笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

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最終章 笑顔の絶えない世界

本気のエジタス(後編)

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 「……これでも……私の事を愛せますか?」



 掴み掛けた勝利から一変、全滅という敗北を味わった九人。エジタスは、側で倒れている真緒とサタニアに、これでも愛せるかどうか問い掛ける。



 「「……大……好きです……」」



 「!!!」



 返答を聞いたエジタスは、倒れている二人の腹部を蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた二人は、一直線に吹き飛ばされて壁に激突した。激突した影響で壁の一部が崩れ落ち、瓦礫による土煙が上がる。



 「はぁ……はぁ……はぁ……」



 エジタスは息を切らしながら、胸に爪を立てて動悸を抑える。



 “……愛してるわ……エジタス……あなたなら………きっと……………”



 エジタスの脳裏に、過去の出来事がフラッシュバックする。



 「……愛は……幻想だ……愛は所詮、脳への伝達物質だ……」



 俯きながら、ぶつぶつと独り言を発するエジタス。



 「……愛で腹は満たされない……愛で虐めは無くならない……愛で戦争は終わらない……愛で世界は救えない!!」



 すると、エジタスは指をパチンと鳴らして、両手にそれぞれ五本ずつの食事用のナイフを転移させた。



 「愛など……何の意味も無い!!」



 そう言いながらエジタスは、持っていた計十本のナイフを、真緒とサタニア目掛けて投げ付けた。真緒とサタニアの周りでは未だに土煙が上がっている。しかし、二人の場所は見えていた。



 「消えてしまえ!!無意味な愛と共に!!」



 「……“クリスタルシールド”!!」



 「!!?」



 投げ付けたナイフが、真緒とサタニアに突き刺さろうとした瞬間、二人の目の前に巨大な結晶型の盾が生成された。



 「いい加減にしなさい!!エジタス!!」



 「……まだ死んでいなかったんですか……アーメイデさん」



 上がっていた土煙が完全に取れると、真緒とサタニアの側には、アーメイデが立っていた。間一髪の所で、アーメイデが助けに来てくれていた。



 「……ア、アーメイデさん……」



 「無理して喋らないで……今、回復させてあげる……“オールライフ”」



 二人の周りをピンクのドーム状が包み込んだ。そして瞬く間に、二人が負っていた傷が塞がり回復した。



 「アーメイデさん、ありがとうございます」



 「助かったよ」



 「礼はいらないよ。それより悪かったね、“他の奴等”を回復させていたら、遅くなってしまったよ」



 「“他の奴等”……まさか!?」



 エジタスが慌てて辺りを見回すと、先程重症を負わせた筈の者達が、完全回復を果たしていた。



 「皆!!……良かった……」



 「ゴルガ……シーラ……アルシア……無事で良かった……」



 仲間の無事に、ホッと一安心する真緒とサタニア。ある者は手を振り、ある者は力こぶを見せて元気なのをアピール。そして何よりも全員、二人に笑顔を見せていた。



 「成る程……私が、マオさんとサタニアさんの二人に視線を向けている間、密かに倒れた人達の回復を行っていたのですね……」



 「怒りで、周りが見えていなかった様ね」



 「…………っ!!」



 図星を突かれたのか、舌打ちをするエジタス。



 「でも、二人には悪い事をしたわね。無断でこんな囮をさせてしまって……」



 「いえ、気にしていませんので大丈夫ですよ。寧ろ皆を助けて下さって、ありがとうございました」



 「ちゃんと僕達の回復もしてくれたからね。全然気にしていないよ」



 「そう……なら……良かっ……た……」



 「「!!?」」



 すると突然アーメイデは、前のめりに倒れ込んでしまった。



 「アーメイデさん!?どうしたんですか!?」



 「……ちょっと……回復魔法を多用し過ぎた様でね……もうMPが残っていないんだよ……」



 「そんな……それってつまり……」



 「もう二度と戦闘に参加する事は、出来ないという訳ですね~」



 停止魔法の影響により、MPを回復する事が出来ない。アーメイデが最も恐れていた事態が起こってしまったのだ。



 「でも……後悔はしていない……だって、あなた達がエジタスを倒してくれるって信じているから……」



 「アーメイデさん……」



 「行きなさい……そして、エジタスを倒しなさい……あなた達なら……必ずやり遂げられる……」



 「……行こうマオ……僕達の手で、エジタスを救い出すんだ!!」



 「……はい!!」



 アーメイデの想いを引き継ぎ、真緒とサタニアの二人は、エジタスに向けて歩き出す。加えて、残りの六人もそれぞれエジタスを取り囲む様に歩き出した。



 「……いいでしょう……それならもう一度、あなた方を全滅に追い込んで見せましょう……」



 「先手必勝!!“ウォーターキャノン”!!」



 「食らえエジタス!!スキル“スコールスピア”!!」



 エジタスを取り囲んだ八人、リーマとシーラの二人が先制攻撃を仕掛ける。目の前からは巨大な水の塊、そして真上からは雨の如く無数の槍が、エジタス目掛けて襲い掛かる。



 「…………」



 しかし、当たる直前に転移を使ってその場から姿を消した。そして瞬く間に、リーマの背後へと姿を現した。



 「リーマ!!ウシロダ!!」



 「!!!“土の鎧”!!」



 ゴルガの呼び掛けによって、寸前の所で気が付いたリーマは、咄嗟に“土の鎧”を唱えた。途端に、リーマの全身を土塊が覆い隠すと鎧の様に硬く変化した。これによって、エジタスの攻撃を防ぐ事が出来た。



 「……っ!!」



 「今だ!!転移は連続して使えない!!今の内に攻撃を叩き込むんだ!!」



 「スキル“ロストブレイク”!!」



 「スキル“ブラックアウト”!!」



 「“三連弓”!!」



 「スキル“インパクト・ベア”!!」



 「スキル“大炎熱地獄”!!」



 「“炎の槍”!!」



 「スキル“ワイバーン”!!」



 「ウォオオオオオ!!!」



 シーラの合図と共に、八人が一斉に攻撃を仕掛ける。一人のエジタス目掛けて八人の攻撃が襲い掛かる。



 「…………」



 けたたましい爆発音が、玉座の間に鳴り響く。周囲に煙が立ち込める。



 「倒した!?」



 「いや、浅い!!」



 「手応えが感じられない!!」



 立ち込めた煙が晴れると、エジタスは先程いた場所から少し後ろへと離れていた。当たる直前に床を強く蹴り飛ばし、後方へと吹き飛ぶ事で本来受けるダメージを軽減したのだ。



 「…………ごふっ!!」



 しかしあくまでも軽減しただけ、エジタスは口から血反吐を吐く程度のダメージを負っていた。



 「よし!!確実に効いてるぞ!!」



 「行けるぞ……このまま押し切るんだ!!」



 「…………“迷彩”」



 するとエジタスの体が徐々に薄くなり始め、その場から消えてしまった。



 「転移……いや、透明になった!!」



 「シーラちゃん!!」



 「分かってる!!」



 エジタスが透明になった瞬間、シーラは目を瞑って感覚神経を研ぎ澄ました。



 「…………そこだ!!魔王様の目の前にいる!!」



 「!!!スキル“ブラックアウト”!!」



 シーラの呼び掛けと同時に、サタニアは渾身のスキルを目の前に放った。



 「…………!!!」



 しかし、エジタスはシーラの呼び掛けを逆手に取って、スキルが放たれる直前に真横へと移動していた。そしてサタニアの腕を掴むと、その姿を現した。



 「がはぁ!!?」



 「魔王ちゃん!!」



 不意を突かれたサタニアは、腕を掴まれながら、エジタスの蹴りをまともに食らってしまった。腕を掴まれている為、吹き飛ぶ事が出来ない。逃げ場の無いダメージが、直接サタニアを傷つける。



 「マオウサマヲ……ハナセ!!」



 するとゴルガが、エジタス目掛けて巨大な拳を降り下ろした。



 「あなた程度のゴーレム……二千年前に沢山いましたよ……」



 「!!!」



 しかし、ゴルガの拳はエジタスには当たらず、床を殴っていた。転移を使ってその場から姿を消したエジタスは、瞬く間にゴルガの懐へと姿を現した。



 「よいしょっと!!」



 「グハァアアアアア!!」



 代わりに、エジタスの拳を食らってしまったゴルガは、数メートル先まで吹き飛んだ。



 「ゴルガ!!くそっ!!転移直後なら攻撃が出来る!!スキル“ワイバーン”!!」



 「スキル“一点集中”……貫け!!」



 再び転移直後のエジタスを狙って、シーラとフォルスは、エジタス目掛けてスキルを放った。シーラの鋭い槍と、フォルスの矢がエジタスに迫る。



 「二人なら……対処は簡単ですね!!」



 「「な、何!!?」」



 するとエジタスは、食事用のナイフを取り出すとフォルスが放った矢を、迫り来るシーラ目掛けて弾き返した。



 「しまっ……ぐっ……がはぁ!!」



 「シーラ!!」



 「次はあなたの番ですよ……」



 「しまった!!」



 シーラの安否を心配するフォルスの背後に、エジタスが転移を使って来ていた。



 「ぐわぁあああ!!!」



 気づくのが遅れてしまったフォルスは、そのままエジタスに蹴り飛ばされた。



 「フォルスちゃん!!………エジタス……俺は本気で怒ったぞ!!」



 その光景に、アルシアは激怒した。口調が男勝りになりながら、エジタスに向かって走り出した。



 「スキル“黒縄地獄”!!」



 その瞬間、エジタスの影が動き出してエジタス自身を拘束した。



 「捕らえたぞ!!」



 「…………」



 しかし、捕らえたのも束の間。エジタスは転移を使って、アルシアの黒縄地獄から脱出した。



 「…………そこだ!!」



 するとアルシアは、背後に転移して来たエジタスを逸早く察知すると、両刀でエジタスの蹴りを防いだ。



 「…………ふん!!」



 「ぐはぁあああああ!!!」



 しかし、攻撃を防いだと同時にもう片方の足で顔面を蹴り飛ばされた。



 「他愛も無いですね~」



 「準備完了!!いつでも大丈夫だよ!!」



 「?」



 アルシアを蹴り飛ばした後、声のする方向に顔を向けると、そこには真緒とサタニアが並んで立っており、その後ろではハナコが両腕を引いていた。



 「ぞれじゃあ……行ぐだよぉ……スキル“インパクト・ベア”!!」



 「「!!!」」



 ハナコのスキルによって、背中から押し出された真緒とサタニアは、その勢いのままエジタス目掛けて飛んで行く。



 「……懐かしいですね……マオさん達と戦った……あの頃を思い出しますよ……」



 「師匠!!覚悟!!」



 「これで終わりだよ!!エジタス!!」



 「確かに……転移は連続で使えない……迷彩を使っても……間に合わない……ですが……」



 するとエジタスは、驚異的な跳躍をして見せた。



 「「!!!」」



 「転移や迷彩などを使わなくても、そんな一直線の攻撃なら、簡単に避けられます…………」



 エジタスの跳躍によって、真緒とサタニアは勢いのまま、その下を通り過ぎてしまった。



 「残念でしたね……決定的なチャンスを逃して……「そうでもありませんよ」……何?」



 「リ、リーマ!!?」



 真緒とサタニアが通り過ぎてしまったその先には、リーマが鼻から大きく息を吸い込んで待っていた。



 「お二人供、耳を塞いで下さい……きゃあああああああああ!!!!」



 「「!!!」」



 音魔法。リーマの叫び声に、慌てて耳を塞いだ真緒とサタニア。すると音魔法による衝撃波が、二人をエジタスのいる空中目掛けて吹き飛ばした。



 「ありがとう!!リーマ!!」



 「行ける!!空中なら逃げ場は無い!!確実に倒せる!!」



 リーマの衝撃波によって、吹き飛ばされた二人は、勢いのままエジタス目掛けて飛んで行く。



 「師匠、今度こそ終わりです!!」



 「もう逃げられないよ!!」



 「……そうですね……逃げられませんね……」



 「「!!!」」



 そう言いながらエジタスは、右手の親指と中指をくっ付けていた。



 「…………ふっ」



 鼻で笑うと、嫌みを込めて指をパチンと鳴らした。そして瞬く間に、その場から姿を消した。



 「時間を掛け過ぎですよ……」



 気がつくと、エジタスは足を組んで玉座に座っていた。強者として余裕な態度を醸し出しながら、空中を飛んで行く真緒とサタニアを眺めていた。



 「そんな……間に合わなかった……皆……ごめん……」



 「まだ……諦めちゃ駄目だよ!!」



 諦めそうになる真緒に対して、サタニアはまだ諦めていなかった。



 「今なら転移直後、更には玉座に座っているから避ける事は不可能。僕がマオをスキルで飛ばす……止めは任せたよ」



 「そ、そんな……私よりもサタニアの方が……「君しかいないんだ!!」……えっ?」



 「……僕はエジタスの攻撃をまともに食らって……上手く動く事が出来ない……もう君しかいないんだ!!このチャンスを逃したら、二度とエジタスを救う事は出来なくなる!!」



 「サタニア…………」



 「弟子である君が……師匠であるエジタスに引導を渡してくれ……」



 「…………分かりました」



 すると真緒は、サタニアに背を向ける。そしてサタニアは、真緒目掛けてスキルを放つ準備をする。



 「行くよ……僕の想い……君に託したよ……」



 「はい!!!」



 「スキル“ブラックアウト”!!!」



 「!!!」



 サタニアの想いが乗った渾身の一撃、真緒を瀕死に追い込む程の一撃、意識が遠退くのを耐えながら、真緒は玉座に座っているエジタス目掛けて飛んで行く。



 「な、何!!?」



 エジタスは呆気に取られた。ハナコの一撃とリーマの一撃、ここまではエジタスも読んでいた。しかしまさか、ここでサタニアの一撃を加えるとは想像もしていなかった。仮に加えたとしても、真緒のHPが持たずに死に絶える。そう考えていた。



 「正気ですか!!?」



 しかし、実際真緒は生き残った。三人からの一撃を受けながらも、ギリギリのところで踏み留まり、エジタスに捨て身の攻撃を仕掛ける。



 「これで……本当に最後です!!師匠!!」



 「こんな……馬鹿な……!!」



 「スキル“ロストブレイク”!!」



 「“私”が負ける!?そんな……止めろ……止めろぉおおおおおおお!!!」



 真緒とサタニア。二人の想いが乗った渾身の一撃が、エジタスの顔面に叩き付けられる。その衝撃でお互いが、後方へと吹き飛ばされる。



 「マオ!!大丈夫か!?」



 「あ……フォルスさん……ありがとう……ございます……」



 吹き飛ばされた真緒を、フォルスが受け止める。フォルスが安否を心配すると、辛うじて生きていた。



 「マオ!!大丈夫!?」



 「マオぢゃん!!」



 「マオさん!!」



 「サタニア……それに……皆も……」



 フォルスに抱き抱えられながら、その周りに仲間達が集まって来る。



 「やったわね……マオ」



 「アーメイデさん……私だけの力じゃありません……皆のお陰です……」



 「……そうだね……皆のお陰だね……」



 「そうだ!!肝心のエジタスはどうなったんだ!?」



 全員が玉座に顔を向ける。玉座は、エジタスが吹き飛ばされた影響でボロボロに崩れていた。すると、その瓦礫の中からエジタスが這い出て来た。



 「おいおい……マジかよ……」



 「あれだけの攻撃を食らって……まだ立てるのか……」



 「…………とんでもない事をしでかしましたね…………皆さん」



 「「!!!」」



 その時、エジタスの明確な変化に、その場にいる全員が驚きの表情を浮かべた。エジタスがいつも付けている仮面に、大きなひびが入っていたのだ。



 「あなた方は……取り返しのつかない事をした……引いてはいけない引き金を引いたんだ…………」



 仮面に入った大きなひびは、次第に広がりそして遂に真っ二つに割れて落ちたのだった。
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