笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第六章 冒険編 記憶の森

一人で抱え込まないで

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 俺が生まれた当時、エルフ達の間では魔法が絶対であり、扱える自分達は特別な存在だという考えを持っていた。



 そんな中、魔法の才能を持たずに生まれて来た俺は、里の者達は愚か親からも白い目で見られていた。



 「ファイア!! ファイア!! ファイア!!」



 当然、努力はした。毎日、魔法を唱えていたが、一向に扱える様にはならなかった。



 「はぁ……はぁ……はぁ……どうして俺だけ……」



 「頑張ってるな」



 声のした方向に顔を向けると、一人の男性エルフが立っていた。



 「誰だ、お前?」



 「俺は“トレディ”、よろしく」



 そう言って、トレディと名乗るその男は右手を差し出し、握手を求めた。



 「…………それで? わざわざ笑いに来たのか、トレディ?」



 俺はその手を払い除け、トレディに対して悪態をついた。



 「おいおい、折角心配して来てやったのに、そう冷たくあしらうなよ」



 「冷たく? 事実を述べただけだ」



 「事実だって? 俺はお前の事を笑ったりしないけどな」



 「随分と嘘が下手みたいだな」



 「そんな事無いぜ。こう見ても、人を騙すのは得意な方だ」



 「そうかい」



 トレディの言葉をまともに取り合わず、そそくさと家に帰ろうとした。



 「おいおい、ちょっと待てよ。何処に行くつもりだ?」



 「帰るんだよ、家にな」



 「練習はもういいのか?」



 「もう諦めた。これだけやっても扱う事が出来ないんだ。俺には、魔法の才能が無かったんだよ」



 「そう悲観的になるなよ。諦めなければきっと……あっ、おい!!」



 結局、最後まで聞かず、足早にその場を離れた。



 「(明日は別の場所で練習しないといけないな)」



 俺は嘘をついた。諦めきれなかった。魔法を扱える様になって、皆から認められたい。その為には、気の散る存在が側にいてはいけないのだ。







***







 「よっ、今日も頑張ってるな」



 「…………」



 次の日、場所を変えて魔法の練習をしていると、トレディが軽い挨拶を交わしながらやって来た。



 「上手く撒いたつもりだったかもしれないが、俺は信じていたぜ。お前は決して諦めない男だってな」



 「…………何が目的だ?」



 「え?」



 「エルフなのに魔法が扱えない俺を、嘲笑いたいのか!? それとも、日頃のストレス解消として利用したいのか!?」



 四六時中、周囲から迫害を受け、ストレスが溜まっていた俺は、二日連続で付きまとって来たトレディに向かって、怒りをぶつけた。



 「俺は只、お前の力になりたいんだ」



 「力になりたい!? なら、二度と関わらないでくれ!! 魔法が扱えるお前には分からないかもしれないが、扱えない俺からしたら、お前が側にいるだけで劣等感を感じて、集中する事が出来ないんだよ!!」



 「…………」



 「……そ、そう言う訳だから、もう関わって来るなよ……」



 大声を上げた事で、気まずい雰囲気になってしまい、居た堪れなくなった俺は逃げる様に、その場を去った。



 「ちょっと言い過ぎたか? いや、面白半分で来たあいつの方が悪いんだ。そうさ、俺は悪くなっ……!!?」



 などと、歩きながら自問自答で罪悪感を払拭しようすると、道中で擦れ違ったエルフ達の一人と肩がぶつかってしまった。



 「何すんだって……お前、確か魔法が扱えない……」



 「…………」



 「あっ、おい!! 待ちやがれ!!」



 関わり合いを持ちたくなかった俺は、その場を走り出して逃げようとした。



 「待てって言ってんだよ!! “ファイア”!!」



 必死で逃げる中、追い掛けるエルフ達の一人が魔法を唱えた。赤々と燃える炎が生成され、そのまま俺目掛けて放たれた。



 「ああああああ!!!」



 背中に直撃した炎は、やがて全身を包み込んだ。急いで消火を試みるが、魔法で生成された炎は、詠唱した者より高い実力が無ければ、消す事が出来ない。つまり、魔法が扱えない俺はその命燃え尽きるまで、もがき苦しむしかなかった。



 「お、おい……これヤバいんじゃないか?」



 「し、知らね!! 俺、知らね!!」



 「俺も!!」



 想像以上に苦しむ俺の姿を目の当たりにしたエルフ達は、責任逃れの如く慌ててその場を去った。



 「(せめて……消してから逃げろよな……あぁ、このまま死ぬのかな……結局、俺は誰にも認められず、死ぬんだな……)」



 意識が遠退く。惨めな日々を過ごした俺の人生は、惨めなラストを迎えるのだった。



 「“ウォーター”!!」



 が、その直後何処から途もなく放たれた水によって、全身を覆っていた炎が消火された。



 「大丈夫か!!? おい、しっかりしろ!!」



 すると目の前に、トレディが現れた。どうやら先程の水は、トレディの唱えた魔法だったらしい。



 「うぅ……」



 「火傷が酷い……急いで薬剤師の所に連れて行かないと!!」



 そこで俺の意識は途絶えた。覚えているのは断片的な記憶で、重症の俺をトレディが担ぎ上げ、治癒用のポーションなどを作っている里の薬剤師の下へ、運んだ。







***







 「…………んっ……」



 目を覚ますと、そこは薬剤師が経営する診療所のベッドの上だった。



 「おっ、目が覚めたか?」



 「お前…………」



 側にはトレディがいた。俺が目を覚ましたのを確認するとあいつは、いつもと同じ態度で気さくに話掛けた。



 「いやー、ポーションって効くんだな。あんなに酷かった火傷が、綺麗さっぱり無くなってるんだからな」



 「……何で……」



 「ん?」



 「何で俺なんかを助けたんだよ……知ってるだろ、里中から迫害されているの……」



 「あぁ、知ってるよ」



 「なら、どうして助けたんだ? こんな事をすれば、お前だって立場が悪くなるぞ」



 「……俺はさ、常々この里の考え方は間違っていると思ってるんだ。ユグジィも、そう思うだろ?」



 「それは……」



 「魔法は便利だ、それは認める。でも優れているかと問われれば、そうとは言い切れない。魔法にだって、得意不得意がある。それは生き物にも同じ事が言える。エルフだからと言って、必ずしも魔法が扱える訳じゃない。皆、それぞれ個性があり、その個性を尊重する事が大切なんだ」



 ずっと思っていた。もしかしたら俺は、エルフ達の中で異物なんじゃないかと。間違っているのは、周りの連中では無く、エルフなのに魔法を扱えない俺の方なのでは。だけど今、目の前に俺と同じ想いのエルフがいた。



 「ユグジィ、俺いつか里の長になろうと思っているんだ」



 「えっ?」



 「長になれば、皆の考え方を変えられるかもしれないだろ?」



 「そうかもしれないな……」



 「それでさ、お前には俺の補佐をして貰いたいんだ」



 「補佐?」



 「あぁ、俺一人だけじゃ、どうしても力不足だ。でも、俺達二人が力を合わせれば、きっと里を変えられる!!」



 「……い、いやいや、無理だよ!! だって俺、魔法扱えないし……」



 「それが何だ!? 俺達が目指すのは、魔法が全てじゃないという柔軟な考えを持った里だ」



 「いやでも、俺なんかが関わったら、迷惑になるし……」



 「ユグジィ……“一人で抱え込まないでくれ”!!」



 「!!!」



 「俺達、同じ想いを抱く仲間だろ!? それぞれが辛い想いをしていたら、その気持ちを分かち合って、少しでも負担を減らすんだ!! お前の気持ちの半分は俺が背負う。だから、俺の気持ちの半分はお前が背負ってくれ!!」



 「トレディ……わかった、わかったよ。お前には負けたよ」



 「そうこなくっちゃ!!」



 根負けした俺に、トレディは嬉しそうに笑みを浮かべた。



 「けど真面目な話、魔法が扱えないエルフを背負うのは、足枷になるぞ? どうするつもりなんだ?」



 「そうだな……魔法が扱えないのなら、肉体面を鍛えるってのはどうだ?」



 「肉体? 体を鍛えるのか?」



 「そうだ、丁度良い事にここの薬剤師が取り扱っている薬草が、お前の治療で底をついた。どうやら里からかなり離れた位置に、自生しているらしい。それを毎日ダッシュで取りに行ったらどうだ? 代金の代わりにもなるし」



 「うーん、それは別に構わないけど、筋肉ムキムキなエルフって気持ち悪くないか?」



 「そうか? 俺は強そうで良いと思うけどな」



 「……まぁ、それならやってみるかな」



 「よし!! ここからが俺達の伝説の第一歩だ!! やるぞぉおおおおお!!!」



 「全く……大袈裟だな……」



 だけど、悪い気はしなかった。そうして俺とトレディによる、里の長になる為の戦いが始まった。







 「さてさて~、エルフの里は何処にあるのでしょうかね~?」
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