笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第七章 冒険編 大戦争

哀れな女王

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 何故こんな事に。リリヤ女王の頭は酷く混乱していた。圧倒的有利な立場にいた筈なのに、100%勝てる筈だったのに。



 「ひ……ひひ……ひひひ……」



 「がっ……ごはぁ!!!」



 ゴルド王は狂った様に笑いながら、突き刺した剣を更に奥深く突き刺した。傷口は更に広がり、ますます出血が酷くなる一方だった。



 「こ、これはいったい!?」



 リリヤ女王が苦しむ一方、未だに真緒達は状況が上手く理解出来ておらず、困惑していた。



 「あの廃人と化していたゴルド王が……いや、それよりもどうして攻撃が通ったんだ!?」



 「ゴルド王はリリヤ女王に対して、負の感情を抱いていないという事でしょうか?」



 「そんな馬鹿な。今までずっと自分を拷問していた奴に対して、恨みを持たない人間はいない」



 まさしくその通りだった。国を奪われ、自信も苦しめられていたゴルド王が、無心になれる筈が無い。寧ろ、怒り狂って即座に“慈愛のペンダント”の餌食になっている事だろう。



 「でも現にゴルド王の攻撃が当たっていますよ? それも致命傷の形で……」



 しかし事実、目の前ではそのゴルド王がリリヤ女王に剣を突き刺している。それは認めざるをえない。



 「こ……の……早く……抜き……なさい……」



 先程まで余裕の表情を浮かべていたリリヤ女王の顔は醜く歪み、痛みから来る涙と痛みに耐えようとして零れ出た涎が、吐血した際の血と混ざり合い、ぐちゃぐちゃになっていた。



 「ひひひ……ひひっ!!」



 「うぐっ!!」



 そんな命令とは裏腹に、ゴルド王は奇声を一声上げて剣を更に奥深く突き刺した。この一撃により、突き刺した剣は根本まで確りと入る事になった。



 「い、いい加減に……しなさい……」



 意識が遠退くのを必死に抑え込み、胸から突き出た剣を両手で掴み、刺した方向へと押し返そうとするリリヤ女王。



 「とっくに息絶えていても可笑しく無いのに……す、凄まじい精神力だ……」



 「げふっ!! ごほっ!! ごほっ!!」



 突き刺さった剣を無理矢理引き抜こうとしている為か、何度も吐血を繰り返した。



 「もう少し……もう少し……」



 血のせいでぬるぬるとして掴みづらい剣を、何とか自力で押し返す。後、ほんの数cmで抜ける所まで来た……次の瞬間!!



 『あら駄目よ、そんな事したら余計に傷口が広がって痛みが増すだけよ』



 「「「「!!?」」」」



 ゴルド王が座る玉座の後ろから、エイリスが姿を現した。



 「エイ……リス……まさかあなたがこれを……!?」



 「人聞きの悪い事を言わないで。私は只、廃人と化してしまった彼が社会復帰出来る様、手助けを施しただけよ。こんな風に……」



 そう言いながらエイリスは、ゴルド王の肩に手を置くと、耳元でそっと囁く。



 「ほら、落とし物を拾ったらどうするんだっけ?」



 「ひひ……ふひ、返す!! 返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す返す「煩い」返っ……」



 発狂し、同じ言葉を何度も繰り返すゴルド王の頭を両手に持ち、勢い良く右に捻った。ゴキリという嫌な音が響き渡る。その直後、ゴルド王の手が剣から離れ、頭と一緒に力無く垂れ下がる。



 「な、何て酷い事を!!?」



 「あぁ、あなた方もいたんですか? 気が付きませんでした、弱過ぎて」



 「何ですって!!」



 「落ち着けリーマ、少し煽られた位で熱くなるな」



 「フォルスさんの言う通りだよ。それに実際、私達はリリヤ相手に手も足も出なかったんだから……」



 「うぅ……」



 エイリスの挑発に乗るリーマに対して、冷静に諭す真緒とフォルス。ハナコは驚きのあまり、口が開きっぱなしだった。



 「それで……教えて貰えるか? いったいどうやって“慈愛のペンダント”を突破したんだ?」



 「そうね……別に教えても減る物でも無いか……それにリリヤ、あなたも知りたいでしょ? 冥土の土産に教えて上げるわ」



 得意気に話そうとするエイリスを強く睨み付けるリリヤ女王。



 「“慈愛のペンダント”は正しく無敵の能力と言っても過言では無いわ。他のロストマジックアイテムよりも、遥かに強力だった。そのあまりの強さに、弱点など無いと思われた。けど、弱点はちゃんとあったのよ。負の感情を抱かせない能力……逆を言えば、負の感情その物が存在しない者なら大丈夫という訳よ」



 「負の感情その物が存在しない……そんな人間が本当にいるのか?」



 「勿論、何人もいます。まずは赤ん坊、物心付く前の赤ん坊に負の感情など存在しない。次に獣、彼らが起こす全ての行動は感情では無く、本能と呼ばれる物に近い。そして“心が壊れた人間”」



 「「「「!!!」」」」



 エイリスの言葉に対して真緒達は、即座に一人の人物が頭に思い浮かんだ。



 「感情を抱く為の機関である心が壊れてしまっていれば、理論上感情を抱く事は出来ない。後はある程度の動きを覚えさせ、実行に移せば、間接的に殺る事が出来るって訳よ」



 「そんな成功するかどうかも分からないのに……」



 「確かにそうね。でも、結果的に上手く行ったわ。世の中、過程より結果が全て……作戦、大成功ね」



 「エイリス……どうして……どうして……!!?」



 エイリスが長々と説明している中、リリヤ女王は突き刺さった剣を引き抜き終わっていた。そして胸と背中の両方から大量に血を垂れ流し、エイリスの下に歩み寄る。



 「一緒に……迎えに行くんじゃ無かったの……?」



 「迎え?」



 「哀れな女王様ね。まだ分からないの? 私が欲しかったのはあなたじゃない。あなたの持つロストマジックアイテムよ」



 「……ゆ……許さない……許さない……」



 リリヤ女王はエイリスに掴み掛かろうとするも、難なく避けられてしまい、その拍子に両足が縺れ合い、前のめりに転んでしまった。



 「あ……あぁ……エジ……タ……ス……もう一度……あなたに……あ……た……かっ…………」



 何も無い空間に向かって、必死に手を伸ばしたリリヤ女王。やがて事切れ、そのまま動かなくなってしまった。



 「漸く死んだわね。中々死ななくてちょっと焦ったわ」



 そう言うとエイリスは、リリヤ女王の死体から“慈愛のペンダント”を剥ぎ取る。



 「これで遂に全てが揃った……もうすぐ……もうすぐよエジタス……」



 「スキル“ロストブレイク”!!」



 エイリスが物思いに耽っていると、真緒が引き抜かれた剣を拾い、そのまま隙を突いてスキルを放った。しかし、当たる直前に転移魔法を発動させ、回避して見せた。



 「惜しかったわね。もう少し早ければ……「スキル“鋼鉄化(腕)”!!」」



 転移した先で余裕を見せるエイリスだったが、間髪入れずに両腕を鋼鉄に変化させたハナコが殴り掛かって来た。



 「おっとと……中々の反応速度だけどその程度じゃ……「“炎の槍”!!」っ!?」



 ハナコの攻撃を再び転移して避けるエイリス。しかしまたしても転移先で襲われた。リーマの生成した炎の槍が、エイリス目掛けて放たれる。



 「ふぅ……危ない所だったわ。でも、まだまだ甘いわね。スキルや魔法は強力だけど、いちいち発動させなければならない。それだけ時間の猶予があれば、簡単に避けられ……っ!!?」



 余裕の態度を見せつつ、自慢気に語っていると、肩に矢が突き刺さった。



 「あぁ、だからスキルも魔法も発動せずに放ったぜ」



 「このっ……鳥野郎が……」



 「動くな!! 少しでも妙な事をして見ろ!! 次はその頭を撃ち抜いてやるからな」



 肩に突き刺さった矢を引き抜こうとするエイリスを制止させ、真緒達は逃げられない様に取り囲んだ。



 「…………まぁ、良いでしょう。目的の物は手に入りました。計画を最終段階に移行させるとしましょう」



 「!! 不味い!!」



 「逃がさない!!」



 「それじゃあね」



 エイリスの口振りから、転移して逃げようとしている事に勘づいた真緒とフォルスは、慌ててエイリスに攻撃を仕掛けようとするが時既に遅し。フォルスの放った矢はエイリスには当たらず、そのまま床に突き刺さった。



 「くそっ!! 逃げられた!!」



 「とうとう全てのロストマジックアイテムがヘッラアーデに渡ってしまいましたね……」



 「ごれがらいっだい何が始まるだがぁ?」



 「分からない……でもきっと、良くない事が起こる気がする……」



 真緒達はこれから起こる想像も付かない出来事に、言い知れぬ不安を抱くのであった。
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