笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第六章 冒険編 記憶の森

信念

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 「どうだ、これで分かっただろう? 仲間なんてのは上っ面だけで、実際は互いの利益の為に利用し合っているだけに過ぎないのさ!!」



 ユグジィは、声を荒げながら真緒達に己の過去を語った。



 「唯一、信じていた仲間に裏切られるなんて、辛い思いをして来たんですね」



 「はっ!! まさかの同情とは!! そんなのでこの俺が改心すると思うか!!?」



 「同情じゃない、共感しているんだ。俺は過去のトラウマで、鳥人なのに全く飛べなくてな……でも、真緒達と出会った事で、今では自由に空を飛べる事が出来るんだ」



 「だから?」



 「だからという訳じゃ無いが、誰かの支えがあればきっとお前も……「ふざけるな!!」……っ!!?」



 フォルスの言葉を途中で遮るユグジィ。



 「何が共感だ!! お主には、過去のトラウマという確たる原因がある!! しかし俺には、そんな物は無いんだよ!! 生まれた時から魔法の才能が皆無だった!! 俺とお主とでは、境遇が全く異なるんだよ!!」



 「…………」



 フォルスが説得を試みたが、そもそも前提が間違っている事を指摘され、完全に言いくるめられてしまった。



 「仲間なんて所詮、利用し合う関係……確かにそうかもしれません」



 「「「!!?」」」



 その時、二人の会話に割って入るかの様に、突如真緒が口を開いた。



 「ほぅ、随分と物分かりが良いじゃないか。素直なのは好きだぜ」



 「マオ、どういうつもりだ!!?」



 「マオさん、何を言っているんですか!!?」



 「いっだいどうじたんだぁ!!?」



 「別に驚く事じゃ無いよ。私だって、自分の利益の為に仲間を利用する事があるよ」



 淡々と答える真緒に、三人は驚きの顔を隠せなかった。



 「くくく……だから言っただろう。仲間なんて所詮……「だけど」……あぁ?」



 「逆に私自身が、皆に利用される事だってある。つまり、お互いが必要としている深い関係だって事だね。そうした関係は、仲間という存在になるんじゃないのかな?」



 「マオ……そうか、お前は仲間の在り方……その存在を証明しようとしているんだな」



 「そう言う事だったんですか。確かにそう言われれば、私も自分の利益の為に皆さんを利用して来たと言えるかもしれませんね」



 「オラなんが食事の用意ずる時、いづもマオぢゃん達を利用じでいるだぁ」



 「ふふふ、ハナちゃんは料理が苦手だからね」



 「それなら今度、皆で一緒に料理しませんか? その方がきっと楽しいし、上手く利用出来れば、ハナコさんの料理の腕が上達しますよ」



 「いいね、ハナちゃんは何か作ってみたい料理とかある?」



 「オラは肉料理が良いだぁ!!」



 「ハナコ、それは作ってみたいじゃなくて、食べたいだけだろう?」



 「ありゃ、バレぢまっだだぁ」



 「もうハナちゃんったら、いやしんぼうなんだから」



 「「「「あはははははは!!!」」」」



 「…………くぁああああああ!!!」



 「「「「!!!」」」」



 四人が楽しく談笑していると、ユグジィが大声を上げながら両腕を大きく振り上げ、勢い良く地面に叩き付けた。それにより、土煙が舞い上がり地面は大きく揺れた。



 「いい加減しろよ……勝手に話を進めやがって……ちゃんと状況を確認しろ……戦闘中なんだぞ……それで結局、何が言いたいんだ!!?」



 「あなたの言う通り、もしかしたら仲間なんてのは己の利益の為に、互いを利用し合っているだけの関係なのかもしれません。でも、それの何処がいけないんでしょうか?」



 「何!?」



 「利用するという事は、少なくとも相手の事を想っているという事の証拠……そこから努力すれば、私達の様な心の底から信頼し合える仲間になるんじゃないでしょうか?」



 「努力? 努力だと? そんなのは無意味だ!! 利用している相手と仲良くなんて、出来る訳無いだろう!!」



 「本当にそう思っているんですか?」



 「当たり前だ!!」



 「じゃあ聞きますが、あなたは今まで利用している相手と、少しでも仲良くなろうと努力した事がありすか?」



 「そんなのある訳が無いだろう。そもそも、仲良くする必要なんて無い」



 「それだったら、仲良く出来る訳が無いというあなたの否定は、只の妄言ですね」



 「何だと!!?」



 「だってそうでしょ? 今まで仲良くなろうと努力した事が、一度でもありました? もしあったのなら、今すぐ言って下さい。そうしたら、前言撤回します」



 「それは…………」



 ユグジィは過去を振り返った。1500年以上の記憶を辿り、仲良くなろうとした時の事を思い出そうとした。しかし思い出せなかった。いや、最初からそんな記憶は存在しない。真緒の言う通り、仲良くなろうと努力した事など、一度たりとも無かったのだ。それは……以降の言葉が何も出ず、詰まってしまった。



 「やっぱり……あなたの過去は確かに悲惨と言えるかもしれない。でもあなたは、たった一度の裏切りで誰も信用出来ないと決め付けた。仲間なんてと、頭ごなしに否定し続けた。そうやって拒み続けた末路が、今のあなたじゃないんですか?」



 「……煩い……黙れ……」



 「黙りません。あなたに必要だったのは、師匠の様な他人を一方的に利用する冷たい心でも、自分を蔑ろにした里への復讐心でも無い。“仲間を信じる心”です」



 「煩い煩い煩い煩い煩い!!! 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!! 俺は間違っていない!! 俺は間違っていない!! 仲間なんてのは、利用する時に用いる言葉なんだ!!!」



 「ユグジィさん!! 今からでも遅くありません!! 一度でいいから、私達という仲間を信じて下さい!!」



 「うわぁあああああ!!!」



 「「「「!!!」」」」



 自身の行動が間違っていたのかと、頭を抱えるユグジィに対して、必死に呼び掛ける真緒。しかし次の瞬間、ユグジィは叫び声を上げながら、真緒目掛けて襲い掛かって来た。両拳を振りかぶりながら、容赦無く叩き込んで行く。真緒は咄嗟に剣でガードするも、隙の無い連続パンチに上手く反撃出来ず、防戦一方となってしまった。



 「うわぁあああああ!!!」



 「くぅ……っ……」



 「マオ!! 今助けるぞ!!」



 フォルスが真緒を助けようと、空中から矢をユグジィ目掛けて放った。



 「うわぁあああああ!!!」



 見事に矢は、ユグジィの肩に突き刺さった。しかし、痛みを感じていないのか何事も無かったかの様に、叫び声を上げながら攻撃を続けた。



 「ば、馬鹿な!!?」



 「今度は私が!! “スネークフレイム”!!」



 見兼ねたリーマが魔導書を開き、魔法を唱えた。すると目の前に赤々と燃え上がる炎の蛇が生成され、そのままユグジィ目掛けて放った。



 「うわぁあああああ!!!」



 見事、リーマの魔法は命中し、ユグジィの体は炎に包まれた。しかしそれでも尚、攻撃の手を緩めようとはしなかった。



 「そ、そんな!!?」



 「オラがマオぢゃんを助げるだぁ!! スキル“鋼鉄化”!!」



 すると今度はハナコが、全身を鋼鉄に変化させ、ユグジィ目掛けて突進した。



 「……ぐふっ!!?」



 さすがのユグジィも、巨大な鉄の塊がぶつかった衝撃には耐えきれず、数十メートル先まで吹き飛んだ。



 「はぁ……はぁ……」



 「マオぢゃん、大丈夫だがぁ!?」



 「う、うん……ありがとうハナちゃん……」



 「やったのか?」



 「いや、恐らくまだ……」



 「うわぁあああああ!!! うわぁあああああ!!!」



 「「「「!!!」」」」



 思った通り、ユグジィは再び立ち上がった。足下はふらふらで、肩には矢が突き刺さっており、全身は火傷で覆われ、ぶつかった衝撃で骨の大半は折れてしまっていた。それは最早、立っている事が不思議な程であった。



 「いったい何がそこまで、この男を突き動かしているんだ……」



 「恐らく……信念じゃないでしょうか?」



 「信念だと?」



 「この一年、私はユグジィを側で見ていたから、何となくですが分かる気がするんです。ユグジィは、自分の信じた事や行った事に一種の誇りを持っていました。だからこそ、マオさんの言葉はそれまでユグジィが正しいと思ってやって来た事や、信じて疑わなかった事の根底を覆してしまう恐怖を含んでいた……という事でしょう」



 「成る程……つまりここでマオを否定しなければ、自分のやって来た事が全て無駄になってしまうと思ったんだな」



 「なら、その信念を徹底的に打ち砕かないと、ユグジィさんはいつまで経っても前に進む事が出来ない」



 「うわぁあああああ!!! 俺は……俺は……」



 真緒はユグジィの前に立つと、剣を構えた。それに対してユグジィは、叫び声を上げながら、勢い良く突っ込んで来た。



 「俺は何も間違ってはいない!! 仲間は利用するだけの存在なんだ!!!」



 「……スキル“明鏡止水”」



 その瞬間、まるで時が止まった様に動けなくなってしまった。意識はハッキリとしているのに、体が全く動かない。そんな状況の中、目の前にいる真緒が静かに、動けないユグジィの体にゆっくりと剣を振り下ろす。すると、斬られた箇所が赤く滲み出す。それを見届けた真緒は、静かに剣を鞘に収める。



 「……ぐはぁあああああ!!!」



 鞘に剣を収めた瞬間、赤く滲み出した箇所から血が勢い良く吹き出した。そしてユグジィは、仰向けに倒れるのであった。



 「何が……起こったんだ……?」



 「別に大した事じゃありません。この剣で斬っただけです」



 「あぁ……負けたのか……“わし”は……」



 すると、ユグジィは瞬く間に若者の姿から元の老人の姿へと戻った。



 「見事じゃ……これなら、安心してお前達に“記憶の杖”を託す事が出来る……」



 「ユグジィさん……あの……」



 「何も言うな……わしは、この年になるまで気付けなかった……只、それだけの事じゃ……」



 「……“記憶の杖”……確かに受けとりました……」



 「……それで良い……さて……そろそろ行くとするか……里の皆に謝らないとな……そしたら……漸くわしにも……仲間が……出来る……か……な…………」



 そう言い残して、ユグジィは息を引き取った。真緒達はしばらくの間、その場で冥福を祈るのであった。仲間という存在を信じきれなかった、哀れな老人に。
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