笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

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第六章 冒険編 出来損ないの小鳥

出来損ないの小鳥

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 「本当に行ってしまわれるのか?」



 真緒達は早朝里の入り口で、族長とビントとククの三人に見送られていた。



 「はい、私達には行くべき場所がありますので…………」



 忘れてはならないが、人魚の町の女王が言うには、真緒達を呼んでいる謎の人物は、“クラウドツリー”にいるという。その場所に向かう道中で、この里の事件に巻き込まれたのである。



 「そうか……そう言う事であるのならば仕方ない。お主達の旅の無事を祈っておる」



 「族長様、ありがとうございます」



 族長は、心底残念そうな表情を浮かべながら、真緒達を見送る事にした。



 「そう言えば、大丈夫なんですか?ドラゴンの子育ての影響でしばらくの間、上昇気流が発生しませんが…………」



 「ああ、その点に関しては心配要らない。俺達は上昇気流が無くても、飛べる様になったからな。さらに、お前達に知らせたい事がある」



 ビントがそう言うと指笛を鳴らした。すると、ヘルマウンテンの方から大きな影が迫って来た。



 「えっ、嘘!?あれって…………!」



 真緒達が驚くのも無理は無い。そこに現れたのは、昨日まで激戦を繰り広げていた、あのドラゴンであった。



 「里に戻ったそのすぐ後で、ヘルマウンテンの様子を確かめに行ったんだ。するとどうだ、お前達が脱出してから完全に崩れ落ちた瓦礫の山に、必死で卵を守ろうとするドラゴンの姿があったんだ」



 フォルスと別れた後、ビントとククを含めた鳥人達は族長の命令の下、ヘルマウンテンの偵察に出掛けていた。その時に瓦礫に埋もれるドラゴンを発見したのだ。



 「その瓦礫を手分けして退かした後、ドラゴンと意思疏通が出来ないか試みてみた。そしたら、会話は出来なかったがこちらの言葉は理解してくれているようで、その結果…………卵を孵化させる場所を壊してしまったお詫びに、この里で子育てをしても良い事にしたんだ」



 「「「「ええーーー!!」」」」



 真緒達は開いた口が塞がらなかった。自分達が知らない間に、壮絶なやり取りが行われていた。



 「だ、大丈夫なんですか、国一つを揺るがす程の存在を里に置いて!?」



 「…………そうは言っても、もう孵化してしまったからな……」



 「えっ?」



 ビントの目線の先、ドラゴンの足下からヒョコっと顔を覗かせ、安全を確認すると、こちらに近づいて来る一匹のドラゴンの赤ちゃんがいた。



 「キュー」



 「「「可愛いー!!」」」



 尻尾を振りながら歩み寄って来るドラゴンの赤ちゃんに、女子三人組が歓喜の声を上げる。



 「ついさっき生まれたらしくてな。この子が飛べる様になるまで、この里で育てるのが俺達なりの罪滅ぼしだ」



 「そう言う事でしたか。それなら納得です」



 ドラゴンの赤ちゃんの可愛さに見とれながら、真緒達は鳥人達の決断に納得の意思を述べた。



 「それに、ドラゴンが里にいてくれたら外の魔物が里に近寄って来ないから、用心棒としての役目も果たしてくれているんだ」



 「へぇー、やっぱりドラゴンは強いんですね」



 「…………それより、本当にいいのか?」



 真緒達が、ドラゴンの赤ちゃんに釘付けになっていると、ビントが重々しく口を開いた。



 「…………何がですか?」



 「お前達はずっとアイツ…………フォルスと一緒に旅を続けて来た仲間なんだろ?それなのに、黙って出て行ったらアイツも悲しむかもしれないぜ?」



 「…………」



 そう今この場には、いなくてはならない筈の人物がいない。トハとフォルスの二人である。



 「…………いいんです。昨日の夜、皆で決めた事ですから…………」



 「だけど!「止すのだ」…………族長様」



 ビントがフォルスについて言及しようとすると、族長に止められてしまった。



 「彼女等とて、辛いのだ。分かってやれ」



 「…………はい」



 悔しい。何もしてやる事の出来ない自分の不甲斐なさに、ビントは嫌気が差した。



 「ウチの若い者がすまない事をした」



 「いえ、別に気にしていませんよ。…………それでは私達はそろそろ行かせて貰います」



 そう言うと真緒達は、見送りに来てくれた鳥人達に手を振りながら別れを告げた。



 「…………行ってしまわれたな」



 「族長様…………本当にこれで良かったのでしょうか?」



 真緒達が去った後、ボソリと呟く族長に今度はククが疑問を投げ掛ける。



 「確かに、アイツらの気持ちも分かります。だけど、何も言わずに行ってしまうなんて納得出来ません」



 「ほほ、そうかもしれないな。だけど…………その心配はしなくても良さそうだぞ?」



 「えっ?」







***







 「…………マオさん、本当にこれで良かったんですか?」



 鳥人の里を出発して、しばらく時間が経過した後、それまで無言だった一同の中でリーマが話し掛けて来た。



 「皆で決めた事でしょ…………」



 「それはそうですけど…………何も、黙って出ていく必要は無いかなって……」



 「…………フォルスさんは、十五年振りに故郷に帰る事が出来た。それなのに、私達の勝手な都合でまた離れ離れにする事は出来ないよ。これからは少しでも長く、家族と一緒にいるべきなんだよ」



 十五年振りの家族との再会。それは、真緒達のパーティーを抜けるのには十分な理由であった。その結果真緒達は、フォルスを家族の側に残し、自分達は旅を続けようという事になった。



 「でも…………さよならの一言位言いたかったです」



 「「「…………」」」



 真緒達が悲しみに暮れていたその時、突如目の前の地面に三本の矢が突き刺さった。



 「えっ!な、何!?」



 「何だぁ!?」



 「この矢はいったい…………?」



 「おいおい、何しけた面してるんだ!?」



 「「「!!!」」」



 空の上から聞き覚えのある声が聞こえる。真緒達が見上げるとそこには……。



 「「「フォルスさん!!!」」」



 いつもと同じ、クールな表情をするフォルスの姿があった。そして静かに真緒達の前に降り立った。



 「フォルスさん……どうしてここに?それにその弓はどうしたんですか!?」



 真緒の言葉通り、フォルスの手には今まで見た事も無い弓が握られていた。深い緑色に装飾されたその弓は、異様な威圧感を発していた。



 「まあまあ落ち着け、順番に説明してやるから…………昨晩の事だ、俺はある選択を迫られていた」



 時は昨晩のフォルスの家へと遡る。







***







 「この里で皆と暮らすか、あの子達と一緒に旅を続けるか、あんたはどっちを望むんだい?」



 「俺は………………」



 フォルスが出した答えは…………。



 「俺はマオ達と旅を続けるよ」



 「ほぅ……それまたどうして?」



 フォルスの出した答えに、トハが質問を投げ掛ける。



 「この里に戻って来れたのは、俺だけの力じゃない。マオやハナコやリーマやエジタスさん、皆の力のお陰だ。確かに、“俺の”目的は果たされたのかもしれない。だけど、“俺達の”目的は果たされていない」



 「…………俺達の目的?」



 「俺達は、いろんな場所を巡ってそこの文化に触れたり、体験したりしてこの世界の事をもっと知ろうと思っているんだ。だからまだ、この里で皆と一緒に暮らす事は出来ない。…………すまないお婆ちゃん、俺は仲間との約束を破る事は出来ない」



 「…………」



 言いきった。自分の思いの丈を全て吐き出せた。十五年、ようやく再会する事が出来た家族とまた別れてしまうのは、とても辛いがフォルスの決心は揺るがない。そんな真剣な目を見たトハが口を開いた。



 「ふふふ、安心したよ」



 「えっ?」



 「あんたが仲間と交わした約束を優先してくれて、本当に良かったよ。」



 フォルスは、予想だにしていなかったトハの返答に、少々戸惑いの顔を見せていた。



 「あんたがもし、一緒に暮らすなんて言った時には、尻をひっぱたいてやろうと思っていたよ!」



 「ええっ!!?」



 「だってそうだろ、あの子達のお陰でここまで戻る事が出来たのに、自分の目的が達成されたら、はいさよならなんて…………そんなクズに育てた覚えは無いよ!」



 「お婆ちゃん…………」



 「だから安心したのさ。フォルスちゃんがちゃんと仲間を思いやれる、立派な鳥人になった事に……」



 初めから選択肢など無かった。フォルスがどっちを選ぼうとも、答えは一つだけだった。そしてフォルスはそれを見事に引き当てたのだ。



 「…………でもお婆ちゃん。寂しくないのか?」



 「…………」



 フォルスの唯一の心残り。折角再会出来たのに、こんなにも早くお別れしてしまうなんて、心配していた。



 「寂しく無い……って言うと嘘になるけど、その心配は無用よ」



 「どうして?」



 「あなたが、この世界の何処かで無事に元気で生きている。そう思っているだけでも、幸せだから……」



 トハは目を瞑り、胸に手を当てる姿勢をフォルスに見せた。



 「それに、あなたはもう一人じゃない。心強い仲間がいるんだから!」



 「!!」



 フォルスの頭の中では、エジタス、リーマ、ハナコ、そして真緒の四人が思い浮かんでいた。



 「…………ああ、そうだよな」



 「あと、付け加えるならわし、また族長の補佐を勤める事になったのさ!」



 「ええっ!そうなのか!?」



 ボケが治ったトハは今や、里の内で引っ張りだこ。族長を始め、多くのお偉いさんの鳥人から、知恵を貸して欲しいと頼まれているのだ。



 「そっか、それなら安心だね……」



 「ほらほら、早く食べましょう。フォルスちゃんの新たな門出に頑張って作ったんだから、温かい内に食べましょう」



 トハの言葉を聞いたフォルスは、ゆっくりと頷き食事を再開した。



 「どう、美味しい?」



 「うん……凄く美味しい……」



 フォルスの目に涙が溜まる。エジタスの料理程では無い筈なのに、食べるスピードを止められない。次々とトハの料理がフォルスの口へと運ばれる。そして遂には、泣きながら食べる始末になった。



 「ちょ、ちょっと、泣きながら食べるなんて…………恥ずかしいじゃないの。ゆっくりで良いからね……」



 食べまくるフォルスに、トハは微笑みの表情を浮かべながら、見つめるのであった。



 「…………ごちそうさまでした」



 「綺麗に食べたねー、作ったこっちも気分が良いよ。…………あ、そうだちょっと待ってな」



 綺麗に平らげた料理を見たトハが、何を思い出したのか急に立ち上がり、自室に入って行った。



 「お婆ちゃん?」



 「えっと、何処にやったかなー?…………あった!」



 しばらくすると、とても大事そうに深い緑色に装飾された弓に両手を添えて戻って来た。



 「本当は成人の儀を終えた時に渡そうと思っていた物なんだけど……」



 「お婆ちゃん、それは?」



 「これは、“三連弓”その名通り一度に三発の矢を連続で放つ事の出来る、唯一無二の武器さ。これをフォルスちゃんにあげるよ」



 「ええっ!?そ、そんな凄そうな物、受けとるなんて出来ないよ!!」



 あまりの高性能な能力に、受け取るのを躊躇うフォルス。



 「大丈夫、フォルスちゃんなら必ず使いこなせるから」



 「いや、だけど…………」



 「それにこれは、わしが用意した物じゃない。あの子…………フォルスちゃんのお母さんが用意した物なんだよ」



 「!!……お母さんが!?」



 フォルスが驚いていると、トハは静かに三連弓を撫でて語り始めた。



 「あの子ったら、成人になったフォルスちゃんに必要だろうって…………産まれる前に外の鍛治屋に依頼しちゃってさ…………そして、あの子が死んだ次の日にこの弓が届いたんだよ」



 「そ、そんな…………」



 「だからとは言わない。だけど、せめてあの子の思いが詰まったこの弓を受け取ってくれないかい?」



 「…………」



 フォルスはじっと、その弓を見つめた。自分の母親が残してくれた物、それを上手く使いこなせるのだろうか。そんな不安を抱きながらも、フォルスは手に取った。



 「俺、貰うよ。この弓を誰よりも上手く使いこなしてみせる!」



 「よく言った!流石わしの孫だ!!」



 「「あはははは」」



 そんな笑いが起きながら、フォルスの長い夜は終わったのだ。







***







 「そんな事があったんですか…………」



 フォルスの話を聞いた真緒達は、驚愕していた。



 「つまり、またフォルスさんと一緒に旅が出来る訳ですか!?」



 「ああ、そう言う事だ!!」



 「「「やったーーー!!!」」」



 真緒達は嬉しさのあまり、フォルスに抱きついた。



 「また、フォルスさんと旅が出来るなんて嬉しいです!」



 「フォルスざんがいだ方が、パーティーがまどまるだなぁ!」



 「ハナコさんの言う通りです!!」



 「皆……ありがとう」



 そして、抱きついた三人がフォルスから離れると改めてお互いに向き合って、真緒が合図を送る。



 「せーの……」



 「「「フォルスさん、おかえりなさい!!!」」」



 「ただいま!」















































 そんな感動のやり取りを目にしていたエジタスは、ボソリと呟いた。



 「…………気持ち悪い」



 その言葉を聞く者は誰一人としていなかった。
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