笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

文字の大きさ
57 / 275
第三章 冒険編 私の理想郷

夢見の時間

しおりを挟む
 「夢見の時間は終わり? 目を覚ます時? ふざけるんじゃないわよ!!」



 「!!!」



 リーマとフォルス、二人のピンチに颯爽と現れた真緒。しかしメユの力を前に少しずつ押し負け始める。



 「マオ!! 大丈夫か!?」



 「マオさん!! 今すぐ助けます!!」



 「私は……大丈夫だから!! 二人は急いで……夢の絵本に水を掛けて!!」



 二人が助け船を出そうとするが、その必要は無いと断られてしまう。そして、逸早く夢の絵本に水を掛けろと言われた。



 「わ、分かった!!」



 「マオさん、どうかご無事で!!」



 真緒の言葉に従い、二人は掘り返された墓の前へと駆け寄る。



 「さ、させるかぁあああああ!!!」



 するとメユは、ムカデの様な下半身を巧みに操り、目の前にいる真緒を締め上げる。



 「し、しまった!!」



 「あんた達なんかに、私の体を触らせるもんですか!!」



 メユは両腕の鋭い刃を伸ばし、掘り返された墓の前に立つ二人を左右に突き飛ばした。



 「ぐはぁ!!!」



 「きゃあ!!!」



 勢い良く突き飛ばされ、それぞれ地面に強く体を叩き付けられた。



 「あぁ……私の体……本当の体……」



 「ぐっ……や、やはり……そのミイラこそが……本当のあなただったんですね……」



 「…………えぇ、そうよ」



 締め上げられながらも、真実を追及する真緒。そんな真緒の言葉を、メユは素直に認めた。



 「……この通り、私の肉体は既に風化している。私はそんな肉体から生まれた言わば“思念体”……オリジナルの夢の絵本によって、あの世から呼び戻されたの……」



 「それじゃあ……メユ……まさかあなたは……?」



 「……故人よ」



 メユは既に亡くなっていた。しかしそうなると、まだ多くの疑問が浮かび上がる。



 「あなたが故人だとすると……ソーニョさん、ソンジュさん、レーヴさんは?」



 「もう薄々感付いているんでしょ? ソーニョから色々と聞いた様だし……」



 「……同一人物」



 「そう……ソーニョは私が“二十歳”の頃の姿……ソンジュは私が“四十四歳”の頃の姿……そしてレーヴは……寿命僅かで寝た切りとなってしまった頃の姿……全て、私が歩んで来た人生の姿なのよ」



 「で、でも……いったいどうやって……?」



 「どうやって増やしたか? 簡単よ、生前私はあの夢の絵本を用いて、ずっと自分の理想とする家族像を描いて来たのよ……」



 「家族像……?」



 「エジタスと初めて会った私……二十歳で結婚した私……相手は勿論エジタス……そんなエジタスと二人きりで、この館に何十年も暮らす……そして寿命を迎え、寝た切りになった私をエジタスが最後まで見届け、この墓に埋葬する……」



 「ま、まさか……」



 「私は……自分の一生を描いたのよ……」



 描いた空想を現実に起こす。そんな能力を秘めている夢の絵本に対して、メユが描いたのは自分が死ぬまでの一生であった。どんなに先を見据えた人であろうと、自分が亡くなる前提の理想郷を描く事などあり得ない。それは最早、聖人の域に達している。



 「別に驚く事じゃ無いでしょ? どんな生き物だっていつかは死ぬ……私はね、自分が死ぬ時も理想的な形で死にたいと思っているのよ……只それを描いただけ……まぁでも、まさか描いた空想が現実に起こされるなんて……思っても見なかったけどね……」



 「どう言う事ですか?」



 「言葉通りの意味よ。生きている間、私は夢の絵本の事を只の絵本だと思っていた。そして思いながらその生涯に幕を閉じた」



 「えっ、それじゃあいったいどうやってこの世に戻って……?」



 「詳しい事は覚えてない……気が付いた時にはこの世界にいて……意識が朦朧とする中、“そいつ”は私の前に現れた……」







***







 「うぅ……こ、ここは……?」



 『目覚めたか……』



 そこにいたのは、真っ黒なローブを被った不気味な奴だった。



 「あ、あんたは?」



 『そんな事はどうでもいい……お前に渡す物がある……』



 そう言うとそいつは、私に見覚えのある絵本を手渡した。



 「こ、これは……!?」



 『お前のロストマジックアイテムだ……“偽物”だがな……』



 「偽物? どう言う意味よ?」



 『本物はお前が持っている……いや、正確にはお前の成れの果てが……』



 「それって……」



 するとそいつは、私に背を向けて何処かに行こうとした。



 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」



 『ここでのやるべき事は終わった……後はお前次第……それを生かすも殺すも……お前次第……』



 そう言うと、一瞬にして姿を消してしまった。



 「あっ、ちょ!! どう言う事なの……?」







***







 「それから私は現状を理解する為に、館内を歩き回り、そこでかつての私とエジタスに出会う事となった。かつての私は、それぞれ“黒ローブ”に偽物の夢の絵本を手渡されていた。同一人物とは言え、同じ名前で呼び合うのは気持ち悪い……そこでそれぞれの私にソーニョ、ソンジュ、レーヴという名前を付けた……」



 「その黒ローブは、いったい誰なんですか!?」



 「知らないわよ、顔もフードを被っていてよく見えなかったし……それに感謝しているのよ」



 「感謝?」



 「思念体とは言っても、こうして蘇る事が出来たのだから……本当に感謝してもしきれないわ」



 「それなら何故、アレリテさんを……他の人達を巻き込んだんですか!?」



 「いくら描いた空想が現実となると言っても、偽物じゃ限界や制限がある……生き物を作ろうとしても知性が全く無い存在が生まれてしまう。そこで、元々知性のある外の世界にいる人達を取り込む事が出来れば、知性のある生き物が作れるんじゃないかと思った訳、結果は大成功!! 知性のある生き物が次々と生まれたわ。それにあんな可愛らしい見た目になって……」



 「可愛らしい? 体がウサギで顔がおっさんの生き物が可愛らしいって言うんですか!?」



 「そのギャップが愛らしいんじゃない。体はふわふわなのに、顔は油でギトギト……可愛いわ」



 「変わった趣味をお持ちで……」



 「でもそんな街の住人も、知性を持ったまま操る事は出来なかった……やっぱり本物の夢の絵本じゃないと……無理なのかしらね……」



 「なら、使えば良かったじゃないですか……」



 「それが出来れば苦労しないわよ……私みたいな思念体や街の住人が触ろうとすると……」



 そう言いながらメユは、ミイラのメユが握り締めている夢の絵本に触ろうとする。しかし、まるで実体が無い様にすり抜けてしまった。



 「ほらね? 触りたくても触れないのよ。恐らく触れるのは肉体を持っている者だけ……だから黒ローブは、思念体である私でも触れられる偽物を用意したんだと思うわ……」



 「でも……でもだからって他人の人生をめちゃくちゃにしていい理由にはならない!!」



 「そうね……その通りだわ……でも……」



 真緒を締め付けるムカデの様な下半身の力が強まる。



 「ぐっ……あぁあああああ!!!」



 「ここは私の理想郷……私がこの世界の創造者なの……何をしようが私の勝手……あなたなんかに意見される筋合いは無いわ!!」



 「うっ……あがっ!!!」



 「つい長話をしてしまったわ……年の功って奴かしらね……でもこれで終わりよ!! 全身の骨を砕いてあげる!!」



 「……まだ……終わる訳にはいかない……」



 「何か言ったかしら?」



 「あなたみたいな……人の事を考えない……自分勝手な人に負ける訳にはいかない……負けたくない!!」



 「身動き一つ取れない癖に、何を言っているのかしら? 今のあなたの姿は実に滑稽よ。おーほっほっほ!!!」



 「アレリテさん……ハナちゃん……皆の為にも……ここで諦める訳にはいかない!! そうでしょ、二人供!!」



 「「おぉ!!!」」



 締め付けられながら真緒が大声を上げると、先程メユによって突き飛ばされた二人が突然、掘り返された墓の前に飛び出して来た。



 「なっ!? あ、あんた達は!!?」



 「へへっ、あれ位の攻撃で俺達が殺られると思ったのか?」



 「私達だって日々成長するんです。一度や二度の失敗で諦めたりしません!!」



 「ふ、ふざけるんじゃ……っ!!?」



 リーマとフォルス。二人が突然飛び出して来た事に驚くメユ。慌てて二人に近付こうとするが、突然歩みが止まる。



 「い、行かせまんよ!!」



 「お、お前!!!」



 真緒は、ムカデの様な下半身に締め付けられながらも、リーマとフォルスがいる墓の前とは反対方向に引っ張る事で、メユの足止めをしていた。



 「今の内だよ!! 早く水を!!」



 「分かった!!」



 フォルスは真緒から渡された給水袋を取り出すと、蓋を外してミイラのメユが握り締めている夢の絵本に、中の水を掛けようとする。



 「や、や、やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」



 声を荒げ、真緒に引っ張られながらも無理矢理近づこうとするメユ。するとムカデの様な下半身から“ミチミチ”という嫌な音が聞こえて来た。



 「えっ!? まさか!?」



 「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」



 真緒とメユ、互いの引っ張り合う力が遂にメユのムカデの様な下半身を引きちぎった。



 「待てぇええええええええええええええええええええええええええええ!!!」



 空想から描かれた姿の為、血は一滴も流れないが、羽を大きく羽ばたかせながら上半身だけの姿で、水を掛けようとする二人の側へと勢い良く近付く。



 「リーマ!! フォルスさん!!」



 「!!? フォルスさん危ない!!」



 「何!!?」



 「きぇえええええええええええええええええええええええええええええ!!!」



 メユの鋭い腕が、水を掛けようとするフォルスの腕を切り飛ばした。



 「がはぁ!!?」



 「「フォルスさん!!」」



 「まだよ!!」



 するとメユは、切り飛ばされ空中に舞い上がったフォルスの腕を追い掛け、給水袋もろとも細かく切り刻んだ。中の水が地上に落下するが、夢の絵本には掛からず土の上に降り注ぐ。水を吸収した土は、瞬く間に乾いてしまった。



 「そ、そんな……」



 「くそっ……こんな事になるとは……」



 「アレリテさん……ハナコさん……ごめんなさい……ごめんなさい…………?」



 希望が潰え、各々が絶望を味わう中、膝から崩れ落ちたリーマは、内ポケットに硬い“何か”が入っている事に気が付く。



 「……こ、これって!!?」



 「やった……やったわ……これで……これで私の完全勝利よ!! あなた達の努力も全て無駄!! ご苦労様でした!! おーほっほっほ!!!」



 「まだ終わっていません!!」



 「「「!!?」」」



 リーマはゆっくりと立ち上がり、空中にいるメユを睨み付ける。



 「……?」



 「……リーマ?」



 「うーん? 聞き間違いかしらね? 今、何て言ったのかしら?」



 「まだ終わって無いと言ったんです!!」



 「おーほっほっほ!!! 何を言うかと思えば、水も無いのにどうするつもりなの? おーほっほっほ!!!」



 「水ならあります!!」



 「おーほっほっ…………は?」



 「ここに!!」



 リーマが見せたのは、少量の水が入っている小瓶だった。



 「そ、それはまさか!?」



 「アレリテさんの!?」



 驚きの声を上げる二人に、リーマは強く頷く。



 「……は? 何それ? 何その展開? ふざけるな……ふざけるな……ふざけるな……ふざけるな……ふざけるなぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」



 目の前の現実を受け入れられないメユは、発狂しながら無我夢中でリーマの持つ小瓶目掛けて襲い掛かる。しかしその時には既に、リーマは小瓶の蓋を開けて中の水を夢の絵本に掛けていた。



 「……これで、あなたの理想郷は終わりです!!」



 「あ……あぁ……あぁ……!!!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-

いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、 見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。 そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。 泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。 やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。 臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。 ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。 彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。 けれど正人は誓う。 ――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。 ――ここは、家族の居場所だ。 癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、 命を守り、日々を紡ぎ、 “人と魔物が共に生きる未来”を探していく。 ◇ 🐉 癒やしと涙と、もふもふと。 ――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。 ――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ 主人公はあまり戦ったりはしません。

転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。

山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。 異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。 その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。 攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。 そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。 前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。 そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。 偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。 チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

処理中です...