笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第一章 新たなる旅立ち

重大な内容

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 コボルト。ハナコやフォルスと同じ亜人の一種。全身が毛で覆われており、犬の顔、人間の体を持っている。基本的な性格としては、臆病で残酷という亜人よりも魔族側に近い種族。しかし低級な魔族よりも知能が高く、鍛冶を駆使して自身の武器や鎧を作成する。また犬の様に嗅覚も鋭く、本来の犬と同じ人間の1000倍~1億倍とされる。そんなコボルトが真緒達の目の前におり、ヘッラアーデ13支部の司教をしている。



 「ははは、驚いたか? ここに来るまで人間にしか会っていないから、司教も人間だと思ったか?」



 「そ、そうですね……正直……驚きました……」



 「まぁ、驚くのも無理は無い。基本コボルトは好戦的で、ましてやこんな宗教団体で司教なんて堅苦しい事は、絶対にしないだろうからな」



 コボルトは好戦的である。例え、相手が幼い子供や非力な女性でも関係無い。武器を取り、襲い掛かる。命乞いや取り引きの意味は無い。何故なら、戦い自体を楽しみにしているコボルト達にとって、戦うのを止めて見逃すというのは、最も嫌う事なのだから。しかし目の前のコボルトである“ジンクス”は、とても穏やかな表情をしていた。とても好戦的には思えない。



 「俺は元々、一族のはみ出し者だった。誰かが傷付いたり、死んだりするのが嫌いだった。永遠と争い続ける一族に愛想が尽きた俺は、一族を抜けて旅に出る事にした。その後、何だかんだあって、ヘッラアーデ13支部の司教をやらせて頂いているのさ」



 「えっ? な、何だかんだって何ですか?」



 「そりゃあ……まぁ……色々あったのさ……旅は楽しい事ばかりじゃ無いからな……」



 そう言うとジンクス司教は遠くを見つめる様に、感傷に浸っていた。



 「あの……何があったのか、もう少し詳しく具体的に答えて貰ってもよろしいでしょうか?」



 ヘッラアーデを調査する真緒達にとって、司教であるジンクスの話は重要だった。上手く行けば、ヘッラアーデに関する情報を手に入れられると思った。その上で、真緒達は問い掛ける。



 「…………悪いが、あまり過去は振り返りたく無いんだ……」



 しかし、ジンクス司教は拒絶した。自身の過去に触れられるのを恐れ、冷たく突き放した。



 「それに今日は、教団全員に大事な話があるんだ。三時になったら、教会内の中央に集まってくれ。それまで準備が必要だ……ヴォイス、後は任せたぞ?」



 「はい!! お任せ下さい!! このヴォイス、ご期待に答えられる様に頑張らせて頂きます!!」



 ジンクス司教に頼まれたヴォイス団長は、真緒達を部屋から押し出し始めた。



 「えっ、嘘!? まだ自己紹介しか出来ていないんですが!?」



 「自己紹介が出来たのなら、もう充分だろう。本来なら、自己紹介すらまともに聞き入ってくれない。君達はとても幸運なんだ……さぁさぁ、早く出て行こう。あまり長居していたら、ジンクス司教様に失礼だ」



 「…………わ、分かりました……」



 グイグイと手で押して、真緒達を部屋から無理矢理追い出す。そんなヴォイス団長の真剣な眼差しに、マオは素直に従う事にした。







***





 「取り敢えず、三時までかなり時間がある。それまで適当に時間を潰しておいてくれ。私は一度、レッマイルに戻って君達がいたという証拠の書類を処分しておく」



 そう言うとヴォイス団長は、真緒達に別れを告げて、レッマイルへと戻ろうとする。



 「ヴォイス団長、一つお聞きしても良いですか?」



 「ん? 何だ?」



 しかし、そんなヴォイス団長に真緒が声を掛けて呼び止める。



 「このヘッラアーデ13支部の司教は、コボルトでしたが……もしかして、他の支部の司教も皆、人間では無いんですか?」



 ヘッラアーデ13支部の司教が人間では無く、コボルトだった時点でずっと気になっていた。もし仮に、他の支部の司教全員が人間では無い場合、ヘッラアーデの目的を探る上で、話し合いは困難を極めるであろう。



 「うーん……私はあくまで13支部の人間だから、詳しい事は分からないが……知っている限りでは、ちゃんと人間の司教様もいらっしゃる筈だ」



 「そうですか……すみません、どうしても気になってしまって……」



 「いや、確かに初めて司教様に会ったら、そう思うのも無理は無い。だが、司教様はこの中で誰よりも“あの御方”を崇拝している」



 「そうなんですか……(また“師匠”の話……師匠が与えた影響は、種族の垣根を越えているんですね……でも、私の方が師匠の事を愛しています……これだけは誰にも譲らない……)」



 ジンクス司教の崇拝と真緒の愛。お互い、エジタスに対する想いは異なっている。その為、真緒の闘争心は全く無意味な物である。



 「聞きたい事はそれだけか?」



 「はい、ありがとうございました」



 「それじゃあ、三時になったらまた会おう」



 そうしてヴォイス団長は、その場を離れて行った。



 「……何どがヘッラアーデまで潜入ずる事が出来だだぁ」



 「ですが、本番はここからですよ」



 「そうだね。ヘッラアーデの真の目的を探らないと……」



 「だが、俺達はまだこのヘッラアーデに入会したばかりだ。初日に目立った動きをするのは危険過ぎる……まずは、周囲に溶け込む様にしよう……」



 「でもそれって……」



 周囲に溶け込む。それはつまり、ヘッラアーデの活動を供に行う事を意味している。そうなれば国家転覆の片棒を背負う事になってしまう。



 「オラ、犯罪者には成りだぐ無いだぁ」



 「それは俺も同じだ……だけど、そんな尻込みしていたら、いつまで経っても情報は得られない」



 「フォルスさんの言う通りだよ。綺麗事だけじゃ、欲しい物は手に入らない。時には手を汚さないと……」



 「「「…………」」」



 「……皆、どうしたの?」



 真緒の言葉を聞いた三人は、驚いた表情を浮かべながら真緒の事を見つめていた。



 「いえ……まさかマオさんから、そんな言葉を聞くだなんて……ちょっと驚きました」



 「マオぢゃん……変わっだだなぁ」



 「もしかしたら、エジタスさんの影響を受けたからかもしれないな」



 「…………そうだね。そうかもしれない。以前の私だったら、自分の意思を貫いて、頑なに拒んでいたかもしれない。本当はその方が良いんだろうけど……私は師匠の事をもっと知りたい……その為だったら、私は何だってするよ」



 「……そうかい。まぁ、やる気になってくれるのは嬉しいぜ。それじゃあ取り敢えず、約束の三時まで時間を潰すか」



 なるべく単独行動は取らず、四人で行動する真緒達は、約束の三時までヘッラアーデの教会を見て回ったり、世間話で時間を潰すのであった。







***







 「全員集合!!」



 真緒達が他愛も無い世間話で、適当に時間を潰していると、いつの間にか戻って来ていたヴォイス団長が、教会内にいるヘッラアーデの教団員達に集合を掛ける。



 「「「「「「…………」」」」」」



 すると、周りでずっと独り言など呟いていた教団員達が一斉に黙り、統率された動きでヴォイス団長の前に整列し始める。真緒達も慌てて、その統率された動きに付いて行き、同じ様にヴォイス団長の前に整列した。



 「これから、ジンクス司教様が大切なお話をされる。皆、心して聞く様に!! 司教様、よろしくお願いします」



 そう言うとヴォイス団長の陰から、ジンクス司教が姿を現した。



 「おぉ!! ジンクス司教様だ!!」



 「司教様!! どうか私達をお導き下さい!!」



 「司教様!!」



 「司教様!!」



 「「「「「「司教様!!」」」」」」



 「(これが心の安心を求める人達の成れの果てか……)」



 人間は安心を求める。将来の不安、人間関係の不安、子孫作りの不安、数えれば切りが無い。そんな不安を少しでも和らげたいと、人々は安心を求めるのだ。



 「こんにちは」



 「「「「「「こんにちは!!」」」」」」



 「今日は皆に、重大な発表がある……実は……このヘッラアーデ13支部に“大司教”様が訪問される事となった!!」



 「「「「「「…………」」」」」」



 静寂。まるで時が止まったかの様に、教団全員の表情が固まっていた。しかし次の瞬間。



 「「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」」



 「「「「!!?」」」」



 轟音。床が揺れる程の大音量が、教会中に響き渡る。そんな感情の起伏が激しい教団員達に、ジンクス司教が片手をあげて静かにさせる。



 「訪問は三日後、それまでにこのヘッラアーデ13支部を隅から隅まで、綺麗にする……分かったか!!?」



 「「「「「「はい!!!」」」」」」



 「それじゃあ各員、開始しろ!!」



 ジンクス司教の号令を切っ掛けに、教団員達が一斉に動き始めた。ある者は雑巾を、ある者は箒を取り出して、各々掃除を始めた。



 「ヴォイス……俺はこれから自分の部屋を掃除する。掃除が終わるまで、誰も部屋には入れるな。分かったか?」



 「はい!! 了解であります!!」



 話を終えたジンクス司教は、そのまま自身の部屋へと足早に戻って行った。そんな一連の出来事に、真緒達の思考は追い付いていなかった。まるで嵐が通り過ぎた様に、呆気に取られていた。



 「いやー、まさかあの“大司教”様がこのヘッラアーデ13支部に訪問して来て下さるとは、これで死んでも後悔は無い……」



 真緒達が呆気に取られていると、ヴォイス団長が側へと寄って来た。



 「あ、あのヴォイス団長……」



 「ん、何だ?」



 固まった表情をしながら、真緒はゆっくりとヴォイス団長の方を振り向き、思った事を口にした。



 「……“大司教”様って……誰ですか?」



 「…………はぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」



 その日、ヴォイス団長は教団員達の大声に負けない位の奇声を発した。
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