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第三章 冒険編 私の理想郷
理想郷へようこそ
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目の前に広がる光景に、真緒達は唖然としていた。草木が一本も生えていない岩だらけの道が、人で賑わう活気に溢れた街並みに変わっていたのだ。
「「「「…………」」」」
あまりの突然な出来事に、真緒達は言葉を失ってしまった。目が点になりながら、ゆっくりと街の中を歩き始める。
「いったい……何がどうなっているんでしょうか?」
「分からない……だが、異常事態なのは確かだ……」
「オラ達……夢でも見でいるのがなぁ……」
「……もしかしたら、幻覚の類いかもしれない」
注意深く辺りを警戒する。周囲には店がズラリと建ち並び、店員と思わしき人達が行き交う人々に店自慢の商品を売り買いしていた。
「いらっしゃい、いらっしゃい!! ウチの野菜はどれも取れ立て新鮮だよ!!」
「剣はいかが? 匠が仕上げた一品だよ!! 今を逃すと次は無いよ!! さぁ、買った買った!!」
「宝石はどう? 彼女や奥さんへのプレゼントには最適ですよ。そうでなくても、自分磨きの為に買って見て」
「うーん、もうちょっと安くならないの? あっ、そうだ!! これとこれを一緒に買ってあげるから、少し値引きしてくれない?」
「かぁー、商売上手だね!! 良いだろう、お嬢さんの要望通り値引きしてやろう」
「ホントに!? ありがとう!!」
街の人々が商品を売り買いする一方、買い物帰りの親子、夫婦が楽しそうに会話をしていた。
「ママ、今日の晩御飯はなぁに?」
「今日はね……カレーライスよ」
「カレーライス!? やったぁ!!」
「ねぇ、あそこに置いてある宝石……私に似合うと思わない?」
「えっ、いやーどうかな……」
「何よその言い方……あっ、もしかして少し値が張るなとか思っているの?」
「ち、違うよ。わざわざ宝石で着飾らなくても、君は充分魅力的だって言いたいんだ」
「あら、上手い事言っちゃって」
街を行き交う人達は皆笑顔で、とても幸せそうな雰囲気を漂わせていた。
「見れば見る程、現実としか思えない……」
「それじゃあやっぱり、現実なんじゃないですか?」
「でも最初来た時にはこんな街、影も形も無かったし……ハナちゃんはどう思う? あれ? ハナちゃん?」
街の中を歩いていた真緒達だったが、ふと気が付くとハナコの姿が消えていた。
「ハナちゃん!!? ハナちゃん、何処に行ったの!!?」
「ハナコさん!! ハナコさん!! 何処ですか!!?」
「ハナコ!! 返事をしろ!! ハナコ!!」
突然いなくなったハナコを捜す為、大声を張り上げて必死に呼び掛ける。
「あの……どうかなさいましたか?」
そんな真緒達を見兼ねて、街の人達が集まって来た。
「あっ、えっと、実は私達の仲間が突然いなくなってしまって……」
「それは大変だ!! それでその子の名前は!?」
「“ハナコ”って言います。熊人族で、背が高いです」
「それと言葉が少し訛っている」
「後、かなりの大食いです」
「熊人族で……言葉が訛っていて……かなりの大食い……もしかしてそれって、さっき店に入って行った人じゃないか?」
「えっ、ハナちゃんを見掛けたんですか!?」
「ハ、ハッキリとは見ていないが……あそこの店に入って行ったぞ」
そう言いながら街の住人は、少し離れた位置に建てられている飲食店を指差した。
「ありがとうございます!! 早速行ってみます!!」
教えてくれた住人に感謝を述べ、真緒達は飲食店へと向かった。
***
「本当にハナコがいるのか?」
「取り敢えず、入って見ましょう」
飲食店の前までやって来た真緒達は、ハナコがいるかどうかを確かめる為、店の中へと入って行った。
ガツガツ ムシャムシャ モグモグ
「……いた」
店の壁と床は焦げ茶色、並べられた椅子とテーブルは赤く染まっていた。そんな椅子に座りながら、目の前に置かれた料理を一心不乱に食べるハナコがいた。
「ハナちゃん!!」
「んぐっ!? うぐっぐ!!」
突然後ろから声を掛けられ、驚いたハナコは料理を喉に詰まらせたのか、自身の胸を強く叩く。
「あ、危ながっだぁ……もう少じで窒息ずる所だっだだぁ……」
「ハナちゃん……」
「ん? おぉー、マオぢゃん。マオぢゃんも来だんだなぁ」
背後にいる真緒達に声を掛けられたハナコは、振り返り呑気な返事をした。
「もぉー、急にいなくなって心配したんだからね」
「悪がっだだぁ、ごの店がら良い匂いがじだものだがら……ぞのづい……」
「ついじゃ無いよ。まだこの街がなんなのか分からない以上、勝手な行動は慎んでよね」
「面目ねぇだぁ……」
「まぁでも、無事で良かった。お代を払ったら、すぐに出よう」
「分がっだだぁ……所で他の皆は何処にいるだぁ?」
「何言ってるの、ちゃんとここに…………あれ?」
振り返ると、そこにいる筈のリーマとフォルスの姿は無かった。
「み、皆? あれ? 店の入口までは一緒だったのに?」
慌てて周囲を確認するも、二人は店の何処にもいなかった。
「ちょ、ちょっとここで待ってて!! 今すぐ二人を見つけて戻って来るから!!」
「わ、分がっだだぁ」
ハナコに待つ様に伝えた真緒は、急ぎ足で店の外へと飛び出した。
「…………ずいまぜーん、炒飯大盛りを下ざいだぁ!!」
「はーい!! 分かりました!!」
真緒達が戻って来るまでの間、新しい料理を頼むハナコであった。
***
時は少し遡って、真緒達が店に入る前の出来事。
「本当にハナコがいるのか?」
「取り敢えず、入って見ましょう」
ハナコがいると思われる店に、真緒達が入ろうとしたその瞬間。
「おにーさん、おにーさん!!」
「ん?」
誰かに声を掛けられたフォルスは、周囲を見回す。すると店の右側に建てられている武器屋の店主がフォルスに向けて、手招きをしていた。
「……俺の事か?」
「そうだよ、おにーさん。ちょっとこっちに来てよ」
「…………」
流石にここで離れるのはどうかと考えたフォルスだったが、真緒とリーマの二人がいれば大丈夫だろうと、武器屋の店主へと近付いて行った。
「それで? 俺に何の用だ?」
「おにーさん、鳥人族でしょ? 弓矢に長けているおにーさんに、ぜひおすすめしたい商品があるんだよ」
そう言いながら店主は、店の奥から木で出来た台の先端に交差する様に弓が取り付けられている武器を取り出し、フォルスの前まで持って来た。
「これは?」
「いいかい、これは何と引き金を少し引くだけで、自動的に発車する事の出来る画期的な発明の弓矢なんだよ」
「じ、自動的にだと!?(俺が常々、弓矢に付いていて欲しいなと思っていた機能と全く一緒じゃないか!?)」
それは、フォルスが心の底から付いていて欲しいと思っていた機能だった。フォルスはハナコの事をすっかり忘れ、店主の話に意識を傾けた。
「使い方は簡単、台座に弓を取り付ける事で固定し、予め弦を引いてセットした物に矢を設置して、この引き金を引く事で矢を発射出来るのさ」
「そ、それだけで矢を発射する事が出来るのか!?」
「従来の弓矢の概念を覆す正に革命的な弓矢。その名も……“クロスボウ”」
「“クロスボウ”……」
最早フォルスの意識は、店主の持つクロスボウに釘付けだった。
「……良かったらこのクロスボウ、おにーさんにあげようか?」
「えっ!? い、良いのか!? こんな画期的な発明の弓矢をタダで貰ってしまっても!?」
「あぁ、実はこれ試作品なんだ。だから実際に使って貰って、その感触を教えて欲しいんだ」
「つまり俺は、実験台という事か」
「嫌かい? 嫌なら断って貰って構わない。だが、やってくれるというのならこのクロスボウ、おにーさんにタダであげようじゃないか」
「…………」
息を飲むフォルス。目の前の誘惑に、フォルスはゆっくりと手を伸ばそうとしたその時!!
「フォルスさん!! 何やっているんですか!?」
連れ戻しに来た真緒が、フォルスの伸ばした腕を掴んだ。
「マ、マオ!!? どうしてここに!?」
「どうしてじゃありませんよ!! ハナちゃんを連れ戻しに行ったら、いつの間にか二人供いなくなってしまったんじゃないですか!!」
「二人供って……まさかリーマもいなくなったのか!?」
「だからそう言っているじゃないですか!! ほら、こんな所で油売ってないでリーマを連れ戻しに行きますよ!!」
「あ、あぁ…………」
真緒に腕を引っ張られながら、連れて行かれるフォルス。その顔は、何処か名残惜しそうな顔をしていた。
***
時は少し遡って、真緒達が店に入る前の出来事。
「本当にハナコがいるのか?」
「取り敢えず、入って見ましょう」
ハナコがいると思われる店に、真緒達が入ろうとしたその瞬間。
「おねーさん、おねーさん!!」
「えっ?」
誰かに声を掛けられたリーマは、周囲を見回す。すると店の左側に建てられている宝石屋の店主がリーマに向けて、手招きをしていた。
「……もしかして私の事ですか?」
「そうだよ、おねーさん。ちょっとこっちに来てよ」
「…………」
流石にここで離れるのはどうかと考えたリーマだったが、真緒とフォルスの二人がいれば大丈夫だろうと、宝石屋の店主へと近付いて行った。
「えっと……それで私に何の用でしょうか?」
「おねーさん、魔法使いでしょ? 魔法に長けているおねーさんに、ぜひおすすめしたい商品があるんですよ」
そう言いながら店主は、店の奥からオレンジ色で雫状のイヤリングを取り出し、リーマの前まで持って来た。
「これは?」
「見ての通りイヤリングですよ。綺麗なおねーさんにピッタリだと思って」
「す、すみません。わたしあまり宝石には興味が無くて……」
「決め付けるのは早いよ。このイヤリング、只のイヤリングじゃ無いのさ」
「……と言いますと?」
「このイヤリングはね……着用者の魔力を底上げしてくれる魔法のイヤリングなんだよ」
「魔力を底上げ!?(私がずっと欲しいと思っていた、魔力強化のアイテムと全く一緒の効果じゃありませんか!?)」
それは、リーマが心の底から欲しいと思っていたアイテムだった。リーマはハナコの事をすっかり忘れ、店主の話に意識を傾けた。
「これさえ着ければ、今までの魔法とは比較にならない程の威力を放てる様になるよ」
「比較にならない程……」
「今ならこっち魔導書とセットで、何とたったの2千800k!!」
「2、2千800k!? そんなに安くて大丈夫なんですか!?」
「あぁ、このイヤリングもおねーさんの様な魔法使いに扱われた方が幸せだろう。どうだい? 買っていかないかい?」
「…………」
息を飲むリーマ。目の前の誘惑に、リーマはゆっくりと手を伸ばそうとしたその時!!
「リーマ!! 何やってるの!?」
連れ戻しに来た真緒が、リーマの伸ばした腕を掴んだ。その側にはフォルスの姿もあった。
「マ、マオさん!!? どうしてここに!?」
「どうしてじゃないよ!! ハナちゃんを連れ戻しに行ったら、いつの間にか二人供いなくなってしまったんじゃないですか!!」
「二人供って……まさかフォルスさんもいなくなっていたんですか!?」
「あ、あぁ……まぁな……」
「だからそう言ってるでしょ!! ほら、こんな所で油売ってないでハナちゃんを連れ戻しに行くよ!!」
「は、はい…………」
真緒に腕を引っ張られながら、連れて行かれるリーマ。その顔は、何処か名残惜しそうな顔をしていた。
***
「もぉー!! 皆ちょっと気が緩み過ぎだよ!!」
「「「すみません……」」」
フォルス、リーマを迎えに行った後、店で待っていたハナコも無事に連れ戻した真緒達は、再び街の中を歩いていた。
「いい!? 私達は一刻も早くこの奇妙な街から抜け出さないといけないんだからね!?」
「「「はい……」」」
「……この街を抜け出すだって?」
「そうですよ!! こんな突然現れた不気味な街、一刻も早く……って今の声は……?」
真緒が後ろにいる三人に視線を向けるも、三人は一斉に首を横に振る。
「おい、こっちだこっち……」
「「「「?」」」」
声のした方向に顔を向けると、そこには酒場が建てられており、入口に古ぼけたコートを身に付け、汚ならしく伸びた髭を持つ一人の男が立っていた。
「あんたら……“外の世界”から来たのか?」
「「「「…………」」」」
あまりの突然な出来事に、真緒達は言葉を失ってしまった。目が点になりながら、ゆっくりと街の中を歩き始める。
「いったい……何がどうなっているんでしょうか?」
「分からない……だが、異常事態なのは確かだ……」
「オラ達……夢でも見でいるのがなぁ……」
「……もしかしたら、幻覚の類いかもしれない」
注意深く辺りを警戒する。周囲には店がズラリと建ち並び、店員と思わしき人達が行き交う人々に店自慢の商品を売り買いしていた。
「いらっしゃい、いらっしゃい!! ウチの野菜はどれも取れ立て新鮮だよ!!」
「剣はいかが? 匠が仕上げた一品だよ!! 今を逃すと次は無いよ!! さぁ、買った買った!!」
「宝石はどう? 彼女や奥さんへのプレゼントには最適ですよ。そうでなくても、自分磨きの為に買って見て」
「うーん、もうちょっと安くならないの? あっ、そうだ!! これとこれを一緒に買ってあげるから、少し値引きしてくれない?」
「かぁー、商売上手だね!! 良いだろう、お嬢さんの要望通り値引きしてやろう」
「ホントに!? ありがとう!!」
街の人々が商品を売り買いする一方、買い物帰りの親子、夫婦が楽しそうに会話をしていた。
「ママ、今日の晩御飯はなぁに?」
「今日はね……カレーライスよ」
「カレーライス!? やったぁ!!」
「ねぇ、あそこに置いてある宝石……私に似合うと思わない?」
「えっ、いやーどうかな……」
「何よその言い方……あっ、もしかして少し値が張るなとか思っているの?」
「ち、違うよ。わざわざ宝石で着飾らなくても、君は充分魅力的だって言いたいんだ」
「あら、上手い事言っちゃって」
街を行き交う人達は皆笑顔で、とても幸せそうな雰囲気を漂わせていた。
「見れば見る程、現実としか思えない……」
「それじゃあやっぱり、現実なんじゃないですか?」
「でも最初来た時にはこんな街、影も形も無かったし……ハナちゃんはどう思う? あれ? ハナちゃん?」
街の中を歩いていた真緒達だったが、ふと気が付くとハナコの姿が消えていた。
「ハナちゃん!!? ハナちゃん、何処に行ったの!!?」
「ハナコさん!! ハナコさん!! 何処ですか!!?」
「ハナコ!! 返事をしろ!! ハナコ!!」
突然いなくなったハナコを捜す為、大声を張り上げて必死に呼び掛ける。
「あの……どうかなさいましたか?」
そんな真緒達を見兼ねて、街の人達が集まって来た。
「あっ、えっと、実は私達の仲間が突然いなくなってしまって……」
「それは大変だ!! それでその子の名前は!?」
「“ハナコ”って言います。熊人族で、背が高いです」
「それと言葉が少し訛っている」
「後、かなりの大食いです」
「熊人族で……言葉が訛っていて……かなりの大食い……もしかしてそれって、さっき店に入って行った人じゃないか?」
「えっ、ハナちゃんを見掛けたんですか!?」
「ハ、ハッキリとは見ていないが……あそこの店に入って行ったぞ」
そう言いながら街の住人は、少し離れた位置に建てられている飲食店を指差した。
「ありがとうございます!! 早速行ってみます!!」
教えてくれた住人に感謝を述べ、真緒達は飲食店へと向かった。
***
「本当にハナコがいるのか?」
「取り敢えず、入って見ましょう」
飲食店の前までやって来た真緒達は、ハナコがいるかどうかを確かめる為、店の中へと入って行った。
ガツガツ ムシャムシャ モグモグ
「……いた」
店の壁と床は焦げ茶色、並べられた椅子とテーブルは赤く染まっていた。そんな椅子に座りながら、目の前に置かれた料理を一心不乱に食べるハナコがいた。
「ハナちゃん!!」
「んぐっ!? うぐっぐ!!」
突然後ろから声を掛けられ、驚いたハナコは料理を喉に詰まらせたのか、自身の胸を強く叩く。
「あ、危ながっだぁ……もう少じで窒息ずる所だっだだぁ……」
「ハナちゃん……」
「ん? おぉー、マオぢゃん。マオぢゃんも来だんだなぁ」
背後にいる真緒達に声を掛けられたハナコは、振り返り呑気な返事をした。
「もぉー、急にいなくなって心配したんだからね」
「悪がっだだぁ、ごの店がら良い匂いがじだものだがら……ぞのづい……」
「ついじゃ無いよ。まだこの街がなんなのか分からない以上、勝手な行動は慎んでよね」
「面目ねぇだぁ……」
「まぁでも、無事で良かった。お代を払ったら、すぐに出よう」
「分がっだだぁ……所で他の皆は何処にいるだぁ?」
「何言ってるの、ちゃんとここに…………あれ?」
振り返ると、そこにいる筈のリーマとフォルスの姿は無かった。
「み、皆? あれ? 店の入口までは一緒だったのに?」
慌てて周囲を確認するも、二人は店の何処にもいなかった。
「ちょ、ちょっとここで待ってて!! 今すぐ二人を見つけて戻って来るから!!」
「わ、分がっだだぁ」
ハナコに待つ様に伝えた真緒は、急ぎ足で店の外へと飛び出した。
「…………ずいまぜーん、炒飯大盛りを下ざいだぁ!!」
「はーい!! 分かりました!!」
真緒達が戻って来るまでの間、新しい料理を頼むハナコであった。
***
時は少し遡って、真緒達が店に入る前の出来事。
「本当にハナコがいるのか?」
「取り敢えず、入って見ましょう」
ハナコがいると思われる店に、真緒達が入ろうとしたその瞬間。
「おにーさん、おにーさん!!」
「ん?」
誰かに声を掛けられたフォルスは、周囲を見回す。すると店の右側に建てられている武器屋の店主がフォルスに向けて、手招きをしていた。
「……俺の事か?」
「そうだよ、おにーさん。ちょっとこっちに来てよ」
「…………」
流石にここで離れるのはどうかと考えたフォルスだったが、真緒とリーマの二人がいれば大丈夫だろうと、武器屋の店主へと近付いて行った。
「それで? 俺に何の用だ?」
「おにーさん、鳥人族でしょ? 弓矢に長けているおにーさんに、ぜひおすすめしたい商品があるんだよ」
そう言いながら店主は、店の奥から木で出来た台の先端に交差する様に弓が取り付けられている武器を取り出し、フォルスの前まで持って来た。
「これは?」
「いいかい、これは何と引き金を少し引くだけで、自動的に発車する事の出来る画期的な発明の弓矢なんだよ」
「じ、自動的にだと!?(俺が常々、弓矢に付いていて欲しいなと思っていた機能と全く一緒じゃないか!?)」
それは、フォルスが心の底から付いていて欲しいと思っていた機能だった。フォルスはハナコの事をすっかり忘れ、店主の話に意識を傾けた。
「使い方は簡単、台座に弓を取り付ける事で固定し、予め弦を引いてセットした物に矢を設置して、この引き金を引く事で矢を発射出来るのさ」
「そ、それだけで矢を発射する事が出来るのか!?」
「従来の弓矢の概念を覆す正に革命的な弓矢。その名も……“クロスボウ”」
「“クロスボウ”……」
最早フォルスの意識は、店主の持つクロスボウに釘付けだった。
「……良かったらこのクロスボウ、おにーさんにあげようか?」
「えっ!? い、良いのか!? こんな画期的な発明の弓矢をタダで貰ってしまっても!?」
「あぁ、実はこれ試作品なんだ。だから実際に使って貰って、その感触を教えて欲しいんだ」
「つまり俺は、実験台という事か」
「嫌かい? 嫌なら断って貰って構わない。だが、やってくれるというのならこのクロスボウ、おにーさんにタダであげようじゃないか」
「…………」
息を飲むフォルス。目の前の誘惑に、フォルスはゆっくりと手を伸ばそうとしたその時!!
「フォルスさん!! 何やっているんですか!?」
連れ戻しに来た真緒が、フォルスの伸ばした腕を掴んだ。
「マ、マオ!!? どうしてここに!?」
「どうしてじゃありませんよ!! ハナちゃんを連れ戻しに行ったら、いつの間にか二人供いなくなってしまったんじゃないですか!!」
「二人供って……まさかリーマもいなくなったのか!?」
「だからそう言っているじゃないですか!! ほら、こんな所で油売ってないでリーマを連れ戻しに行きますよ!!」
「あ、あぁ…………」
真緒に腕を引っ張られながら、連れて行かれるフォルス。その顔は、何処か名残惜しそうな顔をしていた。
***
時は少し遡って、真緒達が店に入る前の出来事。
「本当にハナコがいるのか?」
「取り敢えず、入って見ましょう」
ハナコがいると思われる店に、真緒達が入ろうとしたその瞬間。
「おねーさん、おねーさん!!」
「えっ?」
誰かに声を掛けられたリーマは、周囲を見回す。すると店の左側に建てられている宝石屋の店主がリーマに向けて、手招きをしていた。
「……もしかして私の事ですか?」
「そうだよ、おねーさん。ちょっとこっちに来てよ」
「…………」
流石にここで離れるのはどうかと考えたリーマだったが、真緒とフォルスの二人がいれば大丈夫だろうと、宝石屋の店主へと近付いて行った。
「えっと……それで私に何の用でしょうか?」
「おねーさん、魔法使いでしょ? 魔法に長けているおねーさんに、ぜひおすすめしたい商品があるんですよ」
そう言いながら店主は、店の奥からオレンジ色で雫状のイヤリングを取り出し、リーマの前まで持って来た。
「これは?」
「見ての通りイヤリングですよ。綺麗なおねーさんにピッタリだと思って」
「す、すみません。わたしあまり宝石には興味が無くて……」
「決め付けるのは早いよ。このイヤリング、只のイヤリングじゃ無いのさ」
「……と言いますと?」
「このイヤリングはね……着用者の魔力を底上げしてくれる魔法のイヤリングなんだよ」
「魔力を底上げ!?(私がずっと欲しいと思っていた、魔力強化のアイテムと全く一緒の効果じゃありませんか!?)」
それは、リーマが心の底から欲しいと思っていたアイテムだった。リーマはハナコの事をすっかり忘れ、店主の話に意識を傾けた。
「これさえ着ければ、今までの魔法とは比較にならない程の威力を放てる様になるよ」
「比較にならない程……」
「今ならこっち魔導書とセットで、何とたったの2千800k!!」
「2、2千800k!? そんなに安くて大丈夫なんですか!?」
「あぁ、このイヤリングもおねーさんの様な魔法使いに扱われた方が幸せだろう。どうだい? 買っていかないかい?」
「…………」
息を飲むリーマ。目の前の誘惑に、リーマはゆっくりと手を伸ばそうとしたその時!!
「リーマ!! 何やってるの!?」
連れ戻しに来た真緒が、リーマの伸ばした腕を掴んだ。その側にはフォルスの姿もあった。
「マ、マオさん!!? どうしてここに!?」
「どうしてじゃないよ!! ハナちゃんを連れ戻しに行ったら、いつの間にか二人供いなくなってしまったんじゃないですか!!」
「二人供って……まさかフォルスさんもいなくなっていたんですか!?」
「あ、あぁ……まぁな……」
「だからそう言ってるでしょ!! ほら、こんな所で油売ってないでハナちゃんを連れ戻しに行くよ!!」
「は、はい…………」
真緒に腕を引っ張られながら、連れて行かれるリーマ。その顔は、何処か名残惜しそうな顔をしていた。
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「もぉー!! 皆ちょっと気が緩み過ぎだよ!!」
「「「すみません……」」」
フォルス、リーマを迎えに行った後、店で待っていたハナコも無事に連れ戻した真緒達は、再び街の中を歩いていた。
「いい!? 私達は一刻も早くこの奇妙な街から抜け出さないといけないんだからね!?」
「「「はい……」」」
「……この街を抜け出すだって?」
「そうですよ!! こんな突然現れた不気味な街、一刻も早く……って今の声は……?」
真緒が後ろにいる三人に視線を向けるも、三人は一斉に首を横に振る。
「おい、こっちだこっち……」
「「「「?」」」」
声のした方向に顔を向けると、そこには酒場が建てられており、入口に古ぼけたコートを身に付け、汚ならしく伸びた髭を持つ一人の男が立っていた。
「あんたら……“外の世界”から来たのか?」
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──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?
これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。
──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!
※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。
※表紙は自作ではありません。
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