笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第二章 冒険編 不治の村

入り方

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 「着いたぜ……ここが“不治の村”だ」



 ショウ達の案内の下、真緒達は“不治の村”前まで辿り着いた。



 「ここが……“不治の村”……」



 「凄く霧が濃いですね。先が全く見えません」



 村全体が深い霧に覆われており、目を凝らしても全く先が見えない。辛うじて入り口付近の柵だけが見える。しかしその柵も疫病の影響か、半分黒く変色していた。



 「おっと、それ以上近付かない方が良いぜ。空気感染だけじゃ無く、ほんの少しでも肌に触れたら、瞬く間に感染しちまうからな」



 「き、気を付けます……あの柵が黒く変色しているのって、疫病の影響なんですか?」



 「分からねぇ。俺達がピッケルを回収しに戻った時には、既にこの有り様だった」



 「……エジタスさんが遺したとされる“ロストマジックアイテム”……生物だけでは無く、無機物にも影響を及ぼしているって事でしょうか?」



 「そうかもしれない……だが、そもそもこの現象が、エジタスさんのロストマジックアイテムと決まった訳じゃない」



 「あっ、そうですよね。あくまで可能性が高いという話ですよね」



 真緒達が不治の村に来たのは、エジタスが遺したとされるロストマジックアイテムを回収しに来た為だ。しかし、それはあくまで可能性の話であり、確実にあると決まっている訳では無い。



 「ん? どうかしたか?」



 「い、いえ!! 何でもありません。こっちの話です!!」



 「そうか、それなら良いんだけどよ」



 ひそひそと、話をしていたリーマの声に反応してショウが声を掛けるが、リーマは慌てて何でも無いと言い、誤魔化した。



 「リーマぢゃん、どうじだだぁ? 別に話じでも大丈夫だど思うだよぉ?」



 「余計な情報を与えた事で、万が一興味でも持たれたら、後々面倒な事になると思って……」



 「確かに、一つだけでも一国を落とせるロストマジックアイテム……欲に目が眩んで、横取りしてくるかもしれない」



 「うーん、オラは大丈夫だど思うげどなぁ。だっでマオぢゃんに助げられだんだがら、恩を仇で返ず事はじないだよぉ」



 「いや、二人の言う通りだよハナちゃん」



 「マオぢゃん?」



 その時、ハナコの意見を否定したのは、他ならぬ真緒自身だった。ショウ達の命を救った真緒だが、リーマとフォルスの意見を肯定した。



 「ハナちゃん……残念だけど人は、どんなに恩を掛けられたとしても、欲には逆らえない生き物なんだよ。命を助けられたからってお腹は空く。命を助けられたからって欲は無くならない。自分の欲を満たす為なら、例え恩人でさえも手に掛ける……私は、あの人達を信用してはいない」



 「マオちゃん……何か……変わっだだなぁ……」



 真緒の冷たい言葉に、ハナコは仲間でありながら恐怖を感じた。血の通わない冷たい目線を送る真緒に、ハナコは変わったと呟く。



 「そうかな? まぁ、確かに変わったと言えば変わったのかもしれない……でもそれは、必要だったから変わったんだよ。私だって、いつまでも子供では要られないからね」



 「……ぞれでも……ぞれでもオラは、昔のマオぢゃんの方が好ぎだぁ……」



 「ハナちゃん……」



 必要だから変わった。その言葉にハナコは、俯きながら変わる前の方が好きだったと告げる。そんなハナコの様子に、真緒はどう声を掛ければ良いのか戸惑いを見せていた。



 「おーい!! あんたら何やってんだ!? 村の中に入るんじゃないのか!?」



 いつの間に移動していたのか、少し離れた所からショウ達が、早く来る様に真緒達に呼び掛ける。



 「い、今行きます!! ハナちゃん、取り敢えずこの続きは、また今度……」



 「……分がっだだぁ……」



 お互い無理矢理納得させ、ショウ達の下へと駆け寄って行く。



 「すみません、お待たせしました」



 「炭鉱はこの村を越えた先だが……いったいどうしたんだ? 何かトラブルか?」



 「いえ、何でもありません……それで、いったいどうやってこの疫病が蔓延する村を突破するんですか?」



 「ふっふっふ、見てな。タール、コール!! “例の物”を!!」



 「「おぉ!!」」



 そう言うとショウは右手を差し出し、タールとコールの二人に要求する。それに答える様に、二人はショウに“ある物”を手渡す。それはとても見覚えるのある代物だった。



 「それはもしかして……」



 「おぅ!! 俺達の大好物……“酒”だ!!」



 ショウが手にしたのは、これまで散々見せ付けられて来た酒ビンだった。ショウは自慢気に見せびらかす。



 「しかもこれは只の酒じゃねぇ。アルコール度数96%の酒だ!!」



 「それ、殆どアルコールじゃありませんか!!?」



 「そうさ、下手に一気飲みすると喉が焼けて喋れなくなるぞ」



 「ふざけているんですか!? そんなのがこの疫病を突破するのに、何の役に立つって言うんですか!?」



 真緒は、ショウの悪ふざけとしか思えない行動に怒りの感情を露にする。しかし一方で、ショウは余裕の笑みを見せる。



 「まぁまぁ、取り敢えず俺に任せてくれないか」



 「…………分かりました」



 「ありがとうよ……よし、それじゃあ行くぞ!!」



 そう言うとショウは、持っていたアルコール度数96%の酒が入った酒ビンを直に口に付け、口内目掛けて一気に流し込み始めた。



 「ちょ、ちょっと何やっているんですか!? 今さっき一気飲みすると、喉が焼けて喋れなくなるって言っていたじゃないですか!?」



 突然、一気飲みを始めたショウに戸惑いの表情を隠せない真緒達。真緒は慌てて、一気飲みをするショウを止めようとするが、タールとコールの二人に阻まれる。



 「嬢ちゃん、もう少し後ろに下がった方が良いぜ」



 「そんな呑気な事を言っている場合ですか!? 早く止めないと!? 実の兄弟なんですよね!?」



 「焦る気持ちは分かるが、兄ちゃんなら大丈夫。それよりも危ないから、もう少し離れた方が良い」



 「危ない……?」



 「マ、マオさん!! 見て下さい、あれ!!」



 リーマが指差す方向に目線を向けると、そこには両側の頬をパンパンに膨らませたショウがいた。それぞれの頬には先程流し込んだ一ビン分の酒が入っている。足を動かす度に、両側の頬が揺れて中の液体が“ちゃぽん”と音を立てる。



 「兄ちゃん、準備出来たんだな!?」



 頷くショウ。



 「ほらほら、下がって下がって!! 兄ちゃんの十八番が始まるぞ!!」



 真緒達は言われるがまま、タールとコールの二人と一緒に後ろへと下がる。すると真緒達が離れた事を確認したショウは胸を大きく前に突き出し、ゆっくりと首を後ろに倒す。首をある程度後ろに倒すと、しばらくその場で固まり……そして次の瞬間、両側の頬に溜め込んだ酒を深い霧が立ち込める村目掛けて噴射した。



 「“ファイアーブレス”!!」



 「「「「!!?」」」」



 しかし、噴射されたのは酒では無かった。ショウの口からは“青い”炎が吹き出され、広範囲に渡って村中を包み込み始める。



 「こ、これはいったい……?」



 「へへ、これぞ兄ちゃんの十八番!! “燃え盛る酒のワルツ”!!」



 「兄ちゃんの口の動きに合わせて、吹き出される炎が動く。それはまるで炎が意思を持って踊っているかの様に見えるのさ!!」



 「……成る程、ショウさんは“炎属性魔法”を扱っているんですね?」



 「おっ、流石は魔法使いの嬢ちゃんだな」



 ショウが吹き出している炎を見つめる中、リーマがそのカラクリに気が付いた。



 「どう言う事なのリーマ?」



 「微かですが、ショウさんの口元から魔力を感じ取れます。恐らく、ショウさんは炎属性魔法を扱えます。しかしそれは、灯りにする程度の弱い威力なんでしょう。そんな灯り程度の炎を増幅させたのが、アルコール度数96%のお酒……酒は燃えやすいですからね。96%もアルコールがあれば、微量の炎でも充分着火する事が出来ます」



 「成る程……でもそれが疫病を突破するのに、どう関係して行くの?」



 「ふっ、見て見ろ」



 「えっ……えぇ!!?」



 タールが指差す方向に目線を向けると、そこには先程まで疫病を含んだ深い霧が、綺麗さっぱり無くなっていた。それにより、村のおくまで見渡せる様になっていた。



 「な、何が起こったんだ……?」



 「偶然だったんだ……」



 「えっ?」



 「ピッケルを取り戻そうと、色々と手を尽くした。だけど、その全てが無駄に終わって行く。そんな出来事が毎日続いて、自棄になった俺達は村の前で宴を始めた。そんな中、兄ちゃんが十八番である“燃え盛る酒のワルツ”をやってくれたんだ。兄ちゃんの口に合わせて吹き出される炎が動き回り、偶然にも村の霧に掛かった。そうしたらその部分だけ、霧が消滅したんだ」



 「そうか……あの疫病は熱には弱いんだ。つまり、炎で殺菌する事が出来る!!」



 遂に判明した疫病の弱点。それはあまりにもシンプルな方法。熱で疫病を倒せると知った真緒達は、大いに喜んだ。だがその直ぐ後、フォルスが一つの疑問を頭に思い浮かべる。



 「待て……疫病の弱点を知っていながら、どうしてピッケルを取り戻せなかったんだ?」



 「「…………」」



 当然の疑問だった。疫病を退ける方法を知っていながら、ショウ達はピッケルを取り戻す事が出来なかった。フォルスの問い掛けに、タールとコールの二人は黙り込んでしまった。そして少し間を開けてから、コールがゆっくりと口を開く。



 「…………それは、村の中に入ってから話す……」



 しかしそれは、問い掛けに対する答えでは無く、先伸ばしの答えだった。



 「……分かった」



 伝えづらそうにする二人を見かね、フォルスは後で聞く事を了承した。



 「…………よし!! 終わったぞ!! 皆、俺の後に付いて来い!!」



 両側の頬に溜め込んだ酒を全て出し切ったショウは、真緒達に付いて来る様に呼び掛ける。その指示に従い、真緒達はショウの後に付いて行くのであった。



































 「……成る程、“熱”が弱点だったのか……」



 そんな真緒達の一部始終を、陰からこっそりと覗き見ている男がいた。



 「……早く戻って報告しなければ……」



 そう言うと男は、真緒達が入った村とは反対の方向へ走り去って行った。
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