笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第八章 冒険編 血の繋がり

復活

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 「無事に蘇った様だな」



 気さくに話し掛けるロージェ。彼を信奉する者達は、身内であるエイリスを除けば、全員漏れ無く“様”を付ける。



 が、肝心のロージェは本人を目の前にしても尚、呼び捨てを継続させる所を見ると、対等な関係を構築している事が伺えた。



 するとエジタスは、今初めてロージェの存在に気が付いたのか、目線を横にずらした。だが、すぐに目線を元に戻し、その場でストレッチを開始した。



 屈伸、ブリッジ、手首の運動、まるで固まった筋肉を解きほぐすかの様に、体を柔軟に動かす。そして両腕を目一杯上げて背伸びをし始めた時、ゆっくりと口を開いた。



 「ロージェか、あれから何年経った?」



 「一年だ」



 「……随分と早いな」



 思ったよりも早い復活。エジタスは最低でも数十年は掛かると予想していた。ロストマジックアイテムに関する情報の少なさや、それらを守護する者達の手によって、そう易々と集まらないと考えていた。



 そんなエジタスの予想を裏切ったのは、エイリスの存在があったからである。エジタスの隠れ家から日記を見つけるという快挙を成し遂げ、リリヤを使って真緒達にロストマジックアイテムを集めさせた。その結果、一年という短い期間で復活する事が出来たのだ。



 「詳しい事情は後で話す。取り敢えず先に服を着たらどうなんだ?」



 「服? あぁ……」



 復活を果たしたエジタスだが、その姿は生まれたての赤子と変わらない裸その物であった。



 羞恥心という感情が無いエジタスだが、さすがに他人から指摘されてしまっては面目が立たない。そこでエジタスは指をパチンと鳴らす。その瞬間、何も着ていなかったエジタスの体は、瞬く間に派手な衣装に身を包んでいた。



 その衣装は、貴族や王族が着る様な華やかさや、豪華さは無く、以前エジタスが着ていた衣装と酷似していた。



 「それじゃあ……『エジタス』……あぁ?」



 そんなエジタスに声を掛ける人物がいた。誰であろうエイリスである。背がすっかりと伸びて、子供の頃と比べるとかなり変わっていたが、その面影は何処と無く残っていた。



 何千年振りの再会。あまりの嬉しさと懐かしさから、思わず目から涙が溢れ出てしまう。



 「私よ……エイリス……お姉ちゃんよ……」



 まるで生まれたての小鹿が歩くかの様に、ゆっくりと一歩ずつ近付く。



 「エイリス……お姉ちゃん……」



 「そうよ……信じられないかもしれないけど……私ね、転生したのよ……毎回記憶をリセットし、数え切れない程の転生を繰り返した……でも一年前、あなたの大きな姿を見てはっきりと思い出したの……私の可愛い弟の事を……」



 エジタスの側まで辿り着いたエイリスは、両手を伸ばしてエジタスの顔に触れる。



 「ずっと会いたかった……さぁ、もっとお姉ちゃんにその顔を見せて……」



 「お姉ちゃん……」



 するとエジタスも同じ様に両手を伸ばして、エイリスの顔に触れる。



 「あぁ、エジタス……この時をどれ程待ち望んだ事か……もう……もう二度とあなたの側を離れたりしないわ。私と一緒に二人で幸せに暮らしましょう……」



 「お姉ちゃん……」



 「エジタス……」



 甘美な時間。二度と会う事の無かった筈の姉弟が遂に再会を果たした。今、エイリスは幸せの絶頂にいた。エイリスが両手でエジタスの頬を優しく撫でる。そしてエジタスもまた、エイリスの頬を両手で優しく撫で返す。そして……。



 エイリスの首を百八十度回し、息の根を止めた。



 「「「「「「「!!?」」」」」」」



 そのあまりに急激な出来事に対して、真緒達は驚きと困惑の表情を隠す事が出来なかった。



 再会を喜び合う姉弟の絵面から、一瞬にして凄惨な殺人現場へと変わってしまった。



 そしてエジタスは、折ったエイリスの首を体から無理矢理引き千切る。ミチミチと肉が引き裂かれる音が響き渡る。



 「……持っておけ、後で使う」



 そう言うとエジタスは、頭だけになったエイリスをロージェに向かって放り投げる。血塗れで何とも言えない首だったが、ロージェは嫌な顔一つせずに両手でキャッチして見せる。両手の隙間から血が滴り落ちる。



 「良かったのか? もう血は繋がっていないが、お前の姉だったのだろう?」



 「知るか、別に“俺”の姉って訳じゃない。勝手に人の顔をベタベタ触って来やがって……気持ち悪い」



 エイリスは知らなかった。エジタスの秘密を。もし、エイリスが事前にその情報を手に入れていれば、少なくとも生き残る可能性はあった。しかし、それは最早叶わぬ夢である。



 一方、ロージェは僅かながらエイリスに同情していた。この一年、最もエジタスの為に動いたのは他ならないエイリスだと言える。エジタスに会いたい。その一心で頑張って来た彼女、漸く再会する事が出来たと思った矢先、その愛する弟に殺されてしまうだなんて、悲劇を越えて喜劇としか言いようが無い。



 だが、それはそれとして一瞬にして気持ちを切り替える。



 「それで? 目の前の物事はどうするつもりなんだ?」



 「目の前の物事? あぁ……」



 目の前の物事とは勿論、真緒達。実の所、既に真緒達の存在には気が付いていた。何せ目を開けた瞬間、初めて飛び込んで来たのは真緒達の狼狽える姿だったのだから。



 それを敢えて無視した。状況の確認は確かに大事だが、それよりも先に自身の体調をチェックする必要があった。



 「そんな事より俺の死体はどれ位、新鮮だった?」



 「死にたてだ」



 新鮮な肉と骨を使用したお陰か、体の調子はすこぶる良かった。不覚にも敗北してしまったあの時と、同等の力を発揮出来ると確信していた。



 「そうか……なら『師匠!!』『エジタス!!』……うるさいな……」



 ロージェと話していると、真緒とサタニアが話の途中で声を掛けて来た。そんな二人にエジタスは嫌そうな表情を浮かべながら口を開く。



 「これはこれは勇者マオに、魔王サタニアじゃないか。一年振りかな?」



 「本当に……師匠なんですか?」



 「あぁ、純粋100%だ。それとも何だ? 俺の顔を忘れてしまったとでも言うのか?」



 忘れる筈が無い。歯茎は完全に剥き出しになっており、皮膚は醜く爛れてしまっている。正に化物と言う他無かった。



 「エジタス……」



 嬉しい筈なのに、素直に喜ぶ事が出来ない。会いたいと思っていた筈なのに、言葉が見つからない。真緒達を裏切ってまで、エジタスの復活を手助けしたのにも関わらず、心の何処かで後悔している自分がいる。



 自分の復活に貢献してくれたエイリスを、容赦なく殺す非道な一面を目撃してしまった。そうした一面があるのは前々から分かっていた、分かっていた筈なのに、何故だがあの瞬間、エジタスに対して“恐怖”を感じてしまった。



 「再会を喜び合うのも良いが、それよりもさっさと本題に入らせて貰う」



 「本題?」



 「知っての通り俺は二千年前に一度、人類統一化計画を実行しようとして失敗している。その失敗を踏まえ、俺は万が一の時を考えてある保険を打った。それが……」



 「ロストマジックアイテム……」



 「そう、俺は自身を蘇らせる為、世界中にロストマジックアイテムをばらまいた。だがな、実はこの話には続きがあるんだ」



 「続き?」



 そう言うとエジタスは、ロージェから死者復活の紙を受け取る。そして真緒達に見せびらかす様に、ヒラヒラとなびかせる。



 「この死者復活の紙だが、実は復活の対象は俺だけじゃない」



 「ど、どういう事ですか!?」



 「誰でも好きな奴を蘇らせる事が出来るのさ」



 「「「「「「「!!!」」」」」」」



 「そりゃあそうだろう。せっかくの死者復活なのに、俺だけにしか使えないのは勿体ないじゃないか」



 「エジタス……君はいったい何をしようと言うんだ……?」



 「一年前……お前達の活躍によって、ワールドクラウンは消滅した。それにより、人類統一化計画を遂行させる事が不可能となってしまった。だから今度は全く別の方法でこの世界を“笑顔の絶えない世界”にするのさ!!」



 「全く別の方法……?」



 「そう……俺は……“理想国家”を設立する!!」
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