなた達の頭はそんなに軽いのですか?」



 「「…………!」」



 尤もな意見を言われ、その場で固まってしまう二人。



 「マオぢゃん……」



 「フォルスさん……」



 ハナコとリーマが心配してそれぞれ側に寄る。



 「確かに……私達は簡単に頭を下げるぐらい軽いです」



 「弱いと思ってた人が強かったら取り入ろうとする……手のひら返しと言われても仕方がない」



 「「……でも!!」」



 「軽くたっていい、頭を下げることで誰かが救われるなら私は、何度でも頭を下げます!」



 「それで仲間の危険が少なくなるのなら俺は、何度だって手のひらを返して、皆を助ける!」



 再び二人はその軽い頭を下げた。



 「お願いします師匠!!お願いします!」



 「どうか、俺達の仲間になってくれ!頼む!!」



 「オラがらもお願いじまずだぁ」



 「私からもお願いします」



 頭を下げる二人に続くようにハナコとリーマも頭を下げる。



 「…………いいでしょう!皆さんの熱意には負けました。仲間になりましょう」



 「え!?本当ですか本当に、私達の仲間になってくれるんですか?」



 「ただし……私を倒してからの話です」



 「それって……」



 「私をどうしても引き入れたいのであれば、力ずくで倒して仲間にしてください」



 師匠と戦うなんて……そう言おうとしたがそれは逃げだ。弟子は師匠を越える者、そうエジタスは言いたいのだと考えて真緒は一度目を閉じて集中する。そして静かにゆっくりと開ける。



 「分かりました。戦いましょう」



 「覚悟を決めましたか、では四人は全員でかかってきなさい」



 「え、流石に四人を相手ずるのは無理でねぇがぁ?」



 四人と相手しようとするエジタスを心配するハナコだが…………。



 「マオさ~ん、戦闘における最も大切な事は何でしたっけ?」



 「相手を見た目だけで判断しない…………はっ、皆!全力で行くよ!」



 「わ、分がっだ!」



 「分かりました」



 「言われなくても全力で行かせてもらう!」



 全員の目に闘志が宿る。



 「ふふふふ、いいですね~。それでは戦闘開始です!」
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