笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第四章 冒険編 殺人犯サトウマオ

アイラ村殺人事件~可能性~

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 「そ、そんな……私は……」



 「ぞんな訳が無いだぁ!!」



 「そうですよ!! マオさんが犯人だなんてあり得ません!!」



 「刃型と傷口が一致しただけで犯人扱いなのは、早計な判断じゃないか?」



 ハナコ、リーマ、フォルスの三人は真緒を必死に庇う。



 「ならそこの女に問おう。昨晩は何処にいた?」



 「さ、昨晩は……リューゲさんから貸して頂いた部屋で寝ていました……」



 「……嘘をついたな女」



 「「「「「「!!?」」」」」」



 そう言うとロージェの側に一人の兵士がやって来た。そして一本の髪の毛を手渡した。



 「この髪の毛は殺されたアージのベッドに抜け落ちていた物だ。自分の部屋で寝ていた筈なのに、どうしてこの部屋のベッドに抜け落ちているんだ?」



 「そ、それは……」



 「まだマオの髪の毛だと決まった訳じゃ無いだろう!!」



 「そうですよ!! ろくに調べてもいないのに、勝手に決めないで下さい!!」



 「ぞうだぁ!! ぞの通りだぁ!!」



 「成る程……確かに一理ある。それじゃあ、この髪の毛も剣と同じ様に照合する。悪いが髪の毛を一本渡して貰おうか?」



 「…………」



 「…………」



 「…………」



 先程とは打って変わって、沈黙を貫く三人。それでも要求の手を緩めないロージェ。



 「どうした? この髪の毛がそこにいる女の物じゃないと言うのなら、渡せる筈だろう?」



 「…………」



 「…………」



 「…………」



 薄々感じてはいた。十中八九、あそこにある髪の毛は真緒の髪の毛であろう。何故なら真緒はアージのベッドで寝ていたのだから。それでも庇ったのは、真緒の事を信じているからである。



 「……皆、もういいよ……」



 「マオ……お前……」



 「でもマオさん……」



 「マオぢゃん……」



 しかし、信用だけでは事実を変える事は決して出来ない。



 「その髪の毛は……私の髪の毛で間違いありません」



 「ほぅ……じゃあ認めるんだな。お前が殺した事を……」



 「いいえ……私は誓って殺しはしていません」



 「何だと? じゃあこの髪の毛をどう説明する?」



 「何故だかは分かりません……朝目覚めると私はアージさんのベッドで眠っていました。髪の毛はその時、抜け落ちたんだと思います」



 「貴様……ふざけているのか? 殺された男のベッドで寝ていた……それはつまり事件当時、貴様は現場にいたという事だ!!」



 「でも私は確かに自分の部屋のベッドで眠った筈なんです!! それが目覚めた時には……」



 「殺された男のベッドにいたと? 世迷い言を……」



 「……ちょっといいか?」



 緊迫した状況の中、助け船を出したのは他ならぬフォルスであった。



 「もし本当にマオが殺しているとしたら「フォルスさん!!?」……落ち着け……もしもの話だ。もし本当にマオが殺しているとしたら何故現場を離れず、殺した男のベッドで眠ったんだ? そんな所で眠れば疑われるのは明白……常識的に考えて可笑しいだろう」



 「人を平気で殺す狂人に常識が通用するとは思えない」



 「それに動機は何だ? 真緒がアージを殺す動機は? 言っておくが、俺達は昨日リューゲさん達と知り合ったばかりだ。殺す動機などありはしない」



 「動機なんてものは捕らえた後で聞けば良い。我々がすべきなのは迅速な事件解明だ。証拠は全て揃っている」



 「その証拠だって状況的な証拠ばかりじゃないか。剣しかり髪の毛しかり、どれも手を加えられる物ばかりじゃないか」



 「それは単なる推論にしか過ぎない。男の体には刃物による傷以外の怪我が全く見受けられなかった。死因は間違いなく剣による斬殺……そしてその凶器を大事に持っているそこの女こそが犯人であり、先程預かった剣は動かぬ物的証拠だ」



 「その凶器だって、マオが使ったとは限らないだろう!? 他の誰かが使った可能性だってある!!」



 「残念だがそれはあり得ない」



 「何だと!?」



 「見た所、あの剣は他の剣とは異なる作りをしている。熟練の剣士ならいざ知らず、素人が簡単に扱える物では無い。だが殺された男の傷口はとても綺麗だった。途中で引っ掛かる事無く、一撃で葬っている。相当な腕の持ち主だ」



 「それが……それが何だって言うんだよ!!?」



 「それでは聞くが……お前は剣を振るった事はあるか?」



 「っ!! な、無い……」



 「だろうな。鳥人族の武器は弓矢だ。それじゃあこの中で、持ち主の女以外で剣を振るった事のある奴はいるか?」



 ロージェの問い掛けに対して、リューゲだけが小さく手を挙げる。



 「そう……女以外に剣を持っていたご主人は剣を扱えるだろう。しかし、ご主人の腕前は素人以下……あの剣は護身用だろう?」



 「ど、どうしてそれを?」



 「一度も研がれた事の無い刃。それなのに刃こぼれは全く無い。握る柄の部分は色褪せてはいない。これは普段剣を握る事の無い者に多く見られる特徴……そんな剣を持っているのは他人に名刀を見せびらかしたい貴族か、戦闘とは無縁だが、万が一の護身用として備えている村人だけだ」



 「す、凄い……ちょっと見ただけで、そこまで分かるだなんて……」



 「…………だ、だが!! 内部にはいなかっただけで、外部による犯行という可能性だって考えられる!!」



 「それも無いな」



 「な、何!?」



 「お前達も聞こえていただろう。この家の階段や二階の廊下はかなり軋んでいる。一歩踏み出しただけでも、かなりの音が響く。村人の声で騒がしい昼間だったらそんなに気にならないが、皆が寝静まった真夜中となると……」



 そう言いながらロージェは、爪先で床を強く踏む。



           ギィー



 床の板が軋み、大きな音を鳴らす。その音は二階の廊下に響き渡った。



 「この様に、けたたましい音を鳴らす」



 「だ、だけど!! 皆、眠っていたんだ!! 気付かなかっただけかもしれないじゃないか!?」



 「……この中で夜中に起きていた者はいるか?」



 「…………は、はい」



 「「「「!!?」」」」



 ロージェの問い掛けに手を挙げたのは、またしてもリューゲだった。



 「リューゲさん……」



 「すみませんフォルスさん……実は昨晩、用を足しに起きてしまったんです。用を足し終わった後、妙に目が冴えてしまって……朝までずっと起きていたんです……」



 「それで? 夜が明けるまで誰かが階段を上がって来たか?」



 「いえ、そういった音は全くしませんでした」



 「そ、そんな……!?」



 「それを証明出来る者はいるか?」



 「あっ、それなら私が……」



 「「「「!!?」」」」



 すると今度はアイラが手を挙げた。



 「私達夫婦はいつも同じベッドで眠っているんですけど……その途中で夫が突然ベッドから抜け出し、険しい表情を浮かべながら部屋を後にしました。それから数分後、夫は穏やかな表情になって戻って来ました。あの険しい表情はいったい何だったのか、ずっと気になっていましたが、まさか用を足しに行こうとしていただけとは……」



 「いやはや、お恥ずかしい……」



 「うん、よく分かった。これで外部からの犯行の線は消えたな。残る可能性はたった一つ……内部による犯行だけだ」



 「ま、待ってくれ!! まだ他の可能性がある筈だ……きっと……きっとある筈だ……」



 「フォルスさん……」



 「見苦しいぞ。そもそも意見は全くの無意味だ」



 「ど、どうしてだ!?」



 「お前……いや、そこにいる魔法使いと熊人族のお前達は仲間なんだろう?」



 「そ、それがどうした!?」



 「仲間だから……ずっと一緒にいたから……そうした私的感情は事件解明に対して、大きな障害となる。例えお前達が他に犯人がいる可能性を見つけ出したとしても……それは仲間を庇う為の苦しい言い訳としか見られない。そうした理由から、お前達の意見は決して通る事は無い」



 「じゃあ……じゃあどうしてここまで俺の話を聞いたんだよ!!?」



 「お前が意見する可能性を全て潰し、私が述べた可能性だけしか残らない状況を作り、最早言い逃れが出来なくする事で、自分は間違っていたと自覚させる為だ」



 「あんた……いい性格してるよ……」



 「あぁ、よく言われる」



 フォルスの皮肉も、ロージェに対しては誉め言葉に他ならなかった。



 「女を殺人容疑で連行しろ!!」



 「「「「「はい!!」」」」」



 指示された兵士達が真緒を囲み、取り押さえる。



 「“サトウマオ”!! 貴様には殺人の容疑が掛けられている!! 悪いが牢屋まで連行させて貰うぞ!!」



 「ぞんなマオぢゃん!!」



 「マオさん!! どうして!!」



 「嘘だろ!!? マオ!!」



 「…………皆、ごめん……」



 全てを諦めた様に、真緒はされるがまま両腕をロープで縛り上げられる。



 「……もっと皆と……冒険……したかったな……」



 「「「!!!」」」



 「よし、連れて行け!!」



 「「「「「はっ!!」」」」」



 兵士達は縛り上げた真緒をそのまま連行しようと歩き始めた。



 「スキル“鋼鉄化(腕)”!!」



 「ぐわぁあああああ!!?」



 「「!!?」」



 その瞬間、ハナコが両腕を鋼鉄に変化させ、真緒を連行しようとする兵士の一人を殴り飛ばした。



 「ハナちゃん!? いったい何を!?」



 「“ウォーターキャノン”!!」



 「「ぐわぁあああああ!!!」」



 「「!!?」」



 すると今度はリーマが魔法を唱え、兵士の二人を水の塊で吹き飛ばした。



 「貴様ら……どういうつもりだ!!?」



 「こう言うつもりだよ……“三連弓”!!」



 「「ぐわぁあああああ!!!」」



 「嘗めるな!!」



 フォルスから放たれた三連続の矢は、兵士の二人に直撃する。そして残り一本の矢はロージェ目掛けて放たれたが、透かさず剣を引き抜き、切り伏せる。



 「くそっ!! そう上手くはいかないか!!」



 「ちょ、ちょっと!!? リーマにフォルスさんまで、何をやっているの!!?」



 「そんなの決まってますよ」



 「お前を助けるんだよ……ここは俺達が食い止める!! ハナコはマオを連れて逃げろ!!」



 「分がっだだぁ!!」



 「えっ、ちょ、待っ……きゃああああああ!!!」



 ハナコは真緒を持ち上げ、お姫様抱っこの状態のまま二階の窓を破り、外へと勢い良く飛び出した。



 「しまった!! おい!! 今、飛び降りた二人を追い掛けて取り押さえろ!!」



 「「はっ!!」」



 ロージェは、外で待機させていた兵士に追い掛ける様に命令した。命令を受け、兵士達は真緒を抱えたハナコを追い掛ける。



 「何をグズグズしている!? お前達も早く追い掛けるんだ!!」



 「「「「「は、はい!!」」」」」



 その場にいる兵士達にも、追い掛ける様に命令する。怪我を負った兵士達も立ち上がり、急いで追い掛けようとする。



 「おっと、ここから先は行かせないぜ」



 しかし、その行く手をフォルスとリーマの二人が遮る。



 「そこを退け!! 犯罪に加担するつもりか!!」



 「私達は仲間なんです。最後までマオさんの無実を信じます」



 「貴様ら……只で済むと思うなよ……」



 仲間の為、友の為、真緒の無実を信じ、兵士数人とロージェに対して、たった二人で戦いを挑むのであった。
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