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第四章 冒険編 殺人犯サトウマオ
アイラ村殺人事件~真相~第一部
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「さて、事件の真相を解き明かす為に一つずつ紐解いて行こう。その前にマオ……お前が犯人となった決め手を覚えているか?」
「はい……アージさんのベッドに私の髪の毛が抜け落ちていた事です」
「そうだったな……俺達が部屋を訪ねた時、お前は殺されたアージのベッドで眠っていた」
「何だ、やっぱりその女が犯人じゃないか?」
「まだこの話には続きがある。この広場に向かう前、俺はマオが寝ていたベッドを調べた」
「それで? どうだった?」
「…………マオの髪の毛しか見つからなかった」
「はっ、そりゃ残念だったな」
「残念? 何を言っている?」
「何って……そこにいる女が寝ていたベッドを調べたんだろう!? だがあったのは女の髪の毛だけ!! つまり貴様はその女の罪をより明確にしたという事だ!!」
「いや、その逆だよ」
「逆だと……?」
「マオが寝ていたベッドにはマオの髪の毛以外無かった……そう部屋の主である“アージの髪の毛”すら一本も無かった」
「…………っ!!!」
「い、いったいどう言う事ですか!?」
「もし仮にマオがアージのベッドで寝ていたとするなら、毎日そのベッドで寝ているアージの髪の毛が落ちていないのは、随分と不自然じゃないか?」
「た、確かに……!!!」
「そこで俺はこう推理した。マオは“ベッドごと”移動させられたんじゃないか……」
「「「「ベッドごと!?」」」」
「驚いたよ。生身の人間をそのまま運ぶのでは無く、寝ているベッドごと運んでしまうとはな。これならベッドに髪の毛が落ちているのも納得出来る訳だ」
「…………ん? ちょっと待って下さい……それはおかしいですよ」
ここで初めて、フォルスの推理に対して異議を唱えられる。それは仲間の一人であるリーマであった。
「もしフォルスさんの言う通り、ベッドごとマオさんを移動させたとするなら、必ずそれなりの物音はする筈です。ですが、昨晩は物音一つしなかったと“リューゲ”さんが証言しているじゃありませんか?」
「その通りだ。つまり残る可能性は二つ……そもそも俺の推理が間違っていたか……それとも……証言した本人が事件に関わっていたか……」
「「「「!!?」」」」
その場にいる全員が理解した。無実の罪で処刑されそうになり、同情されていた男だったが、今現在は事件の真犯人ではないかと疑惑の目で見られてしまっている事実に。
「た、確かに……考えて見れば怪しい点はありました……真夜中に険しい表情を浮かべて部屋を出ていったと思ったら、戻って来た時には穏やかな表情になっていた……」
「もしあれを犯行前と犯行後と考えるのであれば……充分あり得る……」
「ぞれに昨晩リューゲざんどアージざんは、一触即発の雰囲気になっでいだだぁ……づいイラづいで殺っでじまっだどずれば……」
「動機も完璧……そんな……嘘でしょリューゲ!? ねぇ、嘘だと言ってよ!!」
舞子が必死に呼び掛けると、リューゲはゆっくりとこちら側に目線を向け、静かに口を開いた。
「……ごめん……アイラ……」
「リューゲ……」
「俺が……俺がアージを殺りました……」
自白。その呆気ない幕引きに、思わず言葉を失う一同。
「全ては皆さんが思った通りです……昨晩の喧嘩で頭に血が上っていた俺は……皆さんへの無礼を謝罪する様、アージに言おうと部屋に向かいました。だけどあいつは……謝るどころか……」
“謝罪? 何で俺がそんな事をしなくちゃならないんだよ? 寧ろ謝るのはあいつらの方だろ? まぁ、謝ったとしても許さないけどな!! あっ、でもあの三人の女が俺の女になるって言うのなら、話は別だけどな。あっはっはっはっは!!!”
「頭が真っ白になりました……怒りだけが沸き立ち、気が付いた時にはアージの奴を斬り殺していました……焦った俺は何を考えたのか、罪を擦り付けようと考えました。マオさんの部屋に忍び込み、剣を盗みました。そして傷口に従って切り込みを入れ、あたかもマオさんの剣で斬られた様に見せ掛けました」
「成る程……それで綺麗な切り傷が出来たと言う訳ですか……」
「…………」
「はい……後はフォルスさんが仰った通りです。マオさんをベッドごと移動させて、言い逃れ出来ない状況を作ろうとしました……でもやっぱり駄目ですね……実の弟を殺したという罪悪感が纏わり付いて……それでロージェさんに相談したんです」
「ロージェさんに?」
ここでまさかのロージェの名前が出て来た事に、驚きを隠せない真緒達。
「はい、ロージェさんは俺が疚しい事を隠していると表情から読み取り、声を掛けて来ました。そこで俺は事の全てを自供しました。そしてロージェさんは、逃亡中だったマオさんとハナコさんの二人を呼び戻す為……この嘘公開処刑を決行しようと提案して来たんです。すみませんロージェさん……こんな大事になってしまうとは……」
「……はぁ……まぁ、結果的に丸く収まる事が出来た……それだけでもやる意味はあった」
役目を終えた様に深い溜め息を吐き、構えていた剣を鞘に戻した。
「そんな事が……でも、それならそうと言ってくれれば……」
「『真犯人は家主だった。お前の無実は証明された。だから安心して出て来い』そんな言葉をまともに信じられると思うか?」
「た、確かに……」
「あれ位、荒っぽいやり方の方が信用を得るには都合が良い」
「でも生きた心地がしませんでしたよ……まるで本気で殺しに掛かって来ているのかと思いました……」
「はっはっは!! それは悪かった。本気で殺しに掛からないと、逆にこっちが殺られてしまうと思ったからな」
腕組みをしながら高笑いするロージェ。対して真緒達は苦笑いを浮かべていた。
「さて……勇者さんの誤解も解けた所でだ……そろそろ行こうか」
「……はい」
ロージェに促され、兵士達がリューゲを立たせるとそのまま連行しようとする。
「ま、待って!! 夫はどうなるの!?」
「肉親を殺した罪は重い……良くて終身刑……悪くて死刑だろう」
「そんな!!?」
「アイラ……良いんだこれで……」
「何が良いのよ!! どうして……どうして相談してくれなかったのよ……助け合ってこその夫婦でしょ……それなのに……それなのに……」
「アイラ……ごめん……愛している」
「……私もよ」
悲しき別れ。リューゲがもっと冷静だったら。第三者に相談を持ち掛けていたら。もしかしたら結末は変わっていたのかもしれない。しかし結局の所、それは結果論でしかない。一つの過ちによって、全てを失う。珍しい話ではない。この別れも起こるべくして起こった。只、それだけなのだ。
「終わったね……」
「ぞうだなぁ……」
「何だか……やりきれない終わり方ですね……」
「…………」
納得のいかない結末ではあるが、こうしてアイラ村で起こった殺人事件は静かに幕を下ろすのであった。
「おい、ちょっと待てよ。話はまだ終わって無いぜ」
「「「「「「!!?」」」」」」
しかしその時、下ろし掛けた事件に待ったを掛ける男がいた。
「フォルス……さん?」
「何を言っているんだ? たった今、彼は犯行を認めたのだぞ? これ以上、何の話があると言うんだ?」
「リューゲは犯人じゃない」
「何だと!?」
「ほ、本当なの!!? 夫は犯人じゃ無いの!!?」
「あぁ、勿論だ」
「いい加減な事を抜かすな!!」
「いい加減かどうか、俺の推理を聞いてからでも遅くは無いんじゃないか?」
「…………良いだろう。聞かせて見ろ、お前の推理とやらを……」
「今までの話は前座……これから話すのは事件に隠されたもう一つの真実だ!!」
第一部の幕は下ろされた。そして今まさに第二部の幕が上がろうとしていた。
「はい……アージさんのベッドに私の髪の毛が抜け落ちていた事です」
「そうだったな……俺達が部屋を訪ねた時、お前は殺されたアージのベッドで眠っていた」
「何だ、やっぱりその女が犯人じゃないか?」
「まだこの話には続きがある。この広場に向かう前、俺はマオが寝ていたベッドを調べた」
「それで? どうだった?」
「…………マオの髪の毛しか見つからなかった」
「はっ、そりゃ残念だったな」
「残念? 何を言っている?」
「何って……そこにいる女が寝ていたベッドを調べたんだろう!? だがあったのは女の髪の毛だけ!! つまり貴様はその女の罪をより明確にしたという事だ!!」
「いや、その逆だよ」
「逆だと……?」
「マオが寝ていたベッドにはマオの髪の毛以外無かった……そう部屋の主である“アージの髪の毛”すら一本も無かった」
「…………っ!!!」
「い、いったいどう言う事ですか!?」
「もし仮にマオがアージのベッドで寝ていたとするなら、毎日そのベッドで寝ているアージの髪の毛が落ちていないのは、随分と不自然じゃないか?」
「た、確かに……!!!」
「そこで俺はこう推理した。マオは“ベッドごと”移動させられたんじゃないか……」
「「「「ベッドごと!?」」」」
「驚いたよ。生身の人間をそのまま運ぶのでは無く、寝ているベッドごと運んでしまうとはな。これならベッドに髪の毛が落ちているのも納得出来る訳だ」
「…………ん? ちょっと待って下さい……それはおかしいですよ」
ここで初めて、フォルスの推理に対して異議を唱えられる。それは仲間の一人であるリーマであった。
「もしフォルスさんの言う通り、ベッドごとマオさんを移動させたとするなら、必ずそれなりの物音はする筈です。ですが、昨晩は物音一つしなかったと“リューゲ”さんが証言しているじゃありませんか?」
「その通りだ。つまり残る可能性は二つ……そもそも俺の推理が間違っていたか……それとも……証言した本人が事件に関わっていたか……」
「「「「!!?」」」」
その場にいる全員が理解した。無実の罪で処刑されそうになり、同情されていた男だったが、今現在は事件の真犯人ではないかと疑惑の目で見られてしまっている事実に。
「た、確かに……考えて見れば怪しい点はありました……真夜中に険しい表情を浮かべて部屋を出ていったと思ったら、戻って来た時には穏やかな表情になっていた……」
「もしあれを犯行前と犯行後と考えるのであれば……充分あり得る……」
「ぞれに昨晩リューゲざんどアージざんは、一触即発の雰囲気になっでいだだぁ……づいイラづいで殺っでじまっだどずれば……」
「動機も完璧……そんな……嘘でしょリューゲ!? ねぇ、嘘だと言ってよ!!」
舞子が必死に呼び掛けると、リューゲはゆっくりとこちら側に目線を向け、静かに口を開いた。
「……ごめん……アイラ……」
「リューゲ……」
「俺が……俺がアージを殺りました……」
自白。その呆気ない幕引きに、思わず言葉を失う一同。
「全ては皆さんが思った通りです……昨晩の喧嘩で頭に血が上っていた俺は……皆さんへの無礼を謝罪する様、アージに言おうと部屋に向かいました。だけどあいつは……謝るどころか……」
“謝罪? 何で俺がそんな事をしなくちゃならないんだよ? 寧ろ謝るのはあいつらの方だろ? まぁ、謝ったとしても許さないけどな!! あっ、でもあの三人の女が俺の女になるって言うのなら、話は別だけどな。あっはっはっはっは!!!”
「頭が真っ白になりました……怒りだけが沸き立ち、気が付いた時にはアージの奴を斬り殺していました……焦った俺は何を考えたのか、罪を擦り付けようと考えました。マオさんの部屋に忍び込み、剣を盗みました。そして傷口に従って切り込みを入れ、あたかもマオさんの剣で斬られた様に見せ掛けました」
「成る程……それで綺麗な切り傷が出来たと言う訳ですか……」
「…………」
「はい……後はフォルスさんが仰った通りです。マオさんをベッドごと移動させて、言い逃れ出来ない状況を作ろうとしました……でもやっぱり駄目ですね……実の弟を殺したという罪悪感が纏わり付いて……それでロージェさんに相談したんです」
「ロージェさんに?」
ここでまさかのロージェの名前が出て来た事に、驚きを隠せない真緒達。
「はい、ロージェさんは俺が疚しい事を隠していると表情から読み取り、声を掛けて来ました。そこで俺は事の全てを自供しました。そしてロージェさんは、逃亡中だったマオさんとハナコさんの二人を呼び戻す為……この嘘公開処刑を決行しようと提案して来たんです。すみませんロージェさん……こんな大事になってしまうとは……」
「……はぁ……まぁ、結果的に丸く収まる事が出来た……それだけでもやる意味はあった」
役目を終えた様に深い溜め息を吐き、構えていた剣を鞘に戻した。
「そんな事が……でも、それならそうと言ってくれれば……」
「『真犯人は家主だった。お前の無実は証明された。だから安心して出て来い』そんな言葉をまともに信じられると思うか?」
「た、確かに……」
「あれ位、荒っぽいやり方の方が信用を得るには都合が良い」
「でも生きた心地がしませんでしたよ……まるで本気で殺しに掛かって来ているのかと思いました……」
「はっはっは!! それは悪かった。本気で殺しに掛からないと、逆にこっちが殺られてしまうと思ったからな」
腕組みをしながら高笑いするロージェ。対して真緒達は苦笑いを浮かべていた。
「さて……勇者さんの誤解も解けた所でだ……そろそろ行こうか」
「……はい」
ロージェに促され、兵士達がリューゲを立たせるとそのまま連行しようとする。
「ま、待って!! 夫はどうなるの!?」
「肉親を殺した罪は重い……良くて終身刑……悪くて死刑だろう」
「そんな!!?」
「アイラ……良いんだこれで……」
「何が良いのよ!! どうして……どうして相談してくれなかったのよ……助け合ってこその夫婦でしょ……それなのに……それなのに……」
「アイラ……ごめん……愛している」
「……私もよ」
悲しき別れ。リューゲがもっと冷静だったら。第三者に相談を持ち掛けていたら。もしかしたら結末は変わっていたのかもしれない。しかし結局の所、それは結果論でしかない。一つの過ちによって、全てを失う。珍しい話ではない。この別れも起こるべくして起こった。只、それだけなのだ。
「終わったね……」
「ぞうだなぁ……」
「何だか……やりきれない終わり方ですね……」
「…………」
納得のいかない結末ではあるが、こうしてアイラ村で起こった殺人事件は静かに幕を下ろすのであった。
「おい、ちょっと待てよ。話はまだ終わって無いぜ」
「「「「「「!!?」」」」」」
しかしその時、下ろし掛けた事件に待ったを掛ける男がいた。
「フォルス……さん?」
「何を言っているんだ? たった今、彼は犯行を認めたのだぞ? これ以上、何の話があると言うんだ?」
「リューゲは犯人じゃない」
「何だと!?」
「ほ、本当なの!!? 夫は犯人じゃ無いの!!?」
「あぁ、勿論だ」
「いい加減な事を抜かすな!!」
「いい加減かどうか、俺の推理を聞いてからでも遅くは無いんじゃないか?」
「…………良いだろう。聞かせて見ろ、お前の推理とやらを……」
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