笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

文字の大きさ
176 / 275
第九章 冒険編 蘇る英雄達

理性よりも感情

しおりを挟む
 場面は変わり、小島に立ち並ぶ小さな町。その中でも一番奥に建てられている大きな屋敷。その庭先でエジタスは中腰になりながら、ガーデニングに勤しんでいた。



 「~~♪~~~~♪~~♪~~~~♪」



 鼻唄混じりに土を弄っていると、アーメイデが表門をくぐって敷地内に入って来る。



 「おや~? アーメイデさん、もうお帰りですか~? 随分と速かったですね~」



 「まぁね。元々、あの町は私が作った物だから、壊すのは朝飯前よ」



 そこには、亡くなった当時とまるで変わらない姿があった。強いて変わったと言えば、顔に艶とハリが出ている事位である。



 するとエジタスは腰を上げ、アーメイデに近づくと、ゆっくり首を横に振る。



 「報告も大切ですが、それよりも先に言う事がありますよね~?」



 「は?」



 「ここは私達の“家”なんですよ~? 家に帰ったらまず何て言うんでしたっけ~?」



 わざとらしく顔を真横に向け、右手を右耳に添える。そしてアーメイデに近付けて、答えが言われるのを待って見せる。



 「……た……」



 「ん~? 何ですか~? よく聞こえませんね~? もっとハッキリ仰って下さい」



 「ただい……ま……」



 「……お帰りなさいアーメイデさん」



 そう言うとエジタスはアーメイデをぎゅっと抱き締めようとする。



 「……離れなさい、気持ちが悪いわ」



 が、直ぐ様アーメイデに払い除けられる。エジタスは行き場を失った両腕を軽く上げ、あからさまに触れない様にする。



 「もぉ、相変わらずつれない人ですね~」



 「……本当は自分が一番こういう行為を嫌がっている癖に、よくやるわね」



 「私はやりたい事はやる。それが例え、死んでも嫌な事だとしてもね」



 「はぁ……全く、その根性だけは評価してあげるわよ」



 「あら~? アーメイデさんが褒めるだなんて、珍しい事もあるんですね~」



 「偶々、今日は機嫌が良い日なのよ」



 そう答えるアーメイデに、納得した様子で左手の掌に右手の拳をポンと乗せるエジタス。



 「あぁ、成る程。女の子の日が過ぎたんですね~」



 「……最低ね」



 極限までデリカシーを無くしたエジタスの言葉に、機嫌を害したアーメイデは、さっさと屋敷の中へと入って行く。



 「ちょちょちょ、アーメイデさん!? 急に機嫌を悪くして、いったいどうしたのだろうか……もしかして……更年期?」



 もし今の発言をアーメイデが耳にしていたら、更に機嫌を損なう事になるだろう。そんな事を一切考えないエジタスは、再びガーデニングの作業に戻るのであった。







***







 和で統一された内装。殆どの扉が襖仕様になっており、僅かに残っている外開きの扉も取っ手の部分が摘まみ式の古めかしいタイプに置き換わっていた。



 そんな部屋の扉まで徹底的にこだわった屋敷内を突き進むアーメイデ。横顔からでも分かる程の険しい表情を浮かべていた。



 「(まさかエジタスが私を蘇らせるだなんて……今でも信じられない)」



 一年前、エジタスとの激闘の果てにアーメイデはこの世を去った。しかし次の瞬間、目を開けるとそこにはエジタスの姿があった。当初こそ、アーメイデは酷く錯乱していた。しかし、エジタスの口からロストマジックアイテムの話を聞き、その場は取り敢えず落ち着く事が出来た。



 「(死者復活……私が二千年掛けて編み出そうとしていた技術を、こうもあっさりと成し遂げてしまうだなんて……悔しい筈なのに、嬉しいとも感じてしまう)」



 それから数日が経過したが、アーメイデはエジタスを裏切る様子は無い。それどころかつい先程、自らが築き上げた水の都を潰して来た。以前のアーメイデからは想像も付かない行動。何らかの策があっての行動なのか。否、アーメイデは本気でエジタスに協力している。本気でエジタスの理想国家実現を成し遂げようとしているのだ。



 「(マオ……皆……ごめんなさい。きっとあなた達がこの事を耳にしたら驚くでしょうね。でも分かって欲しい。今回ばかりはエジタスに協力したいの……だって……)」



 そう思いながらアーメイデは、一つの扉の前に立つ。そして扉を開けるとその先で、一人の男性がアーメイデを出迎える。



 「お帰り、アーメイデ」



 「ただいま……“コウスケ”」



 その男性はかつてアーメイデ、エジタスと供に旅をしていた初代勇者である“サイトウ コウスケ”だった。部屋を訪れたアーメイデは、目の前にいるコウスケを強く抱き締める。そしてそれに応える様に、コウスケもまたアーメイデを強く抱き締め返す。



 「(だって……コウスケとまた一緒にいられるんだから……)」



 肌と肌が触れ合い、温もりを感じる。懐かしい匂い。二千年前の思い出が鮮明に思い起こされる。



 「(確かにエジタスは、一度コウスケを殺している。けど、こうして目の前に蘇った。もう決して手放したりしない)」



 「エジタス師匠から聞いたよ。今日も一つの町を滅ぼしたんだってね。これでまた一歩、この国が平和な理想国家に近付いたよ。ありがとう」



 「……本当に恨んでないの?」



 「え?」



 「あなたの事を殺したエジタスや……それを見過ごした私の事を……」



 「……前にも言っただろう、気にしていないって。だってこうして蘇る事が出来たんだから。それに……」



 「それに?」



 するとコウスケは抱き締めていた両腕を解き、部屋の扉を開ける。するとそこには先程まで庭先にいた筈のエジタスの姿があった。



 「あ、あなたいつの間に!?」



 「ふふふ……アーメイデさん、もっと背後に注意を配った方が良いですよ~。どこぞの道化師に後を付けられてしまいますからね~」



 「もう……あなたって人は本当に……あっ……」



 「おや~?」



 イタズラが成功し、無邪気に喜ぶエジタス。それを見て、呆れた様子のアーメイデ。そんな二人をコウスケが抱き寄せる。



 「それにまたこうして、三人一緒にいられる」



 「コウスケ……あなた……」



 「だからさ、この計画が軌道に乗って、ある程度落ち着いて来たら……また三人で世界中を冒険しないか?」



 「三人で……」



 「良いですね~、夜は星を眺めながら野宿したり、強敵を相手に三人で協力して立ち向かったり……今から待ちきれませんね~」



 「(どうしてだろう……エジタスの事は許せない筈なのに……凄く楽しい……ワクワクが止まらない)」



 まるで二千年前のあの頃に戻ったみたいだった。エジタスの冗談にアーメイデが怒り、それをコウスケが仲裁する。他愛もない話で笑い、三人で食事する。それが当たり前だったあの頃。ふと気が付くとアーメイデは涙を流していた。



 「アーメイデ? どうかしたのかい?」



 それはマオ達に対する懺悔の涙なのか。それともこの状況を嬉しいと感じた歓喜による涙なのか。



 「な、何でも無いわ。気にしないで」



 「もう~、コウスケさんが強く抱き締めるからですよ~」



 「えっ、あっ、ごめん!! 痛かった!?」



 「ううん、違うの。本当に気にしないで」



 アーメイデは慌てて涙を拭き取る。流れた涙の意味を考えない様にする為。



 「全く、これだから男は……乙女心を理解していないよ~。ね? アーメイデさんもそう思いますよね~?」



 「いや、あんたにだけは言われたくないわよ」



 「あれ~?」



 「……ぷっ、あははははは!!!」



 「……あは、あははははは」



 コウスケの笑いに釣られて思わず私も笑ってしまう。でも、凄く楽しい。もう二度と、この幸せを壊したくない。



 「(理性よりも感情を選んだ……それだけの事。願う事ならマオ……あなた達と争う事だけは避けたい。だからお願い…………私の幸せを邪魔しないで)」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど

紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。 慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。 なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。 氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。 そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。 「……俺にかけた魅了魔法を解け」 私、そんな魔法かけてないんですけど!? 穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。 まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。 人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い” 異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。 ※タイトルのシーンは7話辺りからになります。 ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。 ※カクヨム様にも投稿しています。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-

いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、 見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。 そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。 泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。 やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。 臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。 ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。 彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。 けれど正人は誓う。 ――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。 ――ここは、家族の居場所だ。 癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、 命を守り、日々を紡ぎ、 “人と魔物が共に生きる未来”を探していく。 ◇ 🐉 癒やしと涙と、もふもふと。 ――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。 ――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ 主人公はあまり戦ったりはしません。

転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。

山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。 異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。 その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。 攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。 そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。 前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。 そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。 偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。 チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

処理中です...