笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第三章 冒険編 私の理想郷

可能性

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 ソーニョの助けにより、何とかメユの捜索から逃げ切る事が出来た真緒達は、二階の廊下に立っていた。



 「……どうやら本当に、二階の廊下へと出たらしい……」



 「ソーニョさん……どうして私達を助けてくれたんでしょう?」



 「切羽詰まった状況だったからな、聞きそびれてしまった」



 「そんな事より、今はこの理想郷の主を探し出すのが先決ですよ!!」



 「メユぢゃん、ソーニョざんは理想郷の主じゃながっだ……残るはソンジュざんだけだぁ」



 「急いでソンジュさんを探し出しましょう!!」



 そう言うとハナコとリーマは、廊下を走り出そうとした。



 「……いや待て、恐らくソンジュは理想郷の主じゃない」



 「「えっ?」」



 そんな二人をフォルスが呼び止める。



 「確かに消去方から言ってしまえば、ソンジュが理想郷の主と言えるかもしれない。だがもう一人、理想郷の主かもしれない人物がいる」



 「それって……?」



 「……祖母のレーヴだ」



 「「「!!?」」」



 フォルスの言葉に、三人は驚きの表情を浮かべる。



 「そ、そんなのあり得ませんよ!!」



 「何故だ?」



 「だって……レーヴさんは、ベッドの上で寝た切りなんですよ!? そんな人が、理想郷の主だなんて常識的に考えられません!!」



 「常識的に……か。そもそもその認識が間違っていたんだ」



 「どう言う意味ですか?」



 「目に見える物が真実とは限らないって事さ。レーヴは寝た切りの老婆、だから夢の絵本を持っている訳が無い。そうした偏見によって、俺達は騙されていたんだ」



 「確かに……寝た切りだから何も出来ないと思っていたけど、それすら嘘だったとしたら、充分可能性はあります」



 「それにだ。今まで会ったメユやソーニョが持っていた夢の絵本は偽物。本物の夢の絵本により複製された物だった。だがここで一つ疑問が生まれる」



 「何ですか?」



 「何故、本物の夢の絵本を使わないのか?」



 「確かに……本物の夢の絵本で街の住人達を動かせば、知性も確りある訳ですから、私達を確実に倒せた筈……」



 「あぁ、だから俺はある仮説を立てた。もしかしたら使わなかったのでは無く、“使えなかった”のではないか」



 「使えなかった?」



 「そう、理想郷の主は本物の夢の絵本を使おうとしたが、使おうにも手足が動かせなかった。何故ならその人物は寝た切りだったから」



 「づまり……理想郷の本当の主はレーヴざんっで事だがぁ?」



 「まぁ、そう言う事だ。それにさっきソーニョが言っていただろう“死人に口無し”。これは寝た切りのレーヴの事を指していたんだ」



 「そうか、もう動く事も出来ない寝た切りは死人も同然、だから死人に口無しなんですね!!」



 「納得だぁ!!」



 それまで全く当て嵌まらなかったパズルのピースが、フォルスの意見によって次々と当て嵌められていく。



 「論より証拠、取り敢えずレーヴが寝ている部屋に行くとしよう」



 「そうですね」



 「分がっだだぁ」



 「…………」



 フォルスの意見を聞き入れた一同は、レーヴが寝ている部屋へと向かう。しかしそんな中、真緒だけが俯きながら顎に親指と人差し指を当て考え込んでいた。



 「(……確かに、その理屈ならレーヴさんが理想郷の主なのは間違いない……でも何だろうこのモヤモヤは……?)」



 何だかスッキリしない。フォルスの意見は事実に見事当て嵌まる。だが、何処か引っ掛かる真緒。その引っ掛かりが何なのか、それすらハッキリしない。



 「おい、どうしたマオ? 早く行くぞ」



 「そうですよマオさん。早く向かわないと、またいつメユさん達に襲われるか分かりません」



 「マオぢゃん、急ぐだぁ」



 「あっ、うん!!」



 答えが見つからないまま、三人に急かされる真緒は、一旦考えるのを後回しにして、後を追い掛ける。







***







 「……ここだな……」



 二階の廊下を突き進み、無事何事も無くレーヴが寝ている部屋の扉前まで辿り着いた真緒達。



 「……周りに人の気配は感じられないだぁ」



 辺りを見回すハナコ。周囲には誰もおらず、静寂が広がっていた。



 「今がチャンスです。入りましょう」



 「…………」



 ハナコ、リーマ、フォルスの三人は素早く部屋に入るが、やはり真緒だけが俯きながら顎に親指と人差し指を当て考え込んでいた。



 「(何だ……何かがおかしい……でもそれが何なのか分からない……痒い所に手が届かない……そんな気持ちをずっと感じている……)」



 「マオ? どうかしたか?」



 「マオさん?」



 「マオぢゃん? 大丈夫だがぁ?」



 「あっ、えっと……何でもありません……」



 これ以上、余計な不安を与えない様にと、真緒は何でも無い振りをして、皆を安心させる。



 「それなら良いんだが……目的は目の前だ。気だけは抜くなよ」



 「わ、分かってますよ(気のせい……だよね)」



 そう思いながら、真緒はモヤモヤを抱えたまま、部屋の中へと入って行く。







***







 部屋の中は以前と変わらず、非常に質素な内装であり、家具と呼べる代物はベッドのみ。そして壁にはエジタスが着けている仮面が額縁に入れられ、飾られていた。



 「……どうやらレーヴさん以外誰もいないみたいですね」



 「恐らく、未だソーニョと交戦しているか。俺達が一階に潜んでいると思い込んで、捜索を続けているのだろう」



 「どぢらにじでも、今が絶好の機会っで事だぁ。なぁ、マオぢゃん」



 「えっ、あっ、うん……そうだね……」



 「どうしたマオ? さっきから何だか様子がおかしいぞ?」



 「何か気になる事でもあるんですか?」



 「いや……何て言えば良いのかな? スッキリしないって言うか……モヤモヤが晴れないって言うか……」



 「それはつまり、本当の理想郷の主はレーヴさんじゃないって事ですか?」



 「あっ、まぁ、そうなのかな……?」



 「だがなマオ、もう他に理想郷の主と思える人物がいないんだ。ソンジュかレーヴ、なら必然的に最も怪しいと考えられるレーヴこそが、理想郷の主なんじゃないか?」



 「……そうですよね……ごめんなさい。ちょっと考え過ぎてしまったみたいです」



 「仕方無いですよ。こんな摩訶不思議な体験をしているんですから、考え過ぎるのも無理ありません」



 「だがそれも、レーヴが持っている夢の絵本に水を掛ければ全て終わる」



 そう言いながらフォルスは、レーヴが寝ているベッドの毛布を取り外す。するとそこには、夢の絵本を大事そうに抱えながら寝ているレーヴの姿があった。



 「やっぱりあったな……」



 「この夢の絵本に水を掛ければ、全て終わるんですね」



 「そう言う事だ。マオ、給水袋を渡してくれ」



 「う、うん……」



 浮かない表情を浮かべながらも、真緒は給水袋をフォルスに手渡す。



 「よし、ここは慎重に掛けないとな。何せ一杯分しか残ってないからな」



 「ぞうだなぁ。もじごごに街の住人達がいだら、まどもに水を掛げられながっだだぁ」



 「!!!」



 「本当ですね。運が良かったですよ」



 楽観的に考える三人だが、この時真緒の全身に電流が流れた様な衝撃が伝わっていた。



 「(そうだ……そうだよ!! 何で部屋の中や外に街の住人達がいなかったんだ!? もし本当にレーヴさんが理想郷の主だとしたら、水を掛けられるのを全力で阻止しに来る筈……それなのに、周囲には誰一人見張りがいなかった!! じゃあ何故誰もいなかった?)」



 これにより、完成した筈のパズルに違和感が生じる事となった。



 「(ソーニョさんと交戦しているから? 一階を捜索しているから? そうだとしても街の住人は百人近くいる。絶対数名はこの部屋を警備する筈、そうじゃないと万が一部屋に辿り着かれたら全て終わってしまう!! この周囲に人が誰もいない理由……それはレーヴさんは理想郷の主じゃないから、警戒する必要が無い!!)」



 違和感を感じたパズルを、手探りで調べて行く。



 「(それにレーヴさんが本当に理想郷の主なら、何故ソーニョさんはそれを言わなかった。私達が一度館を訪れた時は、普通に名前を言っていた。それなのに突然言えなくなるのは不自然だ!! つまり、レーヴさんは理想郷の主では無い!!)」



 一度完成したパズルを崩し、再び当て嵌める。するとこれまで見えて来なかった全く新しい絵が浮かび始めた。



 「(でもそうなると、本当の理想郷の主はいったい……ソンジュさん? いや、確かに怪しいと言えば怪しいけど、何か違う気がする……考えるんだ……あらゆる可能性を当て嵌めるんだ!!)」







 “あんた達は私の大切な人を殺した!! そんなあんた達を殺せる絶好の機会、逃す訳が無いでしょう!!?”



 “えぇそうよ……私が……私こそが、この理想郷の主よ!!!”



 “気安く呼び捨てにしてんじゃねぇよぉおおおおおおおおお!!!”



 “あいつの事を呼び捨てにして良いのは私だけ!! お前みたいなブスじゃねぇんだよぉおおおおおおおお!!”



 “あいつを愛しているのは私だけ!! 私だけがあいつの事を心の底から愛しているんだ!! お前みたいな軽い女があいつの事を呼び捨てにするんじゃねぇよ!!!”



 “エジタス……あれ程までに素晴らしい男は他にいないわ……当然、私は恋に落ちた。そしてその愛が届いたのか、エジタスは私にこの……“夢の絵本”を渡してくれたの”



 “あらなぁに? もしかして妬いてるの?”



 “へぇー、それじゃあ……キスしても問題無いわよね”



 “良いじゃない、あなたは私の夫なんだから”



 “もうエジタスったら……大好きよ”







 「…………」



 ありとあらゆる可能性を当て嵌め様と、記憶を思い起こす真緒だったが、思い出されるのはメユとエジタスがキスする場面だかりだった。



 「(あぁもう!! どうして思い出しちゃうの!! あの師匠は偽物!! だから羨ましくなんか無い!! 羨ましくなんか……ん?)」



 その時、メユの言葉に違和感を覚える真緒。



 「(そう言えば……何故メユちゃんは師匠の事を“夫”って言ったんだろう? 本来、メユちゃんと師匠の関係は“曾孫”になる筈……それなのに何故?)」



 それは些細な疑問。しかしその疑問は次第に大きく膨れ上がる。



 「(それと気になったのはソーニョさんが最後に言った言葉……)」



 “あの子を……解放してあげて”



 「(解放……普通に考えたら助けてあげて……もしくは救ってあげてになる筈……それがわざわざ解放してあげて……まるで何かに縛られているかの様な表現……それに気になったのはもう一つ、ソーニョさんが言ったあの言葉……)」



 “私の本当の名前は……メユ”



 「(メユ……ソーニョでは無く、メユ……まるで自分もメユと言っているかの様な……まさか……)」



 その時、真緒にはある一つの可能性が浮かび上がっていた。



 「(いや、でもそんなまさか……あり得ない……絶対にあり得ない!!)」



 しかしそれは、決して現実ではあり得る事の無い可能性であった。



 「(あるのは状況的な証拠……物理的な根拠や証拠は無い……でも……)」



 現実的に考える人間なら、即座に否定する可能性。だが真緒にとってその可能性は、即座に否定する事は出来なかった。



 「それじゃあ、水を掛けるぞ」



 「あっ……」



 あれこれ考えている間に、フォルスが給水袋に入っている最後の水を、レーヴが抱えている夢の絵本に掛けようとする。給水袋を傾け、中から水が零れ出す。



 「…………ちょっと待って下さい!!」



 「「「!!!」」」



 雫が一滴零れるか零れないかの瀬戸際で、真緒がフォルスから給水袋を取り上げた。



 「皆……私の考えを聞いてくれない?」



 「「「…………」」」



 呆気に取られている三人を目の前にしながら、真緒は自身が辿り着いたある可能性を語るのであった。しかしそれはあまりにも信じがたい内容であった。
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