笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第四章 冒険編 殺人犯サトウマオ

決別

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 「記憶喪失……」



 「あぁ、基本的な事は覚えていたから、日常生活に支障は無かったけど……肝心な自分に関する事を忘れていた……名前、出身、家族関係や友人関係まで全て……」



 「そんな……」



 「何故、その話を俺達にしたんだ?」



 「僕は彼女の事を知らない。アイラという名前だって、僕が付けた物で本当の名前じゃない。それは村の皆も分かっている事だし、ずっとアイラと呼び続けていた。だけど今日、彼女は初めてアイラとは別の名前で呼ばれた……“マイコ”」



 「…………」



 「この一年、色々と考えていた。彼女を記憶喪失のままにしていいのか……もし両親や友人がいるなら、その人達に会わせてあげるべきなのではないかって……」



 「リューゲさん……」



 「彼女……いや、マイコさんにご両親は?」



 「……いません……」



 正確にはいるが、この世界にはいない。最早戻る術が無い現状からすれば、いないも同然である。



 「そうか……で、でも君達がいる。彼女の事を知る君達がやって来てくれた。これで一安心だ。彼女の事をよろしく頼むよ」



 リューゲは頭を深々と下げて、真緒達に舞子の保護を頼んだ。



 「…………申し訳ありませんが、私達は彼女を保護するつもりはありません」



 「……えっ?」



 「マオさん……」



 「マオぢゃん……」



 「マオ……お前……」



 「ど、どう言う事ですか? あなたと彼女は知り合いですよね?」



 「……いえ、今日初めて会いました」



 「!!?」



 真緒はハッキリと、初めて会ったと言った。驚きの表情を浮かべるリューゲに対してハナコ、リーマ、フォルスの三人は何かを察したのか、険しい表情を浮かべていた。



 「い、いやそんな訳無いでしょう!? 現にあなたは彼女の事をマイコと「間違えました」……?」



 「リューゲさん……間違えました」



 「何を言っているんですか?」



 「私が知っている石田舞子という少女は、ズル賢くて流されやすい。長いものには巻かれる性格で、自分から前に出ようとしない……今日会ったアイラさんは、舞子に姿こそ瓜二つですけど、全くの別人でした。純粋で優しく、誰にも流されない強い心を持っていて、聖女と呼ばれるほど村の為に貢献している……舞子とは正反対の人間ですよ」



 「い、いやでも行方不明になった時期と彼女が現れた時期が一致しますし……」



 「だとしても……彼女を保護する事など、今の私達では出来ません」



 「な、何故ですか!?」



 「……実は私達、ある人物が生前に遺したとされる強力なマジックアイテム。ロストマジックアイテムの回収をしているんです」



 「ロストマジックアイテム……」



 「回収にはかなりの危険が伴います。他人を保護する余裕なんてありません。自分の身は自分で守らないといけませんから」



 「だから……保護する事は出来ないと?」



 「はい……それにアイラさんは今とても幸せな筈です。愛する人の隣にいられるのだから……そんな彼女の幸せを勝手に引き裂く訳にはいきません。どうしてもと仰るのであれば、彼女自身から許可を得てからにして下さい」



 「で、でもそれじゃあいざという時に彼女を守れない!!」



 「あなたが守ってあげればいい……」



 「ぼ、僕が……?」



 「彼女の夫なんでしょ? それならあなたが守らないと……」



 「む、無理だよ……非力な僕なんかじゃ……誰も守れない……」



 リューゲは、悔しさから俯いて自身の両腕を強く掴んだ。



 「誰も守れない……本当にそうでしょうか?」



 「どう言う意味でしょうか?」



 「少なくとも、今日この日まで記憶喪失の彼女を支えて来たのは、あなたのおかげですよ。リューゲさん」



 「そ、そんな……私は何も……「あなただけなんです」……えっ?」



 「あなただけなんです。彼女を……アイラさんを幸せに出来るのは、あなただけなんです。他の誰でも無い、あなただけなんです」



 「…………」



 「夫として……彼女を愛する一人の男性として……彼女の……アイラさんの事をこれからも守って下さい。よろしくお願いします」



 先程のリューゲと相対する様に、真緒は深々と頭を下げて、リューゲにアイラの保護を頼んだ。



 「マオさん……あなたって人は……」



 その姿に、リューゲは他の三人同様に険しい表情を浮かべる。真緒が下した“決別”に納得はしなかった。



 「……分かりました……このリューゲ……責任を持って……彼女を……妻であるアイラを守らせて頂きます……」



 「リューゲさん……ありがとうございます」



 だが、納得するしないは関係無かった。ここで断ってしまえば、真緒の覚悟は無駄になってしまう。友を一人失う真緒の覚悟が無駄になってしまう。そんな非道な事、リューゲにはとても出来なかった。だからこそ彼は真緒の覚悟に答える為、そして妻を愛する夫としてずっと守り続ける事を誓ったのだ。



 「……本当に良かったのか?」



 「……えぇ、私の知っている石田舞子は、一年前のあの日に亡くなりました。新しい門出を踏み出すアイラさんの邪魔は出来ませんよ」



 と、悟った様な言葉を述べる一方、感情を抑え込むのに強く握っていた両手の掌は、食い込んだ爪によって出血を起こしていた。



 「……強くなったな……」



 そう言いながらフォルスは、真緒の頭を優しく撫でるのであった。



 「彼女の幸せを願って自ら身を引く……かぁー、気持ち悪い!!」



 「「「「「!!?」」」」」



 その時、二階から男性と思われる低い声が聞こえて来た。



 「他人の為に行動する良い子ちゃんばかり……違うだろう!? 人間の本質ってのはさ、私利私欲!! 欲望に忠実なだけ、光輝くって物だろう!?」



 一段ずつ、階段を降りて来る男性。右側の頭部には三本の爪の様な反り込みが入っていた。反対の左側はかなり伸びており、前髪が下顎まで届いていた。



 「リューゲさん、あの方は?」



 「……僕の……“弟”です」



 「「「「弟!!?」」」」



 重々しく口を開いたリューゲ。そんなリューゲからの弟という言葉に、真緒達は思わず驚きの声を上げてしまう。



 「どうも、弟の“アージ”でぇーす。よろしくお願いしまぁーす」
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