笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

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第五章 冒険編 海の男

真緒パーティー VS クラーケン

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 「だがどうする……戦うにしても奴は船の向こう側、海の上にいるんだぞ?」



 ジェドの意見は最もであった。剣が届かない位置にいる以上、攻撃手段は限られてくる。



 「私に任せてください!」



 リーマは、得意の魔導書を開いた。



 「“スネークフレイム”!!」



 リーマの魔導書から、炎で形成された蛇が生み出され、クラーケンに放たれるが、振り上げた触手の水が炎を消火した。



 「あ……」



 「何やってんだ!?周りは海なんだぞ!火なんて簡単に消されるだろ!」



 「ご、ごめんなさい!」



 基本的な知識でジェドに叱られるリーマ。



 「まぁ、そんなにリーマを責めるな。今度は俺がやる」



 「フォルスさん……」



 「どうするんだ?」



 ジェドの言葉に対し、フォルスは弓を構えた。



 「俺は弓矢の使い手……遠距離相手は得意だ。スキル“ロックオン”」



 クラーケンの体にターゲットマーカーが表示される。



 「さらに、スキル“急所感知”」



 ターゲットマーカーは、クラーケンの心臓のある場所に移動する。



 「さすがに心臓に突き刺されば、一溜まりもないだろう!!」



 フォルスの矢が放たれ、クラーケンに突き刺さった。



 「やった!」



 「フォルスざんやっだなぁ!」



 「凄いです!」



 「見事な腕前だ」



 「鳥人のお兄さん凄い!」



 「いや、大した事はしてな……ん?」



 目を疑った。心臓に突き刺さった筈のクラーケンが未だに倒れていなかった。



 「ピギシャー!!!」



 寧ろ痛がって触手を振り回し、その内の一本がジェドの船目掛けて襲い掛かる。



 「危ない!避けろ!!」



 フォルスの言葉で間一髪回避できた真緒達だったが、甲板に更なるひびが入った。



 「何故だ……心臓に突き刺さった筈なのに、何で死なない!?」



 理解出来ない光景に戸惑いを見せるフォルスだが、ここで真緒に一つの可能性が思い出される。



 「もしかしてだけど……クラーケンには心臓が“三つ”あるんじゃないかな?」



 「なん……だと……」



 衝撃の事実に、フォルスの空いた口は塞がらない。



 「そ、そんな訳あるか!心臓が三つもあるだなんて、信じられるか!!」



 「本当です、タコには心臓が三つあると言われています。本来の心臓と鰓心臓と呼ばれる器官で、左右の鰓の根本にそれぞれ1個持っています。これは鰓に血液を送るためで、筋肉への多量の酸素供給を行う為です」



 「マオぢゃん……賢いだなぁ……」



 「博識ですね……」



 「あ、いや、これは全部テレビで見て知った事だから……」



 「テレビ?」



 「あ、な、何でもない……」



 この世界に存在しない物を話してしまい、不思議がられる真緒。あまり元いた世界の事は思い出したくない為、極力話さない様にしているのだ。



 「つまり、心臓を突き刺したのに死なないのは、突き刺したのは本来の心臓ではなくて、鰓心臓の一つだったという訳か?」



 「多分そうだと思います」



 「なら、残りの二発で止めを刺すまでだ!!」



 フォルスは再び、スキル“ロックオン”“急所感知”を発動させ、矢を放った。



 「ギシャー!!!」



 突如、クラーケンの触手が海中から十本出現した。そして鞭のように振り回しながら、向かってくる矢を弾いた。



 「何!?」



 「タコの構造だけじゃなく、イカの構造まで持っているなんて……」



 「シャー!!」



 クラーケンは十本の触手を使い、船に絡み付いてきた。締め付ける力が強く、甲板のひびが悪化する。



 「くっ、このまま船を破壊するつもりか!?」



 「皆!それぞれの触手を攻撃して!!スキル“ロストブレイク”」



 「スキル“熊の一撃”」



 「“ウォーターキャノン”」



 真緒達は絡み付く十本の触手に、攻撃を加えていく。そのお陰で何本かの触手は、取り除かれた。



 「くそ!このままじゃ埒が明かない!何とか向こう側に行ければいいんだが……」



 八方塞がりのこの状況で、ジェドが行く方法を考えていると……。



 「……ねぇ、ちょっと聞いてくれないかな?」



 「えっ、ライアさん……?」



 ジェドがライアの方を向くと、ライアは浮いていた。ここが水の中ではない事を踏まえると、つまりライアは空中に浮かんでいた。



 「ライアさん……う、浮いてる……」



 「事情は終わったら話す。今は私に体を預けてくれないかな……」



 「…………分かったよ。どうすればいい?」



 「私の背中に乗って、クラーケンの下まであなたを運ぶ」



 「そんな!危険すぎる!!」



 ここにいるのでさえ命の危険があるのに、クラーケンの下まで行く事は、言わば自殺行為。



 「私は、皆と戦う為にここにいる。何もしないで帰ったら一生後悔すると思う。だから、出来る事があれば全力でサポートするよ!!」



 「…………分かりました。一緒に戦いましょう!!背中に乗せて貰えますか?」



 「はい!!」



 ジェドは覚悟を決めて、ライアの背中に股がった。



 「それじゃあ、行きますよ!舌を噛まないように、口は閉じていて下さいね」



 「ああ、分かった!」



 ライアはジェドが乗ったのを確認すると、クラーケンに目掛けて泳ぎ出した。



 「くらいやがれ!」



 「ピギシャー!」



 ジェドの斬撃がクラーケンの額を傷付ける。しかし、それと同時に十本の触手が襲い掛かる。



 「危ない!右だ、次は左、次も左だ!」



 「はぁ、はぁ、はぁ……」



 ジェドの観察能力のお陰で、次々と触手を避けていくが、大の男を背負っている分、疲労が溜まってきた。



 「ライアさん後ろ!」



 「しまっ……!」



 「ジェドさん!ライアさん!」



 不意を突かれ、触手の一本がジェド達に迫り来る。殺られる……そう覚悟し、目を閉じたジェド。しかし、いつまで経っても痛みが来ることは無かった。おそるおそる目を開けると、そこには……。



 「そんな……嘘だ……あり得ない!!」



 触手の一本が切り落とされた。ジェド達のピンチを救ったのは、まさかの骸骨だった。しかし、驚くべき箇所はそこではない。確かに、骸骨が生き物の様に動いている事自体驚くであろうが、その骸骨は見覚えのある赤いコートに、見覚えのある真っ赤な帽子を身に付けていた。



 「お、お、親父ーー!!??」



 自分と同じ柄のコートと帽子を被った骸骨は、こちらに顔を向けると親指を立てた。



 「なんで死んだ筈の親父が……いや、それよりも俺と一緒に戦ってくれるのか?」



 コクコク、と頷く赤いコートの骸骨にジェドは嬉しさに包まれた。どんな形であれ、父親に再会出来たのが嬉しいのだ。



 「よし!一緒に戦うぞ親父!!」



 ジェドはライアの力を借りて、空中に浮かびながら戦い、赤いコートの骸骨は驚異の身体能力でクラーケンの体を駆け回る。



 「ピギ……ピギ……」



 体のあちこちを傷付けられていくクラーケン。何とか叩き殺そうと、触手を振り回す。



 「油断しなければ、そんな攻撃当たらないよ!!」



 ライアの方も避ける事に専念し、触手に当たらなくなった。



 「これで最後だ!!」



 ジェドは、先程フォルスの急所感知で表示されたクラーケンの心臓と思われる場所に、剣を構え突っ込んで行く。それに合わせ、赤いコートの骸骨も、もう一つの心臓の場所に目掛けて突っ込んで行く!!



 「うおおおおおおおお!!!」



 ジェドの剣と赤いコートの骸骨の剣が、疲労して動きが鈍っているクラーケンの二つの心臓に突き刺さった。



 「ピ……ギ……シャーーー!!!!」



 命の灯火が消える。クラーケンは最後の抵抗として、残っている全ての触手をライアにぶつける。



 「きゃあ!!」



 「ライアさん!ぐっ……は、離せ」



 ライアが突き飛ばされると同時に、放り出されたジェドをすかさず触手が捕らえる。



 「く、苦しい……息が……」



 「そんな……クラーケンはジェドさんを道連れにするつもりです!」



 「ぞんなぁ!」



 「どうすればいいんですか!?」



 「何か方法は無いのか!?」



 真緒達が甲板の上で助ける方法を考えているその間にも、ジェドを捕らえている触手は締め付けるのが強くなっていく。



 「ぐ…………う……」



 「ジェドさん!!!」



 その時だった。赤いコートの骸骨がジェドを捕らえている触手を切り落とし、落ちるジェドの片手を掴む。



 「あ……おや……じ……?」



 「…………」



 赤いコートの骸骨は、そのまま真緒達に向かって放り投げた。



 「親父!!!」



 赤いコートの骸骨は、クラーケンと供に海の底へ沈んでいった。そしてもう二度と上がってくる事はなかった。



 「親父…………」



 「ジェドさん大丈夫ですか!!」



 「ジェド、大丈夫!?」



 甲板の上に放り投げられたジェドに、ライアと真緒達が駆け寄る。



 「ああ、俺は大丈夫だ。それより、ライアさんこそ怪我をしていませんか?」



 「はい、私も大丈夫です」



 「そうですか良かったです。……それにしても、あれは何だったんだろうか……本当に親父だったのか?」



 ジェドは、その場の流れに乗っていたが、死んだ筈の父親が蘇るなんてあり得ないと、思い始める。



 「……お父さんですよ」



 真緒の言葉が漏れる。



 「細かい事は、私にも分かりませんが、自分の愛する息子がピンチなのに、助けない親はいません。だからあれはジェドさんを助けに来たお父さんだったんですよ……きっと……」



 「そうかな……そうだな……そうだよな!ありがとう親父……天国で母さんとの誤解を解いて、仲直りしろよ!」



 真緒の言葉に元気を取り戻したジェドは、青空を眺めながら拳を突き上げて言うのであった。



 「…………」



 そんな一部始終を見届けたエジタス。



 「(人というのは常に理想の妄想を描く……自分が傷付かない為に……あの骸骨も身元不明ですが、ジェドさんの船から借りたコートと帽子を被せたら勝手に勘違いしてくれました。やはり、大事なのは“見た目”という事ですね。実験も成功しましたし、これで私の計画も一歩先に進む事が出来ました…………んふふ、一生私の掌で躍り続けてくださいね……私の可愛いピエロさん)」



 その時のエジタスは、とても恐ろしく不気味な雰囲気をしていたが、誰一人として気付く者はいなかった。
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