笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第九章 冒険編 蘇る英雄達

人類選別

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 アーメイデが幸せを噛み締めている一方、エジタスの手によって蘇った名のある英雄達が理想国家実現の為に世界各地で動いていた。



 とある一国では、辺り一面が火の海と化していた。慌てて火の手から逃げ惑う人、黒焦げになりながらも助かろうと無我夢中でもがく人。そんな中、少女が一人泣き叫びながら歩いていた。



 「ママー!!! ママー!!!」



 母親とはぐれてしまったのだろう。必死に母親の名前を叫んでいる。周りの大人は我先にと泣き叫ぶ少女を見捨てて、走り去って行く。



 するとその先で母親とおぼしき女性が、娘の名前を叫びながら道を逆走していた。



 「マリー!!! 何処なのー!!!」



 「ママー!!! ママー!!!」



 「マリー!!!」



 娘のマリーを見つけた母親は、ぎゅっと抱き締める。そしてマリーもまた、母親との再会を喜び、ぎゅっと抱き締める。



 「良かった、無事で本当に良かった」



 「ママ……怖かったよ……」



 「怖い思いさせてごめんね。でも大丈夫、もう二度とマリーの事を離したりしないわ」



 「……うん」



 「さぁ、一刻も早く逃げま……」



 その瞬間、母親の動きが止まる。



 「ママ? どうし…………」



 続いて娘の動きも止まる。いつの間にか二人の体を一本の槍が突き抜け、地面に突き刺さっていた。



 その槍は特殊な形状をしており、先端の“穂”と呼ばれる槍の刀身部分が燃えており、そのすぐ下に謎の“円形状の枠”が付いていた。そしてその中にはメダルの様な物が嵌め込まれており、メダルには“炎”という字が彫り込まれていた。



 「うーん、エクセレント!!!」



 姿を現したのは、紫色の兜と鎧に身を包んだ一人の男性。兜を脱ぎ、頭を振り乱すと、その一本一本が丁寧に手入れされた金色の髪がなびく。



 キリッとした目に、キュッと引き締まった鼻筋。世にいる全ての女性を魅了するセクシーな口。



 そして誰もが目を引くであろう最も特徴的な“ケツアゴ”。それは見事なまでに綺麗に割れており、それまでの美的要素が全て台無しになる程であった。が、本人は全く気にしている様子は無かった。それどころか、顎を強調するかの様に少し顔を上に反らし、顎を前に突き出していた。



 「引き離された親子の再会……感動的だなー。もう二度と見られないのが残念でならない。でも安心してくれ、君達の感動的なやり取りは確りと記憶したからさ」



 そう言うと男性は、親子に突き刺さっている槍を勢い良く引き抜く。それにより二人から大量の血が吹き出し、目の前にいた男性の頬に数滴付着した。



 「…………」



 男性は頬に付いた血を拭い、目で確認する。そして次の瞬間、全身を小刻みに震わせたかと思うと、死体となった親子二人を強く蹴飛ばした。



 「ざけんじゃねぞ!!! このビチグソがぁあああああ!!! 俺のビューティフルな顔を汚らわしい血で汚しやがってぇえええええ!!!」



 暴言を撒き散らしながら、二人の死体を交互に踏みつける。



 「クソがぁ!!! クソがぁ!!! クソがぁ!!! クソがぁ!!!」



 それも顔を中心に原型が分からなくなるまで何度も、何度も、何度も、何度も、何度も…………。



 「はぁ……はぁ……はぁ……ふぅ、これ位で許してやろう。俺は優しい男だからな。今度からは気を付けてくれたまえよ……って、もう聞こえないか」



 ぐちゃぐちゃになった親子の顔に唾を吐き捨て、男性はその場を去って行くのであった。







***







 ここは東の大陸から少し離れた小さな島国。緑豊かなこの島では、人間と動物が共存して暮らしている筈だった。今、島にあるのは豊かな緑では無く、大量の死体の山。人間、動物と無差別に積み重なっており、その頂点では一人の少年が昼寝をしていた。



 「ZZZ…………ZZZ…………」



 そんな少年を死体の山の影から覗く男がいた。大量虐殺の最中、唯一生き残った住人だ。その手には尖った石を木の棒にツルでキツく結んだ、手作りの槍が握られていた。



 「よくも……よくも皆を……絶対に仇を取ってやる!!!」



 男は涙を流しながら殺意を抱く。



 「奴は寝てる。殺るなら今しかない!!!」



 「私ならそんな事をせずに、さっさと逃げる方が賢いと思うけどね」



 「!!?」



 その瞬間、男の首が胴体から斬り落とされる。男の背後に立っていたのは一人の少女だった。その少女は、死体の山で寝ている少年と瓜二つの容姿をしていた。



 男を始末した少女はそのまま、死体の山で寝ている少年に歩み寄り、声を掛ける。



 「“お兄ちゃん”起きて。こんな所で寝たら風邪引いちゃうよ」



 「うーん……あっ、おはよー」



 少年は目を覚ますと寝惚けた様子で、少女に朝の挨拶を交わす。



 「全くお兄ちゃんは呑気なんだから……もう少しで生き残りに寝首掻かれる所だったんだからね」



 「あれー、まだ生きてた人がいたのー?」



 「一人でも余裕って言ったのはお兄ちゃんなんだからね。あんまり私の仕事を増やさないでよ」



 「あははー、ごめんごめん。積み重なった死体が妙に暖かいから、ついついうたた寝しちゃった」



 「暖かいって……それ以前に臭いでしょ?」



 「まぁね。でも僕にとって臭いよりも暖かいかどうかが重要な訳で……」



 「はいはい、無駄話はそこまで。さっさと次に向かうわよ」



 「はーい」



 そうして少年と少女の二人は、島国を後にするのであった。







***







 ここは魔族の里。人間との争いを望まない一定数の魔族達が集まって生まれた里。平穏な日々を送っていた彼らだったが、平穏は突如として崩れ去った。



 「そ、そんなまさか……あ、あなたは……!!?」



 それはある人物の登場に関係する。それまで空は雲一つ無い晴天だったが、瞬く間に暗雲が立ち込め、雷まで鳴り響いた。その人物は魔族の間では知らぬ者がいない程の人物であり、平穏な暮らしを望む彼らにとっては最も会いたくない人物である。



 「サ、サタニア・クラウン・ヘラトス!!?」



 「…………如何にも」



 それは初代魔王にして、現魔王であるサタニアの祖父に当たる人物。かつて初代勇者であるコウスケと激戦を繰り広げるも、エジタスの介入により、無念にもその命を落としてしまった。



 しかし今、その殺した張本人であるエジタスの手によって、世界を支配しようとした残虐な魔王が蘇ったのだ。



 「そんな……あなたはもう何千年も前に……し……し……」



 「死んだ? 確かに我はあの時、エジタスに殺された。皮肉にも利用していると思っていた男に散々利用されてな。だが、奴のお陰でこうして蘇った。そして今度は敵としてでは無く、同士として供に同じ道を歩んでいる。不思議な物だな……」



 「は、はぁ……?」



 突然現れた初代魔王に困惑していると、初代魔王は何かを思い出したかの様に眉をピクリと動かす。



 「おっと、ここに来た理由がまだであったな。ここに来たのは他でも無い。選別の為だ」



 「選別……ですか?」



 「うむ。現在、我々は一つの国を作ろうとしている。種族関係無く、皆が楽しく仲良く暮らせる国だ」



 「そ、それは素晴らしいですね」



 「そうであろう。だが、我々が求めるのは完全なる平和なのだ。出来れば全ての人類を迎え入れたいが、それはさすがに現実的では無い。管理も行き届かず、必ずミスが生まれてしまう。そんなのでは完全なる平和だとは言えない。そうだろう?」



 「お、仰る通りです」



 「そこで我々は人類の選別を図る事にしたのだ」



 「人類の選別?」



 「無用な存在を削り、真に平和を望む者達だけを集めるのさ。こんな風にな」



 「…………え?」



 そう言うと初代魔王は、目の前にいる魔族の顔を魔法で吹き飛ばした。



 「きゃあああああああ!!!」



 「に、逃げろぉおおおおおお!!!」



 「助けてくれぇええええええ!!!」



 そして始まるパニック。恐怖が周りに伝染し、人々があちこち逃げ惑う。



 「そうだ逃げるがいい。真に平和を望むのであれば、誰よりも長く生き延びなければならない。我からもし無事に逃げられれば、後日国の方から迎えが来るであろう。そうなれば貴様らは一生安泰だ。決して死ぬ事の無い、永遠の時を過ごせるのだからな。そこには恐怖も苦しみも存在しない。あるのは平和と幸せだ…………って、誰も聞いておらぬか……」



 皆、逃げるのに必死で初代魔王の話には全く耳を傾けようとしない。



 「まぁ、それならそれで構わん。取り敢えず手始めに……“ダークウェーブ”」



 その瞬間、初代魔王を中心に真っ黒な輪が外側に大きく広がっていく。そのスピードは、逃げる人達よりも速く、漏れ無く全員食らってしまった。そしてそのまま流れる様に全員前のめりに倒れ、静かに息を引き取った。



 「また……か……いつも全員殺してしまう。何と貧弱な体だ……この二千年の間に魔族は弱体化したと言うのか。この分だと我の子孫にもあまり期待は出来そうに無いな」



 初代魔王は魔族が衰退したと嘆き悲しんだ。そして自身の子孫であるサタニアにも、期待はしていない様子であった。



 「さて、次は何処に行くべきか……」



 そう言いながら初代魔王は魔族の里を焼き払い、その場を静かに去って行くのであった。
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