笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

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第十章 冒険編 魔王と勇者

魔族の町

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 「安いよ、安いよ!今日は野菜が大安売りだよ!買った、買った!」



 「それでね、隣に住んでるゴブリンの夫婦が…………」



 「本当!?意外だわー!あの夫婦にそんな趣味があっただなんて…………」



 「早く遊びに行くぞ!」



 「ちょっと待ってよー!」



 「「「「…………」」」」



 真緒達は傷ついた体を癒す為に現在、魔族の町へと足を運んでいた。



 「何だか……思っていた光景と違いますね…………」



 「そうですね……入口で言われた通り、もっと荒れているのかと思っていました…………」



 真緒達は歩きながら町の雰囲気を確認していたが、聞いた話と大分異なっている事に疑問を感じていた。



 「…………いや、そうでも無い様だぞ……」



 「「「…………!!」」」



 フォルスが路地裏の人目が少ない所を指差した。するとそこには、屈強な二人の魔族が互いに殴り合っていた。



 「テメー、殺すぞ!」



 「何だと!こっちが先に殺してやるよ!!」



 血の気が多いのか、傷だらけになりながらも殴り合いを止めない。



 「それと……あっちにもいるな……」



 フォルスは、先程とは別の路地裏を指差す。そこでは、複数の魔族が一人の弱々しい魔族から金を要求していた。



 「なぁ……早く出してくれよ……?」



 「そうすれば、優しくしてやるって言ってるんだよ……」



 「ゆ、許して下さい……」



 「許して欲しかったら、それなりの誠意を見せてくれないとねー?」



 体が傷つく暴力では無いにしろ、精神を抉る恐喝を受けていた。



 「光があれば影がある……この町では、こうした人目を避けての犯罪が横行しているんだな……」



 「「…………」」



 「…………何処に行くつもりだ?」



 そんな犯罪を目撃する中、真緒とハナコが、恐喝が行われている路地裏に向かおうとするが、フォルスとリーマが行く手を遮る。



 「勿論、助けに行くんですよ……」



 「見過ごず事は出来ないだぁ……」



 「二人の気持ちはよく分かる……普段なら止めたりはしないんだが……」



 「今ここで騒ぎを起こしたら、ローブで身を隠した意味が無くなってしまいます。辛いでしょうが……ここは我慢して下さい…………」



 「「…………」」



 フォルスとリーマの説得に根負けした真緒とハナコは、助けたいという気持ちを押し殺して路地裏を通り過ぎた。



 「取り敢えず、目先の目標は傷ついたこの体を回復させる事だ」



 「私達には回復役がいませんので、道具屋でポーションを買う事にしましょう」



 そう言うと真緒達は、町の中でも一際目立つ大きな道具屋へと入った。







***







 「いらっしゃい!何をお求めでしょうか?」



 「「「「!!!」」」」



 道具屋の店主の顔を見たその瞬間、真緒達は驚きの表情を浮かべる。その店主は少し黒っぽい肌をしたハイゴブリンだった。それは、真緒達が旅に出掛けた最初の頃に出会った、ハイゴブリンシーフに瓜二つの顔をしていたのだ。しかし、あのハイゴブリンは真緒達が倒しこの世にはいない。つまりこのハイゴブリンは別の個体である。



 「…………お客様?」



 「あ、あぁ……すまない。町の外で会ったハイゴブリンによく似ていたものでつい…………」



 「成る程、そうでしたか。確かに私達ゴブリンはとても容姿が似ていますからね。同じ種族でもない限り見分けはつかないでしょう」



 「「「「あ、あはははは…………」」」」



 容姿だけで無く声まで似ている。真緒達は気持ち悪い違和感に襲われながらも、買い物を済ませる事にした。



 「それで、何をお求めでしょうか?」



 「えっと……回復用のポーションはあるか?」



 「えぇ、ありますとも。ご案内させて頂きます」



 そう言いながらハイゴブリンは、真緒達をポーションのある棚まで案内する。



 「小、中、大、特大と四種類取り揃えております」



 「それなら……大のポーションを十五本程貰えるか?」



 「ありがとうございます。そうしますと、お会計が15万kになりますがよろしいですか?」



 すると真緒が袋から銀貨十五枚を取り出し、ハイゴブリンに手渡す。



 「…………はい!確かに丁度頂きました。まとめますので少々お待ち下さい」



 そう言うとハイゴブリンが十五本のポーションを袋に詰め始める。



 「こちらがお買い求めの品となります。更に今週はキャンペーン期間ですので銀貨十枚以上でお買い上げしたお客様には、中のポーションを一本サービスさせて頂きます」



 ハイゴブリンは、棚にあった中のポーションを手に取り真緒達に手渡した。



 「ありがとう……助かる……」



 「いえいえ、こちらも仕事ですので…………またのご来店心よりお待ち申し上げます」



 人は見かけによらない。そう思いながら、真緒達は道具屋を後にした。







***







 「上手く買えたな……」



 「出来れば、安全な所で回復したいですね」



 こんな町の真ん中で四人全員が一斉にポーションを飲み始めたら、目立つのは間違いない。



 「そうですね……それなら次は宿屋を探しに…………ん?」



 リーマが、宿屋を探しに行こうと提案すると、近くで大声が聞こえる。



 「返して下さい!お願いです返して下さい!」



 「嫌なこった!これは一度地面に落ちた!つまり、持ち主が無くなったという事だ!誰が拾おうと問題は無い!!」



 声のした方向に顔を向けると、そこには二人の魔族が口論をしていた。一人がお金を落としてしまい、それを別の魔族が拾って自分の物だと主張しているのだ。



 「あーあ、あいつ終わったな」



 「この町での暗黙のルールを知らないんじゃないのか?」



 そんなやり取りに対して、真緒達の側にいた二人の若い魔族が呆れた口調で話していた。



 「暗黙のルール?何ですかそれは?」



 「ん?あんた達、この町は初めてかい?なら覚えておくといい。この町の人目がつく所で問題を起こすと大変な事になるんだ…………ほら、噂をすれば……」



 若い魔族が言うと、空から翼を広げた素早い何かが近づいて来た。



 「お願いします!返して……返して……あっ……」



 「だからこれは俺の…………ひぃ!!?」



 自分のお金だと主張する魔族の背後に、一人の魔族が立っていた。その魔族は黒い鎧を身に付け、顔は美しい白い肌……いや“鱗”だった。



 「きゃー!!“シーラ”様よ!四天王のお一人、シーラ様が来てくださったわ!!」



 「シーラ様!!素敵!!」



 翼を広げてやって来たのは、シーラだった。町の人々の黄色い声援が飛ぶ中、シーラは自分のお金だと主張する魔族に近づく。



 「おい、お前……」



 「は、はい!!」



 「他の者のお金を、自分のだと主張しているらしいな……」



 「も、申し訳ありません!!つ、つい魔が差してしまって……に、二度とこの様な事は致しません!!なのでどうか……どうか命だけはお助けを……!!」



 シーラが目の前に現れた事により、自分のだと主張した魔族は目にも止まらぬ早さで土下座をした。



 「安心しろ……殺しはしないさ……」



 「で、では……「但し」……えっ?」



 「魔王城の牢獄で、一生過ごして貰うがな」



 「!!…………くっ……くそ……こうなったら破れかぶれだ!!」



 追い詰められた魔族は、シーラに向かって殴り掛かる。しかし、シーラはその攻撃を容易く避けて魔族を地面に叩きつける。



 「がぁあああ!!」



 「愚か者が……連れて行け!!」



 「「「はっ!!」」」



 シーラの合図と共に空から数人の魔族が降り立ち、騒動を起こした魔族を連行して行った。



 「怪我はしていないか?」



 「だ、大丈夫です!あ、ありがとうございました!!」



 シーラは、取り返したお金を本来の持ち主である魔族に返した。



 「これ位、当然の事だ…………いいか!よく聞け!!この町で騒ぎを起こすなら、その時は私が来ると肝に命じておけ!!」



 そう言うとシーラは、その場から飛び立とうとするがその時、真緒達と目が合った。



 「…………」



 「ま、まさかバレたんじゃ……」



 「お、落ち着け……ここは動かずじっとしているんだ…………」



 平然を装い、シーラを見つめる。するとシーラは何かする訳でも無く、そのまま飛び去ってしまった。



 「…………あ、危なかった……」



 「シーラ様は、この町を一日中空から監視していらっしゃるんだ。そのお陰でこの町の犯罪率がかなり減少した。だけど……その代わり路地裏や、空から確認出来ない死角での犯罪が多発している……シーラ様と言えど万能ではないという事だな…………」



 若い魔族二人は、悲しそうな表情を浮かべながらその場を離れて行った。



 「あれが……四天王の一人、“黒白(こくびゃく)のシーラ”……」



 「見ているだけで震えが止まりませんでしたよ……」



 「怖がっだだぁ……」



 「聖一さんと同等……もしくはそれ以上の実力の持ち主……これは気合いを入れて行かないといけませんね……」



 真緒達はシーラの実力差を垣間見る事で、改めて気合いを入れ直すのであった。







***







 魔王城玉座の間。シーラは、騒ぎを起こした魔族を連行した後、玉座の間に足を運んでいた。



 「今、帰った……」



 「あら、早かったわね。町の様子はどうだったシーラちゃん?」



 玉座の間にはサタニア、クロウト、アルシア、ゴルガ、そしてエジタスが揃っていた。そんな中、アルシアがシーラに町の様子を訪ねる。



 「相変わらずだ。町では白昼堂々騒ぎを起こす奴らが絶えない……」



 「うーん、勇者接近のついでに町の警備を強化したけど……思った以上に酷い状況のようね……」



 「それと……さっき町で“勇者”を見つけた……」



 「「「「!!!」」」」



 “勇者”という言葉に対して、サタニア達に緊張が走る。



 「シーラ……それは本当なの?」



 「はい、ローブで姿を隠してはいましたが、あの雰囲気は間違いありません」



 「そっか……とうとうここまで来てしまったか……皆、戦闘準備!!勇者達を迎え撃つよ!!」



 「「「「はっ!!!」」」」



 サタニアの命令と同時に、エジタス以外の全員が玉座の間を後にする。



 「……エジタス、大丈夫?」



 「何がですか~?」



 サタニアとエジタスの二人だけになり、サタニアがエジタスに声を掛ける。



 「勇者と言えど……エジタスの仲間だから……その……」



 「大丈夫ですよ、サタニアさん……元々私は勇者の監視役……未練などありません……ですが、マオさん達をあまり甘く見ない方が良いですよ……」



 そう言うエジタスの言葉は、いつも以上に不気味に感じた。
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