笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

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第七章 冒険編 極寒の楽園

冷たい女(後編)

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 「(あれから、何日経ったのだろうか……)」



 雪女は、町の中を歩き回っていた。勿論何か当てがある訳では無い。只何となく外の空気を吸いたいと感じた。



 「(力を奪われて、こんな地下牢獄みたいな町に閉じ込められ、おまけにあんな変人と同居生活を送る羽目になるとは、私はなんて運が悪いんだ……)」



 自分の不甲斐なさを嘆きながら、重い足取りで町を回っていた。



 「(ここは……空き地か?)」



 歩き回った末に辿り着いた場所は、かなりの広さを有した空き地であった。



 「本当にこの町は、何でも揃っているんだな。空き地まであるとは……」



 「あー、雪女さんだー!!」



 「ほんとだー!!」



 物珍しさに空き地を眺めていると、近くで遊んでいた子供達が雪女の存在に気が付いた。



 「な、何だお前達は!?離れろ!」



 急な子供達の接近に、退路を塞がれてしまった雪女は戸惑いの表情を見せる。



 「ねぇー、一緒に遊ぼう!」



 「遊ぼう遊ぼう!」



 「ふざけるな、私は忙しいんだ!」



 「何に忙しいの?」



 「えっ…………えっとそれはだな……」



 そう聞かれてしまうと、何も答えられない雪女。



 「暇なら遊ぼうよ!一時間だけでいいから!!」



 「お願い!」



 「…………ほんとうに一時間だけだな?」



 「「うん!」」



 一時間だけという約束の元、渋々付き合う事にした。







***





 「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ…………いったい何処にそんな体力があるんだよ」



 子供達との一時間を終えた雪女だったが、その疲労は凄まじかった。鬼ごっこにかくれんぼに勇者ごっこと、休み無く遊び尽くした。そして当たり前の様に元気な子供達。



 「楽しかったー!」



 「ちょっと物足りなかったけどねー」



 「う、嘘だろ…………」



 子供の底知れぬ体力に、恐ろしさすら感じた。



 「それにしても、パパの言う通り凄い綺麗な人だね」



 「ほんと、美人さんだよね」



 「ちょっと待て、お前達のパパって言うのは……」



 「おおー、ここにいたのか」



 思った通り、遠くの方から見覚えのある男がやって来た。



 「あー、パパ!!」



 「パパだー!」



 「やはりお前だったか……」



 雪女が町長の次に苦手とする人間、ウェイがこちらへとやって来た。



 「おー、雪女ちゃん。相変わらず美しいなー!もしかして、娘達と遊んでくれていたのかい?」



 「だとしたら何だ……迷惑だったか?」



 「とんでもない!わざわざ、娘達の遊びに付き合ってくれて本当にありがとう」



 「………!!?」



 ウェイの“ありがとう”という言葉を聞いた瞬間、雪女の胸辺りが暖かくなるのを感じた。



 「ほら、お前達もお礼を言いなさい」



 「今日は遊んでくれて、ありがとうございました!」



 「ありがとうございました!」



 「!!?」



 まただ。またしても“ありがとう”という言葉を聞いた瞬間、胸辺りが暖かくなるのを感じた。しかしそれが何なのかは雪女には分からなかった。



 「それじゃあ、我々はこれで失礼します」



 「雪女のお姉ちゃん、バイバーイ!」



 「また遊ぼうねー!!」



 「…………あ、ああ……」



 遠く離れて行きながら手を振る子供達に、無意識に手を振り返した雪女。



 「…………」



 そんな振り返した手をぼんやりと見続けるのであった。







***







 「…………」



 「お帰り……どうしたんだい?」



 ぼんやりした状態で帰宅した雪女は、出迎えた町長に心配された。



 「……どうやら私、呪いを掛けられてしまった様だ……」



 「ええっ、呪いだって!?」



 雪女は、これまでの経緯を事細かに町長へと伝えた。胸の辺りが急に暖かくなってしまった事など細かく。



 「恐らく……あの“ありがとう”という言葉に呪いの魔法が掛けられていたに違いない。子供だからって油断したよ……」



 「……ぷっ、あはははは!!」



 「お、お前!!こっちは真剣なんだぞ!」



 雪女の言葉に堪えきれ無くなった町長は、思わず笑ってしまった。



 「ごめんごめん。雪女さん、その暖かさの正体は嬉しさ。つまり、雪女さんはその子供達にお礼を言われて嬉しいんだよ」



 「はぁ!?私が嬉しいだって!?バカも休み休み言え!!」



 そう言って雪女は自室へと歩いて行った。だが、そうかもしれない。これまで感じた事の無い感情が、雪女の全身を駆け巡っていた。



 「この調子なら、町の人々に感謝されるかもね」



 町長の一言は、雪女には聞こえてはいなかった。







***







 子供達にお礼を言われてから数日、雪女の周りは前とは比べ物にならない程変化した。ある時は、重たい荷物を持ったお婆さんの代わりに荷物を持ってあげたり…………。



 「重た!!いったい何が入っているんだ!?」



 「何、他愛ない物だよ。野菜、果物、穀物、まぁそんな所かね」



 「(こんな重たい荷物を、婆さん一人で運んでいたのかよ。この婆さん何者だ!?)」



 自分より明らかに、か弱そうなお婆さんのいったい何処にそれ程の力が備わっているのか、気になってしょうがない。



 「ああ、ここまでで大丈夫だよ。手伝ってくれてありがとうね」



 「お……おお……」



 再び、胸の辺りが暖かくなるのを感じた。







***





 またある時は、店番を頼まれたり……。



 「い、いらしゃいませ……」



 「うーん、顔がぎこちないけど良しとするか」



 今までやった事の無い接客業に、苦戦する雪女。



 「それにしても、助かったよ。今日来る筈だった子が急に来れなくなってしまってね。本当にありがとう!」



 「わ、私に掛かれば、店番の一つや二つ余裕だ!」



 「そうか、そいつは助かるよ。やっぱり人間に大切な事は、思いやる一言二言だからな。お客に対しても家族に対してもな」



 「ん、家族にも言葉が必要なのか?」



 この時、何故だかは分からないが何となく町長の顔が頭に思い浮かんだ。



 「当たり前だ。気持ちだけじゃ伝わらない物があるからな!」



 「そう言う物か…………」



 「ほらほら、そんな思い詰めた顔してたら、お客が逃げてしまうよ!」



 「そ、そうだな……あ、い、いらっしゃいませ!」



 何かを考えていた雪女だったが、一先ず接客業に専念する事にした。



 「…………」



 「お帰り、今日も町の人の役に立てたかい?」



 「あ、ああ、まぁな……」



 「それじゃあ夕食にしようか」



 そう言って食堂へと歩き出す町長。その背中を見て、雪女が咄嗟に口を開いた。



 「お、おい!」



 「ん、何だい?」



 「…………た、ただいま」



 「!!…………お帰り」



 この日を境に、雪女の心の何かが完全に変わった。







***







 「ただいま!!」



 「お帰り、今日はやけにご機嫌だね?」



 あれからという物、雪女はぶっきらぼうではあるが以前とは比べ物にならない程、明るく活発な女性になっていた。



 「おう、今日はウェイの子供達と一緒に遊んでいたんだけどその帰り道に、お婆さんに会って果物を沢山貰ったんだ!」



 そう言う雪女の腕には、何種類もの果物が抱えられていた。



 「それは良かった。じゃあ早速、切って食べ…………ぐうぅ!!!」



 「爺!!!」



 果物を切る為歩き出そうとした町長は、突如倒れ込んでしまった。







***







 「ははは、いつかはこんな日が来ると思ってはいたが……まさかこんなにも早く来てしまうとは…………」



 「いったい、何がどうなっているんだよ!!説明しろ!」



 現在、倒れてしまった町長は雪女の手を借りてベッドで横になっている。



 「…………寿命だよ」



 「……はぁ?何言ってるんだ。お前まだそこまで年老いていないだろうが!」



 「ふふふ、実はな私はもう九十代なんだよ」



 「!!!」



 衝撃の事実。見た目との差が激し過ぎて、信じられない雪女。



 「でも良かった。最後にこんな綺麗な人に見送られるなんて、運が良い」



 「ふざけんな、まだくたばるには早いだろうが!私は力を取り戻していないんだぞ!!」



 「……何言っているんだ。もう既に取り戻しているじゃ無いか……」



 「えっ…………?」



 雪女が掌を見つめると、一瞬で氷が生成された。



 「何で…………?」



 「言っただろう……君の力を取り戻すには、町の人々から感謝されなくてはならないって……その為に今まで町の人の手伝いをしていたんだろう?」



 「…………」



 違う。そんな疚しい気持ちで手伝っていたんじゃない。只、人から感謝されたりお礼を言って貰えると凄く嬉しかったから、胸辺りが暖かくなるから、只それだけだった。力を取り戻す事など町長が倒れるまで考えてもいなかった。



 「違うんだ……私は……私は……」



 「そうか……本当に綺麗になったね。誰かの為に、純粋な気持ちで手伝えるなんて見た目だけで無く、心まで綺麗になったんだね…………これで言葉使いが綺麗だったら完璧なのに……」



 「直す!綺麗な言葉使いに直すから、死ぬな爺!!」



 町長の手を両手で強く握る。目から涙が止めどなく溢れ出て抑える事が出来ない。



 「……そうだ、君に渡す物があったんだ……」



 そう言うと、懐からある物を取り出した。



 「これは…………“炎の王冠”?」



 「もし、君にその気があるならこの王冠を受け取って欲しい。受け取って、この“アンダータウン”の新しい町長になって欲しい!」



 「わ、私が町長!?む、無理だ!絶対無理だよ!!」



 突然、町長になって欲しいと頼み込まれ、拒否する雪女。



 「いや、君になら出来る。だれかの為に一生懸命になれる君になら、この町の町長を任せられる。頼む、どうか私の最後の願いと思って受け取って欲しい……」



 「分かった!!受けとるから最後なんて言わないでくれ!」



 雪女は町長の“最後”という言葉に、慌てて王冠を受け取った。



 「ありがとう……君ならきっと私以上の町長になれるよ」



 「爺…………」



 「あ、そうだ!!大事な事を伝え忘れる所だった!」



 「お、おい!無理して起き上がるな!ゆっくり横になっていろ!」



 町長は何を思ったか、急に起き上がり雪女に顔を向けた。



 「…………ずっと考えていたんだ」



 「えっ…………?」



 「君の名前さ。何度も何度も沈思黙考を重ね、あれでも無いこれでも無いと考えた末に辿り着いた名前……“スゥー”というのはどうだろうか?」



 「!!」



 「や、やっぱり安直だったかな?雪だから“スゥー”だなんて、嫌だったら「嫌じゃない!!」……」



 「“スゥー”とっても良い名前だ!!私は今日から“スゥー”だ!」



 町長が考えてくれた名前に、これまでの感謝の言葉以上の、嬉しい気持ちが全身を包み込んだ。



 「そうか……気に入ってくれたなら良かった……これで思い残す事も無い。スゥー、町の皆をよろしく…………」



 「…………爺?」



 突然横になり、目を閉じてしまった町長にとても嫌な予感がした。



 「爺!!爺!!おい、起きろ!ふざけんなよ、私をこんな気持ちにさせたまま逝くな!もっとお前と話していたいんだ!もっとお前の料理を食べたいんだ!もっとお前の側にいたいんだ!…………頼むから……目を開けてくれよ…………」



 涙が溢れる。名前を貰った嬉しさと大切な人を失った悲しみが入り交じり合い、どうしても涙を止められない。



 「爺ーーーーー!!!」



 この日、町の人々は確かに聞いた。町長の家から一人の女性が泣く声を…………そしてそれは、一晩中続いたという。
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