笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

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第七章 冒険編 極寒の楽園

私は待ち続ける

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 町長が亡くなって、約五十年の歳月が流れた。新しく町長に就任した雪女事、“スゥー”は今でもここ“アンダータウン”でその役目を担っている。



 「……うん、良い香り」



 現在、スゥーは町長の家で暖かい紅茶を楽しんでいた。五十年近く経っているというのに、美貌は衰えてはいなかった。寧ろその逆、以前よりも落ち着きのある大人の雰囲気からその美しさに磨きが掛かっていた。



 「やっぱり、紅茶は暖かい内に限るわ。冷たいのも好きだけど、香りを楽しみたい時は暖かいのが一番ね」



 スゥーが紅茶を堪能していると、こちらへと慌てて走って来る足音が聞こえてきた。



 「スゥーさん!スゥーさん!大変だよ!!」



 「あらあら、そんなに慌ててどうしたの?」



 玄関が勢い良く開かれ、中に駆け込んで来たのは一人の少年である。因みに余談だが、この少年はウェイのひ孫である。



 「実はさっき、町の入口で男の人が倒れているのを見つけたんだ!!しかもその人、この町の人間じゃない外から迷い混んだ人なんだ!」



 「!!、その人は今何処にいるの!?」



 新しく町長に就任して約五十年。今まで自分以外の外からの来訪者はいなかった。その為、その男性の事がとても気になってしまう。



 「気絶してたみたいだったから、噴水広場の方まで運んで休ませてるよ!」



 「あんな硬い地面で寝かせていたら、体を壊してしまうわ……手間を掛けさせてしまうけど、この家まで運んでくれますか?私はその間に、寝る場所と濡れたタオルを用意しておきます!」



 「わ、分かった!皆に伝えに行くよ!」



 そう言うと少年は足早にその場を去り、皆が待つ噴水広場へと走って行った。



 「頼みましたよ……さて、私も準備しないといけませんね」





 スゥーは、男性が運ばれて来るまでの間、看病する為の支度を整えるのであった。







***







 「………………ん」



 男性は目を覚ました。そこには見知らぬ天井があった。ベッドから体を起こして辺りを見回すと簡易的な机、椅子、そして立派な本棚が置いてある。



 「ここは……」



 「お目覚めに成られたのですね」



 男性がここは何処なのかと頭を悩ませていると、扉の奥からとても言葉では言い表せない程の美しい女性がやって来た。



 「あ、あなたは?」



 「申し遅れました。私、この町の町長を勤めさせて頂いております。“スゥー”と申します、以後お見知りおきを……」



 「スゥーさんですか……」



 スゥーのあまりの美しさに、一瞬見とれてしまった男性だったが即座に自我を取り戻す。



 「失礼ですが、名前をお伺いしてもよろしいですか?」



 「あ、すみません!俺は“ケイ”って言います!」



 「ケイさんですか…………それではケイさん、お目覚めの所申し訳ありませんが、あなたがこの町に来た理由をお聞かせ願いますか?」



 「…………」



 スゥーもバカでは無い。町の人々は迷い込んだと思っているが、実際この“アンダータウン”に来る為にはあの長い洞窟を通らなければならない。自分の意思で来ない限り、迷い込むなど万が一にもあり得ない。



 「俺は……とある理由からある物を探す旅をしているのですが、実はその目的の物がこの町にあるという情報を聞きまして…………」



 「その……ある物とは?」



 「…………炎の王冠です」



 「!!!」



 ある程度予想はしていた。炎の王冠さえあれば、世界その物を手中に収める事が出来る。だがそれは他の王冠が存在しなかった場合の話…………だとしても、王冠一つあれば一国の王にだってなれるのだ。



 「……確かに炎の王冠は私が持っています」



 そう言うとスゥーは、懐から炎の王冠を取り出した。



 「こ、これが、炎の王冠!!お願いします!どうかその王冠をしばらくの間、貸して頂けないでしょうか!?」



 「…………その前に聞かせて下さい」



 「えっ……?」



 「その……とある理由というのを……」



 「…………」



 理由を尋ねた途端、ケイは何か思い詰める表情をして沈黙してしまった。



 「すみません……それは口が裂けても言えないんです」



 「そうですか、それでしたらお貸しする事は出来ません」



 「そこを何とか!!お願いします!!」



 ベッドから降り、頭を床に付けて土下座の姿勢を見せる。倒れている所を助けて貰ったにも関わらず、炎の王冠を貸して欲しいとは、とても図々しい男性だ。



 「理由をお話して下さればお貸ししますが、お話する気が無いのであれば、何度お願いしても答えは同じです。しかし、このまま外に放り出すのも心が痛みます。そこである程度の水と食料をお渡しするので、ここで暫しお待ち下さい」



 そう言うとスゥーは、水と食料を用意する為に部屋を後にした。



 「…………俺は、絶対に炎の王冠を手に入れなくちゃいけないんだ……」



 一人、部屋に残されたケイは決意を固める。



 「お待たせしました。こちらが水と食料に「スリープ」な……り……ます」



 スゥーが水と食料を用意して扉を開けると、目の前に立っていたケイが右手を突き出し魔法を唱えた。その瞬間、急な眠気に襲われ前のめりに倒れてしまった。



 「悪いがしばらくの間、眠ってて貰うぞ……」



 「そんな……駄目……」



 スゥーの願いも虚しく、ケイは炎の王冠を奪い取った。



 「よし、あとは………ダイヤモンドレイク…………待ってろ……必ず……」



 段々と意識が遠退いて行く。ケイの言葉が途切れ途切れに聞こえるが、それも長くは持ちそうに無い。そしてスゥーは意識を失った。







***







 「……あれ……私……」



 次に目が覚めると既にケイの姿は無く、懐に入れていた炎の王冠も無くなっていた。



 「そんな……どうしよう……町長が私に託してくれた炎の王冠なのに……」



 心が悲しみに包まれる。情けない自分に嘆いていると、体の異様な変化に気が付いた。



 「て、手が…………!!?」



 両手を見ると、みるみる内に小麦色の肌から真っ白な冷たい肌へと変化して行った。その変化は手に止まらず、体、足、髪、そして顔と全ての箇所が真っ白に染まってしまった。



 「まさか……炎の王冠が無くなった事による力の暴走!?このままじゃ、町が……!!」



 悪い予感は的中し、スゥーを中心とした冷気が町全体を包み込み氷付けにしてしまった。



 「駄目、駄目、駄目、駄目ーー!!」



 スゥーは、冷気を防ごうと急いで外へと飛び出したが時既に遅し、建物も植物も食べ物も町の人々全てが氷付けになっていた。



 「嘘…………こんなの嘘……!?」



 スゥーが吐いた息が、更に氷を強固な物にした。



 「…………!!」



 慌てて口を塞いだ。遂にはまともに喋る事も出来なくなってしまった。



 「(何とかして炎の王冠を取り戻さないと……でも…………)」



 今の状態のスゥーが町の外に出れば、周りの物が全て凍り付き、大混乱を招いてしまう。そうなれば自分だけじゃない、雪女を匿った事でこの町にも被害が及んでしまう。



 「(誰かの助けを待つしか無いの?…………そうだわ!)」



 この時、スゥーの頭の中では恐ろしい計画が進められていた。



 「(ここに旅人を招いて、事情を説明して助けて貰えばいいのよ…………でも、只の旅人じゃ駄目。炎の王冠を持ったあの男に勝てる様な強い旅人で無いと…………その為にも“テスト”が必要ね)」







***







 スゥーの、助けを求める為のテストは難航していた。何人かの旅人をこの洞窟に招き入れ、作り出した氷像八体で腕試しをしてみるも結果はどれも失敗……。八体の氷像に負けてしまったり、そもそもが洞窟に入る前に吹雪で氷付いてしまうなど、納得の行く結果は未だに出ていなかった。



 「(あれから……何日経ったのかしら……失敗した人達は氷付けにしてこの町に保管してあるから、命に別状は無いけど……氷像が強すぎるのかしら?いえ、あの強さで良いはず!!でなければ炎の王冠を持ったあの男に勝つ事なんて出来ない!)」



 日に日に強くなって行く自分の力。その力は町の外まで影響を及ぼし、外は今大雪原と変わり果てている。



 「(私は諦めない。例え世界中の旅人を凍らせてもこの町を救って見せる!!私は待ち続ける、何年でも何十年でも何百年でも…………この町を救ってくれる強き旅人が現れるその日まで……)」



 スゥーは待ち続ける。何人もの旅人を犠牲にしたとしても、彼女はこの行動を止めないであろう。









































 「寒ーい!!!」



 そして今日も、新たな旅人を招き入れるのであった。
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