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最終章 笑顔の絶えない世界
二頭のドラゴン(前編)
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光も届かない暗い闇の洞窟。その奥深く、一頭のドラゴンが住み着いている。冷たく黒い瞳に、体全体を覆ってしまう程巨大な翼、そして全てを飲み込む様な真っ黒な鱗、そんなドラゴンが安らかな表情を浮かべながら、寝息を立てていた。
『(…………んっ……誰か来たな……)』
するとドラゴンは突然目を覚ました。入口方面から近づいて来る、何者かの足音が聞こえて来たのだ。
『(足音から察するに人数は“一人”…………嘗められたものだな)』
我は“漆黒のドラゴン”、名前は存在しない。その圧倒的な強さから、全種族の頂点に君臨している。そんな全種族の頂点に君臨している我だが、無謀にも挑戦して来る輩は後を絶たない。人間、亜人、魔族、ありとあらゆる種族が我を倒そうと画策して来た。そして今日も、我を倒そうとする者がやって来た。
『さて……今回はどんな無謀者だろうか…………?』
漆黒のドラゴンはゆっくりと体を起こし、やって来る無謀な挑戦者を待ち構える事にした。
「………………」
『(何だ……あの“奇妙な格好”の者は……?)』
現れたのは道化師だった。全身の肌を覆い隠す奇抜な衣装に身を包み、顔にはいやらしく細みがかった目付きと、口角を限界まで伸ばしたにやけた口を持つ仮面を被っていた。
『(別に問題は無い……例えどんな相手だとしても、いつも通り消し炭にするだけだ…………)』
漆黒のドラゴンは、やって来た道化師の元へと歩み寄る。一歩、一歩と足を踏み出す度に大地が揺れる。
『よくぞ来た挑戦者よ。我は漆黒のドラゴン。全種族の頂点に君臨する者だ。貴様、名を何と言う?』
すると道化師は、両手を拡げ顔の横にやり、小刻みに振る。
「ど~も初めまして“道楽の道化師”エジタスと申しま~す」
『…………』
あまりに陽気な自己紹介に、一瞬呆気に取られてしまった漆黒のドラゴン。しかし、直ぐ様気を持ち直す。
『エジタス……か……よかろうエジタス!!貴様の全力で、我を倒して見ろ!!』
「…………えっ?」
漆黒のドラゴンの言葉に、戸惑いの色を見せるエジタス。
『来ないのか?ならば、こちらから行かせて貰う!!』
「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さいよ~!?」
戦おうと足を踏み出した漆黒のドラゴンに対して、エジタスは両手を必死に振って戦おうとするのを止める。
『…………何だ?』
「私は別に、戦いに来た訳ではありませ~ん」
『……それじゃあ、何しに来たのだ…………』
「実は……あなたとお話しがしたく、やって来たので~す」
エジタスは、大きく両手を広げながら公言した。
『話だと……(成る程、こいつも力では無く頭を使った戦いをするタイプか。大方、我の油断を誘って寝ている隙に殺そうとしているのだろう。残念だが、そうした輩には既に何度か出会っている)……いいだろう、話してみろ』
「あっ、その前に座りませんか?いや~、ここに辿り着くのにずっと歩き続けていましてね~。もう足がパンパンなんですよ~」
そう言いながらエジタスは、その場に座り込んで両足を広げると、楽な姿勢を取った。
「実はこの前、宮廷道化師に着任しましてね~。これがまた楽な仕事でして、国王や女王の前でちょっと踊るだけで、もう大爆笑。国王や女王が笑いながら、金貨を投げてくれるんですよ~」
『…………そうか』
「それでですね、どうやら近々魔王を倒す為に異世界から人を呼び出して、戦力を増加させようとしているみたいなんですよね~」
『…………成る程な』
「宮廷道化師は、こうした国家機密を気軽に聞けるので、素晴らしい職業に就けたなと、染々思っている訳ですよ~」
『…………それは良かったな』
エジタスがペラペラと喋るのに対して、漆黒のドラゴンはエジタスの話を適当に聞き流していた。
「しかし、そうは言っても宮廷道化師も中々難儀な仕事でしてね~。例えばこの前なんか…………………………」
『…………』
それからエジタスの話は、永遠と夜中まで続いた。
「さて、それではそろそろ私は帰りますね~」
『そうか…………』
そう言うとエジタスは、スキップをしながら洞窟の出口へと向かった。
『(全く……何だったんだあいつは……質問する訳でも無く、只延々と喋り続ける……まぁ、どうせ我が眠りについた頃に再びやって来るだろう……そうしたら、一瞬で息の根を止めてやる……)』
そう心で思いながら、漆黒のドラゴンは眠りについた振りをして、エジタスが来るのを待った。しかしその日の夜中に、エジタスが現れる事は無かった。
***
「それでですね、最近躍りのバリエーションが減ってきたな~と、感じていたのでいくつか新しい躍りを考案したんですけど、これがまぁ~酷い酷い」
『…………』
あれから数週間、エジタスは何度か洞窟に足を運んで、漆黒のドラゴン相手に延々と喋り続けていた。毎日では無いが、二日に一回のペースで会いに来ていた。
「おっと、もうこんな時間ですか。それではそろそろ帰ります」
『…………』
そう言いながら、エジタスはいつもの様にスキップをしながら、洞窟の出口へと向かった。
『(くそっ!!いったい、いつになったら殺しに来るんだ!!待てども、待てども、全くと言っていい程に殺しに来ない!!)』
漆黒のドラゴンは、苛立ちを感じていた。自身の予想とは反して、夜中エジタスは殺しに来なかった。また、夜中に来るであろうと寝ずに待っていた為、少し寝不足であった。
『(あー!!イライラする!!こんな時は“あいつ”の所にでも行って、気持ちを落ち着かせるか!!)』
すると何を思い立ったのか、漆黒のドラゴンは体を起こして、洞窟の外へと向かった。
『さて……ここからなら、約三十分位かな…………』
外に出た漆黒のドラゴンは、折り畳まれた大きな翼を広げると、翼を羽ばたかせて空高く舞い上がった。
『待ってろよ…………』
空高く舞い上がると、北方面に向かって目にも留まらぬ速さで飛んで行った。
***
天高く聳え立つ山。太陽の光を最も浴びるその頂上には、一頭のドラゴンが住み着いている。暖かく白い瞳、巨大な体には似つかわしくない小さな翼、そして全てを跳ね返す様な白銀の鱗、そんなドラゴンが安らかな表情を浮かべながら、寝息を立てていた。
『…………あれ、珍しいね。君がここに来るだなんて……』
するとドラゴンは、突然目を覚ました。飛んで近づいて来る漆黒のドラゴンの気配に気がついたのだ。
『別に……ちょっと話がしたくなっただけだ…………』
『君が?…………ふっ、あははははははは!!』
『な、何がおかしいんだ!!』
『ごめんごめん。まさか君からそんな言葉が聞けるだなんて、思っていなかったからね……“漆黒のドラゴン”さん?』
『ふん!!相変わらず、嫌味な雌だな!!“白銀のドラゴン”さんよ!?』
そう言うと漆黒のドラゴンは、白銀のドラゴンと呼ばれる雌の側に座った。
『それで……話って?』
『…………実は……』
漆黒のドラゴンは、これまでの経緯を白銀のドラゴンに話した。エジタスの事、延々と話すだけで全く殺しに来ない事、そのせいで寝不足になっている事、漆黒のドラゴンは不満を全て吐き捨てた。
『…………全く!!いったい何なんだ!!あの道化師は!!殺しに来るなら、早く来い!!』
『…………ふふ』
『何だよ…………』
『んー、何か……新鮮だなーって……』
『…………はぁ?』
白銀のドラゴンの言葉に、理解する事が出来ない漆黒のドラゴン。
『だって、いつもだったら殺した種族の事を自慢気に語ったり、カッコつけたりするから、こうした愚痴を聞くのは初めてだから……凄く意外』
『いや、我は別に愚痴なんか…………』
『でも…………私は好きだよ。君のそう言う所』
『!!!きょ、今日は気分が優れない!!これで帰らせて貰う!!』
そう言うと、漆黒のドラゴンは慌てて立ち上がり翼を広げた。
『えぇー、もっとゆっくりしていけばいいのに……もっと君の話、聞きたいな……』
『ま、また今度な…………』
『約束だよ』
『あぁ……約束だ……』
約束を交わすと、漆黒のドラゴンは翼を羽ばたかせて、空高く舞い上がった。そしてそのまま元来た道を引き返すのであった。
『……約束……だからね……』
そう呟く白銀のドラゴンの顔は、とても穏やかな表情を浮かべていた。
「見ぃ~ちゃった~、見ぃ~ちゃった~、く~だらぁない愛を~」
そんな二頭の様子を物陰からじっと覗く、一人の道化師がいた。
『(…………んっ……誰か来たな……)』
するとドラゴンは突然目を覚ました。入口方面から近づいて来る、何者かの足音が聞こえて来たのだ。
『(足音から察するに人数は“一人”…………嘗められたものだな)』
我は“漆黒のドラゴン”、名前は存在しない。その圧倒的な強さから、全種族の頂点に君臨している。そんな全種族の頂点に君臨している我だが、無謀にも挑戦して来る輩は後を絶たない。人間、亜人、魔族、ありとあらゆる種族が我を倒そうと画策して来た。そして今日も、我を倒そうとする者がやって来た。
『さて……今回はどんな無謀者だろうか…………?』
漆黒のドラゴンはゆっくりと体を起こし、やって来る無謀な挑戦者を待ち構える事にした。
「………………」
『(何だ……あの“奇妙な格好”の者は……?)』
現れたのは道化師だった。全身の肌を覆い隠す奇抜な衣装に身を包み、顔にはいやらしく細みがかった目付きと、口角を限界まで伸ばしたにやけた口を持つ仮面を被っていた。
『(別に問題は無い……例えどんな相手だとしても、いつも通り消し炭にするだけだ…………)』
漆黒のドラゴンは、やって来た道化師の元へと歩み寄る。一歩、一歩と足を踏み出す度に大地が揺れる。
『よくぞ来た挑戦者よ。我は漆黒のドラゴン。全種族の頂点に君臨する者だ。貴様、名を何と言う?』
すると道化師は、両手を拡げ顔の横にやり、小刻みに振る。
「ど~も初めまして“道楽の道化師”エジタスと申しま~す」
『…………』
あまりに陽気な自己紹介に、一瞬呆気に取られてしまった漆黒のドラゴン。しかし、直ぐ様気を持ち直す。
『エジタス……か……よかろうエジタス!!貴様の全力で、我を倒して見ろ!!』
「…………えっ?」
漆黒のドラゴンの言葉に、戸惑いの色を見せるエジタス。
『来ないのか?ならば、こちらから行かせて貰う!!』
「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さいよ~!?」
戦おうと足を踏み出した漆黒のドラゴンに対して、エジタスは両手を必死に振って戦おうとするのを止める。
『…………何だ?』
「私は別に、戦いに来た訳ではありませ~ん」
『……それじゃあ、何しに来たのだ…………』
「実は……あなたとお話しがしたく、やって来たので~す」
エジタスは、大きく両手を広げながら公言した。
『話だと……(成る程、こいつも力では無く頭を使った戦いをするタイプか。大方、我の油断を誘って寝ている隙に殺そうとしているのだろう。残念だが、そうした輩には既に何度か出会っている)……いいだろう、話してみろ』
「あっ、その前に座りませんか?いや~、ここに辿り着くのにずっと歩き続けていましてね~。もう足がパンパンなんですよ~」
そう言いながらエジタスは、その場に座り込んで両足を広げると、楽な姿勢を取った。
「実はこの前、宮廷道化師に着任しましてね~。これがまた楽な仕事でして、国王や女王の前でちょっと踊るだけで、もう大爆笑。国王や女王が笑いながら、金貨を投げてくれるんですよ~」
『…………そうか』
「それでですね、どうやら近々魔王を倒す為に異世界から人を呼び出して、戦力を増加させようとしているみたいなんですよね~」
『…………成る程な』
「宮廷道化師は、こうした国家機密を気軽に聞けるので、素晴らしい職業に就けたなと、染々思っている訳ですよ~」
『…………それは良かったな』
エジタスがペラペラと喋るのに対して、漆黒のドラゴンはエジタスの話を適当に聞き流していた。
「しかし、そうは言っても宮廷道化師も中々難儀な仕事でしてね~。例えばこの前なんか…………………………」
『…………』
それからエジタスの話は、永遠と夜中まで続いた。
「さて、それではそろそろ私は帰りますね~」
『そうか…………』
そう言うとエジタスは、スキップをしながら洞窟の出口へと向かった。
『(全く……何だったんだあいつは……質問する訳でも無く、只延々と喋り続ける……まぁ、どうせ我が眠りについた頃に再びやって来るだろう……そうしたら、一瞬で息の根を止めてやる……)』
そう心で思いながら、漆黒のドラゴンは眠りについた振りをして、エジタスが来るのを待った。しかしその日の夜中に、エジタスが現れる事は無かった。
***
「それでですね、最近躍りのバリエーションが減ってきたな~と、感じていたのでいくつか新しい躍りを考案したんですけど、これがまぁ~酷い酷い」
『…………』
あれから数週間、エジタスは何度か洞窟に足を運んで、漆黒のドラゴン相手に延々と喋り続けていた。毎日では無いが、二日に一回のペースで会いに来ていた。
「おっと、もうこんな時間ですか。それではそろそろ帰ります」
『…………』
そう言いながら、エジタスはいつもの様にスキップをしながら、洞窟の出口へと向かった。
『(くそっ!!いったい、いつになったら殺しに来るんだ!!待てども、待てども、全くと言っていい程に殺しに来ない!!)』
漆黒のドラゴンは、苛立ちを感じていた。自身の予想とは反して、夜中エジタスは殺しに来なかった。また、夜中に来るであろうと寝ずに待っていた為、少し寝不足であった。
『(あー!!イライラする!!こんな時は“あいつ”の所にでも行って、気持ちを落ち着かせるか!!)』
すると何を思い立ったのか、漆黒のドラゴンは体を起こして、洞窟の外へと向かった。
『さて……ここからなら、約三十分位かな…………』
外に出た漆黒のドラゴンは、折り畳まれた大きな翼を広げると、翼を羽ばたかせて空高く舞い上がった。
『待ってろよ…………』
空高く舞い上がると、北方面に向かって目にも留まらぬ速さで飛んで行った。
***
天高く聳え立つ山。太陽の光を最も浴びるその頂上には、一頭のドラゴンが住み着いている。暖かく白い瞳、巨大な体には似つかわしくない小さな翼、そして全てを跳ね返す様な白銀の鱗、そんなドラゴンが安らかな表情を浮かべながら、寝息を立てていた。
『…………あれ、珍しいね。君がここに来るだなんて……』
するとドラゴンは、突然目を覚ました。飛んで近づいて来る漆黒のドラゴンの気配に気がついたのだ。
『別に……ちょっと話がしたくなっただけだ…………』
『君が?…………ふっ、あははははははは!!』
『な、何がおかしいんだ!!』
『ごめんごめん。まさか君からそんな言葉が聞けるだなんて、思っていなかったからね……“漆黒のドラゴン”さん?』
『ふん!!相変わらず、嫌味な雌だな!!“白銀のドラゴン”さんよ!?』
そう言うと漆黒のドラゴンは、白銀のドラゴンと呼ばれる雌の側に座った。
『それで……話って?』
『…………実は……』
漆黒のドラゴンは、これまでの経緯を白銀のドラゴンに話した。エジタスの事、延々と話すだけで全く殺しに来ない事、そのせいで寝不足になっている事、漆黒のドラゴンは不満を全て吐き捨てた。
『…………全く!!いったい何なんだ!!あの道化師は!!殺しに来るなら、早く来い!!』
『…………ふふ』
『何だよ…………』
『んー、何か……新鮮だなーって……』
『…………はぁ?』
白銀のドラゴンの言葉に、理解する事が出来ない漆黒のドラゴン。
『だって、いつもだったら殺した種族の事を自慢気に語ったり、カッコつけたりするから、こうした愚痴を聞くのは初めてだから……凄く意外』
『いや、我は別に愚痴なんか…………』
『でも…………私は好きだよ。君のそう言う所』
『!!!きょ、今日は気分が優れない!!これで帰らせて貰う!!』
そう言うと、漆黒のドラゴンは慌てて立ち上がり翼を広げた。
『えぇー、もっとゆっくりしていけばいいのに……もっと君の話、聞きたいな……』
『ま、また今度な…………』
『約束だよ』
『あぁ……約束だ……』
約束を交わすと、漆黒のドラゴンは翼を羽ばたかせて、空高く舞い上がった。そしてそのまま元来た道を引き返すのであった。
『……約束……だからね……』
そう呟く白銀のドラゴンの顔は、とても穏やかな表情を浮かべていた。
「見ぃ~ちゃった~、見ぃ~ちゃった~、く~だらぁない愛を~」
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