笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

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最終章 笑顔の絶えない世界

希望は潰えた

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 「……あの人が……初代勇者“サイトウコウスケ”……私と同じ……異世界からの転移者……」



 真緒はエジタスの背中、左側から生えている初代勇者“サイトウコウスケ”の姿を見て、静かに呟いた。



 「……あの人が……“サタニア・クラウン・ヘラトス一世”……僕の……お祖父ちゃん……」



 同様にサタニアもエジタスの背中、右側から生えている“サタニア・クラウン・ヘラトス一世”の姿を見て、静かに呟いた。



 「どうして……どうして二人が……」



 アーメイデは酷く混乱していた。供に旅をしたコウスケ、死闘を繰り広げた魔王サタニア。二千年前、エジタスとの戦いにおいて供にその命を落とした筈の二人が、エジタスの背中から生えて来た。



 「これこそが、骨肉魔法の真の力だ。遺骨や死肉のDNAを元に生前の姿、ステータス、魔法、スキルなどを、一から構築する事が出来る」



 「構築…………コウスケ!!コウスケ!!私よ!!分かる!?アーメイデよ!!コウスケ!!コウスケ!!」



 アーメイデが必死に呼び掛けるが、全く反応を示さず、俯いたままのコウスケ。よく見ると、目には光が灯っておらず、まるで遠くを見つめているかの様に虚ろな目をしていた。



 「だが残念ながら、自我や人格などのDNAに属さない情報は、構築する事が出来ない。つまり、生きる屍状態という訳だ…………」



 「そんな……やっと……会えたと思ったのに……」



 アーメイデは、歯を食い縛る。目の前にコウスケがいる。この二千年間、ずっと魔法の研究をしていた。それも全て、コウスケを蘇らせる為、しかし目の前にいる人物は、姿形がそっくりな紛い物。悔しくて悔しくて、胸が張り裂けそうであった。



 「…………そんな屍状態の二人だが、ちょっとしたメリットがあるのさ。こうして、自身の体から生える様に構築を行う事で、その者が生前覚えていたステータス、魔法、スキルを共有する事が出来るんだよ!!」



 「…………」



 すると、今までずっと俯いていたコウスケが顔を上げ、唯一出ている左手で握り拳を作る。すると、左手は黄色く光輝き始めた。



 「そ、そんなまさか……あれは!?」



 「…………“シャイニングブラスト”…………」



 「!!!」



 コウスケは作った拳を、アーメイデに向けて勢い良く突き出した。すると次の瞬間、コウスケの拳からアーメイデ目掛けて、光輝く衝撃波が放たれた。生きる屍だった筈のコウスケによる突然の魔法に、反応が遅れてしまったアーメイデ。今から避けるのは、不可能であった。



 「やぁあああああ!!!」



 「マ、マオ!?」



 すると、放たれた衝撃波はアーメイデに当たる直前、真緒の持つ純白の剣の斬激によって相殺された。



 「アーメイデさん、大丈夫ですか?」



 「え、えぇ……助けてくれて……ありがとう……」



 「アーメイデさん、後ろから見守っていて下さい。いくら相手が、自我も人格も無い生きる屍だとしても、さすがに酷な物があります。後の事は全て、“私達”に任せて下さい!!」



 「!!!」



 そう言った瞬間、アーメイデを庇う様に真緒、サタニア、ハナコ、アルシア、リーマ、ゴルガ、フォルス、シーラの八人が横一列に並んだ。



 「マオの言う通りだよ。MPが回復出来ない現状、無理して戦う必要は無い。ここは僕達に任せて!!」



 「(……そうか……あの時……私に必要だったのは強さでも……勇気でもなかった……)」



 恐れ怯まず、アーメイデを背にして八人は、エジタスに向き合っていた。そんな様子を見て、アーメイデは二千年前の逃げ出してしまった、あの時の出来事を思い出していた。



 「(あの時……私に必要だったのは……相手を思いやる心……この子達は、エジタスを倒そうとは思っていない……救おうとしている……敵意では無く、好意……それが私と、この子達との決定的な違い…………こんな当たり前の事に今まで気づけなかった……)」



 真緒とサタニアが、エジタスに好意を抱いている事は、前々から聞いていた。しかし、ずっと半信半疑だった。エジタスの本性を知っているアーメイデからしたら、その好意も一時的な物なのではないかと疑っていた。しかし、その考えは今を持って変わった。相手がどんな性格だろうと、どんな姿であろうと、優しく受け止める。二人の好意は、紛れも無い本物である。



 「よし、皆さん行きましょう!!」



 「エジタスを止めるんだ!!」



 「「「「「「おお!!」」」」」」



 「(行きなさい……若き世代……私達では成し得なかったその想いを……ぶつけて来なさい!!)」



 エジタス目掛けて走り出す八人。そんな八人を見守りながら、アーメイデは希望を抱くのであった。



 「まずは様子見、私達が先攻するわ。ゴルガちゃん、シーラちゃん、それからハナコちゃん、フォルスちゃん、ついて来て!!」



 「「「「了解!!」」」」



 アルシアの掛け声と共に、四人はアルシアの後について行く。



 「フォルスちゃん以外は、あたしと一緒に一斉攻撃、フォルスちゃんは万が一の時に備えて、後方からの支援を頼むわ!!」



 「任せろ!!」



 「それじゃあ、作戦開始!!」



 その瞬間、フォルスは空中へと舞い上がり、残りの四人はそれぞれ左右に分かれる。



 「…………」



 「(何もして来ない?…………それなら、一気に行かせて貰うわよ!!)」



 余裕の現れなのか、エジタスは腕を組み、目を閉じていた。何も仕掛けて来ないのを確認すると、アルシアは目配せで四人に合図を送る。そして、エジタスの近くまで来たその時、一斉に飛び掛かった。



 「…………スキル“物理無効”」



 「「「「「!!?」」」」」



 何が起こったのか分からなかった。一斉に飛び掛かり攻撃を当てる筈が、突如エジタスを覆った半透明な膜に防がれてしまった。



 「ま、まさか……そんな……あ、あれって…………!!?」



 その様子に、アーメイデは動揺を隠せなかった。半透明な膜、防がれた攻撃、既視感があった。そして何よりも、エジタスの左側から生えているコウスケが、左手の掌を突き出していた事が決定的であった。



 「“物理無効”……魔法だけじゃなく……スキルまで……」



 “その者が生前覚えていたステータス、魔法、スキルを共有する事が出来るんだよ!!”



 「!!!」



 その時、アーメイデはエジタスの言葉を思い出していた。しかし、それはあまりにも信じがたい事実であった。



 「生前覚えていた魔法やスキルを共有出来る……と言う事は……み、皆!!戦っちゃ駄目!!逃げてぇえええええ!!!」



 アーメイデは大声を上げて叫ぶが、無情にも八人には届かなかった。



 「アルシア達は、失敗しちゃったみたい……次は僕達が行くよ。リーマ、一緒について来て!!」



 「分かりました!!」



 そう言うとサタニアは、リーマと供に走り出した。



 「僕が魔法を唱えたら、リーマは続けて魔法を唱えて!!」



 「はい!!」



 「特大の魔法を……頼んだよ!!」



 「分かりました!!任せて下さい!!」



 ある程度、距離を取りながら様子を伺う二人。エジタスは相も変わらず腕を組み、そして目を閉じていた。



 「行くよ!!“ブラックファンタジア”!!」



 サタニアが魔法を唱えると、エジタスを囲う様に無数の黒い玉が生成された。黒い玉は、まるで踊っているかの様にエジタスを中心に、上下に揺れながら回り始めた。



 「“トルネード”!!そして……“スネークフレイム”!!」



 一方リーマは、エジタス目掛けて竜巻を生成して放った。そして、エジタス目掛けて飛んで行く竜巻に炎の蛇を生成して放った。風と炎、二つの属性が混ざり合い巨大な炎の竜巻を生成した。



 「全てを焼き尽くせ!!“フレイムテンペスト”!!」



 「行ける!!これだけ凄い魔法なら、必ず行ける!!」



 “ブラックファンタジア”と“フレイムテンペスト”、二つの強力な魔法がエジタス目掛けて襲い掛かる。すると今度はエジタスの右側、魔王サタニアが動き出し右手の掌を突き出した。



 「…………スキル“魔法無効”」



 「「!!?」」



 「あ……ああ……やっぱり……そんな……こんな……こんな事って……」



 突如、エジタスを覆った半透明な膜。先程と同じ様に、サタニアとリーマが放った魔法は半透明な膜によって、防がれてしまった。



 「い、いったい……何が起こっているんですか……?」



 アルシア達に続いて、サタニア達の攻撃も防がれてしまった。さすがの事態に、真緒も動揺が隠せなかった。



 「マオ!!私の話を聞いて!!」



 「……アーメイデさん?」



 すると、やっと声が届いたのか。アーメイデが真緒に声を掛ける。



 「エジタスは言っていた!!『その者が生前覚えていたステータス、魔法、スキルを共有する事が出来る』って……コウスケとサタニア一世は、それぞれが“物理無効”、“魔法無効”のスキルを持っているのよ!!」



 「そ、そんな………それじゃあ……実質、師匠にダメージを与えられるのは……スキルだけって事ですか!?」



 「残念だけど……そうなるわ……」



 限定された戦い。単純な物理攻撃しか持たないゴルガや、魔法しか扱えないリーマは戦力外になってしまった。



 「……それなら、スキルを叩き込めば良い話です!!幸い、私の持っているスキルは強力な物ばかりです!!」



 「た、確かに……マオのスキルなら……エジタスにダメージを与えられるけど…………」



 「アーメイデさん、心配しないで下さい。信じていれば、必ず願いは叶う……希望は残されています!!」



 「マオ…………」



 真緒はアーメイデに力強く頷くと、純白の剣を握り締め、エジタス目掛けて走り出した。



 「はぁあああああ!!!」



 走り出す真緒に対して未だに腕を組み、目を閉じているエジタス。



 「師匠!!スキル“ロストブレイク”!!」



 真緒は、エジタスの元まで近づきながら跳び上がると、その勢いのままエジタス目掛けてスキルを放った。すると、エジタスはゆっくりと目を開け、真緒に向かって両手の掌を突き出した。



 「スキル“スキル無効”」



 「!!!」



 その瞬間、エジタスの体は半透明な膜に覆われた。そして非情にも、真緒のスキルは半透明な膜に防がれてしまった。



 「どうした?希望は残されているんじゃなかったのか?」



 「あ……ああ……」



 真緒は、恐怖と絶望から腰を抜かしてしまった。下から見上げるエジタスの姿は、より大きく不気味に見えた。そして、エジタスの背中からコウスケと魔王サタニアが、虚ろな目で見つめて来る。



 「どうやら……希望は潰えた様だな……」



 物理、魔法、そしてスキル。全ての攻撃方法が無効にされてしまう。そんな耐え難い現実に、その場にいる全員が言い知れぬ絶望を感じる。希望など、始めから残されていなかったのだ。
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