笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第八章 冒険編 血の繋がり

実験体Mの記録資料

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 初めて“それ”と出会ったのは、サイトウコウスケとアーメイデの二人と供に、魔王討伐へ向かっている最中での時であった。



 魔食。人類を滅亡させる怪物。そいつが通った道には何も残らないと言われている。あの魔族の長であり、生物界の頂点に君臨する魔王でさえ、魔食の前では手も足も出ない。故に魔食は制御不可能な自然災害その物だとも言われている。現れたが最後、通り過ぎるのを只祈るしかない。



 魔食を怪物と言わしめる要因は二つ。一つはその圧倒的な大きさ。城よりも、山よりも、あの世界一高いと言われているクラウドツリーよりも遥かに大きい。その為、足を一歩踏み出しただけで周囲に相当な地響きを発生させる。中には大きな街が、魔食の片足に丸ごと潰されてしまった等の話を聞く。



 二つ目は不死身の肉体。これこそが魔王さえも手出し出来ない、最大の理由だと言える。魔食はその名通り、魔力を食料としている。その為、魔法で魔食を倒そうとすれば逆効果になってしまう。分かりやすい例えをすれば、人間に柔らかいパンを投げ付けている様な物だ。



 では物理攻撃で直接叩けば倒せるのかと言えば、そう言う訳じゃない。どうやら魔食は魔力を供給する中で、それを自身の治療にも与える事が出来るらしい。つまり例え物理攻撃でダメージを与えたとしても、即座に回復させられてしまうという訳だ。



 よって魔食を倒すには空気中に存在する魔力粒子の流れを完全にストップさせ、回復手段が取れない様にした上で物理攻撃で一気に畳み掛ける以外、方法は無い。しかし空気中の魔力粒子を止める事など不可能だ。仮に出来たとしても、一緒に酸素や二酸化炭素の流れも止まってしまい、魔食を倒す前にこちらが酸欠で死んでしまうだろう。



 結論、魔食にはどう足掻いても勝つ事は出来ない。



 一方、私はそんな魔食に興味が湧いた。あの魔王でさえ退く存在。もしも、その力をコントロールする事が出来れば、計画遂行の大きな躍進となるかもしれない。



 そして私は遂に、魔食の一部を持ち帰る事に成功した。サイトウコウスケとアーメイデの二人が交戦する中、そのどさくさ紛れに魔食の体の一部を切り取る事が出来たのだ。



 だが、肝心の魔食本体は封印されてしまった。まさかあの魔食を封印してしまうとは、サイトウコウスケ……勇者と呼ばれる存在なだけあって、非常に厄介である。



 それはそれとして、今回手に入れた魔食の一部を解析し、そのメカニズムを詳しく知る事で、本家の魔食に次ぐ新たな怪物を作り上げられるかもしれない。ここからは実験の進捗と成果を記録していこう。それに従って、魔食の名称も“実験体M”に変更する。







***







 あれから数十年の月日が流れた。実験の結果、実験体Mの増殖に成功した。しかし、それ以上の変化は見られ無かった。ありとあらゆる方法で痛め付けたり、魔力以外の食べ物を与えて見る等、思い付く限り試して見たが、好ましい成果は上げられずにいる。



 やはり制御不可能な自然災害を制御しようとするなど、おこがましい事なのだろうか。いや、そんなのは気が弱く時間が足りない者の考え方だ。幸いにも私には無限とも言える時間がある。ゆっくりでいい、少しずつ成果を上げる事にしよう。







***







 あれから数百年の月日が流れた。数えきれない程の実験と失敗を繰り返した。それでも一向に変化を見せない実験体Mに対して、半ば諦めかけていた。



 が、遂にその時が来た。それは数多くいる実験体Mの一体を空間魔法で囲い、一切の魔力供給が止まった状態を維持していた時の事だった。連日の実験と変わらぬ成果に気が抜け、誤って水の入ったコップを割ってしまった。慌てて片付けようとしたその時、実験体Mがまるでその時に零れた水の体を軟体の様に柔らかくして、私の作り出した空間魔法の僅かな隙間から脱出して見せたのだ。



 何故、この様な事が起こったのか定かでは無い。魔力の供給を止められ、動物的な生存本能が働いたのか、はたまた零れた水の真似をしただけなのか。完璧な答えは見つけられなかった。しかし結果として、今回の実験は大成功だった。実に数百年振りに成果を上げる事が出来た。



 この調子で新たな特性を持った実験体Mを作っていこう。また、今回の実験で生まれた実験体Mには“001”と番号を付け加えておく。以降は002、003と数字を増やしていく事にする。







***







 実験体M-001を完成させてから、二千年の月日が流れた。あれから実験体Mは004まで完成した。それぞれが特有の個性を秘めている。と、聞こえ自体は良いが、実際は粗悪品ばかりだ。特に003と004は、空気中の魔力を供給する事が出来なくなってしまい、本家魔食の長所を潰してしまう様な物であり、とてもじゃないが戦闘に参加する事は出来ない。



 002に関しても、空気中の魔力を供給するスピードがアップしたが、供給に特化したがあまり、攻撃と防御が紙程度。これでは手頃なサンドバッグになってしまう。



 結局、上手く行ったのは001だけとなってしまった。無限の回復量は勿論、体がスライム状になった事で唯一の対抗手段である物理攻撃に完全耐性が付いた。正に無敵の存在と化した。



 が、欠点も存在する。それは以前よりも狂暴性が増した事である。001は魔力を含む道具や生物を手当たり次第に襲い掛かり、魔力を吸い付くしてしまう。そして相変わらず制御する事が出来ずにいる。



 万が一、野に離しでもすれば恐らくこの世界に生きる全ての生き物が死に絶える事になるだろう。それは私が望む“笑顔の絶えない世界”にあってはならない事である。しかし、戦闘兵器としては非常に使える。もし、私の計画を邪魔する者が現れたその時は実験体M-001の出番が回ってくるかもしれない。







***







 ここまでが、エジタスの残した実験体Mの記録資料である。一年前、前世の記憶を思い出した私は、エジタスの情報を辿る中で偶然この隠れ家を発見した。



 そこには、エジタスが書き残したと思われる日記、実験体Mに関する資料、そして実験体Mその物があった。四つの透明なガラスビンに、中を培養液で満たしたそれらは大事に保管されており、何故か埃などは一切積もっていなかった。下にはそれぞれプレートが嵌め込まれており、その内の一つである“実験体M-001”と書かれた中身は、既に空となっていた。



 「エジタス……最高のプレゼントを……ありがとう」



 愛するエジタスが遺してくれた最後の贈り物。エジタスがいない今、後を継ぐ私が確りと有効活用させて貰う事にした。



 場所をヘッラアーデの研究室に移した。ここなら最新鋭の設備が揃っており、当時よりも幅広い実験を行えるだろう。



 記録資料を下に整った設備と前世の繰り返しで得た知識を利用し、実験を繰り返した結果、実験体M-005、M-006の二種類が完成。どちらも本家魔食やエジタスが作った001よりも性能は落ちるが、こちらの命令は受け付ける様になった。特に006は忠実に従ってくれる。一度命令を下せば、遂行するまで決して止まらない。これこそ正にエジタスが望んだ結果なのだろう。



 だが問題もある。それは二種類共、自力での魔力供給が不可能な為、魔力を保有している死体などの物を媒介としなければ、活動出来ないという点だ。消費量の問題もあり、006は一体でもかなり長持ちするが、005は大量の死体が必要となる。



 005の方はヘッラアーデの団員を使えば問題は無いが、006の場合は使い勝手が良い為、なるべく一体だけで長持ちさせたい。そこで目を付けたのが一年前、マオと供に異世界から転移して来たセイイチと呼ばれる勇者だ。彼の活躍はマオと負けず劣らず有名であり、前世の記憶を取り戻す前の貴族だった私の耳にも届いている程であった。



 彼ならきっと良い素材になってくれる。そう確信した私は、彼が埋められた場所まで赴き、土の中から掘り返した。さすがは元勇者、死体になってもかなりの魔力を秘めている。これなら006の媒介として相応しい。ついでに彼が生前使っていたとされる武器も拾いに行こう。そうすれば鬼に金棒。私の最高の右腕となってくれるだろう。



 そうなると名前も必要となる。実験体M-006のままでは、直ぐにバレてしまう。素材が死体の為、素顔も見せられない。顔を見せられない……顔が無い……ノーフェイス……よし、ノーフェイスと名付けよう。



 そうして私は最高の手駒を手に入れる事が出来た。二千年の時を越えて、エジタスから私に受け継がれた実験体M。最早、私に怖い物は何も無い。
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