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第七章 冒険編 大戦争
責任は誰の手に
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リリヤ女王は殺され、最後のロストマジックアイテムもエイリスによって奪われてしまった。追いかけ様にも、何処に向かったのか全く分からない。やるせない気持ちの中、真緒達は重い足取りでゴルド帝国を後にした。
「「「「…………」」」」
道中、誰一人として口を開こうとはしなかった。各々がこの失敗は自分に責任があるのだと、重く受け止めてしまった結果である。
「「「「…………」」」」
これから何処に向かえば良いのか分からない以上、取り敢えずカルド王国に向けて歩き続けていた。
***
「「「「…………」」」」
その夜、焚き火をしながら野宿する真緒達だが、誰一人として夕食に手を付けようとしなかった。最早、食事さえ喉を通らない程なのだろう。あの食いしん坊であるハナコでさえ、一口も食べなかった。この事実だけでも、真緒達がどれだけ気に病んでいるのかが見て取れる。
「……あ……っ……」
寝る間際、真緒が落ち込んでいる皆に声を掛けようとするが、何と声を掛ければ良いのか分からず、結局そのまま何も言わずに眠りについてしまった。
***
「「「「…………」」」」
翌朝、 来た道を戻って行く真緒達は相変わらず、一言も喋らずに黙々と歩き続けていた。するとその時……。
「見つけたぞ!!」
「「「「……?」」」」
前の方から声を掛けられた。俯いていた顔を正面に向けると、そこには武装した数百人の兵士達がいた。
「サトウマオだな!? 貴様、よくも我らゴルド帝国の兵士をコケにしてくれたな!!」
「あなた達は……あっ、カルド王国を攻め落とそうとしていた人達……」
一瞬、思い出せなかったが、大勢の兵士達の姿を見て思い出した。数こそかなり減少してはいるが、身に付けている鎧から紛れもない。誰もいないカルド王国を攻め落とそうと必死になっていたゴルド帝国の兵士達であった。
「貴様のせいで我らは無駄な時間を費やしてしまった。虚偽に気が付き、急いで戻る道中、偶々見掛けた魔族を次いでに討伐しようとしたら返り討ちに遭い、その結果半数以上の兵士達が壊滅させられ、散々な目にあったのだ!!」
「この近くに魔族が……?」
もしかしたらリップかもしれないという可能性が脳裏を横切るが、もしそうならゴルド帝国の人間はその魔族の事を名指しするだろう。決して知らない仲ではないのだから。
「夢半ばで亡くなってしまった兵士達の無念、貴様らの死で弔ってくれる!!」
そう言うと、先頭の隊長らしき男は右手を挙げた。すると隊列を組んでいた兵士達が一斉に真緒達を取り囲んだ。
「夢半ばって……その魔族に喧嘩を売ったお前らが悪いんだろうが」
「煩い!! 貴様らが我らを騙そうとしなければ、こんな事は起こらなかったんだ!!」
「そんな無茶苦茶な……」
「せいぜい、あの世で謝り続けるがいい……殺せぇえええええ!!」
“殺せ”という言葉と同時に挙げていた右手を勢い良く振り下ろし、他の兵士達に合図を送った。すると合図を受け取った兵士達は武器を引き抜き、真緒達目掛けて一斉に襲い掛かって来た。
「くっ!! やるしかないか!!」
襲い掛かる兵士達を対処すべく、真緒達各々は武器を構えた。
「死ねぇえええええ!!!」
「っ!! はぁあああああ!!!」
「ぎゃあああああ!!!」
真緒は勢い良く振り下ろされた武器を剣で受け止め、弾き返すと同時に兵士の体を切り伏せる。
「よくも仲間を!!」
「絶対に許さないぞ!!」
「殺してやる!!」
「スキル“乱激斬”!!」
「「「がはぁ!!」」」
今度は三人同時に襲い掛かって来た。真緒はスキルを発動し、目にも止まらぬ剣捌きで三人の兵士を切り伏せた。
「生意気な!!」
「小娘が!!」
「調子に乗るなよ!!」
「ぶっ殺してやる!!」
「覚悟しろ!!」
「スキル“ロストブレイク”!!」
すると今度は五人同時に襲い掛かって来た。真緒はスキルで強力な一撃を放って、五人いっぺんにまとめて倒した。
「はぁ……はぁ……ちょっと疲れちゃった……」
いつもならこれ位、大した事無い筈なのに、妙に息切れしてしまっていた。
「だはぁ!! 疲れるだぁ!!」
「数が多いですね……」
「この程度の実力なら数百名位、楽勝だと思ってたんだけどな……」
更にそれは真緒だけに留まらなかった。ハナコ、リーマ、フォルスの三人も妙に疲れた様子だった。
「おいおいこの様子じゃ、すぐ終わってしまいそうだな。とんだ期待外れだな」
「「「「くっ!!」」」」
数に圧され、徐々に追い詰められていく真緒達。慌てて周囲を確認するが、既に逃げ道は無くなっていた。
「無惨にも散っていった仲間達の仇、味わうが良い!! ははははは!!! は……?」
勝利を確信し、高笑いする隊長だったが次の瞬間、突如目線が下に落下していく。何が起こったのか訳が分からなかった。意識が薄れていく。最後に目にしたのは、前のめりに倒れる首から上が無い見覚えのある体であった。
「た、隊長!!?」
側にいた兵士は一部始終を目にしていた。空から舞い降りて来た何者かによって、隊長の首は一瞬で切り落とされてしまったのだ。叫んだのも束の間、次に瞬きする時には首と胴体がオサラバしていた。
「な、何が起こった!?」
「分かりません!! 兵士達の首が急にににににぃいいい……」
場が混乱する中、次々と兵士達の首が何者かによって切り落とされていく。
「ひぃ!! 嫌だ、死にたくない!!」
「助けてくれ!!」
命欲しさに逃げ惑う者も……。
「ふざけやがって!! 姿を見せやがっ……」
血気盛んに戦いを挑もうとした者も皆、漏れ無く首を切り落とされて殺されてしまった。
「いったい……何がどうなってる……」
「さ、さぁ……」
「オラ達、助がっだだがぁ?」
「多分……」
気が付くと真緒達の目の前には、大量の死体が出来上がっていた。地獄絵図とも言える程、凄惨な現場に思わず息を飲んだ。
『大丈夫だった? 怪我とかしてない?』
「「「「!!?」」」」
その時、背後から声を掛けられた。真緒達は慌てて振り向き、声の主の正体を確認しようとした。
「お、お前は……」
「“サタニア”!!?」
「数日振りだけど元気だった?」
そこにいたのは何と、三代目魔王であるサタニアであった。意外な人物の登場に真緒達は開いた口が塞がらない思いだった。
「どうしてここに!!?」
「上手く行ったかどうか心配になって見に来たんだけど、その道中彼らに襲われちゃってね。大半は片付けたんだけど、数百名程取り逃がしちゃって……それで残りを始末しようと追い掛けていたら、取り囲まれている真緒達を見つけたって訳だよ」
兵士達が話していた魔族とはサタニアの事であった。偶然とはいえ、まさか魔王に喧嘩を売ってしまうとは何とも運が悪いとしか言い様が無い。
「サタニア、ありがとう助かったよ」
「……僕と互角以上に戦ったマオ達が、あれ位の敵に苦戦するだなんて信じられなかったよ……何かあったの?」
「「「「…………」」」」
サタニアは全てお見通しだった。本来、あの程度の相手に真緒達が苦戦する事はあり得ない。しかし、ゴルド城での失敗が頻りに脳裏を過ってしまい、またあの時と同じ様に失敗してしまったらどうしようと、余計な事ばかりを考えてしまった。それが足を引っ張り、追い詰められる事になってしまった。
「僕で良かったら話してよ。少し位なら役に立てるかもしれない」
「…………」
「「「…………」」」
「実は……」
真緒は話すべきかどうか、三人に目線を向けた。すると三人は静かに首を縦に振った。それに応える様に真緒も首を縦に振り、そしてサタニアにこれまでの事を全て包み隠さず話した。
***
真緒の話を一通り聞き終えたサタニアは、腕組みをしながらしばらく考え込んだ。
「……そっか、じゃあエイリスが何処に行ったのか分からないんだね」
「私が……取り逃がさなければこんな事には……」
「マオさんのせいじゃありませんよ。私がもっと早く魔法を唱えていればこんな事には……」
「リーマぢゃんは悪ぐないだぁ。悪いのはスキルを当でられながっだオラだぁ」
「それは違う。お前達は良くやった。原因は矢を当てたのにも関わらず、見す見す逃がしてしまった俺にある」
「いや、私です」
「違います、私です」
「だがらオラだぁ」
「俺だって言ってるだろ」
パァン!!!
「「「「!!?」」」」
話がヒートアップする中、突然耳元で高音が鳴り響き、体がビクッと反応する真緒達。音の正体は、サタニアが手を叩いた音だった。
「そこまで。皆、人一倍責任感が強いのは分かったけど、だからと言って全部一人で背負うのは違うよ」
「サタニア……」
「今回の事は誰も予測する事は出来なかった。本来なら誰にも責任は無いんだけど、もしどうしても誰かに責任があるとしたいのであれば、それはこの場にいる全員。そうでしょ、違う?」
「「「「…………」」」」
「仲間想いも結構だけど、もっと自分自身を大切にして、良いね?」
サタニアに正論を叩き付けられた真緒達は素直に頷いた。
「じゃあこの話はここでおしまい!! これからどうするべきか話そう。エイリスとリリヤの会話で何か気付いた事はない? もしかしたらそこから何か情報を得られるかもしれない」
「そう言われても……あっ、そう言えば確かリリヤがエイリスに裏切られた時、誰かを迎えに行くとか言っていたな」
「迎え……大司教であるエイリスや、女王であるリリヤがわざわざ迎えに行く人物……」
「何処かの国の王族でしょうか?」
「あり得なくは無いが、カルド王国やゴルド帝国は国として最高峰の国家に位置する。自分よりも下の人間をわざわざ迎えに行くとは考えにくい」
「両親じゃないだがぁ?」
「エイリスは分からないが、リリヤの親は先代のカルド王だ。もう既に亡くなっている。もしエイリスの両親だとしたら、エイリス本人が迎えに行くのは分かるが、赤の他人であるリリヤが迎えに行くのは不自然だ」
次々と考えられる可能性が出るが、どれもしっくり来なかった。そんな中、真緒とサタニアの二人だけはずっと黙り込んでいた。
「マオ、サタニア、どうした?」
「……ねぇ、サタニア?」
「……何?」
「今、何を……いや、誰を思い浮かべてる?」
「マオと同じ人だと思うよ」
「だよね……それしか考えられないよね……」
二人の頭の中では、ある一人の人物だけが思い浮かんでいた。
「二人供、いったいどうしたんですか? 誰か検討が付いたんですか?」
「うん、誰か分かったよ。ううん、本当は最初から知っていたのかもしれない」
「それはエイリスとリリヤに共通している人物……」
「ま、まさか……」
考えてみれば、簡単な答えであった。何故もっと早く気付けなかったのだろうか。答えは既に出ていたのに。
「「“道楽の道化師”エジタス」」
こうして真緒達は、有力で確実な情報を手に入れたのであった。
「「「「…………」」」」
道中、誰一人として口を開こうとはしなかった。各々がこの失敗は自分に責任があるのだと、重く受け止めてしまった結果である。
「「「「…………」」」」
これから何処に向かえば良いのか分からない以上、取り敢えずカルド王国に向けて歩き続けていた。
***
「「「「…………」」」」
その夜、焚き火をしながら野宿する真緒達だが、誰一人として夕食に手を付けようとしなかった。最早、食事さえ喉を通らない程なのだろう。あの食いしん坊であるハナコでさえ、一口も食べなかった。この事実だけでも、真緒達がどれだけ気に病んでいるのかが見て取れる。
「……あ……っ……」
寝る間際、真緒が落ち込んでいる皆に声を掛けようとするが、何と声を掛ければ良いのか分からず、結局そのまま何も言わずに眠りについてしまった。
***
「「「「…………」」」」
翌朝、 来た道を戻って行く真緒達は相変わらず、一言も喋らずに黙々と歩き続けていた。するとその時……。
「見つけたぞ!!」
「「「「……?」」」」
前の方から声を掛けられた。俯いていた顔を正面に向けると、そこには武装した数百人の兵士達がいた。
「サトウマオだな!? 貴様、よくも我らゴルド帝国の兵士をコケにしてくれたな!!」
「あなた達は……あっ、カルド王国を攻め落とそうとしていた人達……」
一瞬、思い出せなかったが、大勢の兵士達の姿を見て思い出した。数こそかなり減少してはいるが、身に付けている鎧から紛れもない。誰もいないカルド王国を攻め落とそうと必死になっていたゴルド帝国の兵士達であった。
「貴様のせいで我らは無駄な時間を費やしてしまった。虚偽に気が付き、急いで戻る道中、偶々見掛けた魔族を次いでに討伐しようとしたら返り討ちに遭い、その結果半数以上の兵士達が壊滅させられ、散々な目にあったのだ!!」
「この近くに魔族が……?」
もしかしたらリップかもしれないという可能性が脳裏を横切るが、もしそうならゴルド帝国の人間はその魔族の事を名指しするだろう。決して知らない仲ではないのだから。
「夢半ばで亡くなってしまった兵士達の無念、貴様らの死で弔ってくれる!!」
そう言うと、先頭の隊長らしき男は右手を挙げた。すると隊列を組んでいた兵士達が一斉に真緒達を取り囲んだ。
「夢半ばって……その魔族に喧嘩を売ったお前らが悪いんだろうが」
「煩い!! 貴様らが我らを騙そうとしなければ、こんな事は起こらなかったんだ!!」
「そんな無茶苦茶な……」
「せいぜい、あの世で謝り続けるがいい……殺せぇえええええ!!」
“殺せ”という言葉と同時に挙げていた右手を勢い良く振り下ろし、他の兵士達に合図を送った。すると合図を受け取った兵士達は武器を引き抜き、真緒達目掛けて一斉に襲い掛かって来た。
「くっ!! やるしかないか!!」
襲い掛かる兵士達を対処すべく、真緒達各々は武器を構えた。
「死ねぇえええええ!!!」
「っ!! はぁあああああ!!!」
「ぎゃあああああ!!!」
真緒は勢い良く振り下ろされた武器を剣で受け止め、弾き返すと同時に兵士の体を切り伏せる。
「よくも仲間を!!」
「絶対に許さないぞ!!」
「殺してやる!!」
「スキル“乱激斬”!!」
「「「がはぁ!!」」」
今度は三人同時に襲い掛かって来た。真緒はスキルを発動し、目にも止まらぬ剣捌きで三人の兵士を切り伏せた。
「生意気な!!」
「小娘が!!」
「調子に乗るなよ!!」
「ぶっ殺してやる!!」
「覚悟しろ!!」
「スキル“ロストブレイク”!!」
すると今度は五人同時に襲い掛かって来た。真緒はスキルで強力な一撃を放って、五人いっぺんにまとめて倒した。
「はぁ……はぁ……ちょっと疲れちゃった……」
いつもならこれ位、大した事無い筈なのに、妙に息切れしてしまっていた。
「だはぁ!! 疲れるだぁ!!」
「数が多いですね……」
「この程度の実力なら数百名位、楽勝だと思ってたんだけどな……」
更にそれは真緒だけに留まらなかった。ハナコ、リーマ、フォルスの三人も妙に疲れた様子だった。
「おいおいこの様子じゃ、すぐ終わってしまいそうだな。とんだ期待外れだな」
「「「「くっ!!」」」」
数に圧され、徐々に追い詰められていく真緒達。慌てて周囲を確認するが、既に逃げ道は無くなっていた。
「無惨にも散っていった仲間達の仇、味わうが良い!! ははははは!!! は……?」
勝利を確信し、高笑いする隊長だったが次の瞬間、突如目線が下に落下していく。何が起こったのか訳が分からなかった。意識が薄れていく。最後に目にしたのは、前のめりに倒れる首から上が無い見覚えのある体であった。
「た、隊長!!?」
側にいた兵士は一部始終を目にしていた。空から舞い降りて来た何者かによって、隊長の首は一瞬で切り落とされてしまったのだ。叫んだのも束の間、次に瞬きする時には首と胴体がオサラバしていた。
「な、何が起こった!?」
「分かりません!! 兵士達の首が急にににににぃいいい……」
場が混乱する中、次々と兵士達の首が何者かによって切り落とされていく。
「ひぃ!! 嫌だ、死にたくない!!」
「助けてくれ!!」
命欲しさに逃げ惑う者も……。
「ふざけやがって!! 姿を見せやがっ……」
血気盛んに戦いを挑もうとした者も皆、漏れ無く首を切り落とされて殺されてしまった。
「いったい……何がどうなってる……」
「さ、さぁ……」
「オラ達、助がっだだがぁ?」
「多分……」
気が付くと真緒達の目の前には、大量の死体が出来上がっていた。地獄絵図とも言える程、凄惨な現場に思わず息を飲んだ。
『大丈夫だった? 怪我とかしてない?』
「「「「!!?」」」」
その時、背後から声を掛けられた。真緒達は慌てて振り向き、声の主の正体を確認しようとした。
「お、お前は……」
「“サタニア”!!?」
「数日振りだけど元気だった?」
そこにいたのは何と、三代目魔王であるサタニアであった。意外な人物の登場に真緒達は開いた口が塞がらない思いだった。
「どうしてここに!!?」
「上手く行ったかどうか心配になって見に来たんだけど、その道中彼らに襲われちゃってね。大半は片付けたんだけど、数百名程取り逃がしちゃって……それで残りを始末しようと追い掛けていたら、取り囲まれている真緒達を見つけたって訳だよ」
兵士達が話していた魔族とはサタニアの事であった。偶然とはいえ、まさか魔王に喧嘩を売ってしまうとは何とも運が悪いとしか言い様が無い。
「サタニア、ありがとう助かったよ」
「……僕と互角以上に戦ったマオ達が、あれ位の敵に苦戦するだなんて信じられなかったよ……何かあったの?」
「「「「…………」」」」
サタニアは全てお見通しだった。本来、あの程度の相手に真緒達が苦戦する事はあり得ない。しかし、ゴルド城での失敗が頻りに脳裏を過ってしまい、またあの時と同じ様に失敗してしまったらどうしようと、余計な事ばかりを考えてしまった。それが足を引っ張り、追い詰められる事になってしまった。
「僕で良かったら話してよ。少し位なら役に立てるかもしれない」
「…………」
「「「…………」」」
「実は……」
真緒は話すべきかどうか、三人に目線を向けた。すると三人は静かに首を縦に振った。それに応える様に真緒も首を縦に振り、そしてサタニアにこれまでの事を全て包み隠さず話した。
***
真緒の話を一通り聞き終えたサタニアは、腕組みをしながらしばらく考え込んだ。
「……そっか、じゃあエイリスが何処に行ったのか分からないんだね」
「私が……取り逃がさなければこんな事には……」
「マオさんのせいじゃありませんよ。私がもっと早く魔法を唱えていればこんな事には……」
「リーマぢゃんは悪ぐないだぁ。悪いのはスキルを当でられながっだオラだぁ」
「それは違う。お前達は良くやった。原因は矢を当てたのにも関わらず、見す見す逃がしてしまった俺にある」
「いや、私です」
「違います、私です」
「だがらオラだぁ」
「俺だって言ってるだろ」
パァン!!!
「「「「!!?」」」」
話がヒートアップする中、突然耳元で高音が鳴り響き、体がビクッと反応する真緒達。音の正体は、サタニアが手を叩いた音だった。
「そこまで。皆、人一倍責任感が強いのは分かったけど、だからと言って全部一人で背負うのは違うよ」
「サタニア……」
「今回の事は誰も予測する事は出来なかった。本来なら誰にも責任は無いんだけど、もしどうしても誰かに責任があるとしたいのであれば、それはこの場にいる全員。そうでしょ、違う?」
「「「「…………」」」」
「仲間想いも結構だけど、もっと自分自身を大切にして、良いね?」
サタニアに正論を叩き付けられた真緒達は素直に頷いた。
「じゃあこの話はここでおしまい!! これからどうするべきか話そう。エイリスとリリヤの会話で何か気付いた事はない? もしかしたらそこから何か情報を得られるかもしれない」
「そう言われても……あっ、そう言えば確かリリヤがエイリスに裏切られた時、誰かを迎えに行くとか言っていたな」
「迎え……大司教であるエイリスや、女王であるリリヤがわざわざ迎えに行く人物……」
「何処かの国の王族でしょうか?」
「あり得なくは無いが、カルド王国やゴルド帝国は国として最高峰の国家に位置する。自分よりも下の人間をわざわざ迎えに行くとは考えにくい」
「両親じゃないだがぁ?」
「エイリスは分からないが、リリヤの親は先代のカルド王だ。もう既に亡くなっている。もしエイリスの両親だとしたら、エイリス本人が迎えに行くのは分かるが、赤の他人であるリリヤが迎えに行くのは不自然だ」
次々と考えられる可能性が出るが、どれもしっくり来なかった。そんな中、真緒とサタニアの二人だけはずっと黙り込んでいた。
「マオ、サタニア、どうした?」
「……ねぇ、サタニア?」
「……何?」
「今、何を……いや、誰を思い浮かべてる?」
「マオと同じ人だと思うよ」
「だよね……それしか考えられないよね……」
二人の頭の中では、ある一人の人物だけが思い浮かんでいた。
「二人供、いったいどうしたんですか? 誰か検討が付いたんですか?」
「うん、誰か分かったよ。ううん、本当は最初から知っていたのかもしれない」
「それはエイリスとリリヤに共通している人物……」
「ま、まさか……」
考えてみれば、簡単な答えであった。何故もっと早く気付けなかったのだろうか。答えは既に出ていたのに。
「「“道楽の道化師”エジタス」」
こうして真緒達は、有力で確実な情報を手に入れたのであった。
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まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
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