笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第九章 冒険編 蘇る英雄達

敵襲

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 カルド王とフェニクスからの襲撃を何とか回避した真緒達は、族長の手を借りて鳥人の里に身を隠していた。



 「うぅ……ごごは相変わらず熱いだぁ……」



 「仕方ありませんよ。何たってヘルマウンテンの麓にあるんですから……確かにちょっと熱い……」



 「もう最悪!! 汗で体がベトベトよ!!」



 「皆、我慢だよ」



 「…………」



 避難して来た真緒達は、一件の空き家を貸して貰い、生活をしている。今、この場にはフォルスを除く五人がおり、気絶していたサタニアも目を覚ましていた。



 しかし慣れない熱さのせいで、五人は額に汗を流していた。そんな中、サタニアだけが険しい表情を浮かべていた。



 「僕やっぱり、ゴルガを助けに戻る」



 「な、何を言っているんですか!!? 今、あそこに戻るのは自殺行為です!!」



 「リーマちゃんの言う通りよ。助けたい気持ちは分かるけど、正直助けに行くのは得策とは思えない」



 「でも!!!」



 リーマとエレットに行くなと言われたサタニア。しかしそれでも諦め切れない様子だった。



 「サタニア落ち着いて。敵だって馬鹿じゃない。きっとゴルガさんは人質となって捕らえられている。つまり利用価値がある以上、好き勝手に殺したりはしないと思う」



 「そう……かもしれないけど……じっとしてられないよ」



 サタニアの言う事にも一理あった。真緒達がこの里に身を隠してから、約三日が経過している。その間、何か行動する訳でも無く、只ボーッとしていただけであった。



 何をするにも、まず行動を起こさなければならない。すると玄関の扉が勢い良く開かれる。扉を開けたのはフォルスだった。側には族長がいた。



 先程のサタニア以上の険しい表情を浮かべる二人。代表として族長が話そうとするが伝えづらい内容なのか、口元をモゴモゴさせてハッキリと聞こえなかった。



 「族長……やっぱり俺から言うよ」



 「す、すまない……」



 「フォルスさん……どうしたんですか?」



 「実は、里の鳥人達に現在の世界の様子を偵察に行かせていたんだが、ついさっき報告に戻って来た」



 「本当ですか!? それでどうでしたか!?」



 「…………」



 「……フォルスさん?」



 「……全滅だ」



 「え?」



 「他の国や街、里や村を調べたんだが……生存者は確認出来なかったそうだ」



 「そんな…………」



 重苦しい雰囲気が漂う。只でさえ最悪の空気が、フォルスの報告によって更に重くなった。



 「残念ながら、鳥人族とここにいる俺達以外、全員殺られてしまった……」



 「待って下さい。まだ一ヶ月も経っていないんですよ? それなのに全滅だなんて……」



 英雄達の実力は真緒達が実際に体験していた事である程度理解していたが、まさか一ヶ月も掛からずに、ほぼ全ての人類を殺し回るとは、その圧倒的で迅速な対応に驚きを隠せなかった。



 「思った以上に事態は深刻な様だ」



 「エジタスさんはロストマジックアイテムである“死者復活の紙”で、次々と伝説的な英雄を蘇らせて戦力にする一方、こちらの戦力は最早ここにいる私達と、里の鳥人族しかいない……という事ですか?」



 「あぁ……そう言う事だ」



 「こんな事って……」



 一年前に行われた最終決戦の様に、世界各地の仲間達が集結し、協力し合う事が出来なくなってしまった現状、真緒達、サタニア達の六人と数人の鳥人族だけでカルド王やフェニクスの様な英雄達と渡り歩かなければならない。



 「それに例え私達だけでカルド王達を倒せたとしても、師匠が持つ死者復活の紙の力で何度も蘇る事が出来てしまう」



 「…………」



 最早、勝ち筋が無いのは自明の理。真緒達に残された道は一つしかなかった。



 「降伏……するしかないか……」



 「フォルスさん、でもそれは……!!」



 「分かってる。でも、これ以上足掻いたって無駄なのは火を見るより明らかだ。それなら早い内に降伏宣言した方が、被害が少なく済むんじゃないか?」



 この絶望的な状況の中では、普段考えもしない様な案がまともに聞こえる。



 「それにあのエジタスの事だ。案外、かつての仲間という理由で、俺達への待遇を考慮してくれるかもしれないしな。ははははは!!」



 半分冗談で笑うフォルスだったが、他の者達は今の状況では、さすがに笑う事が出来なかった。



 「ははは……はは……はぁ……」



 そんな状況にフォルスの笑いも勢いが無くなり、最終的には溜め息になってしまった。



 その時、突如として玄関の扉が乱暴に勢い良く開かれ、一人の鳥人が中に飛び込んで来る。



 「大変です!!!」



 よく見るとその鳥人は全身傷だらけだった。ありとあらゆる箇所から出血し、顔面蒼白になっていた。



 「どうした!!? 何があった!!?」



 「敵襲です!!!」



 「いよいよか……それで数は!!?」



 「それが……たった一人です……」



 「何だと!!?」



 たった一人での襲撃。それは余程の馬鹿か、絶対的な自信があるかのどっちか。この場合、報告しに来た鳥人の様子から後者である事は明白であった。



 「とにかく一度外に出ましょう!!」



 敵の正体を確かめる為、真緒達は急いで外へと駆け出した。







***







 「こ、これは!!?」



 外に出ると、大量の鳥人が血を流しながら倒れている光景が広がっていた。そして丁度、里の入口付近では三人の鳥人が上空に飛び上がり、侵入者と戦っている様子だった。



 そしてその三人は、フォルスにとって最も関わりの深い人物“クク”、“ビント”、“トハ”であった。



 「皆!!!」



 「フォルス!!! こっちに来るんじゃないよ!!! 出来る限り、遠くに逃げるんだ!!!」



 「くっ……ビント、こいつ強い!!!」



 「こっちは三人がかりだっていうのに……!!!」



 三人に取り囲まれる様に立つ男性。その男性は三人から繰り出される矢の猛攻に対して、槍を片手に軽く受け流していた。



 「この程度なのかい? うーん、これじゃあ退屈しのぎにすらならない……よ!!!」



 「「「がはっ!!?」」」



 男性は持っていた槍を軽く振り回した。すると周囲に巨大な竜巻が発生し、三人を吹き飛ばした。



 「大丈夫か!!?」



 「ぐぅ……すまねぇ、フォルス……」



 「里総出で戦ったけど……手も足も出なかった……」



 「あれは……人が勝てる存在じゃない……あんた達だけでも逃げなさい……」



 ぼろぼろの体になりながらも、トハは真緒達の心配をする。そんなトハを見つめながら、フォルスは何かを決意した様子で男性の方へと歩き出す。



 「何……しているんだい、早く逃げなさい……」



 フォルスの後に続く様に、他の五人も男性の方へと歩き出す。



 「悪いなお婆ちゃん……家族が傷付けられたのを黙って見過ごす程、俺は腐ってないよ」



 「フォルス……あんた……」



 「お前、いったい何者だ!!? 俺の大切な仲間を傷付けやがって!!!」



 「うーん、エクセレント!!!」



 何を思ったか、男性は突然顔を上に傾け、顎を前に突き出した。



 「家族の為に立ち上がる……何て感動的なんだ!!! ビューティフル!!! 最高だよ君!!! そしてそんな仲間と一緒に立ち上がる君達も……エクセレント!!!」



 「「「「「「…………」」」」」」



 男性による怒涛の発言に、真緒達は若干……いや、かなり引いていた。



 「な、何ですかあの人……気持ち悪い……」



 「オラ……別の意味で毛が逆立っだだぁ……」



 「私、ああいうの本当に無理……特にあの“顎”……自分から見せ付けてくるって、どうかしてるんじゃないの?」



 「エレット……ちょっと言い過ぎだよ……って、言いたかったけど……僕もあれは生理的に受け付けないかな」



 「あはは……はは……は……」



 真緒に至っては、最早引き笑いをしている始末だった。そんな中、フォルスだけは怒りに震えていた。



 「質問に答えろ!!! お前はいったい何者だ!!? 何の目的でこの里を襲った!!?」



 「おおっと、俺とした事が……感動のあまり自己紹介を忘れてしまった。では名乗らせて貰おう!!!」



 そう言うと男性は持っていた槍を前に突き出し、ポーズを決める。



 「俺は“八英雄”が一人、変幻自在の槍使い“マントン”様だ!!!



 自信満々に声を張り上げるマントン。が、真緒達はいまひとつピンと来ていなかった。だが、そんな事は気にせずに話を続けるマントン。



 「ここに来た目的は只一つ、君達の抹殺だよ」



 「「「「「「!!!」」」」」」
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