笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

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第七章 冒険編 極寒の楽園

冷たい女(中編)

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 町長の家。アンダータウンの一番奥に建造されているその家は、他のどの家よりも広く大きかった。そんな町長の家の食堂にて、縦長のテーブルに向かい合う形で座る二人の男女が、食事を供にしていた。



 「…………」



 女性の方は先日、このアンダータウンを襲った雪女。そんな彼女は、向かい側に座っている男を睨み付けていた。



 「おや、もしかして苦手な物でもあったかい?」



 男性の方は、その雪女を“炎の王冠”で無力化したこのアンダータウンの町長。向かい側に座る雪女の手付かずの料理を見て、優しく微笑み声を掛けた。



 「ああ……特に苦手な物が目の前に……」



 そう言うと雪女は、更に強く町長を睨み付けた。



 「そんなに怒らないでおくれよ。君の力は町の皆から感謝される事で元に戻るんだから、それでいいだろう?」



 「私がこの町に何をしたのか覚えていないのか!!」



 約四十人の住人を氷付けにし、町を恐怖に陥れたのは変えようの無い事実。



 「この町を滅ぼそうとした女が、感謝なんかされる訳無い!私は一生力を取り戻せないんだ!!」



 「…………そうかなぁ?」



 「どういう意味だ?」



 これからの人生に絶望していた雪女だったが、町長はそれを否定して来た。



 「ちょっと町を散歩してごらん。そうすれば私の言っている事が、分かる筈だよ」



 「…………」







***







 雪女は嫌々ながらも、町長に言われた事が気になり、町へと足を運んだ。



 「何があいつ、『そうかなぁ?』だ!殺され掛けて許すバカはいないんだよ!」



 ぶつぶつと文句を垂れながら、雪女は噴水広場に辿り着いた。



 「おっ、雪女ちゃん。久し振りだなー、氷付けにされた日以来か?」



 すると、広場にいた一人の男性が雪女に話掛けて来た。



 「…………誰だお前?」



 しかし悲しい事に、氷付けにした男性の顔など一々覚えてはいなかった。



 「酷いなー俺だよ俺、この広場にいた“ウェイ”だよ!」



 「…………やっぱり思い出せん」



 「そ、そんな……」



 名前を言っても、思い出せないとなると興味すら無いという事になる。



 「と言うか、お前は私を憎んではいないのか?覚えていないとはいえ、氷付けにして殺し掛けたのだぞ?」



 「いやー、雪女ちゃんみたいなべっぴんさんに殺されるんだったら本望……なーんちゃって!」



 ウェイが雪女にでれでれと顔をだらしなくさせていると、後ろから一人の影が見えた。



 「このバカタレ!!」



 「痛ー!!何するんだよ……」



 ウェイの頭に拳が叩き込まれる。後ろを振り返るとそこには、バンダナを頭に付け、タンクトップ姿のさばさばとした女性が立っていた。



 「あんたは、美人な人を見るとすぐ鼻の下を伸ばすんだから……!」



 「そんな事言ったって、男の本能がそうさせるんだよ」



 「言い訳するんじゃない!」



 「ぎゃあああ!!ご、ごめんなさい!」



 間接技を決められ、素直に謝るウェイ。



 「…………おい」



 「ん、ああ……すまなかったね。ウチの唐変木が迷惑を掛けちまって、あたしは“メルダ”このスケベ男の妻だよ」



 「一言余計だぞ……」



 ウェイは妻であるメルダの一言に、不服を抱いた。



 「……お前は憎まないのか?」



 「何がだい?」



 「私は、お前の旦那を氷付けにして殺し掛けたのだぞ?」



 「何だそんな事かい、気にしなくていいんだよ。美人にほいほい近づくこのスケベ男には良い薬になっただろうよ!」



 「そんな事言うなよー……」



 嫌みったらしく喋るメルダに、落ち込んでしまうウェイ。



 「…………でもまぁ、確かに最初の頃は憎んでいたよ」



 「!!……やっぱり」



 「…………だけど、憎んだり恨んだりしたって何も始まらない。それらを乗り越える事で初めて前に進めるってもんだ。それに、こうしてウチの旦那は生きているんだ!結果良ければ全て良しってね!!」



 豪快に笑うメルダに、雪女は理解する事が出来なかった。







***







 「…………」



 広場での出来事を終えた雪女は、そのまま町長の家へと戻って来た。



 「おや、お帰り。どうだったかな町の人々と触れ合ってみて?」



 「…………バカな連中だな」



 町長の問いに悪態をつく雪女。



 「殺され掛けた相手を憎まないだなんて、頭のネジが足りていないんじゃ無いか?」



 「あははは、そう言われるとそうかもしれないね。それにしても、頭のネジが足りないか…………とても良い例えをするね」



 「…………」



 雪女は気に入らなかった。生意気な態度を取っているのに全く怒らないこの男、氷付けにして殺し掛けたにも関わらずまともに憎もうとしない町の人々。雪女はこの“アンダータウン”を気持ち悪い町だと思った。



 「さぁさぁ、積もる話もあるだろうけどまずは夕食にしよう」



 「……お前なんかの施しは受けない」



 自分の力を奪った相手と食事など、想像も出来ない。



 「それはいけないな、君は朝食も手をつけなかっただろう?」



            グゥー……

 「!!!」



 町長の言葉に反応したか、雪女の腹の虫が鳴った。



 「ほら、体は正直だ」



 「…………か、勘違いするなよ!!体が欲しているから仕方なく食べるんだからな!決して、食べたいなんて思っていないんだからな!!」



 雪女は、町長と目を合わせない様に首を明後日の方向へと向けながら言った。



 「はいはい、分かってるよ。食事はもう用意してあるから食堂へ行こうか」



 「お前、信じていないだろ!!本当に、本当に体が欲しているだけだからな!」



 雪女の言葉を軽く流した町長は、食堂へと歩いて行った。そしてそれを喚きながら追い掛けて行く雪女。



 「いただきます」



 「…………」



 夕食の時間。縦長のテーブルに並べられた食事の前に、手を合わせて一言述べて食べる町長に対して、無言のまま食べる雪女。



 「そう言えば、名前はなんて言うんだい?」



 「何がだ?」



 質問の意味が分からない雪女は、食事の動きを止めて聞き返した。



 「君の名前だよ。“雪女”というのは種族名なんだろう?種族名で呼ぶのは違和感があるから、よければ名前を教えてくれないかな?」



 「…………名前なんてねぇよ」



 「えっ……」



 まさかの返答に、初めて動揺を見せる町長。



 「で、でも君にだって親御さんとかいるんだから「いねぇよ」……えっ」



 「私は大量の死体が雪に埋まれた事によって生まれた言わば、自然的な魔物なんだ。だから、親なんて生まれた時からいねぇよ」



 「そうだったのか……それは辛い事を聞いてしまったね」



 町長は、踏み込んではいけない所まで踏み込んでしまった事を後悔する。



 「憐れむんじゃねぇよ、別に親がいなくたって辛い訳じゃない。寧ろ自由に生きられるから幸せすら感じてるんだよ」



 「……そう言って貰えると、こっちも気が楽になるよ」



 「大体、お前こそ町長って言うだけで名前を教えてくれていないじゃないか!」



 「あはは、こ、これは一本取られたなー」



 雪女に痛い所を突かれてしまい、笑って誤魔化す。



 「それなら、私が君の名前を考えてもいいかな?」



 「…………勝手にしろ」



 「ありがとう!!どんな名前にしようかな?……ホワイト?いや、安直だな……氷だからコール……いやこれもいまいちだ…………」



 名前の許可を貰った町長は、あれこれと思案を巡らせる。



 「(ふん、どんな名前を考えられても全面的に否定してやる!)」



 そんな事を思いながら雪女は、食事を済ませるのであった。
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