笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

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過去編 二千年前

絶望は人知れず訪れる

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 「“ファイア”」



 私の掌に、赤々と燃え上がる火の玉が生成された。私はその火の玉をまるでお手玉をする様に、右手から左手へと動かして行く。



 「凄い!!まさかこんな短時間で魔法の扱い方をマスターしてしまうだなんて!!」



 修行を始めて約三時間。私は、火属性魔法を扱える様になっていた。



 「この調子ならあと一、二日で四種類の魔法を扱える様になると思うよ」



 「ふふふ、やっぱり私って才能の塊だった様ね」



 一種類の魔法を三時間で扱える様になった事で、コウスケから他の種類の魔法もすぐに扱える様になると言われた。



 「ねぇ、これなら村の復興を手伝えると思うんだけど、今から手伝いに行ってもいいでしょ?」



 「えっ……いやでも、まだ火属性魔法しか扱え…………」



 「大丈夫よ!こんなに簡単に扱えるんだもん。他の種類の魔法だって、簡単に扱えるわよ!」



 そう言いながら私はコウスケ達から離れて、両親の元へと走って行った。



 「あっ!?ちょっと!!ど、どうしましょうエジタスさん!?」



 「こうなっては仕方ありませんね~。ここは一つ、彼女のやりたい様にやらせて見てはいかがでしょう~?」



 「で、でもそれで万が一の事があったら……」



 「その時はコウスケさん、あなたが止めればいいじゃないですか。今のあなたなら、赤子の手を捻る様なものでしょ?」



 「それは…………そうですけど…………」







***







 コウスケ達と離れた私は、両親を捜し回っていた。



 「…………あっ、見つけた!!」



 「うーん……どうしたものか……」



 すると村の入口で、両親と村の大人達が何やら頭を抱えていた。



 「パパ、ママ!!」



 「ん?おぉ、アーメイデか。コウスケさんから、魔法の扱い方を教わっていたんじゃないのかい?」



 「ふふふ、実はね…………って、そっちこそいったい何がどうしたの?」



 短時間で魔法を習得したのだと、両親に報告しようとしたが、それよりも村の大人達が一ヶ所に集まっている事が気になってしまった。



 「…………実は昨日の嵐が原因で、何処からか吹き飛ばされた大木がこうして村の入口を塞いでしまったんだ」



 「何とか退かしたいけど……とにかく重たくて……村人全員の力を合わせてもびくともしないのよ……」



 「!!!」



 私はその言葉に優越感を感じた。村人全員の力を合わせても、びくともしない大木を意図も簡単に退かせたらどれだけ感謝されるのだろう。



 「私に任せて!!」



 「えっ!!?アーメイデ、それはいくら何でも無理だ」



 「そうよ、十人以上でも動かせない大木をあなた一人でなんて、それこそ魔法を使わないと…………」



 「まぁ、見てて」



 言葉で直接語るよりも、実際にその目で確かめた方が早い。そう考えた私は、大木の前まで歩み寄る。



 「はい、ちょっと退いてー。通りますよー」



 人混みを掻き分けながら、村の入口を塞ぐ大木の目の前に立った。



 「…………ふふ」



 「「アーメイデ?」」



 そして私は、大木目掛けて右手を突き出すと魔法を唱えた。



 「“ファイア”」



 「「!!!」」



 その瞬間、私の右手から赤々と燃え上がる火の玉が生成され、そのまま大木目掛けて命中した。火の点いた大木は瞬く間に燃え上がり、ものの数分で消し炭となった。



 「ア、アーメイデ…………こ、これは……!?」



 「あなたまさか…………!?」



 「えへへ、どう?こんな大木、私の魔法に掛かれば朝飯前よ!」



 「「「「「…………うぉおおおおおおおおおお!!!」」」」」



 魔法の一部始終を目撃していた村人達が、私の周りに集まって来た。



 「凄いなアーメイデ!!」



 「今のどうやったんだよ!?」



 「アーメイデちゃん、魔法が使えたのかい!?」



 「ふふふ、私こそが“魔法使いアーメイデ”よ。皆、私を褒め称えなさい!!」



 「「「「「うぉおおおおおおおおおお!!!」」」」」



 とても良い気分だった。私の魔法で、皆が喜んでいる。私の魔法が村の復興に役立っている。そうした想いが、私を更に付け上がらせた。



 「凄いじゃないかアーメイデ!!もう魔法を扱える様になったんだな!!」



 「こんなに立派になって……本当に……本当に嬉しいわ……」



 「パパ、ママ…………えへへ」



 嬉しかった。村人達から喜ばれるのも嬉しかったけど、両親から喜ばれるのが一番嬉しかった。



 「いやー、それにしても本当に凄かったな……だけど、間近で炎を見ていたせいか喉が渇いてしまったな……」



 「!!!」



 間近で炎を見ていた父は、額から汗を流しながら唾を飲み込んだ。それを見た私は、透かさず父に声を掛ける。



 「パパ、水を掬い上げる様に両手を出して!!」



 「えっ!?…………こ、こうかい?」



 そう言いながら父は、両手を合わせて水を掬い上げる形にすると、私の目の前に突き出した。



 「…………水……水……“ウォーター”!!」



 するとその瞬間、父の両手に少量の水が生成された。



 「これは!!?」



 「パパ、早く飲んで!!」



 「う、うん…………」



 父はゆっくりと、両手に生成された水を口へと運んで飲み干した。



 「み、水だ…………!!しかも凄く美味しい!!こんな清々しい水、生まれて始めてだ!!」



 「お、俺にもくれ!!」



 「僕にも頂戴!!」



 「あたしが先よ!!」



 「はいはい、押さないで順番に順番に…………」



 私が生成した水は、瞬く間に有名となり一瞬にして長蛇の列が出来上がった。



 「…………見ましたか、エジタスさん……」



 「えぇ、バッチリ…………」



 そんな様子を、遠くから見届けていたコウスケとエジタスの二人。



 「教えてもいないのに……まさかぶっつけ本番で成功させてしまうだなんて…………少し羨ましいです」



 「おや、嫉妬ですか~?」



 「…………そうかもしれませんね……俺が水属性魔法を扱えるまで、二週間は掛かりましたからね……」



 自分より魔法の才能があった事に対して、コウスケは少しアーメイデに嫉妬していた。



 「…………行きましょうか」



 「いいんですか、別れの挨拶をしなくても?」



 「えぇ、アーメイデにはアーメイデの、俺には俺の別れ方がありますから…………」



 そう言うとコウスケ達は、村を後にしようとする。



 「あっ、ちょっとごめんね…………ねぇ、待ちなさいよ!!」



 遠くで、コウスケとエジタスが見ていた事に気が付いた私は、村人達を振り切り駆け寄った。



 「もう……行っちゃうの……?」



 「あぁ、元々この村に長居するつもりは無かったからね……」



 「そっか……まぁ、そのありがとう……魔法の扱い方を教えてくれて……」



 何故かその時の私は、コウスケの顔を直視する事が出来なかった。顔を反らしながら、只一言お礼を述べた。



 「どういたしまして」



 「そ、それだけ!!じゃあね!!」



 そう言うと私は、そのままコウスケ達の側を離れて村人達の元へと戻った。



 「…………行きましょうか」



 「そうですね…………」



 そしてコウスケ達は、そのまま村を後にした。しかしさっきと違って、どことなくスッキリとした表情になっていた。







***







 それから三日後。コウスケ達はアーメイデの村から少し離れた所にある町の酒場で、食事をしながらあの時の出来事について会話していた。



 「あれから三日……何だかあっという間でしたね……アーメイデ……元気にしているかな?」



 「そうですね~。まず間違いなく、四種類の魔法が扱える様になっているでしょうな~」



 「そっか……そうなると、今頃アーメイデは魔法をバンバン扱えているかもしれませんね?」



 「…………」



 「エジタスさん?どうしました?」



 先程まで、楽しく会話していたが途中からエジタスの雰囲気が変わった。



 「コウスケさん……やはり魔法は便利ですか?」



 「そりゃあ勿論、火を起こしたり、水を井戸から汲んで来たり、畑を耕すなど、生活がより快適になるのは間違いありません」



 「そうですか……それは良かったです…………」



 「エジタスさん?」



 エジタスの急な変化に、疑問を抱くコウスケ。するとエジタスは、静かに口を開いた。



 「ですが……常々思うのですよ……魔法の扱い方について…………」



 「と言うと?」



 「例えば、今まで井戸から水を汲んで来ていたのに、ある日を境に魔法の水だけに頼ってしまっていたら、いつしか井戸の水は枯れてしまう。畑を耕すのだって、今まで農夫の人々が汗水垂らして頑張って来たのに、魔法で一瞬にして耕されてしまってはやる事が無くなり、自堕落な生活を送る様になってしまう。魔法は便利ですが、それによって多くの物が失われてしまう。私はそう思っているのですよ…………」



 「確かに……それは避けて通れない道かもしれません。でも、魔法のお陰で助かる人々がいる筈だと俺は思います!」



 「それは……そうなんですけどね…………」



 とても気まずい空気になってしまった。コウスケは、いつも明るく陽気なエジタスでは無い事から戸惑いを隠せない。その時だった、隣の席から二人の男の会話が聞こえてきた。



 「…………おい、聞いたか?」



 「聞いた聞いた……魔族の軍勢がこの近くの村を片っ端から潰しているんだろ?」



 「「!!!」」



 近くの村を潰している。その言葉にコウスケとエジタスは、嫌な予感を覚える。



 「エジタスさん……近くの村を潰しているという事は……」



 「十中八九、彼女の村も襲われているでしょうね~」



 「俺、助けに行きます!!」



 「はぁ~、そう言うと思いましたよ。本当にお人好しですね~。分かりました、私の“転移”を使いましょう。しっかり掴まってて下さいよ」



 「はい!!」



 コウスケが肩に手を置くのを確認すると、エジタスは指をパチンと鳴らしてその場から一瞬にして姿を消した。



 「あれ!?お、お客さん!?お金、まだ貰ってませんよ!!お客さーーん!!」



 その後直ぐに、店員の頭の上に代金分のお金が入った袋が転移して来たのは、また別の話。
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