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第四章 冒険編 殺人犯サトウマオ
アイラ村殺人事件~真相~第二部
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「それでフォルスさん……リューゲさんが犯人じゃないとすると、いったい誰が犯人なんですか?」
「まずは根本的な部分から振り返ろう。今回の事件で殺されたのは誰だ?」
「そんなの……アージさんに決まっているじゃないですか?」
「そうだな……だが、どうしてそれがアージだと断言出来る?」
「えっ? だってそれは……事件のあった部屋はアージさんの部屋で……倒れていたのがアージさん本人だったからです」
「果たして本当にアージ本人だったのだろうか……」
「どう言う意味ですか?」
「マオ、お前は確か村人達から聞いたんだよな“二人は顔から行動まで瓜二つだ”って……」
「えぇ、聞きましたけど……まさかフォルスさん!!?」
「そのまさかだ。あの時、本当に殺されていたのは“リューゲ”の方であり、ここにいるリューゲは“アージ”なんだよ!!」
「「「「「!!!」」」」」
その場にいる全員が驚きの表情を浮かべながら、リューゲに目線を向ける。そのリューゲ本人も驚きの表情を浮かべていた。
「……って、嫌だなフォルスさん。そんなのあり得ませんよ」
「何故だ?」
「何故って……忘れたんですか? アージさんは三本線の剃り込みが入っている特徴的な髪型なんですよ? もし本当に入れ替わっているとしたら、ここにいるリューゲさんにも三本線の剃り込みが入っていないといけないんです。でも、リューゲさんは相変わらずのボサボサ髪……勿論、桂を被っているなんて事もありませんよ」
そう言いながら、リーマはリューゲのボサボサ髪の毛をある程度強く引っ張る。しかし取れる事無く、確りと毛根まで根付いていた。
「そう……逆に言い換えれば、あの特徴的な三本線の剃り込みが入っていれば、多少背格好が違っても誤認識させる事が出来るという訳だ」
「そ、そうかもしれませんけど……フォルスさんが言っている推理はリューゲさんとアージさんが入れ替わっているという事ですよね? ですけど、リューゲさんがアージさんである証拠はあるんですか?」
「……残念ながら、リューゲがアージであるという決定的な証拠は無い」
「だったら……「だが」……えっ?」
「……あの死体がアージではない証拠は存在する」
「「「「「「!!?」」」」」」
「まず俺が始めに引っ掛かったのは、死体の状況についてだ」
「死体の状況?」
「あの時、アージの死体を調べた兵士はこう言っていた『胸部から腹部までの切り傷以外、目立った外傷が無い』とな……」
「それの何処がおかしいんですか? アージさんの死因が剣による斬殺だって事の証明じゃないですか?」
「確かに一見すると何の違和感も無い内容に思えるかもしれない。だが思い出して見ろ。アージは殺される数時間前、俺達と一悶着あった」
「ありましたけど……それがいったい?」
「その時……アージはリューゲに顔面を殴られて“鼻血”を出している」
「「「「!!!」」」」
「しかもアージはその怪我を治す事無く、二階へと駆け上がった。つまり、アージの死体には切り傷以外に鼻への損傷がある筈という事になる!! 胸部から腹部への切り傷以外に目立った外傷が無いだなんて、本来はあり得ないんだよ!!」
「で、でもですよ!? それはあくまで致命傷となった傷以外の説明を省いただけかもしれませんよ!?」
「それなら、誰かに死体を持って来させよう」
「ならば私の部下達が「駄目だ!!」……何だと?」
「悪いが村人の誰か、リューゲの家まで行って二階にある死体を持って来てくれないか?」
“えっ、じゃあ俺達が……”
「任せたぞ」
フォルスの指示に従い、村人の何人かがリューゲの家に向かった。
「……何の真似だ?」
「別に……そちらの兵士さん達は俺達との戦いで、酷く疲労している様に見えたからな。只の気遣いだ……それとも、兵士達に運ばせなくてはいけない理由でもあるのか?」
「……いや、心遣い感謝する」
***
“持って来たぞ!!”
「来たか……こっちだ!! こっちまで運んでくれ!!」
数十分後、冷たくなったアージの死体を運んで来た村人達は、フォルス達の目の前まで運び優しく下ろした。
「ありがとう……さて、よく見ろ。この死体の何処に切り傷以外の損傷があるって言うんだ!?」
フォルス達が死体を覗くと、そこには確かに胸部から腹部までの切り傷以外、目立った損傷は見受けられなかった。勿論、肝心の鼻などは全く傷付いておらず、綺麗なままであった。
「そ、そんな……こんな事が……」
「じゃ、じゃあ……ここにいるリューゲさんは……」
一同、得体の知れない物を見る目でリューゲを見る。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ皆さん。これだけで俺がリューゲじゃないだなんて軽率過ぎますよ!! 第一、フォルスさんが今証明したのは、あくまでこの死体がアージの死体では無いという事であって、俺がアージという証拠じゃ無いじゃないですか!?」
「た、確かに……そうだね……」
「いや、お前は間違い無くアージだ」
「どうして……どうしてそう断言出来るんですか!!?」
「お前は致命的なミスを犯している。それも幾つもだ」
「な、何!?」
「一つ目は言葉遣い」
「言葉遣い?」
「さっきからそうだったが、一人称が“俺”になっているぞ。リューゲの一人称は“僕”だ」
「…………え?」
その時、真緒達の脳裏には昨晩のリューゲとの会話が過っていた。
『いえいえ、“僕”の方こそ勘違いさせてしまって、申し訳ありませんでした』
『アイラ……君が“僕”の事を心配してくれるのは嬉しい……でも、今回は“僕”の方にも非がある』
そして同時に、今朝のリューゲとの会話も脳裏を過った。
『これが“俺”の剣です』
『ちょ、ちょっと待って下さいよ皆さん。これだけで“俺”がリューゲじゃないだなんて軽率過ぎますよ!! 第一、フォルスさんが今証明したのは、あくまでこの死体がアージの死体では無いという事であって、“俺”がアージという証拠じゃ無いじゃないですか!?』
「こんな短時間で慣れ親しんだ一人称が変わるとは考えにくい。つまり、普段一人称が“俺”な人物と入れ替わっているという事だ。因みにアージの一人称は“俺”だったな」
「そ、そんな!!? 一人称が変わっただけで決め付けないで下さいよ!!」
「そうですよフォルスさん。それに今のは状況証拠であって、決定的とは程遠いです」
「そう……そうですよ!! マオさんの言う通りだ!! どうしても僕をアージに仕立てあげたいのなら、物的証拠を示して下さいよ!!」
「その言葉を俺は待っていた」
「な、何だと!!?」
「舞……アイラ……“指輪”を見せてくれないか?」
「“指輪”?」
舞子は首を傾げながらも、フォルスに言われた通り、左手の薬指に嵌めている指輪を見せた。
「これはリューゲとアイラ、二人の結婚指輪だ。この指輪は確かペアルックだと言っていたな」
「えぇ、同じ物を嵌めたいって言ったから……」
「それが……何だって言うんだ!?」
「もしお前が本物のリューゲだと言うのなら、アイラと同じ“青い宝石”が嵌め込まれている指輪を嵌めている筈だ。縛られたまま、後ろを振り返って見せて見ろ」
「…………」
しかし、リューゲは振り返らない。それ所か額から汗を流し、焦っている様に伺えた。
「どうした? 見せられないのか?」
「…………」
「ちょっとあなた……どうしたの? いつも身に付けていたじゃない。早く見せて」
「…………」
「見せる気が無いのなら、こっちにも考えがある。皆、リューゲの背後に回るんだ」
「や、止めろ!!」
必死に抵抗しようとするリューゲだったが、ロープで縛られている状態の為、難なく背後に回られてしまった。
「…………あっ!!」
リューゲの左手の薬指には、指輪が嵌められていた。しかし指輪に嵌められている宝石は青では無く、“深紅”であった。
「嘘……どうして……」
「それじゃあ皆、今度は死体の方に嵌められている指輪を見てくれ」
「まさか……そんな……!!」
事の事態を察した舞子は、慌てて死体の方に嵌められている指輪を確認する。死体の左手の薬指には指輪が嵌められていた。指輪には青く光輝く宝石が嵌め込まれていた。
「あ……ああ……いや……いや……あなた……あなた……」
「さぁ、説明して貰おうか。何故、死体の方がアイラと同じ指輪を嵌めて、お前が別の指輪を嵌めているのか?」
「……違う……」
「?」
「違う!! これは罠だ!! 僕を陥れる為の罠だ!! 朝起きたら何故か、結婚指輪の代わりに、この指輪が嵌められていたんだ!!」
「……見苦しいぞ」
「……そ、そうだ!! 僕が本物だって証拠がある!! これは僕とアイラしか知らない事だ!!」
「何だそれは?」
「プロポーズの場所と言葉さ。あれは忘れもしない半年前、星空が綺麗に輝く夜の時だった。僕はアイラにこう言った……『君の事を愛している。この星空よりも広く大きな愛で、君を優しく包み込んで見せる。結婚しようアイラ』……ってね!!」
「…………今の話は本当か?」
「……えぇ、本当よ……」
「今の話を誰かに話した事は?」
「無い……私とリューゲの二人しか知らない事よ……」
「そ、そうか……そうなのか……」
「ほ、ほらね!! これで僕がリューゲだって事が証明された訳だ!! フォルスさん、あなたの推理は素晴らしかったけど……所詮は机上の空論に過ぎない」
「…………」
「さぁ、推理ショーもこれで終わり!! 僕が突発的な事でアージを殺めてしまった。これが真実!! それじゃあロージェさん、僕を連行して下さい」
「……分かった」
「くそっ……ここまで来て……無理なのか……」
フォルスの完璧と思えた推理は、二人の大切な記憶によって打ち砕かれてしまった。フォルスは苦い顔を浮かべながら、連行されるリューゲを見つめるのであった。
「……ちょっと待って!!」
「「「「「!!?」」」」」
その時、まさかの舞子がリューゲを連行する動きを止めた。
「アイラ……今さら何の用だい?」
「もう会えないかもしれない……だからせめて……連れて行かれる前に……最後お願いがあるの」
「お願い? 良いよ、アイラの頼みなら何でも聞いてあげるよ」
「絵を……絵を書いて欲しいの」
「…………え?」
「絵よ。あなたが大好きな絵を最後に書いて欲しいの」
「……あ……あぁ、そうか……絵か……書きたいけど……うーん、でもな……今さらそんな時間無いし……」
「ロージェさん!! お願いします!! 夫は絵を書く事が大好きなんです!! 連行されてしまったら、もう二度と絵を描く事が出来なくなる……その前にせめて一度だけ……夫に絵を描く時間を与えて下さい!! お願いします!!」
「…………」
頭を深々と下げる舞子。ロージェは辺りを見回す。ロージェと舞子、二人を中心に村人達の視線が集まっていた。
「……分かった……至急用意させよう」
「お、おい!!?」
「ありがとうございます!!」
ロージェは兵士達に、リューゲの家にある絵描き道具一式を持って来る様に命じた。
「良かったわねあなた。最後に好きな絵を描く事が出来て」
「あぁ、うん……そうだね……」
しばらくして、兵士達が絵描き道具一式を持って戻って来た。キャンバス、筆、絵の具、ナイフ等、様々な道具が目の前に置かれる。そしてロージェは、リューゲを縛っていたロープを外す。
「道具は用意した。後は好きにすると良い」
「ありがとうございます……さぁ、あなたは……思う存分、描いて良いのよ」
「…………」
しかし、リューゲは目の前に置かれた道具を手に取ろうとはしない。
「どうしたの? いつも通りに描けば良いのよ?」
「…………」
するとリューゲはゆっくりと筆を手に取り、キャンバスに押し当てる。しかし、そこから一ミリも動こうとしない。
「さぁ、描いて……あなたが思うがままに……描きなさい」
「うぅ……うぅ……うぅ……」
「何をやっているの? 早く描きなさい!! 描きなさい!! 描け!!」
「うわぁあああああ!!!」
「「「「!!!」」」」
「……間抜けが……挑発に乗せられたな……」
リューゲは錯乱した様に筆を投げ捨て、代わりにナイフを手に取ると舞子の首に押し当てる。
「リューゲさん!! 何やっているんですか!?」
「その人はあなたの奥さんなんですよ!!? リューゲさん!!」
「あぁ……リューゲ……リューゲ……リューゲ……リューゲ……どいつもこいつもリューゲリューゲリューゲ……うるせぇんだよ!!」
気が触れたかの様に、大声を発するリューゲ。突然の状況に、真緒達は動揺を隠せない。
「どうしてあいつばかり得をする……どうしてあいつばかり注目を浴びる……俺の方が……俺の方が優秀なのに!! 俺の方が強いのに!! どうして世間は……あいつばかりをひいきするんだ……」
「「「「…………」」」」
怒ったと思ったら、今度はいじけ始めた。情緒が安定しない。真緒達も動こうとするが、未だにナイフが舞子の首に押し当てられている為、迂闊に動く事が出来ない。
「ふっ……ふふふ……ふふふ……ふはははははははは!!!」
すると今度は突然笑い始めた。
「もうどうでも良いや……」
そう言うとリューゲは、左手の薬指に嵌められた指輪を取り外した。
「「「「!!!」」」」
その瞬間、それまでそこにいたリューゲの姿は消えて失くなり、代わりにある人物が現れた。それはこの場にいる誰もが知っている人物。
「よぅ……地獄の底から蘇ったぜ」
この事件の発端となった男。殺された筈のリューゲの弟、“アージ”であった。
「まずは根本的な部分から振り返ろう。今回の事件で殺されたのは誰だ?」
「そんなの……アージさんに決まっているじゃないですか?」
「そうだな……だが、どうしてそれがアージだと断言出来る?」
「えっ? だってそれは……事件のあった部屋はアージさんの部屋で……倒れていたのがアージさん本人だったからです」
「果たして本当にアージ本人だったのだろうか……」
「どう言う意味ですか?」
「マオ、お前は確か村人達から聞いたんだよな“二人は顔から行動まで瓜二つだ”って……」
「えぇ、聞きましたけど……まさかフォルスさん!!?」
「そのまさかだ。あの時、本当に殺されていたのは“リューゲ”の方であり、ここにいるリューゲは“アージ”なんだよ!!」
「「「「「!!!」」」」」
その場にいる全員が驚きの表情を浮かべながら、リューゲに目線を向ける。そのリューゲ本人も驚きの表情を浮かべていた。
「……って、嫌だなフォルスさん。そんなのあり得ませんよ」
「何故だ?」
「何故って……忘れたんですか? アージさんは三本線の剃り込みが入っている特徴的な髪型なんですよ? もし本当に入れ替わっているとしたら、ここにいるリューゲさんにも三本線の剃り込みが入っていないといけないんです。でも、リューゲさんは相変わらずのボサボサ髪……勿論、桂を被っているなんて事もありませんよ」
そう言いながら、リーマはリューゲのボサボサ髪の毛をある程度強く引っ張る。しかし取れる事無く、確りと毛根まで根付いていた。
「そう……逆に言い換えれば、あの特徴的な三本線の剃り込みが入っていれば、多少背格好が違っても誤認識させる事が出来るという訳だ」
「そ、そうかもしれませんけど……フォルスさんが言っている推理はリューゲさんとアージさんが入れ替わっているという事ですよね? ですけど、リューゲさんがアージさんである証拠はあるんですか?」
「……残念ながら、リューゲがアージであるという決定的な証拠は無い」
「だったら……「だが」……えっ?」
「……あの死体がアージではない証拠は存在する」
「「「「「「!!?」」」」」」
「まず俺が始めに引っ掛かったのは、死体の状況についてだ」
「死体の状況?」
「あの時、アージの死体を調べた兵士はこう言っていた『胸部から腹部までの切り傷以外、目立った外傷が無い』とな……」
「それの何処がおかしいんですか? アージさんの死因が剣による斬殺だって事の証明じゃないですか?」
「確かに一見すると何の違和感も無い内容に思えるかもしれない。だが思い出して見ろ。アージは殺される数時間前、俺達と一悶着あった」
「ありましたけど……それがいったい?」
「その時……アージはリューゲに顔面を殴られて“鼻血”を出している」
「「「「!!!」」」」
「しかもアージはその怪我を治す事無く、二階へと駆け上がった。つまり、アージの死体には切り傷以外に鼻への損傷がある筈という事になる!! 胸部から腹部への切り傷以外に目立った外傷が無いだなんて、本来はあり得ないんだよ!!」
「で、でもですよ!? それはあくまで致命傷となった傷以外の説明を省いただけかもしれませんよ!?」
「それなら、誰かに死体を持って来させよう」
「ならば私の部下達が「駄目だ!!」……何だと?」
「悪いが村人の誰か、リューゲの家まで行って二階にある死体を持って来てくれないか?」
“えっ、じゃあ俺達が……”
「任せたぞ」
フォルスの指示に従い、村人の何人かがリューゲの家に向かった。
「……何の真似だ?」
「別に……そちらの兵士さん達は俺達との戦いで、酷く疲労している様に見えたからな。只の気遣いだ……それとも、兵士達に運ばせなくてはいけない理由でもあるのか?」
「……いや、心遣い感謝する」
***
“持って来たぞ!!”
「来たか……こっちだ!! こっちまで運んでくれ!!」
数十分後、冷たくなったアージの死体を運んで来た村人達は、フォルス達の目の前まで運び優しく下ろした。
「ありがとう……さて、よく見ろ。この死体の何処に切り傷以外の損傷があるって言うんだ!?」
フォルス達が死体を覗くと、そこには確かに胸部から腹部までの切り傷以外、目立った損傷は見受けられなかった。勿論、肝心の鼻などは全く傷付いておらず、綺麗なままであった。
「そ、そんな……こんな事が……」
「じゃ、じゃあ……ここにいるリューゲさんは……」
一同、得体の知れない物を見る目でリューゲを見る。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ皆さん。これだけで俺がリューゲじゃないだなんて軽率過ぎますよ!! 第一、フォルスさんが今証明したのは、あくまでこの死体がアージの死体では無いという事であって、俺がアージという証拠じゃ無いじゃないですか!?」
「た、確かに……そうだね……」
「いや、お前は間違い無くアージだ」
「どうして……どうしてそう断言出来るんですか!!?」
「お前は致命的なミスを犯している。それも幾つもだ」
「な、何!?」
「一つ目は言葉遣い」
「言葉遣い?」
「さっきからそうだったが、一人称が“俺”になっているぞ。リューゲの一人称は“僕”だ」
「…………え?」
その時、真緒達の脳裏には昨晩のリューゲとの会話が過っていた。
『いえいえ、“僕”の方こそ勘違いさせてしまって、申し訳ありませんでした』
『アイラ……君が“僕”の事を心配してくれるのは嬉しい……でも、今回は“僕”の方にも非がある』
そして同時に、今朝のリューゲとの会話も脳裏を過った。
『これが“俺”の剣です』
『ちょ、ちょっと待って下さいよ皆さん。これだけで“俺”がリューゲじゃないだなんて軽率過ぎますよ!! 第一、フォルスさんが今証明したのは、あくまでこの死体がアージの死体では無いという事であって、“俺”がアージという証拠じゃ無いじゃないですか!?』
「こんな短時間で慣れ親しんだ一人称が変わるとは考えにくい。つまり、普段一人称が“俺”な人物と入れ替わっているという事だ。因みにアージの一人称は“俺”だったな」
「そ、そんな!!? 一人称が変わっただけで決め付けないで下さいよ!!」
「そうですよフォルスさん。それに今のは状況証拠であって、決定的とは程遠いです」
「そう……そうですよ!! マオさんの言う通りだ!! どうしても僕をアージに仕立てあげたいのなら、物的証拠を示して下さいよ!!」
「その言葉を俺は待っていた」
「な、何だと!!?」
「舞……アイラ……“指輪”を見せてくれないか?」
「“指輪”?」
舞子は首を傾げながらも、フォルスに言われた通り、左手の薬指に嵌めている指輪を見せた。
「これはリューゲとアイラ、二人の結婚指輪だ。この指輪は確かペアルックだと言っていたな」
「えぇ、同じ物を嵌めたいって言ったから……」
「それが……何だって言うんだ!?」
「もしお前が本物のリューゲだと言うのなら、アイラと同じ“青い宝石”が嵌め込まれている指輪を嵌めている筈だ。縛られたまま、後ろを振り返って見せて見ろ」
「…………」
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「…………」
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「…………」
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必死に抵抗しようとするリューゲだったが、ロープで縛られている状態の為、難なく背後に回られてしまった。
「…………あっ!!」
リューゲの左手の薬指には、指輪が嵌められていた。しかし指輪に嵌められている宝石は青では無く、“深紅”であった。
「嘘……どうして……」
「それじゃあ皆、今度は死体の方に嵌められている指輪を見てくれ」
「まさか……そんな……!!」
事の事態を察した舞子は、慌てて死体の方に嵌められている指輪を確認する。死体の左手の薬指には指輪が嵌められていた。指輪には青く光輝く宝石が嵌め込まれていた。
「あ……ああ……いや……いや……あなた……あなた……」
「さぁ、説明して貰おうか。何故、死体の方がアイラと同じ指輪を嵌めて、お前が別の指輪を嵌めているのか?」
「……違う……」
「?」
「違う!! これは罠だ!! 僕を陥れる為の罠だ!! 朝起きたら何故か、結婚指輪の代わりに、この指輪が嵌められていたんだ!!」
「……見苦しいぞ」
「……そ、そうだ!! 僕が本物だって証拠がある!! これは僕とアイラしか知らない事だ!!」
「何だそれは?」
「プロポーズの場所と言葉さ。あれは忘れもしない半年前、星空が綺麗に輝く夜の時だった。僕はアイラにこう言った……『君の事を愛している。この星空よりも広く大きな愛で、君を優しく包み込んで見せる。結婚しようアイラ』……ってね!!」
「…………今の話は本当か?」
「……えぇ、本当よ……」
「今の話を誰かに話した事は?」
「無い……私とリューゲの二人しか知らない事よ……」
「そ、そうか……そうなのか……」
「ほ、ほらね!! これで僕がリューゲだって事が証明された訳だ!! フォルスさん、あなたの推理は素晴らしかったけど……所詮は机上の空論に過ぎない」
「…………」
「さぁ、推理ショーもこれで終わり!! 僕が突発的な事でアージを殺めてしまった。これが真実!! それじゃあロージェさん、僕を連行して下さい」
「……分かった」
「くそっ……ここまで来て……無理なのか……」
フォルスの完璧と思えた推理は、二人の大切な記憶によって打ち砕かれてしまった。フォルスは苦い顔を浮かべながら、連行されるリューゲを見つめるのであった。
「……ちょっと待って!!」
「「「「「!!?」」」」」
その時、まさかの舞子がリューゲを連行する動きを止めた。
「アイラ……今さら何の用だい?」
「もう会えないかもしれない……だからせめて……連れて行かれる前に……最後お願いがあるの」
「お願い? 良いよ、アイラの頼みなら何でも聞いてあげるよ」
「絵を……絵を書いて欲しいの」
「…………え?」
「絵よ。あなたが大好きな絵を最後に書いて欲しいの」
「……あ……あぁ、そうか……絵か……書きたいけど……うーん、でもな……今さらそんな時間無いし……」
「ロージェさん!! お願いします!! 夫は絵を書く事が大好きなんです!! 連行されてしまったら、もう二度と絵を描く事が出来なくなる……その前にせめて一度だけ……夫に絵を描く時間を与えて下さい!! お願いします!!」
「…………」
頭を深々と下げる舞子。ロージェは辺りを見回す。ロージェと舞子、二人を中心に村人達の視線が集まっていた。
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「ありがとうございます!!」
ロージェは兵士達に、リューゲの家にある絵描き道具一式を持って来る様に命じた。
「良かったわねあなた。最後に好きな絵を描く事が出来て」
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しばらくして、兵士達が絵描き道具一式を持って戻って来た。キャンバス、筆、絵の具、ナイフ等、様々な道具が目の前に置かれる。そしてロージェは、リューゲを縛っていたロープを外す。
「道具は用意した。後は好きにすると良い」
「ありがとうございます……さぁ、あなたは……思う存分、描いて良いのよ」
「…………」
しかし、リューゲは目の前に置かれた道具を手に取ろうとはしない。
「どうしたの? いつも通りに描けば良いのよ?」
「…………」
するとリューゲはゆっくりと筆を手に取り、キャンバスに押し当てる。しかし、そこから一ミリも動こうとしない。
「さぁ、描いて……あなたが思うがままに……描きなさい」
「うぅ……うぅ……うぅ……」
「何をやっているの? 早く描きなさい!! 描きなさい!! 描け!!」
「うわぁあああああ!!!」
「「「「!!!」」」」
「……間抜けが……挑発に乗せられたな……」
リューゲは錯乱した様に筆を投げ捨て、代わりにナイフを手に取ると舞子の首に押し当てる。
「リューゲさん!! 何やっているんですか!?」
「その人はあなたの奥さんなんですよ!!? リューゲさん!!」
「あぁ……リューゲ……リューゲ……リューゲ……リューゲ……どいつもこいつもリューゲリューゲリューゲ……うるせぇんだよ!!」
気が触れたかの様に、大声を発するリューゲ。突然の状況に、真緒達は動揺を隠せない。
「どうしてあいつばかり得をする……どうしてあいつばかり注目を浴びる……俺の方が……俺の方が優秀なのに!! 俺の方が強いのに!! どうして世間は……あいつばかりをひいきするんだ……」
「「「「…………」」」」
怒ったと思ったら、今度はいじけ始めた。情緒が安定しない。真緒達も動こうとするが、未だにナイフが舞子の首に押し当てられている為、迂闊に動く事が出来ない。
「ふっ……ふふふ……ふふふ……ふはははははははは!!!」
すると今度は突然笑い始めた。
「もうどうでも良いや……」
そう言うとリューゲは、左手の薬指に嵌められた指輪を取り外した。
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偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。
チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。
【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする
楠結衣
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女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。
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涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。
女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。
◇表紙イラスト/知さま
◇鯉のぼりについては諸説あります。
◇小説家になろうさまでも連載しています。
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