笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第一章 新たなる旅立ち

あの日から一年

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 カルド王国城下町。大国と名高いカルド王国を支える国民が多く住んでいるこの町では、他国から多くの行商人が利用している事から、最大規模の市場として常に人で賑わっている。



 「さぁ、安いよ安いよ!! 今日一番の大安売りだ!!」



 野菜や果物を中心に取り扱っている青果店。その店先で店主と思われる中年の男性が、いつもの決め台詞を発する。



 「いやいや、こっちの魚の方が大安売りしてるよ!!」



 青果店の向かい側には、魚介類や甲殻類を中心に取り扱っている鮮魚店が建てられていた。そんな鮮魚店の店先では、青果店の男性と同年齢の女性が、いつもの決まり文句を発する。



 「……何だと?」



 「……事実を言ったまでだよ」



 一触即発の雰囲気。その雰囲気を察して、間の道を誰一人通ろうとはしない。そんな互いに睨み合う険悪な二人の間を、一人の人影が勢い良く通り過ぎる。



 「「!!?」」



 「おじさん、おばさん、おはようございます!!」



 白の半袖Tシャツに、青のジーパン。毛先が少しだけウェーブしたミディアム。何よりも笑顔が良く似合うその“女性”は……。



 「おぉ、今日元気だな“マオ”ちゃん」



 「あぁ、あの子の笑顔を見ると、喧嘩しているのが馬鹿馬鹿しく思えて来るよ」



 「その通りだな。さぁ、今日も一日頑張るとするか!!」



 先程まで睨み合い、険悪な雰囲気を出していた二人だが、まるで嘘だったかの様に何事も無く、営業を再開するのであった。







***







 「(皆さん、お久しぶりです。佐藤真緒です。高校生だった私はある日、この異世界に転移させられました。初めの内は右も左も分からず、途方に暮れていた私でしたが、この異世界での様々な出会い、そして別れを経験して、今ではこの異世界に転移させられて良かったと思っています)」



 「(…………“あの”戦いから一年、現在私達は人間と魔族の間で友好関係条約の仲介役という地位の下、カルド王国と魔王城を行ったり来たりを繰り返す忙しい毎日を過ごしています。ハナちゃん、リーマ、フォルスさんの三人とはしばらく会っていません。皆、私と同じ仲介役として行ったり来たりの繰り返しで、中々会う機会が出来ません。こんな時、師匠の転移魔法があれば、かなりの時間短縮が出来て皆と会えるのに……って、思わず考えてしまいます)」



 物思いに耽ながらも、走り続ける真緒。すると目線の先に、城下町の外れにあるこじんまりとした建物が見えて来た。その建物の扉は両開きになっており、押すだけで中に入れる昔の西部劇に出てきそうな扉だった。そんな両開きの扉を、真緒は強く押し込んで中へと駆け込む。



 「ジョージおじさん、マクラノおばさん、ただいま!!」



 「おやおや、マオちゃん。今日は随分と早かったね」



 「お仕事の方は上手く行ったのかい?」



 右側に細長いカウンター。左側には丸形のテーブルと背もたれの無い丸形の椅子が幾つか均等に並べられていた。その構造はまさに、西部劇に出て来るバーその物だった。そんなバーのカウンターでは、巻き髭が特徴的で細身なタキシード姿の中年男性と癖の強いパーマをした恰幅の良いエプロン姿の中年女性が、駆け込んで来た真緒を出迎えた。



 「うん、今日は魔王城周辺にある集落に、人間と魔族の友好関係条約が正式に認められた事を説明しに行ったんだけど、皆すぐに納得してくれたんだ」



 「そうかい、それは良かった。きっとその集落の人達は、マオちゃんが良い人だと分かったから、すぐに納得してくれたんだね」



 「い、いや……そんな事は無いと思いますよ」



 仕事が上手く行ったのは真緒が優しい子だからとジョージは言うが、真緒は顔を赤く染めながらそれを否定する。



 「謙遜しなくてもいいのよ。マオちゃんが心の優しい子だってのは、一目見たら分かるんだから」



 「マクラノおばさん……ありがとうございます」



 マクラノおばさんの優しい言葉に、真緒は照れながらもお礼を述べた。



 「(ジョージおじさんとマクラノおばさん。二人はバーを経営しており、私がこの異世界で生活するに当たって、店の手伝いをする代わりに衣食住を提供してくれた優しいご夫婦。二人には本当に感謝してもしきれない)」



 「さぁさぁ、今日はもう疲れただろう。“部屋”に戻ってゆっくりすると良い」



 「そうね。せっかく早く帰って来られたんだから、“部屋”に戻ってゆっくりすると良いわ」



 そう言いながらジョージとマクラノは、真緒を部屋に向かう様に促す。



 「えっ、でも……店の手伝いとか……」



 「そんなのはいつでも良いから、早く“部屋”に戻って休みなさい」



 「そうよ。休める時に休まないと、体を壊しちゃうわよ」



 「そ、そうですか……それなら、お言葉に甘えて……」



 そう言うと真緒は、しぶしぶ自身の部屋へと向かい始める。その途中、二人の方に振り返るが、二人は何処か含みのある笑みを浮かべていた。



 「(何か……今日の二人は様子が変だな……)」



 真緒は首を傾げながら、バーを後にする。真緒の姿が見えなくなったのを確認したジョージとマクラノは、目線をそのままに言葉を交わし始めた。



 「…………上手く行ったな……」



 「……えぇ、あの子きっと驚くわ……」







***







 「(何だか、今日のおじさんとおばさん、様子が変だったな……)」



 自身の部屋へと向かう途中、真緒はいつもと様子の違うジョージとマクラノについて考え込んでいた。



 「(何かを隠しているって言うか……まぁ、私の思い過ごしなら良いんだけど……)」



 特に重く捉えず、真緒は目的の部屋の前まで辿り着いた。



 「(そうだ、日頃からおじさんとおばさんにはお世話になっているから、感謝の気持ちを込めて何かプレゼントしたいな……)」



 真緒は贈るプレゼントの事を考えながら、自室のドアノブを回して扉を開ける。



 「……えっ……?」



 真緒は目を疑った。仲介役を勤め始めて一年、それまでずっと使って来た自室。ワンルームの広さにシングルベッド、窓際に置かれた小さな机と椅子、元の世界で着ていた学生服や、その他衣服を保管しておく為のクローゼット。いつもと変わらない筈の自室。しかし、真緒は目の前に広がる光景に、思わず自身の目を疑った。



 「あっ、マオぢゃんだ!!」



 「マオさん、お久し振りです」



 「よぉ、悪いが勝手に上がらせて貰ったぜ。おじさん、おばさんの了解は得ているからな」



 そこには、仲介役として様々な場所を行ったり来たりの繰り返しで、しばらくの間会えていなかった“ハナコ”“リーマ”“フォルス”の三人がいた。



 「…………」



 真緒はあまりの驚きに開いた口も塞がらず、思考が完全に停止していた。



 「ほらほら、何ボーッとしているんだ? 久し振りの再開なんだ、積もる話もあるだろう。早く座ったらどうだ?」



 「そうですよ。この部屋の主はマオさんなんですから、遠慮せずに座って下さい」



 「マオぢゃん、オラの隣に座っでぐれだぁ」



 「えっ……あっ、う、うん……」



 終始動揺を隠せない真緒は、立ち上がったハナコに引っ張られながら、無理矢理座らされる形になった。



 「えっと……ちょっとまだ状況が飲み込めませんけど……と、取り敢えず皆さん、お久し振りです……」



 「久し振りだぁ!!」



 「はい、お久し振りです」



 「しばらく会っていなかったが、皆元気そうで何よりだ」



 急な出来事に、状況が飲み込めない真緒だったが、仲間達との久し振りの再開に動揺よりも幸せが勝る。



 「そう言えば皆、今はどの種族の仲介役として活動をしているんですか?」



 「オラは、オラど同じ種族である熊人族ど人間が仲良ぐ出来る様に頑張っでるだよぉ…………でも、オラ達の一族は今まで奴隷売買の為、人間から襲われでいだだぁ。だがら皆、中々仲良ぐじでぐれないんだぁ…………」



 ハナコは、同じ種族である熊人族と人間の仲を取り持つ為の仲介役として、活動をしている。しかし、人間による種族差別が深く根付いており、ハナコの健闘は空しく人間と仲良くしようと思う熊人族は非常に少ない。



 「私は、古き魔法使いのエルフ族の方々を中心に活動を行っています……ですが、エルフ族は聡明で多くの人達が、私達人間を軽視しています……まだ若いエルフなら兎も角、長生きしている長命のエルフの方々は、人間と仲良くしようとはしません……」



 魔法使いであるリーマは、同じく古くから魔法に精通しているエルフ族と人間の仲を取り持つ為の仲介役として、活動をしている。しかし頭が良すぎるが故、エルフ族に比べて魔法知識に乏しい人間を軽視する傾向がある為、対等な関係を築く事に苦戦を強いられていた。



 「……二人供、苦労しているんだね……フォルスさんはどうですか? 確か、鳥人族と人間の仲介役でしたよね?」



 「あぁ、俺の里の皆は快く受け入れてくれたよ。元々、俺達の里は人間に対する嫌悪が少なかったからな……だが、問題は他の里の奴らだ。鳥人族は誇りの高い一族だからな、飛べない人間と素直に対等な関係を築くのは難しい……」



 “空の支配者”の異名を持つ鳥人族。真緒達の旅によって、フォルスが住んでいた鳥人族の里の人々は、人間に対する考えが変わったが、他の里に住んでいる鳥人族は、人間に対する考え方が未だに硬い。その為、フォルスによる仲介も難航していた。



 「そうなんですか…………」



 「「「…………」」」



 気まずい雰囲気。再会を喜ぶ反面、活動が上手く行っていない事が、一同を沈黙させてしまった。



 「…………あー、そう言うマオはどうなんだ? 魔族と人間の仲介役は上手く行ってるのか?」



 「えっ、あっ、そうですね。今日は魔王城周辺にある集落に、魔族と人間の友好関係が正式に決まった事を説明しに行ったんですけど、無事に納得してくれました」



 「えっ、凄いじゃないですか!! 魔族は亜人よりも攻撃的な性格なのに、それを無事に済ませるだなんて!!」



 「マオぢゃん、流石だぁ!!」



 「いやぁ……そんな事無いですよ……」



 「謙遜する必要は無い。お前はお前なりの努力をしたんだ。それが実を結んだ、誇っていいんだぞ」



 謙遜する真緒に、三人が激励の言葉を贈る。そんな暖かな言葉に、真緒は恥ずかしさから右手で頭を掻く。



 「ありがとうございます……あっ、それで今日はどういった件で会いに来てくれたんですか?」



 今までの話は、あくまで進捗状況の他愛無い世間話。本題となる話はこれからだと言う事を真緒は分かっている。



 「そりゃあ、勿論お前に会いたいと思ったから会いに来たんだ……って言えたら良かったんだがな……」



 フォルスを含め、ハナコとリーマも先程の笑みとは対照的に、険しい表情を浮かべていた。



 「……実はな、“リリヤ”女王が俺達全員に緊急召集を掛けたんだ」



 「リリヤ女王が?」



 カルド王国新女王リリヤ。元カルド王国第二王女という立場だった彼女は、カルド王の暗殺に加え、第一王女シーリャの行方不明が相まって、僅か14歳という若さでカルド王国の新女王に就任した。そんなリリヤ女王が真緒達に、緊急召集を掛けたのだ。



 「はい……詳しい話は会ってから話す事になっていますが……マオさん」



 「ん?」



 「どうやら……“エジタス”さんに関する情報らしいんですよ……」



 「!!?」



 リーマの言葉に、真緒は驚きの表情を隠せなかった。驚きのあまり、時が止まった様にすら感じられた。



 「師匠に関する……情報……」



 俯く真緒。その脳裏には、これまでの出来事が鮮明に思い出される。







 “ど~も初めまして“道楽の道化師”エジタスと申しま~す”



 “笑いたい時に笑えばいいのです”



 “落ち込んで見るよりも笑って見る方がその景色はきっと、良い物になっている筈ですよ”



 “ど~も初めまして!! 魔王軍四天王が一人、“道楽の道化師”エジタスと申しま~す!!!”



 “私と皆さんの本気の殺し合いですよ~”



 “マオさん……あなたとの旅は……中々に楽しかったですよ……”



 “マオさん!! サタニアさん!! いや~、実に素晴らしい戦いでしたよ~!!”



 “……しばらく……ゆっくりと休んでいて下さい…………そう……ゆっくりとね…………”



 “どうしましたか皆さん? 皆さんがずっと望んでいた素顔ですよ?”



 “どうですか? これが私の……いや、“俺”の素顔だ……”



 “そこまで……そこまで俺の事を……その真剣な気持ちに答えなければ、男として廃ってしまうな……今こそ答えよう……俺の……俺の本当の気持ち……俺は……俺はお前達の事が……”



 “この世で一番“大嫌い”だ”



 “…………あ~あ、つまんねぇ人生だったなぁ…………”







 「…………行きましょう」



 「「「えっ?」」」



 俯いていた真緒は、勢い良く顔を上げて三人に向けて想いを述べる。



 「私達は師匠の事を何も知りませんでした……だからこそ知りたい……少しでも師匠の事を知りたい!!」



 「マオぢゃん……ぞうだなぁ!!」



 「行きましょう!! マオさん!!」



 「パーティー再結成だな!!」



 再び真緒達は集まった。この再会が偶然なのか、はたまた必然なのか。その答えを求める事無く、真緒達はリリヤ女王が待つカルド城へと向かうのであった。
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