笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第六章 冒険編 記憶の森

滅亡

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 俺は椅子に座りながら、右手の小指から人差し指に沿って、リズム良く手すりを打ち鳴らす。部屋では無機質な音が鳴り響いていた。



 「……暇だな……」



 結論から言えば、俺はエルフの里の長になった。細かい経緯は省くが、トレディの悪行を里中に広めたのだ。それにより、里はトレディを恥晒しと罵り、逆に俺を心優しき真面目な青年と称えるなど、まるで息を吐くかの様な掌返しをして来た。



 「いつになったら、里を滅ぼせるのだろうか……」



 里を滅ぼすと決心してから五百年。里長になり、住民から白い目を向けられなくなった今でも、想いは変わっていなかった。寧ろ、簡単に掌を返す里の連中に更なる怒りが湧いていた。では何故、さっさと滅ぼさないのか。それは……。



 「ユグジィ様」



 「ん?」



 俺が考え事をしながら、暇を持て余していると、一人の若いエルフが部屋に入って来た。



 「どうかしたか?」



 「それが……妙な男がユグジィ様に面会を求めています」



 「妙な男?」



 「はい、仮面を被った……」



 「!! そうか……うん、そいつは俺の客人だ。通せ」



 「畏まりました」



 そう言うと若いエルフは、部屋を後にした。俺はその妙な男が来るまで、椅子に座り直したり、身なりを整え始めた。それから数分後。



 「ユグジィ様、お連れしました」



 「入れ」



 部屋の扉が開き、若いエルフが連れて来た妙な男が入って来る。



 「どうも~、お久し振りですね~。お元気でしたか~?」



 その男とは勿論、エジタスの事である。エジタスは再会を喜ぶかの様に、両手を拡げてハグを求めて来た。



 「止めろ気持ち悪い。そういうタイプでは無いだろうお互い」



 当然、俺は拒んだ。誰が好き好んでエジタスとハグするか。そんな俺の様子に、エジタスは拡げていた両手を下ろした。



 「そうですか~? 私は少し残念ですよ~」



 「冗談はそこまでだ。お前が再びこの里に来たという事は、目処が立ったのだろう?」



 「…………」



 いつも仮面越しで表情が読み取りづらいが、その時だけはハッキリと伝わった。俺の言葉にエジタスは、笑みを浮かべている様だった



 「えぇ、あなたが思っている通り、滅亡の目処が立ちましたよ~」



 「素晴らしい。それじゃあ早速、詳しい内容を聞かせて貰おうか?」



 「まずこの作戦には、ある“少女”を使います」



 「“少女”? それは里の者か?」



 「はい、その少女はあなたと同じく、エルフなのに魔法が扱えないらしいのですよ~」



 「ほぅ、それはそれは……」



 俺は少し、その少女に興味が湧いた。まさか自分と同じ種族で、同じ境遇の人物がいるとは夢にも思わなかった。



 「それでその子は、周囲から虐めを受けているらしいです」



 「ふむ……俺が長に就任してから数百年……未だにそんな輩が残っているとはな……」



 「でも結局、全てはその子の勘違いなんですけどね~」



 「…………どう言う意味だ?」



 聞くとその少女は、魔法が扱えない訳では無く、まだ芽が出ていないという大器晩成型のエルフで、虐めていた者達も悪意からでは無く、好きだからちょっかいを出していた。つまり好意から来る虐めだった。



 「はぁー、全く……それの何処が俺と一緒なんだ……全然違うぞ……」



 「ですよね~、初めはあなたと同じだな~って思ったんですけど、調べていく内、やっぱり全然違うな~って思い直しましたよ~」



 落胆した。聞けば聞く程、その少女に対する興味が薄れて行く。



 「……それで? 結局の所、どうやって滅ぼすつもりなんだ?」



 「簡単です。少女の勘違いを加速させます」



 「勘違いを加速? つまりどう言う意味だ?」



 「いいですか、今その少女は周囲から孤立しており、頼れる人物が私しかいない状況にあります」



 「だから?」



 「もしその頼れる人物が、同じ里のエルフに虐められていたら、どうなると思います?」



 その言葉に、俺は一つの答えに辿り着く。それはかつて俺自身が経験し、今の俺を築き上げた要因だった。



 「成る程……感情の爆発か」



 「大切な人を傷つけられているという怒りと悲しみ、大切な人を失ってしまうかもしれないという不安。そして、そんな大切な人を虐めている存在に対しての激しい憎しみを刺激します」



 「だが、そう簡単に上手く行くのか? 少女とはまだ数日しか会っていないのだろう?」



 「そこは問題ありません。私の巧みな話術と、この陽気な動きがあれば、それなりの信頼関係は築けるのです」



 「それなりなのか……」



 「はい、それなりです。でもそれで良いんですよ、下手に感情を持たれて執着されるより、この人がいなくなったら私はまた一人に……と思われた方が、生き物は誘導しやすいですからね~」



 「……やはりお主を利用して正解だった。その人を人とも思わない考え方……気に入ったぞ」



 「でも、仲間だとは思っていない」



 「当たり前だ。仲間など、所詮は聞こえの良いだけの言葉に過ぎない。だが、悲しい事に殆どの者は、その上面だけを意識して、中身を重要視しない」



 「……良いですね~、私もあなたの事は気に入っていますよ~」



 「でも、仲間だとは思っていない」



 「そりゃあ……ねぇ~」



 わざとらしく、右手の親指と人差し指を顎に付け、首を傾げるエジタス。互いに利用し合っているからこそ、出来るやり取りだ。



 「という訳で、この作戦を成功させる為に、ユグジィさんには誰でも良いので、適当にエルフを一人貸して貰えないでしょうか?」



 「あぁ、分かった。だがその前に確認したい事がある」



 「何でしょうか?」



 「お前の素顔を見せろ」



 「…………」



 「…………」



 その瞬間、張り詰めた空気が周囲に漂い始めた。今まで味わった事の無い不気味な雰囲気だった。



 「それはつまり……私の顔がみたい……そう言う事ですか~?」



 「前々から気になっていてな。この作戦が完了したら、もう会えないかもしれん。それならその前に、拝見しておこうと思ってな」



 「…………」



 するとエジタスは、指をパチンと鳴らし、一瞬でその場から姿を消した。



 「今さっきも言いましたが、私はあなたを仲間とは思っていません」



 「!!!」



 気が付くと、背後にエジタスが立っていた。そして何処からか、食事用のナイフを取り出し、俺の首元に押し当てた。



 「こうして手を組んでいるのは、面白いと思ったからです。ですが、少しでも面白く無いと思ったら……躊躇無く殺しますよ? それでもあなたは、私の素顔が見たいですか?」



 「……あぁ、見たい……」



 「そうですか……それが最後の言葉で良いんです「だが」……?」



 「俺を殺しても、エルフの里を滅ぼすのは止めないでくれ。そして俺の代わりに、滅びる里を見ながら大笑いして欲しい……それだけしてくれれば、俺は満足だからな」



 「…………」



 エジタスは、押し当てていた食事用のナイフを引っ込めた。



 「エジタス……?」



 不思議に思いながら、俺は振り返った。



 「!!!」



 そこにはこの世の者とは思えない、おぞましい化物が立っていた。肌の殆どが焼け爛れており、歯茎なんかは剥き出し状態になっていた。



 「ご感想は?」



 「……ふっ、酷い面だな。しかし、だからこそ分かる、お主の過去が壮絶な物だという事が……」



 「……同情は必要無い」



 「同情? 笑わせるな、元よりそんな過去に興味は無い。俺が興味あったのは素顔だ。だが、それも既に失せた。さっさと作戦を開始するぞ」



 「…………」



 エジタスは俺の素っ気ない素振りに、指をパチンと鳴らし、一本の杖を取り出した。



 「何だそれは?」



 「“ロストマジックアイテム”……作り出した者が死ぬ事によって、初めてその能力を発揮する道具だ。やる」



 そう言ってエジタスは、俺に杖を手渡した。



 「作り出した者……つまりはあれか? この杖の能力が発動する時、お主が死んだという事か?」



 「そう言う事だ」



 「……背中の痒い所に手が届かない時とかに、利用してやろう」



 「今はそれで良い。いつかきっと、お前の役に立つ時が来る。それともし、そのロストマジックアイテムを欲しいと言ってくる奴が現れた場合、渡すのに相応しいかどうか、見極めろ」



 「やるって言ったり、見極めろって言ったり、忙しいな……まぁ、覚えておこう」



 「…………」



 そうしてエジタスは、再び仮面を付け直した。



 「さ~てと、それじゃあ早速エルフを一人貸して頂きましょうかね~」



 「よし、じゃあ付いてこい」



 俺はエジタスを連れて、外に足を運んだ。







***







 外に出た俺達二人は、里の外れへと向かって歩いていた。



 「ほら、あそこにいる奴なら好きに使って構わない」



 辿り着いた先で、俺は目の前を指差した。そこには一人のみすぼらしいエルフが、自生している薬草を摘んでいた。



 「おやおや~? もしかして彼は~?」



 「へへへ……この薬草で金儲けするんだ……そうしたら名声も手に入って……俺が長に……へへへ……」



 「相変わらず哀れだな……“トレディ”?」



 「ひぃ!!! お、お前!!? ど、どうしてここに!!? ち、違うんだ!! 俺は只、薬草を拾って……その……」



 それは変わり果てたトレディだった。俺の存在に気が付いた途端、怯えだした。かつて俺を利用して長を目指していたエルフの姿は、見る影も無くなっていた。



 「言い訳はいい。それよりも、汚名返上のチャンスをやる」



 「ほ、本当か!!? やる!! 俺、何だってやるよ!!」



 摘んでいた薬草を放り投げ、俺の足下にすがり付いて来た。



 「よし、じゃあ後は頼んだぞ」



 「はいは~い、お任せ下さ~い」



 俺はそのまま来た道を戻った。汚名返上出来ると聞いたトレディの顔。滑稽だった。まさか最終的に殺されるだなんて、夢にも思っていないだろう。それも自分よりも年下の少女に。それから間も無く、里は滅びるのだった。







***







 “お、お前魔法が扱え……がはぁ!!!”



 “そんな……どうして……お、俺ずっとお前の事が……いやぁあああ!!!”



 “エピロ!? エピロなの!? あんた、その姿…………そっか、こんなあたしでも母親になれるかと思ったけど……どうやら、気づくのが遅すぎたみたいだね…………”







 「…………」



 俺は里が滅ぼされて行くのを、遠くからじっと見つめていた。泣き叫びながら逃げ惑う者、血反吐を吐いて倒れる者、正に地獄絵図状態だった。



 「くっ……くくく……あははははははははははは!!! あははははははははははははは!!!」



 その情景を見ながら、俺は大笑いしていた。魔法を扱えないという理由で、今まで俺を虐げて来た連中や俺が長になった途端、掌を返して来た連中が殺される様を見て、俺は胸がスッキリした。漸く、長年思い続けて来た悲願が達成された瞬間を迎えたのだ。

















 「う~ん、順調順調~」



 時を同じくして、エジタスもエルフ達が殺される様を楽しんでいた。



 「エジタス様……」



 すると背後に、黒いフードを被った人物が現れた。エジタスは、少し首を後ろに向けた後、再びエルフ達が殺される様を楽しみ始めた。



 「不満ですか?」



 「……はい、あの男ではロストマジックアイテムを上手く扱えないと思います」



 「何故?」



 「そ、それは……」



 「魔法が扱えないから?」



 「…………」



 「……結局、あなたも差別するんですね……がっかりですよ……」



 「ち、違います!! 私は只!!」



 「冗談ですよ~、全くあなたは本当に純粋で真面目ですね~」



 「…………」



 「下がりなさい。そろそろ、ラクウンさんが来る筈なので……」



 「分かりました。失礼します」



 そう言うと黒いフードの人物は人混みに紛れながら、その場を後にした。



 「~~♪~~♪~~~♪」



 そしてエジタスは、エルフ達の悲鳴を聞きながら、鼻歌を歌い始めるのであった。
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