笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第二章 冒険編 不治の村

唸り声

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 「…………ん」



 目を覚ますと、そこには見知らぬ天井が広がっていた。



 「おっ、目が覚めたか」



 「フォルスさん……」



 「マオさん、頑張りましたね」



 「リーマ……」



 リーマとフォルスが、目を覚ました真緒を上から覗き込む様にして、声を掛けて来た。



 「私……どうしてこんな所に……」



 「覚えてないか? あの時、今まで騙して来たショウ達に対して、周りの連中が寄って集って虐めるのを見たお前は、ショウ達を庇ったんだ」



 「……あぁ……」



 「凄かったですよ。マオさん、激しい剣幕で訴え掛けて……やっぱり、何か思う事があったんですか?」



 「うん……まぁね……何て言うか、かつての自分自身を重ねてしまったというか……そんな感じかな」



 「マオさん……」



 「マオ……」



 この異世界に来る前の自分。愛子と舞子に虐められていた苦い思い出。誰も助けてくれない孤独な思い出。ショウ達が周囲の人達に虐められるのを見た事で、あの時の感情が甦り、思わず足が動いた。



 「……そう言えば、ここはいったい何処……「マオぢゃぁああん!!」……!?」



 ここがいったい何処なのか聞こうとした真緒の下に、突如ハナコが飛び込んで来た。



 「良がっだぁ!! 目が覚めで良がっだだぁ!!」



 「ハ、ハナちゃん。そんな大袈裟だよ」



 涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっているハナコが顔を押し付ける。そんなハナコに真緒は大袈裟だと言って、押し付けて来る顔を離そうとする。



 「だっで、突然倒れだっで聞いだがら……オラ、心配で……」



 「実はハナコさん、マオさんが倒れた事を知った途端、一目散にここの宿を取ってくれたんですよ」



 「えっ、そうだったの!?」



 「……オラ……マオぢゃん達が大変な時に、ずっど呑気に食事じでいだだぁ……だがらマオぢゃんが倒れだ時、何どが役に立どうど休める場所を確保じだんだぁ」



 「ハナちゃん……ありがとう……」



 ハナコの迅速な対応のお陰で、倒れてしまった真緒を逸早く看病する事が出来た。真緒は、ハナコに感謝を送る。



 「まぁ、休める場所を確保した後、ずっと“食い逃げ”で逃げ回っていたのを、俺達が確保したんだがな」



 「食い逃げ……?」



 フォルスの話を聞く中、ハナコに目線が集まる。集中する目線に対して、ハナコは決して目線を合わせようとしない。



 「そう言えばハナちゃん、お金持ってたっけ?」



 「…………えへへ」



 真緒の問い掛けに、ハナコはゆっくりと目線を戻す。そして恥ずかしそうに笑みを浮かべる。そんなハナコに、真緒達は苦笑いを浮かべる。



 「おっ、嬢ちゃん。目が覚めたのか」



 四人が他愛も無い話をしていると、ショウ達が部屋の扉を開けて入って来た。



 「ショウさん、それに弟さん達も。無事だったんですね」



 「あぁ、嬢ちゃんのお陰でな。嬢ちゃんには大きな借りが出来ちまったよ。本当にありがとうな」



 「そんな借りだなんて気にしないで下さい。私は只、自分が気に入らないと思ったから、介入しただけです」



 「そうだとしても、俺の気が収まらない。今まで騙して来た分のお金を返した事で全財産失ったが、それでもこうして生きて行けるのは、あんた達のお陰なんだからよ。何かお礼をさせてくれ」



 「お礼……急に言われても……」



 「何言っているんだマオ。俺達にはあるだろ、教えて貰いたい事が……」



 「教えて貰いたい事……あっ、そうですよね!!」



 お礼をさせて欲しいというショウの申し出に頭を悩ませる真緒だったが、フォルスが助け船を出してくれた。



 「あの、私達どうしても不治の村に行かなくてはならないんです。ショウさん達は唯一、不治の村からまともに帰って来れたと聞きました。どうか、その方法を私達に教えて下さい!!」



 「そう言えばそんな事を言ってたな…………よし、分かった!! そんな事で恩を返せるって言うのなら、教えてやるぜ!!」



 「本当ですか!!?」



 「あぁ、勿論だ。だがその前に、あんた達に聞いて欲しい事があるんだ」



 「聞いて欲しい事?」



 先程までの明るい雰囲気とは一変、何処と無く真剣な雰囲気の中、ショウは重々しく口を開く。



 「……そもそも何故俺達ドワーフが、あんな人通りの多い町にいたのか。元々俺達は、不治の村の近くにある炭鉱に住んでいたんだ」



 「「「「!!?」」」」



 ショウの口から語られた衝撃の事実。真緒達は驚きの表情を浮かべる。



 「ほ、本当ですか?」



 「あぁ、その時はまだ“不治の村”なんて呼ばれ方はしていなかったがな。何の変哲も無い平凡な村だった……そう一年前の“あの日”までは……」



 「一年前って……まさか!?」



 「ん、どうしたんだ?」



 「あの……もしかしてそれって、魔王城方面に巨大な化け物が現れた日ですか?」



 「化け物? あー、いや違うな」



 「…………えっ?」



 真緒はてっきり、エジタスが亡くなった日だと思ったのだが、予想外の返答に目を丸くする。



 「確かに魔王城方面に、空を覆う程の巨大な化け物が現れたが……別にその日は異変は無かった。異変が起こったのは、その次の日だったんだ……」



 「次の日?」



 「……あの日、俺達はいつもの様に炭鉱を掘り進めていたんだ……」







***







 薄暗い洞窟を、壁に取り付けられた仄かな電飾だけで掘り進めているショウ、タール、コールの三人。各々の手には、自身の身長と大差無い程の大きさをしたピッケルが握られていた。



 「よーし、今日もガンガン掘り進めて働くぞ!!」



 「その後は勿論、キンキンに冷えた酒だよな兄ちゃん?」



 「おっ、分かってるじゃないかタール。仕事終わりの酒が堪らないんだな、これが!!」



 「あぁ、もう今から待ちきれない!! 早く掘り進めて仕事を終わらせようぜ!!」



 「そうだな!! よし、昨日の続きから掘り進めて行くぞ、分かったか!?」



 「「おぉ!!!」」



 俺達は世界各地にある炭鉱を掘り進め、そこから掘れる鉱石を加工して武器、防具、装飾品として売る事で収入を得ていた。特にあの炭鉱は広大で、既に誰かが掘り進めている形跡があった。それにも関わらず、壁からはみ出ている鉱石には一切手が付けられていなかった。思えば、その時点でおかしいと気づくべきだったのかもしれない。だが俺達は、運が良いとしか考えず、楽観的な考えで掘り進めていた。そして今日もいつも通りあの炭鉱を掘り進めていた。



 「…………グォオオ……」



 「ん? おいおい、コール。いくら楽しみだからって腹を鳴らすなよ。がっつき過ぎだろう」



 「はっ? 俺じゃねぇよ」



 「えっ? じゃあ……タールか?」



 ショウの問い掛けに、タールを首を大きく横に振る。



 「兄ちゃんじゃねぇのか?」



 「いや、俺の訳があるか。もし俺だったら俺自身が気付くし、第一お前らにわざわざ声を掛けないだろう」



 「それもそっか……じゃあ兄ちゃんの気のせいじゃ無いのか?」



 「んー、そうなるのかな?」



 納得のいかないショウは、腕組みをしながら頭を傾げる。



 「そんな事よりさ、早く掘り進めようぜ!!」



 「…………そうだな、取り敢えずは仕事を片付けるか」



 そう言うとショウ達は、掘り進める作業を再開した。それからしばらくして……。



 「……グォオオオオ……」



 「……やっぱり聞こえる」



 「兄ちゃん?」



 「しっ!! 少し黙ってろ!!」



 ショウに怒鳴られ、慌てて口を閉じるタールとコール。



 「…………」



 ショウは持っていたピッケルをその場に置いて、聞き耳を立てた。



 「……グォオオオオオオ……」



 「!! 何かいる……」



 「「えっ?」」



 「お前らもピッケルを置いて、聞き耳を立てろ」



 ショウに言われるがまま、二人は持っていたピッケルをその場に置いて、聞き耳を立てた。



 「……グォオオオオオオ」



 「「!!!」」



 「聞こえたか?」



 頷く二人。



 「何なんだよ、今の音……」



 「音……というよりも“唸り声”の様に聞こえたが……」



 「唸り声って……この炭鉱に生物がいるって事か!?」



 唸り声は、奥の方から聞こえていた。奥の方にはまだ灯りが無く、闇が広がっていた。



 「可能性は高い……おい、タール。お前、ちょっとその辺にある石を拾って、声のする方向に投げてくれないか?」



 「わ、分かったよ」



 タールは、足下にあった石を拾い上げると、声のする方向目掛けて強く投げた。



      ヒュー ガスッ!!



 「「「…………」」」



 投げられた石は闇の中へと消えると数秒後、地面では無い何か鈍い物に当たる音が炭鉱内に響き渡った。そしてしばらく静寂が流れた次の瞬間!!



 「キシャラブラァアアアアア!!!」



 「「「!!?」」」



 炭鉱内に鼓膜が破れんばかりの“奇声”が響き渡った。



 「な、何だよ今の声!!?」



 「し、知らねぇよ!! この世の物とは思えない声だったぞ!!?」



 「に、兄ちゃん!! あ、あれ!!」



 突然鳴り響いた奇声に、酷く混乱するショウ達。そんな中、タールが震えた声で声のした方向に指を指す。



 「な、何だよあれ!!?」



 闇が広がる奥深く、ショウ達が目にしたのは、二つの黄色い球体だった。球体には黒い円状の線が描かれており、その中央には黒い点があった。それぞれ球体は不規則に動いており、まるで意思を持った生き物の様だった。



 「わ、分からねぇ!! 分からねぇが、危険なのは確かだ!! 逃げるぞ!!」



 ショウ達は、パニックになりながら慌てて炭鉱から逃げ出そうと走り出す。



 「あっ、ピッケル!!」



 必死に逃げる中、コールは置いて来たピッケルの事を思い出し、立ち止まる。



 「馬鹿野郎!! 今はピッケルよりも自分達の安全だ!! 行くぞ!!」



 ショウは、立ち止まったコールの手を無理矢理引っ張って、炭鉱を脱出する。その最中、コールは目撃する。闇が広がる奥から、二つの黄色い球体の他に白い霧の様な物が広がって行くのを。霧は、凄まじい勢いで逃げるショウ達を追い掛ける。そんな霧に追い付かれる前にショウ達は無事、炭鉱を脱出する事が出来た。そしてそのまま振り帰らず、遠くへと逃げて行くのであった。その後、炭鉱の近くにあった村がどうなるのか知らずに…………。







***







 「…………その後、何とか炭鉱から脱出した俺達だったが、仕事道具であるピッケルを炭鉱内に置き忘れてしまっているのを思い出して、取りに戻ったんだが……」



 「その時には既に“不治の村”になっていたと……」



 「あぁ、あのピッケルが無くちゃ、俺達は仕事が出来ない。何とかピッケルを取り返そうと試行錯誤したんだが……いつも炭鉱内に潜む“何か”に邪魔されてしまうんだ……それで諦めて、こうした商売に手を出して……」



 「そうだったんですか……そんな事情が……でも、いったいどうやって炭鉱内に入ったんですか? 疫病が蔓延しているんですよね?」



 当然の疑問だった。治療方法が無い疫病に相対して、まともに帰って来るショウ達。真緒は本題に差し掛かった。



 「あぁ、俺達も二ヶ月位は頭を悩ませていたんだが……ある出来事が切っ掛けで、疫病の“弱点”を見つけ出したんだ」



 「「「「弱点?」」」」



 「論より証拠、取り敢えず案内するぜ。あんたらが行きたがっている“不治の村”へ」



 そう言うとショウ達は、真緒達を連れて“不治の村”へと向かうのであった。
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