笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第三章 冒険編 私の理想郷

目を覚ます時

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 「あ……あぁ……あぁ……!!」



 水を掛けられた夢の絵本。中から赤黒い液体が外に滲み出る。



 「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!」



 メユは側にいる真緒達に目もくれず、無我夢中で夢の絵本に触ろうとする。しかし、何度触れようとしてもすり抜けてしまう。



 「いや……いや……っ!!?」



 酷く焦っていると、メユの両腕がどろどろに溶け始めた。



 「あぁ……あぁ……!!!」



 慌てて偽物の夢の絵本で元の形に戻ろうとするが、それ自体がどろどろに溶けて原型を留めていなかった。



 「こんな……こんな事って……」



 怒りと悲しみから地面を叩きたいが、肝心の両腕は既に溶けてしまった。



 「あぁ!! あぁ!! あぁあああああ!!!」



 両腕の代わりと言わんばかりに、頭を地面に何度も叩きつける。何度も、何度も、何度も……。



 「「「…………」」」



 そんなメユの様子に真緒達は、どう声を掛けて良いものかと、困惑していた。



 「……何て事してくれたの……」



 「「「……?」」」



 すると何度も頭を叩きつけていたメユが、地面に頭を擦り付けながら声を発する。



 「何て事してくれたのよ!!」



 「「「!!!」」」



 地面に擦り付けたまま、視線だけを真緒達に向ける。その顔は酷く歪んでおり、半分溶け出していた。それが体と混ざり合い、不格好な生き物になっていた。



 「あんた達のせいで、私の理想郷は台無し!! ずっと夢見て来た生活が消えて無くなる!!」



 体を引き摺り、どろどろになりながらも、真緒達の下へと近付く。



 「満足!!? 人様の夢を滅茶苦茶にして!!? あなた達は最低最悪の悪者よ!!」



 「お前がっ……!!? マオ……」



 フォルスが言い返そうとするが、真緒に止められる。すると真緒は一人、ゆっくりとメユの側に歩み寄ると、しゃがんで目線を近づける。



 「確かに……私は滅茶苦茶にした……でも、それって本当にあなたの夢だったの?」



 「……何ですって?」



 「あなたが師匠と、どう言う関係だったのかは知らない……でも少なくとも、師匠から夢の絵本を手渡される前のあなたの夢はこんなのじゃ無かった……違う?」



 「…………」



 「あなたが描いたこの理想郷は、師匠と関わった事で生まれた世界……つまり、あなたが思い描いていた絵に第三者が手を加えた事になる……それで本当にあなた自身の夢だと、ハッキリ言える?」



 「……言えるわ……経緯がどうであれ、私はエジタスに影響を受けて、結果この理想郷を思い描いたのだから……」



 「やっぱり……あなたも師匠という道化師に弄ばれた被害者なんですね……」



 「ど、どう言う意味よ!!?」



 「だって今、自分で言ったじゃありませんか!!? 『エジタスに影響を受けて』……それはもう、あなたが思い描いた純粋な夢じゃないって事を、認める様な物ですよ!!!」



 「……っ!!!」



 痛い所を突かれた。メユは苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべ、思わず目線を反らした。



「……そしてあなた自身、それに薄々気が付いていた……」



 「…………」



 「気が付き、師匠の事を忘れようとした……変わろうとしていた時期があった!!!」



 「…………」



 「…………ソーニョさん」



 「!!!」



 ソーニョの名前が出た途端、驚いた様に反らしていた目線を元に戻す。



 「四人の中で、唯一私達を助けようとしてくれた。それってつまり、あなたは二十歳頃に一度今の夢を諦めて、新しい夢に踏み出そうとしていたんじゃありませんか!!? だからソーニョさんは私達を助けて……「黙れ!!!」……」



 真緒の言葉を遮るメユ。その目から一滴の雫が流れ落ちる。涙かはたまた溶け出した液体か。



 「……分かってるわよ……そんな事……ずっと前から分かってた……エジタスが、私の下に戻って来る事は無いって……分かってたわよ……」



 「メユ……」



 「何度も諦めようとした!! 夢の絵本を捨てて、心機一転!! 新しい第一歩を踏み出そうと思った!! でも……出来なかった……夢の絵本を見る度に、エジタスの顔が思い浮かんで……初めて会った時の楽しい思い出が甦る……もしかしたら……もしかしたら戻って来てくれるかもしれない……そう思ったら、捨てるに捨てられなくなって……結局、死ぬまで手放す事が出来なかった……」



 「恐らく、ロストマジックアイテムに宿るエジタスさんの残留思念だろう。余程精神が図太い者じゃなければ、振りほどく事は難しい……」



 「……あなたの言う通り……夢見の時間は終わり……目を覚ます時が来たのかもね……」



 「メユさん……」



 すると、メユは何処からか一通の手紙を取り出し、両腕が無い中で体全体を使って真緒の前に差し出す。



 「これは?」



 「エジタスから貰った手紙……」



 「師匠からの!!?」



 「若気の至りって奴? エジタスと別れる際に渡した恋文の返事。一通だけだけどね……ほら、何処に住んでいるとか分からなかったから……」



 「どうしてこれを?」



 「……中に、あんた達が言っていたロストマジックアイテム? に関する情報が入ってる」



 「ほ、本当ですか!!?」



 「えぇ、告白に対する返事だと思ってドキドキしながら開けたんだけど……書いてある内容は意味不明……でもこれだけは分かった……全く脈無しだって……」



 「…………」



 「そんな気にする必要無いわよ。子供の頃の私に、まだ恋するのは早かった……それだけよ」



 「……そんな事ありません……」



 「…………え?」



 「恋をするのに、早いも遅いもありません!!」



 「あんた……」



 「恋は夢と同じです!! 山があって谷があって!! 挫けそうな時もあるけど、皆叶えたい一心で頑張るんです!!」



 「…………はぁー」



 真緒の言葉に、メユは深い溜め息を付く。しかしその溜め息に嫌な感じは全くしなかった。



 「……もっと……早くあなた達に会えていたら……私の人生……上手くいっていたのかな……?」



 「……それは……」



 「ううん……違うか……出会う出会わないの問題じゃない……自分の人生は自分で切り開く……私に足りなかったのは夢への渇望じゃない……夢へと一歩踏み出す為の“自立精神”……」



 「「「…………」」」



 全てを悟ったかの様に、メユは寝転がって仰向けになり、空を見上げる。



 「綺麗事に思うかもしれないけど……最後にあなた達に会えて……本当に良かった……」



 どろどろに溶けていた体は、遂に原型が保てなくなる程までになった。



 「私を……夢から……覚まさせてくれて……ありが……と…………」



 そう言い残すと、メユは完全に溶けて無くなってしまった。



 「「「…………」」」



 後味の悪い結末。出会い方が違えば、もっと早く出会っていたら、過ぎてしまった出来事を悔やみ続ける。



 「終わったね……」



 「あぁ……」



 「……ハナコさん……ハナコさんは!!?」



 「そ、そうだ!! ハナちゃん!! ハナちゃ……っ!!?」



 一段落した三人は、ハナコの事を思い出し、その安否を確かめようとする。しかし次の瞬間、地面が激しく揺れ始める。



 「じ、地震!!?」



 「い、いや違う!! これは……!!?」



 あまりの激しい揺れに、思わず尻餅を付く三人。立つ事すらままならない状況の中、地面がどろどろに溶け始める。



 「こ、このままじゃ不味い!! 逃げるぞ!!」



 「そ、そんな急に言われても……きゃあ!!?」



 地面が溶け始め、踏み場を失くした三人は液体となった地面に巻き込まれる。



 「リーマ!! フォルスさん!!」



 「くそっ!! どうなっているんだ!!」



 「ハナコさん!!? ハナコさんは!!?」



 ハナコの安否を心配する中、ハナコも真緒達と同じ様に溶け出した地面に巻き込まれていた。



 「み、見ろ!! 館が!!!」



 三人が館に目を向けると、館はどろどろに溶け出し、中にいた街の住人達と一緒に地面と同化し始めていた。



 「それだけじゃありません!! あれ!!」



 館のみならず、街全体がどろどろに溶け出していた。今まで真緒達が関わった酒場、料理屋、武器屋などが全て溶けて混ざり始めていた。



 「これからどうなるんでしょうか……」



 「分からない……っ!!?」



 すると突然、全て混ざり合った液体がぐるぐると洗濯機の様に回り始めた。



 「あぁあああああ!!! き、気持ち悪いです!!」



 「め、目が回る……」



 「気を確り持て……気を確り……おぇ……」



 目が回り気分が悪くなる中、次第に回る速度は早くなり、中心に向かって収縮し始める。そして最終的に細長い一本の線となり、綺麗さっぱり消えて無くなってしまった。後に残るのは暗闇だけだった。









 「ねぇ、あなた何処から来たの?」
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