笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

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最終章 笑顔の絶えない世界

告白し続ける

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 「はぁ……はぁ……不味いな……片足を失ってしまった……」



 アルシアは窮地に立たされていた。エジタスの攻撃に、何とか命を繋ぎ止める事が出来たが、その代償として片足を失ってしまった。



 「(“衆合地獄”で回復は出来る……だが、そんな悠長な事をしている暇は無いな……取り敢えず、今は一刻も速くここから離れなければ!!)」



 「何故平和を望まない……」



 片足を失ってしまったアルシアは、これからの行動に思案を巡らせる。そんな中、エジタスは再び腕を巨大化させると、アルシア目掛けてその拳を叩き込んで来た。



 「くそっ!!」



 避けられない。そう悟ったアルシアは自身の両刀を、迫り来る拳に勢い良く突き刺した。



 「がはぁ!!?」



 「どうして不幸になろうとする……」



 しかし、それでも拳の勢いは止まらなかった。痛みを感じていないのか、両刀が深く突き刺さったまま、拳をアルシアに叩き込んだ。拳は、全身に重く負荷を掛ける。骨が軋む。あばらの骨は何本か折れ、頭蓋骨にはひびが入った。



 「あがぁ……ぐぁ……!!」



 「このまま潰れろ……」



 頭蓋骨に入ったひびが、更に深さを増す。このままでは、頭蓋骨は砕かれてしまう。そうなれば、最早回復する事は不可能になってしまう。だからと言って、この負荷を掛けられている中からの脱出は、非常に困難な物である。アルシアは、自身の死を覚悟した。



 「スキル“ロストブレイク”!!」



 「!!?」



 突如、エジタスの体に強烈な一撃が叩き込まれた。強烈な一撃に怯んだエジタスは、力を一瞬だけ緩めた。



 「サタニア!!」



 「分かっているよ!!」



 その一瞬の隙を突いてサタニアが、負荷を掛けている拳から、アルシアを引きずり出し助け出した。



 「アルシア!!大丈夫!?」



 「あ、あら……魔王ちゃん……無事だったのね……良かった……わ……」



 「それはこっちの台詞だよ!!無事で本当に良かった…………」



 サタニアは、アルシアを強く抱き締めて、無事だった事に喜びを噛み締めた。



 「あのぉおおお!!お取り込み中悪いですけどぉおおお!!そろそろこちらを手伝って下さぁあああい!!!」



 サタニアが喜びを噛み締めている中、真緒は一人でエジタスの相手をしていた。叩き込まれるエジタスの拳を、純白の剣で何とか押さえ込んでいた。



 「あっ、ご、ごめん!!今行く!!」



 「魔王ちゃん……」



 真緒の手助けに行こうとするサタニアを、アルシアが呼び止める。アルシアの声に、サタニアは振り返った。



 「エジタスちゃんに……あなたの愛を……全力でぶつけなさい!!」



 「うん!!」



 アルシアからの後押しを貰い、サタニアは真緒の元へと駆け寄る。



 「スキル“ブラックアウト”!!」



 「…………っ!!」



 サタニアのスキルに、エジタスは超人的な跳躍でその場から離れた。それによりスキル自体は外れたが、真緒を助け出す事が出来た。



 「大丈夫?」



 「遅いですよ。これから愛をぶつけると言うのに、私だけでは意味が無いんですから……」



 「ごめんごめん」



 遅れた事を弄りながら、真緒とサタニアはエジタスに向けて武器を構えた。



 「そんなに戦いが好きか……なら、望み通りに戦ってやろう……」



 対してエジタスは、腕だけで無く、全身を巨大化させた。その身長は、ハナコやゴルガを凌いだ。



 「あの世で後悔するがいい……」



 「「!!?」」



 一瞬の出来事だった。その場から離れ、距離を置いていた筈のエジタスが、瞬く間に間合いを詰めて二人の目の前に現れた。そして流れる様に、右手の拳がサタニア目掛けて叩き込まれる。



 「……っ!!」



 サタニアは咄嗟に、持っていたティルスレイブを盾にした。しかし叩き込まれた衝撃により、後方へと吹き飛ばされる。



 「サタニア!!?」



 「人の心配をしている場合か?」



 「!!!」



 吹き飛ばされたサタニアの安否を心配するあまり、目の前に拳が迫っていた事に、声を掛けられるまで気付かなかった。



 「スキル“乱激斬”!!」



 真緒は、迫り来る拳に無数の斬激を放った。無数の斬激が拳の肉を削ぐが、蚊に刺された程度であった。



 「うぉおおおおお!!!」



 「無駄だ。お前の実力では、この拳を破壊する事は…………!?」



 エジタスが叩き込んだ拳は、真緒による無数の斬激で少しばかり、右にずれていた。それにより、拳は真緒には当たらずに床に叩き付けられた。



 「(まさか……今のスキルは、俺の拳を破壊する為では無く、拳の軌道をずらす為だったのか!?)」



 「隙あり!!スキル“ロストブレイク”!!」



 拳が外れた事により、隙が生まれたエジタス。そんなエジタス目掛けて、真緒が渾身の一撃を叩き込んだ。



 「ぐっ!!」



 しかし、エジタスはもう片方の腕で真緒の一撃を防いだ。



 「残念だっ「サタニア!!今だ!!」……何だと!?」



 突然真緒がその場にしゃがみ込んだ。すると、後方から吹き飛ばされたサタニアが駆け寄り、真緒の背中を土台にして空中へと飛び上がった。



 「はぁあああああ!!!」



 飛び上がったサタニアは、ティルスレイブを振り上げて、勢い良くエジタスの頭目掛けて振り下ろした。



 「遅い!!」



 「!!?」



 エジタスは、サタニアに向けて口を開いた。すると舌が、まるで生き物の様に動き出し、弾丸の速さでサタニアの頭を貫いた。



 「そんな……サタニア!!」



 「お前達の力など、所詮この程度……勝ち目など無いんだよ!!」



 その時、頭を貫かれた筈のサタニアが煙の様に消えて無くなった。



 「な、何!!?」



 「“ダーク・イリュージョン”」



 「「!!!」」



 エジタスが貫いたのは、サタニアの魔法によって生成された分身だった。本物は既に、エジタスの背後に回っていたのだ。



 「し、しまった!!」



 「“ブラック・ファンタジア”!!」



 サタニアが魔法を唱えると、エジタスを囲う様に無数の黒い玉が生成された。黒い玉は、まるで踊っているかの様にエジタスを中心に、上下に揺れながら回り始めた。



 「くそっ!!」



 エジタスは、超人的な跳躍でブラック・ファンタジアから逃れようとする。しかし、ブラック・ファンタジアはエジタスを追跡する様に、同じ速度でついて来ていた。



 「残念だったね。ブラック・ファンタジアからは逃れられないよ!!」



 「…………っ!!」



 エジタスを囲んだ無数の黒い玉が、空中で一斉に襲い掛かる。



 「ぐっ……おおおおお!!!」



 「まだ終わりじゃないよ!!ダーク・イリュージョンで作り出した分身は、まだ残っている!!マオ!!」



 「!!……分かりました!!」



 サタニアの言葉を理解した真緒は、再びその場にしゃがみ込んだ。すると、サタニアの分身である二人が、真緒の背中を土台にして飛び上がった。



 「「行けぇえええええ!!!」」



 空中では、未だにブラック・ファンタジアを受けて、身動きの取れないエジタス。そんなエジタスよりも高く飛び上がった分身二人は、持っていた武器を振り上げて勢いのまま、エジタス目掛けて振り下ろした。



 「がはぁ!!!」



 分身二人から、強烈な一撃を叩き込まれたエジタスは、そのまま床へと激突した。床はひび割れ、土煙が舞い上がる。



 「決まった!!」



 「分身はスキルや魔法は扱えないけど、身体能力はそのまま……つまり僕の力を二人分食らった事になる……どうなる…………」



 煙が晴れると、そこにはエジタスが立っていた。しかし、体には分身二人の一撃による大きな穴が空いていた。



 「これでも駄目か……」



 「ですが、かなりのダメージは与える事が出来た筈です」



 「はぁー、二千年間……ずっと“エジタス”が動いていたから……随分と鈍ってしまった様だ……“再生”」



 「「!!!」」



 二人は目を疑った。エジタスの体に空いた筈の穴が、見る見る内に塞がっていく。まるで、巻き戻しの映像を見せられているかの様に、とてもスムーズに塞がってしまった。



 「そ、そんな……あんなに苦労してダメージを与えたのに……」



 「骨肉魔法……あんな一瞬で傷を塞いでしまうだなんて……禁じられた魔法って言われるだけはあるね……」



 「ほぅ、骨肉魔法の事を既に知っていたか……なら分かるだろ?お前達では、俺に勝つのは不可能なんだよ!!」



 「私達は、勝つ事が目的ではありません!!」



 「…………何?」



 「僕達は、エジタスから返事を返して欲しいだけなんだ!!」



 そう、真緒とサタニアは勝つ事が目的では無い。先程の戦闘も、エジタスを負傷させて会話のしやすい状態にしようとしただけだったのだ。



 「返事……?何の返事だ?」



 「そ、それは……その……こ、告白……」



 「…………はぁ?」



 「ほ、ほら……僕達……エジタスの事が大好きって言ったじゃないか……だからその……返事を聞かせて欲しいなって……」



 真緒とサタニアは、頬をほんのり赤く染めて恥ずかしがりながらも、エジタスに告白の返事を聞いた。



 「そうか、あの時の返事か。そう言えば返事がまだだったな。そうだな、色々あったが……俺はお前達の事が……大嫌いだ」



 「「!!!」」



 冷たい言葉。気遣いも暖かみも無い、冷めた言葉。真緒とサタニアの心に深く突き刺さる。



 「この際だからハッキリ言おう。俺はお前達と初めて会った時から、大嫌いだった。まるで自分が、この世で最も不幸な存在だと言わんばかりに泣いて、泣いて、泣きじゃくって……正直、吐き気を覚えたぞ……」



 「「…………」」



 「お前達が、誰を好きになろうが自由だ。だが、俺は決してお前達を好きになる事は無い…………」



 エジタスの言葉に、俯いてしまった真緒とサタニア。心が痛い。針で突き刺された様に、ズキズキと痛む。



 「そうですか……師匠の気持ちは良く分かりました……」



 「最初から分かっていた……エジタスの気持ちが、僕達に向いていない事……だから決めた……もう迷わない!!」



 「(そうだ……それで良い。俺に殺意を向けろ……怒りがお前達を強くする……そして、強くなったお前達を完膚無きまでに叩き潰す。それが、俺の計画を邪魔したお前達の償いとしてやる)」



 激しい戦闘が始まる。そう予感したエジタスは、拳を構えた。



 「「“好き”って言って貰えるまで、何度でも告白する!!」」



 「…………はぁ?」



 予想外の答え。エジタスは、思わず自分の耳を疑ってしまった。



 「好きな人から、嫌いって言われるのは辛いけど……」



 「最後に“好き”って言って貰えるなら、苦じゃありません!!」



 「ふ、ふざけるな!!」



 エジタスは、真緒とサタニアの言葉に激怒した。怒りのあまり、大声を張り上げる。



 「俺は大嫌いと返事をした。それなのに何故、そう言う結論になった!!?」



 「理由なんて単純です……私達は、師匠の事を心から愛しているからです!!」



 「例え何十、何百、何千振られても……諦めない……必ずエジタスの口から“好き”って言って貰うまで、僕達は告白し続ける!!」



 「……どうして……そうなる……」



 頭が痛い。自分の予想とは反した結論に、頭を抱えるエジタス。



 「師匠……私は……」



 「エジタス……僕は……」



 「「あなたの事が大好きです!!」」



 「…………もういい……」



 そう言うと、巨大化していたエジタスの体は、元の大きさへと戻った。



 「お前達の気持ちは、よく分かった……そんなに死に急ぎたいか……それなら、本気で相手をしてやるよ!!」



 「「!!?」」



 すると、エジタスの両腕が変形し始める。その形は、ある兵器にとてもよく似ていた。筒状で中は空洞、それは紛れもない“大砲”であった。



 「剣VS大砲……さぁ、一方的な戦いを始めようじゃないか?」
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