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第三章 冒険編 オオラカ村の笑わない少女
アメリア
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「次は私が行かせてもらいましょう」
続いての挑戦者は、少し痩せ形の男だった。
「制限時間は一分、それでは……始め!」
「鶏のモノマネ……コココココ、コケ、コケ、コケコッコー!」
「あっははははは!」
痩せ形の男の鶏の鳴き真似と動きに思わず笑ってしまったハナコ。そして、肝心のアメリアは……。
「…………」
これまた微動だにしない。男は必死に鶏の真似をするが、笑うことはなかった。
「はい、時間切れです。残念でしたね、お疲れさまでした」
男は肩を落としながら、ステージを降りた。
「さぁ!続いての挑戦者は誰ですか?」
「はーい、わたしやるー」
そう言って、元気よく手を挙げたのは、アメリアと同じくらいの女の子だった。
「制限時間は一分、それでは……始め!」
「いくよー、にぃらめっこしましょう。わーらうとまけよ、あっぷっぷ!」
口一杯に空気を溜め込み、変顔をする。しかし、それは面白いというより、微笑ましい光景だった。
「ふふ」
思わず笑みが零れてしまったフォルス。そして、肝心のアメリアは……。
「…………」
微動だにしない。瞬きすらない真顔だった。
「んー、ぷぁ!はぁ、はぁ、もうだめー息が続かない」
「はい、時間切れです。残念でしたね、お疲れさまでした」
「にらめっこすごいつよいね、またこんどあそぼ!じゃあね、ばいばい!」
大きく手を振って、ステージを降りた。
「さぁ!続いての挑戦者は誰ですか?」
「はい、私がやります」
ついに真緒が動きを見せた。
「まず、私が行ってみるよ」
「マオぢゃん、頑張っでなぁ」
「応援しています」
「お前なら出来る」
「リラックスですよ~」
真緒は皆に背を向けて、ステージへと上がっていった。
「制限時間は一分、それでは……始め!」
「……ふとんがふっとんだ!」
「「「「「え?」」」」」
真緒の言葉に仲間達だけじゃなく、司会者や観客も含め、全員が呆気に取られた。そして、肝心のアメリアは……。
「…………」
勿論、笑ってはいない。どっちかと言うと戸惑っている顔をしていた。この時、初めてアメリアの表情が変わった。
「え、ええっと、このイクラ、いくら?ウメはうめぇ、アルミ缶の上にあるみかん、トイレにいっといれ、ええっとそれから……」
「はい、時間切れです。残念でしたね、お疲れさまでした」
「ああ、ちょっと待って、ここまで出ているんだけど……」
真緒は首もとを手で示すが、強制的にステージから降ろされてしまった。
「皆、ごめん……」
「い、いや、全然気にじでいないだよ」
「そうですよ、上手くいかない時だってありますよ」
「相手が強かった。それだけだ」
「そうですよ~、そんな深く考えてはいけませんよ」
同情。完全なる同情、しかし真緒はそれに気づかない。
「さぁ!続いての挑戦者は誰ですか?」
「今度はオラが行くだ!」
「ハナちゃん、頑張って」
「ハナコさん、ファイト!」
「お前なら出来る」
「リラックスですよ~」
ハナコは皆に背を向けて、ステージへと上がっていった。
「制限時間は一分、それでは……始め!」
「……ぞ~ら、コチョコチョコチョ」
ハナコはアメリアの脇腹を擽った。
「成る程、その手がありましたか!」
「強制的に笑わせるんですね」
「いけるぞ!」
「頑張ってくださ~い」
ハナコの熊の手を利用して、爪の先で絶妙に擽っていく。そして、肝心のアメリアは……。
「…………」
「な、なんだと!?」
「そんな……」
笑わない。眉一つ動かさないその顔からは、擽ったいという感情は、微塵も感じられなかった。
「はい、時間切れです。残念でしたね、お疲れさまでした」
「ぞ、ぞんなー……」
ハナコは落ち込んだ表情をしながら、ステージを降りた。
「ごめん、皆……」
「何言ってるの、あれで笑わなかったんだから、仕方ないよ」
「気にすることありません」
「よく頑張ったな」
「そうですよ~、そんなに落ち込まなくてもいいんですよ」
皆の励ましの言葉に、元気付けられるハナコ。
「さぁ!続いての挑戦者は誰ですか?」
「では、そろそろあの子に笑顔を届けましょうかね~」
「ついに、師匠の出番ですね!」
「エジタスざん、頑張っでぐだざい」
「エジタスさんならきっと、あの子を笑顔に出来ます」
「頼りにしてるぞ」
エジタスは皆に背を向けて、ステージへと上がっていった。
「制限時間は一分、それでは……始め!」
「いいですか、笑顔は何も面白いことをして、笑わせるだけではありません…………ほい!」
エジタスは数本のナイフを出現させて、手で回し始める。さらにバランスを取りながら、片足だけで立つ。
「ほい、ほい、ほほい」
「す、凄いです師匠!」
「ガッゴいいなぁ~」
「自然に笑みを出させるんですね」
「今度こそいけるぞ!」
エジタスはそこから、ナイフを背面で回し始める。そして、肝心のアメリアは……。
「…………」
「そ、そんな……」
微動だにしない。相変わらず、無表情のままだ。
「はい、時間切れです。残念でしたね、お疲れさまでした」
「…………」
エジタスはステージを降りる間際、見逃さなかった。アメリアの膝が赤くなっていたのを……。
「…………」
「お疲れさまでした師匠」
「オラも失敗しでるがら、落ぢ込まなぐでも大丈夫だ」
「私の為にわざわざ、ありがとうございます」
「あんたはよく頑張ったよ」
皆の励ましの言葉の中、エジタスは何かを考えていた。
「さぁ!続いての挑戦者は誰ですか?」
「……よし、今度は俺が行「ちょっと待ってください」こう……」
フォルスが行こうとすると、エジタスが止めた。
「もう、行く必要はありませんよ」
「え、どういうことですか?」
「おそらく、どんな事をしてもあの子は笑わない……いや、笑いを堪えるでしょう」
「堪える?どういう意味ですか?」
「ステージを降りる際に、見てしまったのですが、あの子の膝に何回もつねった跡がありました。それは、笑いを我慢した為ではないでしょうか?」
「何故、そんなことを?」
「それは、大会が終わった後聞きに行くとしましょう」
結局、あれからアメリアが笑う事は無かった。
***
大会終了後、真緒達は村長の家の前まで来ていた。
「ここが、村長さんの家ですか……。」
「行くぞ」
フォルスの言葉を機に真緒は、玄関のドアをノックした。
「は~いどちら様?」
先程の司会者とは思えないほど、冴えない顔をした男が出てきた。
「あれ、あなた達は確か大会挑戦者の……」
「はい、佐藤 真緒です」
「オラはハナコ」
「私はリーマと言います」
「フォルスだ」
「ど~も初めまして“道楽の道化師”エジタスと申しま~す」
一人だけ異様に目立つ存在がいるが、深くは考えず、話を進める村長。
「ご丁寧にどうも、それでどう言ったご用件でしょうか?」
「実は……」
真緒達は村に着いた時から、ここまでの事を説明した。
「……どうぞ、中へ」
村長はしばらく黙って聞いた後、真緒達を招き入れた。
「お邪魔します」
中はかなり質素で、これといって特徴的な物はなかった。
「まぁ、そこら辺に座っててください」
そう言うと、村長は何処かに行ってしまう。真緒達は村長の言葉に従い、座った。
「お待たせしました。こちらが“アーメイデの魔導書”の引きちぎられたページです」
村長が戻ってくると、シワシワになっている紙を差し出してきた。
「え、村長さん?いったい……」
「こちらは皆様に差し上げます」
「ええ!?どうしてですか?」
「大事な物でばねぇのが?」
「村長さん?……」
「村長?」
あっさりと優勝商品である、引きちぎられたページを渡して来たので、疑い始める。
「いいんです、私が持っていても意味はありません。私は魔法が使えませんから……」
「……そ、そんな筈ありません!アーメイデの魔導書は、ページだけだとしても、才能のない人でも魔法を扱える筈です!」
「確かに使えるんだろうが……私にはそれを使うMPが無いんだ」
「そんな……」
村長が簡単に、引きちぎられたページを手放した理由が分かった。魔法を使おうにもMPが無ければ宝の持ち腐れだ。
「……マオさん」
「うん、分かっているよ」
リーマの目線が、真緒に言いたいことを伝えた。
「村長さん、こちらを貰うことは出来ません」
「何故だ!?これは君達にとって、かけがえのない物なんだろ?」
「私達はまだ、アメリアちゃんを笑顔にしていません」
「!!…………そうか、優しいんだな」
真緒の思いに心打たれる村長。
「……確かに、アメリアはよく笑う子だったよ」
「それが、どうして?」
「ウチには代々、受け継がれてきた物があったんだ。それが……七色に輝く玉だ」
「七色に輝く玉?」
「ああ……」
***
「おかーさーん」
母親が亡くなる一ヶ月前、ベッドで寝たきりの母親に娘のアメリアが近寄る。
「アメリア、来てくれたんだね」
「はなしってなーに?」
「あなたにこれを、あげようと思って……」
母親が取り出したのは七色に輝く玉だった。
「うわー、きれーい!」
「この玉はね、持っている人の感情によって、色が変化する不思議な玉なのよ」
そう言う母親の持つ玉は、黄色に変色した。
「すごーい!ねぇねぇ、このいろはどんなきもちのときなの?」
「これはね、アメリアと一緒に居れて嬉しいって気持ちよ」
「ほんと!?わたしも、おかーさんと一緒に居ると嬉しいよ」
アメリアは嬉しさを表現するため、その場でピョンピョン跳び跳ねる。
「それでねアメリア、この玉をあなたにあげるわ」
「え、いいの?」
「ええ、大事にしてね」
「わー、ありがとうおかーさん!」
アメリアが七色に輝く玉を受けとると、今まで見たことも無い、言葉では言い表せない輝きを放ち始めた。
「すごーい!きれーい!」
「本当に綺麗ね…………アメリア」
「なーに?」
「この玉の輝きは、アメリアが笑顔だから、こんなにも綺麗なのよ」
「そうなの?」
「だから、大人になってもこの輝きを失わない、“笑顔の素敵な女性になってね”」
「うん!わかった!」
この言葉を最後に母親は亡くなった。
***
「それから、アメリアの笑顔で綺麗に輝く玉の噂は、忽ち村中に伝わった。」
「そんな玉があるんですね」
「ああ、だがそれから一ヶ月後の夜の事だ。何者かがこの家に侵入して、玉を盗んでいった」
「そんな!」
「そのせいでアメリアは、盗まれたのは無駄に輝かせて、村中に見せた自分の責任だと感じて、その日を境に笑う事を止めたんだ」
おかーさん……ごめんなさい
「そんなのあんまりです!盗んだ犯人に心当たりは無いんですか?」
「いや、なにぶん真っ暗だったから、顔までは分からなかった…………あ、でも」
「?」
「去り際に、そいつの笑い声が聞こえてきたんだ」
「笑い声?」
「確か……『ギッシャシャシャ』って笑っていたよ」
「ギッシャシャシャ?……あれ?その笑い声、何処かで聞き覚えが……」
「オラも……」
「私も……」
「俺もつい最近聞いた気がする……」
「私もです~」
真緒達の記憶に聞き覚えのある声が甦ってくる。
ジャーな~、バカども!ギッシャシャシャ!!
「「「「「ああーー!!!」」」」」
特徴的な笑い声に七色に輝く玉を持っていた。あの、ハイゴブリン シーフの事を思い出した。
「あいつだったのか……」
「許ざねぇだ……絶対に!」
「あのゴブリンには私も恨みがありますからね」
「今度は逃がさないからな」
「まさか、あの玉がそうだったとは……」
真緒達の目に決意の炎が宿る。
「あのー、皆様?」
「村長さん!」
「はい?」
「その犯人に私達、心当たりがあります!」
「本当ですか!?」
「私達がその玉を取り返しに行きます」
「そんな、あなた達にそこまでしていただく訳には……」
「いえ、私達も個人的にその犯人に恨みがあるんですよ」
「そうなんですか……」
真緒達の凄い剣幕に、少し怯えてしまう村長。
「安心してください。必ず、取り返して見せます。玉も、アメリアちゃんの笑顔も!」
「あ、ありがとうございます!」
「じゃあ、行きましょうか。あのゴブリンと決着をつける為に!!」
「「「「おお!!!!」」」」
続いての挑戦者は、少し痩せ形の男だった。
「制限時間は一分、それでは……始め!」
「鶏のモノマネ……コココココ、コケ、コケ、コケコッコー!」
「あっははははは!」
痩せ形の男の鶏の鳴き真似と動きに思わず笑ってしまったハナコ。そして、肝心のアメリアは……。
「…………」
これまた微動だにしない。男は必死に鶏の真似をするが、笑うことはなかった。
「はい、時間切れです。残念でしたね、お疲れさまでした」
男は肩を落としながら、ステージを降りた。
「さぁ!続いての挑戦者は誰ですか?」
「はーい、わたしやるー」
そう言って、元気よく手を挙げたのは、アメリアと同じくらいの女の子だった。
「制限時間は一分、それでは……始め!」
「いくよー、にぃらめっこしましょう。わーらうとまけよ、あっぷっぷ!」
口一杯に空気を溜め込み、変顔をする。しかし、それは面白いというより、微笑ましい光景だった。
「ふふ」
思わず笑みが零れてしまったフォルス。そして、肝心のアメリアは……。
「…………」
微動だにしない。瞬きすらない真顔だった。
「んー、ぷぁ!はぁ、はぁ、もうだめー息が続かない」
「はい、時間切れです。残念でしたね、お疲れさまでした」
「にらめっこすごいつよいね、またこんどあそぼ!じゃあね、ばいばい!」
大きく手を振って、ステージを降りた。
「さぁ!続いての挑戦者は誰ですか?」
「はい、私がやります」
ついに真緒が動きを見せた。
「まず、私が行ってみるよ」
「マオぢゃん、頑張っでなぁ」
「応援しています」
「お前なら出来る」
「リラックスですよ~」
真緒は皆に背を向けて、ステージへと上がっていった。
「制限時間は一分、それでは……始め!」
「……ふとんがふっとんだ!」
「「「「「え?」」」」」
真緒の言葉に仲間達だけじゃなく、司会者や観客も含め、全員が呆気に取られた。そして、肝心のアメリアは……。
「…………」
勿論、笑ってはいない。どっちかと言うと戸惑っている顔をしていた。この時、初めてアメリアの表情が変わった。
「え、ええっと、このイクラ、いくら?ウメはうめぇ、アルミ缶の上にあるみかん、トイレにいっといれ、ええっとそれから……」
「はい、時間切れです。残念でしたね、お疲れさまでした」
「ああ、ちょっと待って、ここまで出ているんだけど……」
真緒は首もとを手で示すが、強制的にステージから降ろされてしまった。
「皆、ごめん……」
「い、いや、全然気にじでいないだよ」
「そうですよ、上手くいかない時だってありますよ」
「相手が強かった。それだけだ」
「そうですよ~、そんな深く考えてはいけませんよ」
同情。完全なる同情、しかし真緒はそれに気づかない。
「さぁ!続いての挑戦者は誰ですか?」
「今度はオラが行くだ!」
「ハナちゃん、頑張って」
「ハナコさん、ファイト!」
「お前なら出来る」
「リラックスですよ~」
ハナコは皆に背を向けて、ステージへと上がっていった。
「制限時間は一分、それでは……始め!」
「……ぞ~ら、コチョコチョコチョ」
ハナコはアメリアの脇腹を擽った。
「成る程、その手がありましたか!」
「強制的に笑わせるんですね」
「いけるぞ!」
「頑張ってくださ~い」
ハナコの熊の手を利用して、爪の先で絶妙に擽っていく。そして、肝心のアメリアは……。
「…………」
「な、なんだと!?」
「そんな……」
笑わない。眉一つ動かさないその顔からは、擽ったいという感情は、微塵も感じられなかった。
「はい、時間切れです。残念でしたね、お疲れさまでした」
「ぞ、ぞんなー……」
ハナコは落ち込んだ表情をしながら、ステージを降りた。
「ごめん、皆……」
「何言ってるの、あれで笑わなかったんだから、仕方ないよ」
「気にすることありません」
「よく頑張ったな」
「そうですよ~、そんなに落ち込まなくてもいいんですよ」
皆の励ましの言葉に、元気付けられるハナコ。
「さぁ!続いての挑戦者は誰ですか?」
「では、そろそろあの子に笑顔を届けましょうかね~」
「ついに、師匠の出番ですね!」
「エジタスざん、頑張っでぐだざい」
「エジタスさんならきっと、あの子を笑顔に出来ます」
「頼りにしてるぞ」
エジタスは皆に背を向けて、ステージへと上がっていった。
「制限時間は一分、それでは……始め!」
「いいですか、笑顔は何も面白いことをして、笑わせるだけではありません…………ほい!」
エジタスは数本のナイフを出現させて、手で回し始める。さらにバランスを取りながら、片足だけで立つ。
「ほい、ほい、ほほい」
「す、凄いです師匠!」
「ガッゴいいなぁ~」
「自然に笑みを出させるんですね」
「今度こそいけるぞ!」
エジタスはそこから、ナイフを背面で回し始める。そして、肝心のアメリアは……。
「…………」
「そ、そんな……」
微動だにしない。相変わらず、無表情のままだ。
「はい、時間切れです。残念でしたね、お疲れさまでした」
「…………」
エジタスはステージを降りる間際、見逃さなかった。アメリアの膝が赤くなっていたのを……。
「…………」
「お疲れさまでした師匠」
「オラも失敗しでるがら、落ぢ込まなぐでも大丈夫だ」
「私の為にわざわざ、ありがとうございます」
「あんたはよく頑張ったよ」
皆の励ましの言葉の中、エジタスは何かを考えていた。
「さぁ!続いての挑戦者は誰ですか?」
「……よし、今度は俺が行「ちょっと待ってください」こう……」
フォルスが行こうとすると、エジタスが止めた。
「もう、行く必要はありませんよ」
「え、どういうことですか?」
「おそらく、どんな事をしてもあの子は笑わない……いや、笑いを堪えるでしょう」
「堪える?どういう意味ですか?」
「ステージを降りる際に、見てしまったのですが、あの子の膝に何回もつねった跡がありました。それは、笑いを我慢した為ではないでしょうか?」
「何故、そんなことを?」
「それは、大会が終わった後聞きに行くとしましょう」
結局、あれからアメリアが笑う事は無かった。
***
大会終了後、真緒達は村長の家の前まで来ていた。
「ここが、村長さんの家ですか……。」
「行くぞ」
フォルスの言葉を機に真緒は、玄関のドアをノックした。
「は~いどちら様?」
先程の司会者とは思えないほど、冴えない顔をした男が出てきた。
「あれ、あなた達は確か大会挑戦者の……」
「はい、佐藤 真緒です」
「オラはハナコ」
「私はリーマと言います」
「フォルスだ」
「ど~も初めまして“道楽の道化師”エジタスと申しま~す」
一人だけ異様に目立つ存在がいるが、深くは考えず、話を進める村長。
「ご丁寧にどうも、それでどう言ったご用件でしょうか?」
「実は……」
真緒達は村に着いた時から、ここまでの事を説明した。
「……どうぞ、中へ」
村長はしばらく黙って聞いた後、真緒達を招き入れた。
「お邪魔します」
中はかなり質素で、これといって特徴的な物はなかった。
「まぁ、そこら辺に座っててください」
そう言うと、村長は何処かに行ってしまう。真緒達は村長の言葉に従い、座った。
「お待たせしました。こちらが“アーメイデの魔導書”の引きちぎられたページです」
村長が戻ってくると、シワシワになっている紙を差し出してきた。
「え、村長さん?いったい……」
「こちらは皆様に差し上げます」
「ええ!?どうしてですか?」
「大事な物でばねぇのが?」
「村長さん?……」
「村長?」
あっさりと優勝商品である、引きちぎられたページを渡して来たので、疑い始める。
「いいんです、私が持っていても意味はありません。私は魔法が使えませんから……」
「……そ、そんな筈ありません!アーメイデの魔導書は、ページだけだとしても、才能のない人でも魔法を扱える筈です!」
「確かに使えるんだろうが……私にはそれを使うMPが無いんだ」
「そんな……」
村長が簡単に、引きちぎられたページを手放した理由が分かった。魔法を使おうにもMPが無ければ宝の持ち腐れだ。
「……マオさん」
「うん、分かっているよ」
リーマの目線が、真緒に言いたいことを伝えた。
「村長さん、こちらを貰うことは出来ません」
「何故だ!?これは君達にとって、かけがえのない物なんだろ?」
「私達はまだ、アメリアちゃんを笑顔にしていません」
「!!…………そうか、優しいんだな」
真緒の思いに心打たれる村長。
「……確かに、アメリアはよく笑う子だったよ」
「それが、どうして?」
「ウチには代々、受け継がれてきた物があったんだ。それが……七色に輝く玉だ」
「七色に輝く玉?」
「ああ……」
***
「おかーさーん」
母親が亡くなる一ヶ月前、ベッドで寝たきりの母親に娘のアメリアが近寄る。
「アメリア、来てくれたんだね」
「はなしってなーに?」
「あなたにこれを、あげようと思って……」
母親が取り出したのは七色に輝く玉だった。
「うわー、きれーい!」
「この玉はね、持っている人の感情によって、色が変化する不思議な玉なのよ」
そう言う母親の持つ玉は、黄色に変色した。
「すごーい!ねぇねぇ、このいろはどんなきもちのときなの?」
「これはね、アメリアと一緒に居れて嬉しいって気持ちよ」
「ほんと!?わたしも、おかーさんと一緒に居ると嬉しいよ」
アメリアは嬉しさを表現するため、その場でピョンピョン跳び跳ねる。
「それでねアメリア、この玉をあなたにあげるわ」
「え、いいの?」
「ええ、大事にしてね」
「わー、ありがとうおかーさん!」
アメリアが七色に輝く玉を受けとると、今まで見たことも無い、言葉では言い表せない輝きを放ち始めた。
「すごーい!きれーい!」
「本当に綺麗ね…………アメリア」
「なーに?」
「この玉の輝きは、アメリアが笑顔だから、こんなにも綺麗なのよ」
「そうなの?」
「だから、大人になってもこの輝きを失わない、“笑顔の素敵な女性になってね”」
「うん!わかった!」
この言葉を最後に母親は亡くなった。
***
「それから、アメリアの笑顔で綺麗に輝く玉の噂は、忽ち村中に伝わった。」
「そんな玉があるんですね」
「ああ、だがそれから一ヶ月後の夜の事だ。何者かがこの家に侵入して、玉を盗んでいった」
「そんな!」
「そのせいでアメリアは、盗まれたのは無駄に輝かせて、村中に見せた自分の責任だと感じて、その日を境に笑う事を止めたんだ」
おかーさん……ごめんなさい
「そんなのあんまりです!盗んだ犯人に心当たりは無いんですか?」
「いや、なにぶん真っ暗だったから、顔までは分からなかった…………あ、でも」
「?」
「去り際に、そいつの笑い声が聞こえてきたんだ」
「笑い声?」
「確か……『ギッシャシャシャ』って笑っていたよ」
「ギッシャシャシャ?……あれ?その笑い声、何処かで聞き覚えが……」
「オラも……」
「私も……」
「俺もつい最近聞いた気がする……」
「私もです~」
真緒達の記憶に聞き覚えのある声が甦ってくる。
ジャーな~、バカども!ギッシャシャシャ!!
「「「「「ああーー!!!」」」」」
特徴的な笑い声に七色に輝く玉を持っていた。あの、ハイゴブリン シーフの事を思い出した。
「あいつだったのか……」
「許ざねぇだ……絶対に!」
「あのゴブリンには私も恨みがありますからね」
「今度は逃がさないからな」
「まさか、あの玉がそうだったとは……」
真緒達の目に決意の炎が宿る。
「あのー、皆様?」
「村長さん!」
「はい?」
「その犯人に私達、心当たりがあります!」
「本当ですか!?」
「私達がその玉を取り返しに行きます」
「そんな、あなた達にそこまでしていただく訳には……」
「いえ、私達も個人的にその犯人に恨みがあるんですよ」
「そうなんですか……」
真緒達の凄い剣幕に、少し怯えてしまう村長。
「安心してください。必ず、取り返して見せます。玉も、アメリアちゃんの笑顔も!」
「あ、ありがとうございます!」
「じゃあ、行きましょうか。あのゴブリンと決着をつける為に!!」
「「「「おお!!!!」」」」
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