笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第五章 冒険編 幸運の巣窟

究極のギャンブル

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 「ギャンブルだと?」



 「そうさ、君達はこのロストマジックアイテムが欲しいんだろう? 僕とのギャンブルに見事勝つ事が出来たらあげるよ」



 イカサマ疑惑が晴れた真緒。しかしその矢先、ギャブラーによるロストマジックアイテムを賭けた勝負を持ち掛けられた。その意外とも言える申し出に真緒達は戸惑いを隠せなかった。



 「失礼ですがギャブラーさん。あなたに対するメリットが無いと思うんですが?」



 「メリットか……強いて言うなら刺激が得られるから?」



 「刺激……?」



 「そう刺激さ!! この一年、僕はオーロカジノを大きくする為に命懸けのギャンブルを数え切れない程してきた。毎日生きるか死ぬかの綱渡り……そこに安定とか幸せとかの感情は存在しなかった……」



 「「「「……?」」」」



 饒舌に語り始めたギャブラーだったが、突然その勢いが失われ、遂には俯いてしまった。



 「あ、あの……「しかーし!!」……!!?」



 不安に思った真緒が声を掛けようとしたその時、空気の入った風船が破裂して大きな音を立てる様に、両腕を高く上げて大きな声をあげるギャブラー。



 「代わりに生きているという実感があった!! 賭けに負けた時の絶望感、勝った時の優越感!! 普通の生活じゃ、まず味わう事の出来ない感覚!! そんなギリギリな人生を歩んでいた……つい最近までは……」



 「何かあったんですか?」



 「王族や貴族の人達が、このカジノを支援したいと言って来たのさ」



 「そうか……それでここまで大きく発展する事が出来たのか」



 「当時は経営難で困っていたからね。二つ返事で支援して貰ったよ。まぁ、そのせいでカジノのレートは急激に上がっちゃったんだけどね」



 カジノ専用の金貨を一枚交換するのに金貨一枚(1000000k)、そうした理由はここにあった。



 「王族や貴族の支援のお陰でカジノは大きくなった。僕の懐も暖かくなった……余る位にね」



 「成る程……つまり懐が暖かくなったせいで今まで出来ていた生きるか死ぬかの綱渡りが出来なくなってしまったという訳か」



 「そう言う事……だけどそれも今日までの話!! 今から僕は君達とギリギリのギャンブル勝負をするんだからね!!」



 「どう言う意味だ?」



 「ぶっちゃけた話、王族や貴族に支援の話を持ち掛けられたのは、エジタスから貰ったこのロストマジックアイテムである“幸運のコイン”で勝ち続けたお陰なんだよね」



 ギャブラーはまるでマジックを見せるかの様に何も持っていなかった指先から錆びた一枚のコインを取り出して見せた。



 「私達が勝てば……そのコインを譲って頂けるんですね」



 「勿論さ!! その代わり君達が負けた場合、今持っている有り金と装備品を全て没収するからね」



 「「「「!!?」」」」



 「だってそうだろう? このコインは僕にとって命よりも大切な代物……そのコインを賭けに出すんだから、君達もそれ相応の物を賭けて貰わないと」



 「ど、どうします?」



 「オ、オラが稼いだごのお金も賭げないどいげないだがぁ……?」



 「マオ、さすがにここで装備品を失うのは致命的だ。ここは一旦退いて、良い作戦を思い付いてから挑んだ方が懸命だ」



 「…………」



 真緒達がボソボソと話し合っている中、ギャブラーはその場でくるくると回転しながら待っていた。すると思い出したかの様に回転を止め、真緒達に声を掛ける。



 「あっ、そうそう。僕とのギャンブルはこれっきりね。君達が再びこのカジノに来たとしても、僕は一切取り合わないから」



 「な、何だと!!?」



 「だってそうでしょ? 折角感情高ぶって来たって言うのに、割に合わないから日を改めて……何て事されたら萎えちゃうよ」



 言いたい事だけ言い終わると、再びくるくるとその場で回転し始めるギャブラー。



 「くそっ!! 汚い手を使いやがって……」



 「いっその事、無理矢理奪っちゃいます? 見た所、今までの守護者よりも弱そうですよ?」



 「……いや、危険だ。仮にもエジタスさんが自身の素顔を見せてまで託した奴だ。実力が無いにしても、あいつの持っているロストマジックアイテムがどういった能力を秘めているか不明な以上、下手に手を出すのは危険だ」



 「……つまり誰も傷付けず手に入れる為には、賭けに出されている今だけって事だね」



 真緒の目配せに仲間達は黙って頷き、覚悟を決める。真緒は一人回転しているギャブラーの前に立つ。すると人影に気が付いたギャブラーは回転を止め、真緒と向かい合う。



 「分かりました。その勝負、受けて立ちましょう」



 「そうこなくては!!」



 ギャブラーは目を見開き、嬉しそうに後ろへと一歩下がった。そして右手を上に掲げ、親指と中指を合わせると勢い良く打ち鳴らした。







             パチン!!







 その瞬間、台の上に置かれていた唯一の光源である蝋燭の火が消え、辺り一面暗闇に包まれた。



 「きゃあ!! な、何!?」



 突然の出来事に混乱していると、再び蝋燭に火が灯り、部屋は光に包まれた。



 「……こ、これは!!?」



 目が慣れるまでしばらく目を閉じていた一同。次第に慣れ始め、ゆっくりと目を開ける。するとそこには先程の台よりも三倍近い大きさの台が置かれていた。



 「それではこれから、僕達が行う究極のギャンブルについて説明しよう……」



 「きゅ、究極のギャンブル……」



 場に緊張が張り詰める。全員の額から汗が流れる。



 「このゲームはシンプルでありながら、とても奥深く己の知略をフル活用しなければ決して勝利をもぎ取る事は出来ない。正にギリギリの賭け事……」



 「「「「…………」」」」



 「勝てば幸福感に包まれ、負ければ後悔だけが残る……文字通り血も涙も無い残酷なゲームなのさ」



 「そ、それで……そのゲームとは?」



 「僕と君達の運命を左右する究極のギャンブル……その名も……」



 「「「「………」」」」



 心臓の鼓動が鮮明に聞こえる。溜まった生唾を飲み込む。そしてギャブラーは静かに口を開いた。



 「……“ジャン”……“ケン”……」



 「“ジャン”……“ケン”……ん? “ジャンケン”?」



 真緒の問い掛けに、ギャブラーは口角を少し上に上げながら得意気に頷く。



 「ジャンケンって……あのジャンケンですか?」



 頷くギャブラー。



 「あのグー、チョキ、パーで勝敗をつけるジャンケン?」



 「その通りだよ。全てが一瞬で決まる。あの勝った時の幸福感と優越感……そして負けた時の喪失感と後悔……これこそ究極のギャンブルと言える」



 「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」



 「何だい?」



 「勝負方法がジャンケンなら……この馬鹿デカイ台はいったい何なんだ!?」



 フォルスは声を荒げながら、目の前に置かれている巨大な台を指差す。



 「あぁ、それ? 雰囲気作り」



 「雰囲気作り?」



 「この方が何か特別感が出るでしょ? ジャンケンする時はいつも出してるんだ」



 相当気に入っているらしく、頬を台に擦り付けるギャブラー。その様子に、一同は呆れた表情を浮かべる。



 「何だが拍子抜げだぁ……」



 「変に力を入れていたせいで、どっと疲れてしまいましたよ」



 「もっと大掛かりな勝負だと思ったよ」



 「お前ら、安心するのは早いぞ。状況はかなり最悪だ」



 「「「えっ?」」」



 唯一、フォルスだけが焦りの表情を浮かべていた。



 「どうしてですか? ジャンケン程度、そこまで心配する必要なんてありますか?」



 「あいつは知略だなんだと言っていたが、ジャンケンなんて最終的に運要素が高い。自身の命よりも大切なロストマジックアイテムを賭けた大事な勝負……それなのにあいつはジャンケンを選んだ……何故だと思う?」



 「「「……?」」」



 「絶対的な自信があるからだ。方法は分からないが……あいつは確実に勝つ方法を知っている」



 「「「!!!」」」



 フォルスの説明により、漸く事の重大さを理解した真緒達。焦りと不安が一気に心を支配する。



 「ど、どうしましょう!?」



 「どうしようも何も……取り敢えず、打てる手だけは打っておこう」



 「打てる手?」



 するとフォルスはギャブラーに歩み寄る。



 「ちょっと良いか?」



 「ん、何だい?」



 「勝負する前にあんたが持っているそのロストマジックアイテムを誰かに預けてくれないか?」



 「どうして?」



 「ハッキリ言って、俺達はそのロストマジックアイテムの能力を知らない。疑う訳じゃ無いが、これから行う勝負にそのロストマジックアイテムを使わせない為の予防だ。あんただってロストマジックアイテムの力で勝ったなんて思われたく無いだろう?」



 「……確かにそうだね。ありがとう、勝負する前に気付かせてくれて」



 フォルスにお礼を述べると、ギャブラーは側にいた案内人にロストマジックアイテムである錆びたコインを手渡す。



 「さてと……それじゃあそろそろ始めるとしようか……ルールはシンプル、代表者同士がジャンケンする。回数は一回、一発勝負だよ。こっちの代表者は勿論この僕……それでそっちの代表者は誰?」



 「「「…………」」」



 「私か……そうなるよね……」



 選ばれたのは勿論真緒。仲間達に見守られながら歩み出る。



 「(そう言えば……ジャンケンなんて久し振りにするな……最後にジャンケンしたのは幼稚園で鬼ごっこの鬼を決める時だったな……)」



 元の世界での懐かしい記憶に浸りながら、ギャブラーと相対する。



 「それじゃあ行くよー。最初はグー、ジャンケン……」



 「えっ、そ、そんな急に!?」



 「ポン!!」



 相手が何を出すのか。考える暇も無く、真緒はギャブラーの掛け声に合わせ、勢い任せに出した。



 「「…………」」



 「……終わったのか?」



 ジャンケンが続かないという事は、あいこでは無かった。どちらかが勝ち、どちらかが負けたのだ。



 「け、結果は!?」



 三人は慌てて二人が出した手を確認しに行く。そしてその結果は……。







 真緒……パー



 ギャブラー……チョキ







 「あ……ああ……」



 「ぞんな……マオぢゃん……」



 「マオ……」



 「ごめん……皆……私、負けちゃった……」



 圧倒的後悔。そのあまりの悔しさと情けなさからまともに仲間達の顔を見る事が出来ない。



 「はい、この勝負僕の勝ち!! それじゃあ約束通り、君達の有り金と装備品は貰って行くから……後はよろしくね」



 「畏まりました」



 呆気ない幕引き。案内人から錆びたコインを受け取ったギャブラーは後始末を案内人に任せ、そのまま何処かに行ってしまった。その場には真緒達と案内人の五人だけだった。



 「一応念の為に言っておきますが、無駄な抵抗はしないで下さい。武器を持っていない今のあなた方では警備員一人も倒す事は出来ません」



 最早、案内人の言葉は真緒達には届いていなかった。只、されるがままに有り金と装備している鎧やマントを全て持っていかれる。唯一今着ているドレスや着替えなどの衣服だけが入っている鞄は手をつけられず放置された。







***







 全てを失った真緒達は、半ば強制的にカジノの外へと追い出される。



 「この度はお悔やみ申し上げます。ですがこれに懲りず、また資金を貯めて挑戦して下さい。それではごきげんよう」



 そう言うと案内人は扉を閉める。辺りはすっかり暗くなっており、冷たい夜風が肌を突き抜ける。



 「……全部スッちゃった……」
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