笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

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第九章 冒険編 雲の木の待ち人

呼び寄せた理由

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 エルフ。妖精、または小妖精と訳される事が多く、とても美しく若々しい外見を持ち、森や泉、井戸や地下などに住むとされる。また彼らは長命であり、魔法の力が常人よりも長けている。そんなエルフが現在、真緒達の目の前で人数分のお茶を注いでいる。



 「エピロは、丁度千年前に出会ってね。何処で居場所を知ったのか、突然やって来て弟子にして欲しいって頼んで来たのよ」



 「でも……エルフって、人前に姿を現さないので有名じゃないですか?それなのに、どうして…………?」



 リーマの知っているエルフの情報は、我が強く、魔法に絶対的な自信を持っており、他の種族とは決して関わりを持とうとしない。孤高の種族であるという事。



 「いやー、アーメイデさんのお噂は兼ね兼ね伺っておりましたから、是非魔法の指導をして頂きたく里の反対を押し切って、抜け出して来たのです」



 「エピロはね、まさに才能の塊と呼べる程の人材よ。近い将来、偉大な魔法使いになるのは確実だわ」



 「そんなー、過剰評価し過ぎですよー。オイラバカだから、物覚えは悪いし、未だに初歩的な魔法しか使え無いんですよ…………」



 褒めまくるアーメイデに対して、自身を貶す言葉を言うエピロ。



 「いつも言ってるでしょ。あなたはバカなんかじゃない……あなたは……」



 「さぁ、お茶の準備が出来ましたよー…………きゃあ!!?」



 出来上がったお茶を運ぼうとしたエピロだったが、何も無い場所で突如転んでしまった。そして転んだ拍子に舞い上がったお茶は、見事エピロの頭へと被った。



 「“ドジ”なだけよ…………」



 お茶を被り、そのあまりの熱さでのたうち回るエピロを、アーメイデは呆れた顔で見つめていた。



 「何か……エルフのイメージと随分違うね……」



 「言動といい、一人称といい、どっちかと言うと……ハナコに似ているな」



 「「確かに…………」」



 フォルスの意見に、納得する真緒とリーマ。



 「ぞう言われるど……何処が親近感が湧ぐど言うが……」



 「オイラも……他人とは思えません…………」



 ハナコとエピロは、お互いに顔を見つめ合う。



 「えっと……仲良くなるのは良い事なんだけどね、そろそろ本題に入ってもいいかい?」



 「えっ!?あっ!す、すみません!」



 「ご、ごめんだぁ!!」



 アーメイデの言葉で我に帰ったハナコとエピロは、慌てて離れる。



 「それで……あんた達を呼び寄せた理由なんだけど……何処から話したらいいか……」



 「その前に、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」



 本題に入ろうとするアーメイデに、真緒が話に割り込んだ。



 「ん、何だい?」





 「アーメイデさんが二千年前の人だとしたら、どうしてまだ生きているのでしょうか?また、どうしてそんなにも若々しいのですか?」



 「あぁ……そうか、ならまずはその事から話すとしようか……」



 途端にアーメイデは、何処か思い詰めた表情へと変わった。しばらく黙ると、ゆっくりと重々しく口を開いた。



 「二千年前……初代勇者との旅を終えた私は、魔法の研究に没頭する様になった。だけど、人には限界がある……その一つが寿命だった。どんな高名な魔法使いでも、自然の摂理には逆らえなかった。私もその一人となる筈だった…………しかし、私は研究を進めていく内に半永久的に寿命を保てる魔法を開発した。それが“停止魔法”だ」



 「停止魔法…………?」



 「停止魔法は、物体の流れや時間の流れ、そういった類いの物を止める事の出来る魔法。この魔法のお陰で、私の周りにある時間は今も活動を停止している。つまり、この魔法があるかぎり私は歳を取らないのさ」



 「凄い……凄すぎます!!時間を止めてしまうなんて!さすがはアーメイデさんです!!」



 時の流れは残酷だ。どんなに長命な者でも、いつかは寿命が訪れてしまう。そんな、時の流れをアーメイデは止めて、半永久的に生きていられる様にしたのだ。



 「成る程……そうだったんですか……それじゃあ、私達を呼び寄せた理由は何ですか?」



 「…………一年程前、魔王城で四天王の一人である“狂乱の王子ヴァルベルト”が脱退した事は知っているかい?」



 「はい、本人に会って直接聞きました」



 「本人に会って!?ちょ、ちょっとそれはどういう意味だい!?」



 元四天王であるヴァルベルトに会った事があると述べる真緒達に、驚きの表情を浮かべるアーメイデ。



 「えっと……じつは……」



 真緒達は、ヴァルベルトとの出来事を説明し始めた。ピースマーシュで巨大な城があった事、ヴァルベルトと一戦交えた事、そしてヴァルベルトと和解した事。その全てをアーメイデに説明した。



 「そう…………まさかあなた達が既に会っていただなんて……だけど、それなら話が早いわ。そのヴァルベルトが脱退した事により、今まで空席だった四天王の席が最近になって、後釜が着任したっていう情報を手に入れたんだけど……」



 「まぁ……空いた穴は塞がないといけないからな」



 「問題はそこじゃないの……何故だか分からないけど、どうしても他の詳細が掴めないのよ」



 「それってつまり……」



 「えぇ……後釜が着任したって以外は、全く分からない……」



 アーメイデはこれまで、後釜の存在を探ろうと試行錯誤していた。偵察隊を派遣したり、魔王軍の兵士を買収するなど、手を尽くして来たが……何故だか一向にそれらしい情報は入手出来なかった。



 「でも……どうして、新しく着任した四天王の情報を知りたいんですか?」



 「…………今まで、私が知りたいと思った情報は必ず手に入れて来た。だけど、かつてここまで情報が集まらないのは初めての経験だった。何だか胸騒ぎがするの……恐ろしい何かが動き始めているのかもしれない…………」



 「アーメイデさん……」



 情報集めには絶対の自信を持っていたが、こうして集まらない事は初めての事で、アーメイデは言い知れぬ不安を感じていた。



 「成る程……その後釜がどんな人物かを調べて欲しいから、俺達を呼び寄せたんだな?」



 「あー…………実はあなた達を呼び寄せた訳では無いんだよね……」



 「「「「……えっ!?」」」」



 アーメイデのまさかの発言に、真緒達は驚きの声をあげた。



 「どういう事ですか!?」



 「いやー、人魚達の事を思い出してそれを通じて、誰かを呼び寄せようとは考えたんだけど……こっちからはどんな人物が来るか、分からなかったんだよね…………ほら、一方的にしか見えないからさ……」



 「そういう事ですか…………」



 自分達を呼び寄せていた訳では無かった事に、落ち込んでしまう真緒達。



 「で、でも!あなた達が来てくれて本当に良かったよ!下手に弱い人が来てしまったら誤って死んでしまうかもしれないからね。まぁ、それを避ける為に老婆の姿で質問をしていたんだけどね」



 「えっ!?あの質問にも意味があったんですか!?」



 「あぁ!あの質問は、魔王城に行って無闇に魔王討伐しでかさないか、確認する為の質問だったんだよ」



 「成る程、余計な死人を出さない為ですね!!」



 「そう言う事さ(まぁ、少し“私情”が入っていたんだけどね……)」



 そんな事を思いながら、質問に答えられた真緒達を、暖かい目で見つめるアーメイデ。



 「だから質問に答えられたあんた達は、合格だ!その上で聞きたい……危険を承知でお願いしたい。どうか魔王城に行って、新しく着任した四天王の情報を手に入れて来てくれないかい?」



 「いいですよ」



 「ほ、本当か!?そんなにあっさり決めてしまっていいのかい!?」



 「はい、だって調査に行くだけですよね?別に討伐が目的で無いなら、話し合えば向こうも分かって貰える筈です」



 「そんな楽観的な……他は?他の者は何も言わないのかい?」



 あまりにもあっさりと承諾した真緒に、不安を感じるアーメイデは、仲間達にも意見を聞いた。



 「まぁ、いつもの事だからな」



 「もう慣れてしまいましたよ」



 「オラは、マオぢゃんにづいで行ぐだげだぁ」



 「そ、そうかい…………」



 真緒と供に旅を続けた結果、三人の危機管理は麻痺していた。



 「だが一つ聞きたい。何故あんた自身が行かない?あんたはかなりの実力者だ。行ったとしても、苦では無いだろう?」



 「…………二千年前の人間が生きているだなんてバレたら、私は世界中から狙われてしまう。そして万が一捕まってしまったら、停止魔法について追求されるだろう。そうなってしまったら、世界の均衡が崩れてしまう…………それだけは何としてでも阻止したいんだ。だから悪いけど、私が動く訳にはいかないんだ…………」



 既に死んだ人間として扱われているアーメイデ。もし生きていると知られれば、世界中が彼女を狙う事になるであろう。



 「そうだったのか……ありがとう答えてくれて……」



 「この位、大した事じゃ無いさ……」



 「「…………」」



 気まずい空気が流れる。真剣な話し合いが、場の空気をどんどん重たくしていく。



 「…………こ、この話はまた後でしましょう!今度は楽しい話をしませんか!?」



 「あ……あぁ、そ、そうだね……そうだ!あんた達、何か聞きたい事はあるかい?これでも二千年生きているんだ!大抵の事は答えられるよ」



 場の空気を変えようと、リーマが話題展開をする。それに乗る様に、アーメイデが何でも質問していいと言った。



 「えっと、それじゃあお聞きしたいんですけど……アーメイデさんは、初代勇者と二人だけで旅されていたんですか?」



 「いや、もう一人メンバーがいたよ」



 「誰ですか?教えて下さい」



 「あー…………あはは、忘れちゃった」



 アーメイデは、恥ずかしそうに頭を掻いた。



 「悪いね。何せ二千年前の事だから、うろ覚えでね……」



 「そうですか……それじゃあ!アーメイデさんはこの“クラウドツリー”に住んで何年位になるんですか?」



 「そうだね…………軽く見積もって、五百年位かな?あの花や池は、自分で作ったんだよ」



 あのパワーを感じる場所を作ったのは、アーメイデ本人だった。



 「魔法だけじゃなくて、自然まで創造出来るだなんて凄いですよ!!」



 「……い……お~い……お~い!!皆さ~ん!!何処にいるんですか~?」



 リーマがアーメイデに質問していると、外から聞き覚えのある声が聞こえて来た。



 「あっ!師匠が来ました!!」



 「師匠?」



 「はい、実は私達の他にもう一人仲間がいまして、その人はマオさんの師匠なんです!」



 「へぇー、それは会うのが楽しみだね。ここまで立派な弟子を育てた師匠なら、是非その教え方を伝授させて貰いたいね」



 そう言いながら、真緒達は小屋の扉を開けた。



 「師匠!!こっちですよー!!」



 「おぉ~!!そこにいましたか!今行きますよ~!!」



 真緒がエジタスに大きく手を振りながら、居場所を伝える。するとそれに気がついたエジタスが遠くの方から走って来た。



 「師匠、遅かったですね?」



 「いや~、村長さんと会話が弾んでしまいましてね~」



 「…………な、何で…………」



 アーメイデは目の前にいるエジタスを見て、酷く驚きの表情を浮かべる。



 「師匠、驚かないで下さいね?こちらにいる女性は何と!あの!二千年前の英雄、アーメイデさんです!!」



 「ほほぉ~!!それはビックリ仰天ですね!!」



 そう言うと、エジタスはアーメイデの方に顔を向ける。



 「あなたがアーメイデさんですね?ど~も初めまして“道楽の道化師”エジタスと申しま~す」



 いつもの様に、両手を顔の横で小刻みに振り、自己紹介をするエジタス。その仮面は何処と無く、いつもより不気味に笑っている様に見えた。
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