笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第八章 冒険編 血の繋がり

リップとエジタス

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 「私が操り人形ですって!? 馬鹿を言わないで!! そもそもあなたは、私がカルド王国から懐柔した手駒だった!! 操り人形なのは寧ろ、あなたの方じゃないの!!」



 声を荒げるエイリス。すると高笑いしていたリップが笑うの止め、深い溜め息を漏らす。



 「そこが間違っているんですよ。私はね、別にあなたに懐柔されたからヘッラアーデに入ったんじゃない。元々、入るつもりだったから入っただけさ」



 「何ですって!?」



 「もし、マオさん達の手にロストマジックアイテムが全て渡ってしまったら、エジタス様を復活させる事が出来なくなってしまう。残された道は自分がカルド王国を裏切り、ヘッラアーデにロストマジックアイテムを回収させる他無い。だからカルド王国からヘッラアーデに乗り換えた訳だ」



 「まて、それならどうしてあの時、俺の武器を返したりしたんだ? 俺達に回収されるのが嫌だったのなら、戦力を少しでも削っておくのが利口だろう」



 異議を唱えたのはフォルス。以前、リリヤ女王と戦う際に奪われた装備一式を、直接返して貰った事があった。先程の言葉が真実であるならば、これらの行動は矛盾していると言える。



 「あの時は、リリヤ女王個人がロストマジックアイテムを所持していましたからね。いくらヘッラアーデの人間だとしても、儀式の為に手放す事を知ったら、土壇場で差し出すのを拒むかもしれない。そうした不安的要素を取り除く意味でも、リリヤ女王には死んで貰う必要があった。フォルスさん、あなたに武器を返したのは、リリヤ女王を殺す可能性を少しでも高くする為ですよ」



 「殺すって……リリヤ女王はあなたの命の恩人なんですよ!? それなのにどうして!!?」



 「……手を差し伸べる事は誰にでも出来る……問題はそこから立ち直せるかどうか……数十年前、リリヤ女王に拾われてからしばらくたったある日、私は“あの人”に出会ったんです」



 「あの人……?」



 「あの人は、私に進むべき道を説いてくれた恩人なんです……」



 そう言いながらリップは、過去の思い出を思い出すかの様に、目を瞑るのであった。







***







 リリヤ女王に拾われた私は当時、兵士として働きながら、魔王様に渡せる有益な情報を探していました。そんな時、休憩中にリリヤ女王を見掛け、挨拶する事にしました。



 「リリヤ様、おはようごさいます!!」



 「あら、おはようリップ。朝から精が出ますね」



 「はい!! お陰様で充実した毎日を送らさせて頂いてます!! 所でそちらの方は……?」



 「あぁ、彼ですか? 彼の名前は“エジタス”、先日からカルド王国の宮廷道化師として働いて貰っているんです」



 「ど~も初めまして“道楽の道化師”エジタスと申しま~す」



 「は、初めまして!! 私はリップと言います」



 「リップさんですか~。何だかあなたとは長い付き合いになる気がしますね~」



 「そ、そうですか……」



 「エジタス、そろそろ行きますよ。それじゃあ、頑張ってねリップ」



 「はいは~い、分かりました~。リップさんもお元気で~」



 「あ、ありがとうございました!!」



 これがエジタス様とのファーストコンタクトだった。ほんの軽い自己紹介だったが、どうしてか私は彼から目が離せなかった。まるで自分自身を見ている……そんな感じがした。



 それから数日経ったある日、日々の疲れを癒す為に兵舎で休んでいると……。



 「ど~も、お久し振りですね~」



 「あ、あなたは確か……リリヤ様の所にいた……」



 「はい、宮廷道化師のエジタスと申しま~す」



 「どうしてこんな所に?」



 お世辞にも兵舎は綺麗な所とは言えなかった。寧ろ劣悪な環境であり、貴族や王族など位の高い人々が好き好んで入る様な場所では無かった。



 特に宮廷道化師は、王族を笑わせるという役割がある為、唯一王様に対してタメ口が許されている特別な役職。そんな人が何故この様な場所に足を運んで来たのか、不思議でならなかった。



 「そりゃあ勿論、あなたとお話をする為ですよ~」



 「は、話とは……?」



 嫌な予感がした。仮面の奥から覗くその瞳は、まるで全てを見透かしているかの様であった。そしてこの予感は次の言葉で的中した。



 「あなた“魔族”ですよね?」



 「!!!」



 バレた。もうおしまいだ。折角、カルド王国に潜入する事が出来たのに、全てが水の泡と化してしまった。魔王様、申し訳ありません。



 「そんなに怯えないで下さいよ~。誰かに漏らしたりとか、そんなつもりはありませんから~」



 「そ、そんな嘘だ!! 人間にとって魔族は害虫その物!! そんな魔族を好き好んで助ける訳が無い!!」



 「本当ですって~。そうだ、今から信用の証として右腕を切り落として見せましょう。それならさすがに信じて貰えますよね~?」



 「い、良いですよ。もしそんな事が本気で出来るのなら…………」



 するとエジタスは何の躊躇いも無く、自身の右腕を切り落として見せた。



 「なっ!!?」



 「あらら~、結構痛いですね~」



 飛び散る血しぶき。辺り一面、真っ赤に染まった。そのあまりに狂った行動に、思わず思考が停止してしまった。そして次の瞬間、止めどなく溢れ出る血を慌てて止血しようとする。



 「何してるんですかあなたは!!?」



 「これで私の事を信用して頂けますか?」



 「分かりました!! 分かりましたから、手当てをさせて下さい!!」



 たった一人の魔族を信用させる為に、己の腕一本を犠牲にする覚悟。この時から私は、エジタス様の事が気になり始めていた。



 それから数時間後、無事に止血が終わり、ベッドの上で休んで貰っている間、飛び散った血痕の後始末をしていると、エジタス様が声を掛けて来た。



 「それにしても上手く人間に化けた物ですね~。あなたの種族はなんて言うのですか~?」



 「……インキュバスです……」



 「インキュバスでしたか~。羨ましいですね~、自由に見た目を変えられるなんて~」



 「……そんなに良い物じゃありませんよ……」



 「?」



 「人間の生気を吸い取る為、人間に化けるインキュバスは、人間に媚びる弱者という理由で魔族の間では仲間外れ……かといって人間として暮らそうにも、生気を吸い取ってしまう為、周囲からは疎まれてしまう……インキュバスは魔族にも……人間にもなれない……最悪の種族ですよ」



 いつもなら決して言わない事を、何故かエジタス様の前では言ってしまう。いや、例え嘘を並べたとしても見破られてしまう。そんな感じがするのだ。



 「リップさん……リップさんは自分の見た目が嫌いですか?」



 「……はい、大嫌いです」



 「同じですね。私も自分の容姿が死ぬ程、嫌いなんですよ」



 「そ、そうなんですか」



 「えぇ、けどあなたの場合、純粋に嫌いって訳じゃなく、魔族と人間どっちにも付く事が出来ないから嫌い……そんな風に感じるんですが、間違っていますか?」



 「い、いえ……その通りです」



 「…………そうですか……」



 その言葉に対して、エジタス様から一瞬怒りを感じた気もするが、きっと気のせいだろう。するとエジタス様は、自分が座っているベッドの横をポンポンと叩き、こっちに来て座って下さいと言って来た。



 その言葉に素直に従い、エジタス様の隣に座った。するとエジタス様は、ぎゅっと私を強く抱き締めた。



 「えっ、ちょ、ちょっと!!?」



 「辛かったですよね。周りに味方がおらず、頼れる人もいない生活は……」



 「そ、それは……」



 「あなたが欲しかったのはインキュバスとしての活躍の場じゃない。リップという一人の存在を認めてくれる環境が欲しかった。違いますか?」



 「…………」



 正にその通りだった。まるで心を見透かしているかの様に、エジタス様は優しい言葉を投げ掛ける。



 「でも大丈夫。あなたはもう一人じゃない。私があなたの味方……いえ、“仲間”になりましょう」



 「仲間……?」



 「そう、家族でも友達でも無い。互いに支え合う存在。あなたが辛い時、挫けそうな時、私が手を差し伸べましょう。そして逆に私が同様の立場に立った時は、あなたが手を差し伸べて下さい」



 「本当に……私なんかで……良いんですか……?」



 「あなたしかいない。今日からあなたは私の仲間ですよ」



 「エジタス……様……」



 信じられなかった。こんな自分を仲間として迎え入れてくれる人がいるだなんて、魔族でも人間でも無い。リップという個人を認めてくれた。この日から私は、何があっても一生エジタス様にお仕えしようと思った。







***







 「その後、エジタス様からロストマジックアイテムの事を聞いた。この儀式の事も……そして……死者復活を可能とするロストマジックアイテムを生成する為の器として……」



 リップが長々と話をしていると、祭壇から伸びていた一本の蒼白い光が終息し始める。そして完全に収まったのを確認すると、中央の窪みに捧げられていた見覚えの無い一枚の紙切れを取り上げる。



 「この“死者復活の紙”を手渡されたのだ!!」



 「「「「「「「!!!」」」」」」」



 掲げられる一枚の紙。遠くからでも感じ取れる圧倒的な力。これまで出会って来たどのロストマジックアイテムよりも、強力なのが見て取れた。



 「あなたが……あなたが持っていたのね!! 七つ目のロストマジックアイテムを!!」



 「ずっと待っていた。あなたが祭壇から離れるこの時を!! あなたが側にいたら、盗られる可能性がありましたからね」



 「それを渡しなさい!!」



 「おっと」



 「っ!!!」



 エイリスは転移魔法で一気にリップの側へと転移する。が、真緒達との戦闘で疲労しており、難なく避けられてしまう。そして勢い余って前のめりに倒れ、その背中をリップに踏みつけられてしまい、身動きが取れなくなってしまった。



 「この……足を退かしなさい……」



 「それは無理な相談ですね。何故なら、あなたにはこれからエジタス様復活の“生け贄”になって頂くのですからね」



 「ま、まさかあなた!!?」



 「えぇ、勿論知ってますよ。死者復活には、この“死者復活の紙”と元となる肉と骨が必要だって事はね」



 「ぐぅ……ぐっ……!!!」



 必死にもがいて逃れようとするが、足で踏みつけられている以上、抜け出す事は不可能だった。



 「リップ!! 止めなさい!!」



 「もう遅い!! この女を殺して、エジタス様を甦らせる!!」



 慌てて真緒達が駆け付けようとするが、微妙に距離が離れてしまっている為、間に合いそうに無かった。リップが懐からナイフを取り出し、エイリスの体目掛けて振り下ろそうとする。



 「エジタス様の血族が巡り巡ってエジタス様に生まれ変わる。これこそ正に血の繋がりが為せる運命なんだ!! くくく……あははははははは……はぎゃあ!!?」



 「「「「「「「!!?」」」」」」」



 その瞬間、リップの体を長細い剣が貫く。いったい何が起こったのか理解が出来なかった。リップが刺された背後に目を向ける。するとそこには何と……。



 「残念だけど、生け贄になるのはあなたよリップ」



 「ロ、ロージェさん……」



 ヘッラアーデの幹部であるロージェが立っていた。
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