笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第七章 冒険編 大戦争

怪しげな老婆

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 サタニアとの一件から数日後。真緒達はカルド王国に戻って来ていた。城門は破壊されていたが、中の民家や店など城下町は無傷であった。サタニア曰く、金品が目的では無い彼らにとって、誰もいない建物を破壊しても意味が無いとの事。



 一方で城内は酷い有り様だった。玉座の間から寝室や浴室まで、隅々に渡って荒らされていた。サタニア曰く、何処かに隠し通路があるのではないかと探し回った証拠らしい。



 そんな真緒達は現在、城の会議室を利用して、情報が舞い込むのを待っていた。魔王であるサタニアが魔族達に命じて、エイリスの行方を追っている為、その結果待ちという状況だ。



 「……遅いですね……」



 捜索を開始してから既に三日が経過していたが、依然として有益な情報は手に入っていなかった。時が過ぎていくに連れて、焦る気持ちが先走り、不安は募るばかりだった。



 「信じて待つしか無いよ」



 「特に情報収集が得意な人達に頼んだから、安心してよ」



 「そ、そうですよね……大丈夫ですよね……」



 当初、真緒達も一緒に情報収集しようと考えていたが、魔族達から全面的に断られてしまった。理由は、真緒達が勇者一行として有名だからだという。目立つ者が下手に探りを入れれば、対象に勘づかれてしまい、逃げられてしまう可能性が高いとの事。さすがにそれは不味いと思い、大人しく結果が来るのを待つ事を選んだ。



 だがこの三日間、何も情報が得られず、只じっと待っている事に対して、徐々に堪えられなくなり始めていた。



 「サタニア様」



 すると、丁度タイミング良く会議室の扉が開き、一人の魔族が中に入って来た。



 「どうだった?」



 サタニアの問い掛けに対して、魔族は残念そうに首を横に振る。



 「申し訳ありません。最善は尽くしたのですが……エイリスは愚か、ヘッラアーデの信者すら見つける事は叶いませんでした」



 「そんな……」



 「お役に立てず、申し訳ありません」



 そう言いながら魔族は深々と頭を下げた。よく見ると、体全体が僅かに震えているのが分かる。この三日間、何の成果も上げられず、貴重な時間を無駄にしてしまったのだ。最悪の場合、殺されてしまうのではないかと脳裏を過り、恐怖で震えるのは当然と言えた。



 「……いや、君達は良く頑張ったよ。今は取り敢えず疲れた体を休ませて、いつでも出られる様に待機してくれる?」



 「!! ……はい、かしこまりました」



 少し驚いた様子を見せたが、直ぐ様了承の言葉を残して、その場を後にした。



 「……ごめんね、変に期待させちゃって……」



 報告に来た魔族が去った後、サタニアが改めて真緒達に謝罪した。



 「気に病む事は無いよ。相手の方が一枚上手なだけだよ」



 「でも結局、何も進展しなかった」



 「サタニア……」



 サタニア自身、魔族達をフル活用すれば必ず見つけられると思っていた。しかしその結果は見ての通り、エイリス単体は愚かヘッラアーデという組織その物すら見つけられなかった。これで落ち込むなと言う方が難しい。



 「他に手は無いのか……」



 「フォルスさん、鳥人族の人達からは……」



 真緒の問い掛けに首を横に振るフォルス。



 「今までだったら、それらしい影をすぐに見つけられたんだが、今回は何故か全く見つからない」



 「世界中に散らばっていた組織の人間が、突如として姿を消した……異様ですね……」



 「全くだ。気味が悪いぜ……」



 巨大な組織が、たった数日の内に突然姿を消した。壊滅したとか、解散したとか、そんな次元の話では無い。消滅したのだ。数千を越える人間が、この世から消えて無くなってしまった。これは最早、異様を通り越して異常とも言える。



 「……ハナちゃん、さっきからどうしたの? ずっと黙り込んでいるけど?」



 そんな中、ハナコが一言も喋らずにじっとしている事に気が付いた真緒。



 「……オラ……オラ……」



 「「「「…………」」」」



 心配して声を掛けると、ゆっくりと口を開いた。その言葉は重々しく、ハナコの心情が深く刻まれていた。その為、真緒達も緊張から思わず唾を飲み込んだ。



 「お腹が空いだだぁ……」



 「「「「……はぁー……」」」」



 この言葉を切っ掛けに、緊張の糸が途切れ、全身の力が抜ける。しかしその表情は何処か嬉しそうであった。



 「……そうだね、今あれこれ考えても答えは出ない訳だし、一先ず食事にしようか」



 「やっだだぁ!!」



 食事の時間になった途端、ハナコは椅子から勢い良く立ち上がり、会議室を飛び出した。



 「ちょっとハナコさん!! 急に走ったら危ないですよ!!」



 飛び出したハナコの後を慌てて追い掛けるリーマ。



 「マオのパーティーは、いつ見ても退屈しないね」



 「ちょっと騒がしい所はあるけどね」



 この追い詰められている状況の中、いつもと何も変わらないハナコの態度にサタニアは少し心が和んだ。二人も食事を済ませる為、会議室を出ようする。



 「あれ? フォルスさんは行かないんですか?」



 そんな中、フォルスだけが席についたままだった。立つ気配も感じられなかった。



 「あぁ、これからの事をもう少し考えたくてな……そんなに腹も空いてないしな」



 「そうですか……分かりました」



 これ以上言うのは無粋だと思った真緒とサタニアの二人は、素直にその場を後にした。







***







 城を出て、城下町まで降りて来た真緒とサタニア。街には既に住民達が戻って来ており、少しずつかつての活気も戻りつつあった。



 「ここも賑わって来たね」



 「トップがいなくなって、この国も終わりかと思ったけど……それ以上に国民がたくましかったよ」



 「だね、やっぱり国は国民あってだよ」



 王族が皆いなくなり、一時期は国の消滅も予見されていたが、杞憂だった。予想以上に国民は強く骨太な精神を備えていたらしい。国民の元気な姿を見て、真緒達は自然と笑みが溢れる。



 「それで今日は何処で食べようか」



 「そうだな……ん?」



 食事を済ませる店を探そうと辺りを見回していると、人目に付きにくい路地裏で魔族と人間が揉めているのを発見する。



 「ごめんマオ、僕ちょっと用事が出来ちゃった。先に済ませておいて」



 「えっ、あっ、うん……分かった。気にせず行ってきて」



 「ありがとう」



 事情を察した真緒は、サタニアを送り出した。サタニアはお礼を述べるとそのまま揉め事の仲裁に向かった。



 「さてと……今日は何処で食べようかな……」



 一人になった真緒はふらふらと行き先も決めず、街中を歩き始めた。



 「昨日は肉系で、その前は魚だったからな。今日はどうするか……ん?」



 何を食べようかと悩んでいると、何処からか美味しそうな匂いが漂って来た。



 「良い匂い……何処からだろう」



 思わず鼻をヒクヒクと動かしてしまう程、惹かれる匂いの正体を突き止めようと匂いのする方向に歩き始める真緒。



 「……こっちだ」



 右に曲がり……



 「……こっちだ」



 左に曲がり……



 「……今度はこっち」



 また左に曲がり……



 「匂いが強くなって来た」



 そうして匂いがする方向へと歩き続ける真緒。次第に匂いは強くなり、目的の場所までもう少しだった。



 「……あれ?」



 気が付くと、真緒は人気の無い場所に辿り着いていた。先程までいた活気のある街とは違い、とても静かだった。



 「ここは……」



 その場所には見覚えがあった。いつだったか、真緒が立ち寄った広場である。



 「うぅ……相変わらず寒いなここ……」



 異様な寒気に両手で体を必死に擦り、体温を高めようとする。



 「でも、匂いはこっちからしてたんだよね……あっ!!」



 匂いのする方向を見ると、そこには湯気の立つ寸胴鍋をおたまで掻き回すいつかの老婆がいた。



 「お婆さん!!」



 「おやおや、これはこれは……お元気そうで何より……」



 真緒の存在に気が付いた老婆は再会に喜んでいるのか、歯抜けの口を覗かせながら、ニヤリと不気味な笑みを浮かべるのであった。
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