笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

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最終章 笑顔の絶えない世界

全滅

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 「これが現実だ。例えパワーダウンしているとしても、お前達程度の実力者なら簡単に対応する事が出来る」



 「い、いっだい……何が起ごっだだがぁ……?」



 「シーラがエジタスさんの心臓に槍を突き刺したのを見た……その筈だが、いつの間にか背後を取られていた……」



 「それも、全くの無傷な状態で……」



 あまりに突然の出来事に、一同は酷く混乱していた。



 「シーラ!!シーラ!!大丈夫!?」



 サタニアとゴルガは、顔面を殴り飛ばされたシーラの側へと駆け寄り、必死に呼び掛ける。



 「……あ……うっ……」



 「良かった。意識はまだあるみたい……」



 「デスガ、カナリノダメージヲオッテシマッテイマス……」



 「そうだね。ここは一旦、戦線を離脱して貰って…………!?」



 シーラを、戦いの舞台から下ろそうとするが、その直後シーラはゆっくりと立ち上がった。



 「シーラ!!そんなボロボロの体で、無理に動かない方が良いよ!!」



 「止めないで下さい魔王様……やっと面白くなって来たんですから……」



 「でも……」



 サタニアの呼び止めに応じないシーラ。それでも戦わせまいと食い止め様とする。そんなサタニアの肩を、ゴルガが掴み制止させる。



 「ゴルガ…………」



 「イマノシーラハ、ダレニモトメラレマセン……ソレニイマ、シーラヲハズシテシマッテハ、オオキナイタデトナリマス……」



 「……そう……だね……」



 首を縦に降るしか無かった。ゴルガの言い分は正しい。ここで無理にシーラを戦線から離脱させてしまえば、大幅な戦力ダウンになってしまう。サタニアは、黙ってシーラを戦わせるしか出来なかった。



 「…………話し合いは済んだか?」



 「「「!!?」」」



 シーラを戦線から離脱させず、戦わせようとしたその時、サタニアの背後にエジタスが現れた。



 「(全く見えなかった……速いだけだと分かっているけど……それでも……捉える事も出来ないだなんて!!)」



 慌てて振り返ろうとするも、既にエジタスの右腕は振り上げられており、勢い良く突き出そうとしていた。



 「(だ、駄目だ!!間に合わない!!ここは一発耐えるしか……)」



 「ウォオオオオオ!!!」



 「!!!」



 不意を突かれた。最早、回避は間に合わない。サタニアは甘んじてエジタスの一撃を受け、耐える事を覚悟した。しかしその直後、側にいたゴルガがエジタス目掛けて巨大な右拳を振り下ろした。



 「やれやれ……スキルや魔法が扱えない木偶の坊は、引っ込んでくれるかな?」



 「!!?」



 振り下ろした巨大な右拳は、エジタスに命中した。その筈なのだが、エジタスの体はゴルガの右拳をすり抜けていた。更に、サタニアを殴ろうとした時の構えのまますり抜けていた。



 「コ、コレハ……イッタイ……」



 「おいおい、何処を見ているんだ?俺はこっちだよ」



 「!!?」



 真上から声が聞こえる。ゴルガが空を見上げると、そこにはエジタスが空中を跳んでおり、重力に身を任せながらゴルガ目掛けて踵落としを繰り出した。



 「ガハァ!!!」



 「ゴルガ!!」



 エジタスの踵落としをまともに食らったゴルガは、そのまま流れる様に前のめりになって倒れた。



 「……そうだな、これ位の威力なら、深傷を負わせる事が出来るな」



 「グッ……ウググ……」



 「ゴルガ!!大丈夫!?」



 倒れたゴルガは、ゆっくりと立ち上がった。しかし、踵落としを食らった頭はひびが入っており、尚且つ少し欠けていた。



 「モンダイ……アリマセン……」



 「でも……どうして……確かにゴルガの拳は当たっていた筈……それに、あのすり抜けたエジタスはいったい……」



 「“残像”…………」



 「えっ!?」



 サタニアが、ゴルガの攻撃が外れた事を不思議に思いながら悩んでいると、シーラを含めた真緒達が駆け付けて来た。



 「サタニア、そっちは大丈夫?」



 「うん、取り敢えずはね……それよりも、残像ってどう言う意味?」



 真緒達に自分達の安否を伝えながら、シーラが呟いた一言について問い掛けた。



 「“残像”……視神経に影響を及ぼす現象であり、刺激対象を一定時間注視した後に,目を閉じたり他所に目を転じたときに生じる視覚的効果……」



 「えっど……づまり……?」



 「つまり、刺激対象がその場を離れても、俺達の目にはその場にいる様に見えるって事だ」



 「エジタスさんが、肉眼では捉えきれない速度で動いてしまう為、私達の目が移動した事を理解していない……という事ですか?」



 「うーん……ちょっと違うが……単純に言うとそうなる」



 シーラの専門的説明に、付いて来られなかったハナコに、フォルスとリーマが分かりやすく解説し直した。



 「そうなると……僕達はエジタスの姿を捉えようと凝視したから……」



 「肉眼では捉えきれない速度で移動したエジタスさんを、目が理解出来ず残像を作り出してしまった」



 「それじゃあ私達はずっと、師匠の残像相手に戦っていたという事ですか!?」



 「残念ながら……そうなる……」



 「そんな…………」



 必死に捉えようと、目に意識を集中させた事が、反って不利な状況を作り出していた。



 「そう言う事だ……つまり端からお前達に勝ち目など存在していない」



 「師匠……」



 「諦めて……死を受け入れろ」



 「!!!」



 すると再び、エジタスの姿が消えてしまった。そして次の瞬間、真緒の目の前に姿を現した。



 「マオさん!!危ない!!“炎の槍”!!」



 真緒の目の前に現れたエジタスに、リーマは慌てて炎の槍を生成した。そして炎の槍を強く握り締めながら、エジタス目掛けて突き刺した。



 「…………!!?」



 リーマが、エジタス目掛けて炎の槍を突き刺した。しかし手応えはまるで無く、突き刺した箇所からは一滴も血は流れ無かった。すると、突き刺した筈のエジタスの姿が徐々に歪み始めた。



 「し、しまった!!長く見過ぎた!!」



 「はい、お疲れ様」



 「!!!」



 残像。リーマが突き刺したエジタスは、只の残像であった。本物のエジタスは既にリーマの背後に立っており、残像だと気が付いたリーマの肩に優しく手を乗せた。



 「くっ!!」



 「そして、さようなら」



 「げぼっ!!!」



 「「「リーマ!!!」」」



 慌てて振り返って、握り締めている炎の槍を突き刺そうとするが、振り返って横向きになった瞬間、リーマの腹部目掛けてエジタスの重たい蹴りが叩き込まれた。



 「一人目……撃破……次は誰だ?」



 「ふざけやがって!!」



 するとフォルスは、翼を大きく羽ばたかせ空へと舞い上がった。そして直ぐ様地上にいるエジタス目掛けて弓を構えた。



 「いくら速いと言っても、地上から空中までの距離なら捉えられる筈だ!!」



 「なら……試して見るか?」



 「あぁ、だが試すのは俺だけじゃない……シーラ!!」



 「この時を待っていたぜ!!」



 「!!?」



 フォルスが呼び掛けた途端、既に準備を整えていたかの様に、地上にいるシーラがエジタス目掛けて攻撃を仕掛けて来た。



 「貫け……“ブースト”!!」



 「スキル“ヤマタノオロチ”!!」



 肉眼では捉えきれない速さで動くエジタスに対して、空中にいるフォルスは同じく肉眼では捉えきれない速さの矢を放ち、地上にいるシーラは下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる作戦で、出来る限り攻撃回数の多いスキルを選んで放った。



 「空中と地上、両方からの同時攻撃!!」



 「さすがのお前でも、両方避けるのは不可能だ!!」



 「……そうだな、それじゃあ避けない」



 「「!!?」」



 するとエジタスは、肉眼では捉えきれない速度で目の前にいるシーラの腕を掴んで、スキルを中断させる。そして空中から迫り来る矢に対して、掴んだシーラの腕を引っ張り盾にして防いだ。



 「がっ……ぁあ!!?」



 「シ、シーラ!!!」



 「はい、二人目撃破……そして三人目も撃破」



 「し、しまっ…………!!」



 フォルスの放った矢が、シーラの胸に突き刺さった。それによって動揺したフォルスの隙を突いて、背後に回ったエジタスがフォルスを地上に叩き落とした。



 「ぐはぁ!!!」



 「フォルスざん!!!」



 「他人の心配をしている場合か?」



 「!!!」



 地上に叩き落とされたフォルス。そんなフォルスの安否を心配していると、その背後にエジタスが現れた。



 「うわぁあああああ!!!スキル“インパクト・ベア”!!」



 突然現れたエジタスに、動揺が隠せないハナコ。残像に騙されない様に、目を瞑って振り返り渾身のスキルを放った。



 「グガッ!!!」



 「……えっ!?……あっ!!ず、ずまねぇだぁ!!」



 目を瞑って放ったスキルはエジタスでは無く、後ろで立っていたゴルガに命中してしまった。エジタスの声に翻弄されて、大切な仲間を傷つけてしまった。



 「何度も言うが……他人の心配をしている場合か?」



 「!!!」



 自身のスキルのせいで、ゴルガを吹き飛ばしてしまったハナコ。そんなゴルガの安否を心配していると、突如目の前にエジタスが現れた。



 「ぐぶっ!!!」



 「はい、これで四人目……五人目……撃破……残りはお前達二人だけだ……」



 「「…………」」



 突如目の前に現れたエジタスは、ハナコの顎を勢い良く蹴り飛ばした。そしてゆっくりと、残った真緒とサタニアの方を振り向いた。



 「さて……先に殺されたいのはどちらかな?」



 「「…………」」



 二人は顔を見合わせ、小さく頷くとエジタスに背を向けて一斉に走り出した。



 「おや、大切な仲間を置いて逃げ出すのか?……確かに生き残る上で最適な判断だ……だがな……」



 するとエジタスは、肉眼では捉えきれない速度で逃げる二人の後を追い掛け始める。



 「俺が相手の場合、それは愚行だ!!」



 「「…………今だ!!」」



 「!!?」



 エジタスが追い掛け始めた途端、背を向けて逃げ出した筈の二人が、勢い良く振り返る。それと同時にサタニアが真緒を持ち上げ、振り返る瞬間に遠心力を効かせながら、真緒をエジタス目掛けて投げ飛ばした。



 「肉眼では捉えきれない速度……それ故に一度走り出したら止まれない!!」



 「そう考えた私達は、進路変更出来ないタイミングで攻撃を仕掛ける事にしました!!師匠!!覚悟!!」



 「…………」



 走り出したエジタスと、投げ飛ばされた真緒。両者、一直線に激しくぶつかり合う。



 「…………がはぁ!!?」



 「…………えっ?」



 「確かに、走り出してからの進路変更は出来ないが……走りながら姿勢は変えられるぞ」



 激しくぶつかり合う。その筈だった。しかしエジタスは、上半身を後ろに伸ばして真緒が真上を通るのを待った。そして真上を通った瞬間、その腹部に重たい蹴りを繰り出した。腹部を強く蹴られた真緒は、その場で踞る。



 「マオ!!マオ!!」



 「うっ……うぅ……」



 蹴られた腹部を押さえながら、痛がる真緒。そんな真緒の側にサタニアが駆け寄り、必死に呼び掛ける。



 「六人目撃破……そして……最後七人目も……これで終わりだ」



 「!!!」



 殺られる。仲間達は全滅。唯一の頼みだった作戦も、物の見事に失敗してしまった。サタニアは、やりきれない想いでいっぱいであった。



 「じゃあな…………」



 「…………」



 しかし最早、打つ手は残されていなかった。サタニアは大人しく死を受け入れるしか無かった。ゆっくりと目を瞑り、殺されるのを静かに待った。



 「“ウェイブ”!!」



 「「!!?」」



 その時、エジタス目掛けて巨大な波が襲い掛かって来た。



 「な、何だ!!?ぐわぁ!!」



 巨大な波はエジタスだけに襲い掛かり、真緒とサタニアの二人は襲われなかった。一方、突然巨大な波に襲われたエジタスは勢い良く流されてしまった。



 「こ、これはいったい……」



 「危なかったですね」



 「……あ、あなたは!!!」



 差し伸べられる手。そこにはスゥー、ジェド、鳥人族の族長、そして人魚の女王が立っていた。
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