笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

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最終章 笑顔の絶えない世界

ハナコとアルシア

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 「いやー、あんた達には迷惑を掛けちまったね!!」



 「全くだぜ……でも、元に戻って本当に良かったよ」



 食堂のおばちゃん“クオ”との戦いに勝利を収めたフォルスとシーラ、それによって洗脳が解けたクオが、おおらかな笑みを浮かべながら二人に謝罪した。



 「それじゃあ、私達は先を急ぐよ」



 「何だい、もう行っちまうのかい?」



 「すみません、俺達は一刻も早く行かなければいけないんです」



 「…………そうだったね……よし!行っておいで!!あたしは料理を作りながら、あんたらの帰りを待っているからね!!ついでに、あたしの事を操ったあのエルフをぶっ飛ばしてくれよ!!」



 「「了解!!!」」



 そう言うとクオは、フォルスとシーラそれぞれの背中を強く叩いて、送り出すのであった。



 「(……まぁ、そのお陰で懐かしい夢を見る事が出来たんだけどね……)」



 クオは、エピロの雷魔法によって操られる中、ある夢を見ていた。とても懐かしいあの日、四天王入りを断ったあの日の出来事を…………。



 「クオ……クオ……」







***







 その日クオは、四天王入りを断ると一人城壁の上で外の景色を眺めていた。



 「…………クオ、こんな所で何をしているんだい?」



 すると、後ろから誰かに声を掛けられた。クオは、声を掛けられた方向へと振り返った。



 「ま、魔王様…………!!」



 そこには二代目魔王、サタニア・クラウン・ヘラトス二世が立っていた。クオは慌てて、背筋を伸ばして態度を改め直した。



 「はは、そんなに畏まらなくても大丈夫、楽にして…………」



 「あ、ありがとうごさいます……あの魔王様、申し訳ありませんでした。四天王入りを断ってしまって……」



 「別に気にしていないよ。四天王に着任するかは、本人の自由なんだから」



 「…………」



 そうは言っても、魔王自らの申し出を断った罪悪感は拭いきれなかった。クオが黙ってしまった事で、気まずい空気が流れる。



 「…………何を悩んでいるんだい?」



 「!!……別に悩んでなんかいません……」



 「無理しなくてもいいんだよ。浮かない君の様子を見ればすぐ分かる」



 「…………」



 まさか表情から、自身の心情を読み取られてしまうとはさすがは魔王、これ以上惚けるのは無粋と判断したクオは、自身の思いを口にした。



 「……最近、敵を倒しても倒しても心が満たされないというか……何だか心に小さな穴が空いている様な……そんな感じがするんです……」



 「…………」



 敵を倒すだけの毎日、仲間達への株は上がり遂には四天王入りの申し出までやって来た。しかし何故か心は一向に満たされ無かった。この時クオは既に、心身共に疲れきっていた。



 「魔王様……あたしはどうすれば良いのでしょうか?」



 強くなったが故、皆の期待を裏切る事が出来なかった。その為クオは心の拠り所として、二代目魔王に答えを求めた。



 「…………クオは……何か趣味とかあるかな?」



 「趣味ですか?」



 「そう、敵と戦う以外に普段から欠かさず行っている事、何かないかな?」



 「ど、どういう意味ですか?」



 「…………僕は思うんだ。趣味とか娯楽があるのは、クオの様に心が満たされなくなってしまった人への救済措置なんじゃないかって……敵を倒すのだって、毎日だとさすがに辛いもんね。だから僕は、そうした人達のガス抜きを着手して行きたいと思うんだ」



 「魔王様…………」



 初代とは違って、とても温厚な二代目魔王。そんな二代目魔王の優しい言葉が、クオの張り詰めた心をほぐし始める。



 「…………料理」



 「えっ?」



 「料理……あたし実は……毎日自分で料理を作っているんです……」



 「良いね!!料理は、作る人も食べる人も幸せになれる素晴らしいものだ!!早速、明日から食堂で働いて欲しい!!手続きはこちらで済ませるから、クオは自慢の料理で皆を幸せにしてくれ!!」



 「は、はい!!よろしくお願いします!!」



 こうしてクオは、四天王入りを断った次の日に、食堂で料理人見習いとして働く事となったのであった。







***







 「(今思うと、あんな強引な誘い方によく乗っかったわね…………でも、結果的に料理はあたしにとっての天職だった。敵を倒すよりもずっとやりがいを感じるわ。さて、戦いが終わったら皆お腹を空かせて来るだろうから、今の内に準備しないとね…………腕が鳴るわ!!)」



 古き良き思い出に浸りながら、クオは台所へと歩いて行く。







***







 一方こちらは、ハナコとアルシアの二人組、新魔王城の門から踏み入れた先は、広いエントランスホールであった。四方八方に分かれた扉に対して、何処から手を着ければ良いのか困惑しながらも、取り敢えず手当たり次第に開けて行く事を提案したアルシア。



 「それじゃあ、開けるわよ?」



 「いつでも準備万端だよぉ!!」



 アルシアは、手当たり次第に近くにあった扉に手を掛ける。ハナコに声を掛け、準備完了している事を確認すると勢い良く扉を開けた。



 「…………ここは……魔王軍特別鍛練場?」



 「うわぁー、広いだなぁ…………!!」



 そこはかつて、エジタスが四天王に着任したばかりの頃に、シーラと戦った鍛練場だった



 「本来ここは、玉座の間に通じる廊下に出る筈だったんだけど…………どうやら本当に、部屋がランダムになっている様ね」



 「いっだい何処に行げば、皆ど合流出来るだぁ?」



 「それは分からないけど、取り敢えずここはハズレだった様ね。魔王軍特別鍛練場の出入り口は一つしかないから、入って来た扉のエントランスホールへと戻るとしましょうか」



 ハズレの部屋だと分かると、アルシアとハナコの二人組は、エントランスホールの法へと戻る為に再び扉に手を掛けた。



 「…………あら?」



 「どうじだだぁ?」



 「扉が開かないのよ…………」



 「えっ!?」



 アルシアのまさかの言葉に、耳を疑ったハナコはアルシアと替わって扉を前に押したり、扉を奥、横、縦に引いたりしたが開かなかった。



 「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……ど、どうなっでいるだぁ、ざっぎまで簡単に開いだのに…………?」



 「考えられるとすれば…………“鍵”を掛けられた?」



 「その通りで~す!!」



 「「!!!」」



 アルシアが、一つの答えを導き出したその時、聞き覚えのある声が鍛練場に響き渡った。



 「ど~も、ハナコさんにアルシアさん、またお会いしましたね~」



 「「エジタス!!?」」



 二人が、声のする方向に顔を向けると、そこにはエジタスがこちらに向けて手を振っていた。そしてその傍らには、謎の黒い物体があった。



 「いや~、まさかお二人がこの部屋を引き当ててしまうとは、何とも運が良いですね~」



 「どういう事かしら?」



 「この部屋は鍛練場改め、実験場となったのです!!!」



 「「実験場?」」



 エジタスの言葉の意味を、いまいち理解出来ない二人は、首を傾げた。



 「今からあなた達には、こちらの“実験体”と戦って貰います。見事勝利出来れば、この部屋を出る為の鍵を贈呈しましょう!!」



 エジタスの言葉に反応したのか、傍らにあった黒い物体が動き始めた。その黒い物体は骨などは全く存在せず、まるでスライムの様な見た目をしていた。そんな黒いスライムがゆっくりと、ハナコとアルシアの方へと近づいて来た。



 「それではお二人さん、頑張って下さいね~」



 そう言うと、エジタスは指をパチンと鳴らして、その場から姿を消した。残ったのはハナコ、アルシア、そして黒いスライムだけだった。



 「くっ…………こうなったら戦うしかないわね!!ハナコちゃん、油断しちゃ駄目だからね!!」



 「分がっでいるだぁ!!」



 そうして、ハナコとアルシアの二人は部屋の鍵を入手する為に、エジタスが用意した“実験体”と称する謎の黒いスライムに戦いを挑むのであった。
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