笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第九章 冒険編 蘇る英雄達

修行開始

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 「シーラさん、どうしてここに?」



 「ん? 魔王様から聞いてないのか? 半年位前から、この山に籠って己を鍛えていたんだ」



 「そうだったんですか」



 「だが、いったい何故山籠りなどしているんだ?」



 「確かに……前のままでも強かったのに、これ以上強くなる理由は何ですか?」



 「…………」



 そう問い掛ける真緒達に対して、途端に口を閉ざしてしまうシーラ。



 が、直ぐ様考え直し、神妙な面持ちで語り始める。



 「一年前……私はあいつに……エジタスの奴に完膚無きまでに叩きのめされた……魔王軍四天王でありながら、手も足も出なかった……そんな情けない自分自身を変える為、この山で鍛え直す事にした。また、エジタスの様な奴と戦う事になっても、今度は一人で勝てる様に……」



 シーラを修行に駆り立てたのは、圧倒的な敗北から生まれた己の弱さに対する不安であった。またエジタスの様な存在と戦う事になったら……魔王軍四天王としてのプライドに賭けて、二度の敗北は許されなかった。



 「……凄いですね。私、あの戦いは全員の力を合わせなければ絶対に勝てなかった……だから個人で負けても仕方ないと思っていました。けどシーラさん、あなたは違った。決して妥協せず、更なる高みに上げる為に半年も前から自分を追い込んでいるだなんて……本当に凄いです」



 「全くだな。強さに対する向き合い方に関して、常人のそれとは異なる」



 「ふん、褒めたって何も出やしないよ」



 と、素っ気ない態度を取るシーラだが、体は正直な様で尻尾が左右に動いていた。そんなシーラを真緒達は微笑ましいと思いながら、暖かい目を送る。



 「それで? お前達こそ、どうしてこの山に? ここは魔族の間では修行場として有名だけど、人間や亜人には縁の無い場所の筈だよ?」



 「……実は……」



 真緒達はこれまでの経緯を全て説明した。ロストマジックアイテムの事、その力によってエジタスが蘇った事、更にエジタスがその力であらゆる時代の英雄達を蘇らせている事、そしてサタニアが真緒達にこの山で修行する様に言った事。







***







 「……そうか……エジタスが……」



 全て聞き終えたシーラ。しばらく黙り込み、ずっと何かを考えている様だった。



 「シーラさん……」



 「…………ふっ、面白いじゃないか」



 「え?」



 そして静かに笑みを零す。真緒達の話を聞いて尚、余裕の表情を浮かべる。寧ろ面白いと口にするレベルだった。



 「だってそうだろう? 元々、エジタスの様な奴が再び現れた時の為に力を付けて来たんだ。その目標と定めていた本人が自ら現れてくれたんだ。腕が鳴るじゃないか」



 それは強者故の喜び。もう二度と会う事が無いと思っていた相手に、もう一度戦うチャンスが生まれた。その事実に闘志を燃やすのであった。



 「成る程……それで魔王様はお前達をこの山に向かわせた訳か。私がこの山で修行している事は、魔王様しか知らないからな」



 「シーラさんと一緒に修行出来るだなんて、これ程頼もしい事はありません!! 一緒にサタニアを取り戻しましょう!!」



 打倒エジタス、奪還サタニアを胸に掲げて、六人は修行を開始するのであった。



 「それで具体的にどんな修行をするつもりなんだ?」



 「うーん……シーラさんは半年前からこの山で修行していたんですよね? いったいどんな方法で鍛えていたか、教えてくれませんか?」



 「それは勿論良いけど、お前ら何も知らずにこの山を登って来たのか?」



 「ま、まぁ……恥ずかしながら……はい」



 「それじゃあ軽く説明するけど、この山はある一人の魔族が己の限界を越える為に使っていたとされる場所だ。足下の石に刻まれている模様が見えるか?」



 真緒達が足下を見ると、床の石には不思議な模様が刻まれている事が伺えた。



 「見えますけど……これは……?」



 「待って下さい!? もしかしてこれって……“魔法陣”!?」



 「おっ、どうやら気が付いた様だな。ここら一帯の地面に敷き詰められた石一つ一つに異なる魔法陣の図が刻まれている」



 「それがいったい何だって言うんだ?」



 「あー、やっぱり口で説明するより実際に目で確かめた方が早そうだな。ちょっとこっちに来てくれ」



 「ん? あぁ……」



 そう言うとシーラはフォルスに近くまで来る様、手招きをする。フォルスも何の気なしにシーラに歩み寄る。



 「この石に触れて、魔力を注入して見ろ」



 「魔力を……分かった」



 フォルスは言われた通り、シーラが指差した石に触れて魔力を流し込む。その瞬間、フォルスの姿がその場から消えてしまった。



 「「「!!?」」」



 そのあまりに突然な出来事に驚きを隠せない一同。慌ててフォルスが消えてしまった場所に駆け寄るが、勿論そこにフォルスの姿は無かった。



 「シ、シーラさん!!? いったいどういう事ですか!!? フォルスさんは何処に消えちゃったんですか!!?」



 「ちょっと落ち着きな。ちゃんと説明してやるから。見た通り、この石に魔力を注入するとその石に刻み込まれた魔法陣が反応し、その人物を特別な空間に転移させる」



 「特別な空間?」



 「要は修行に特化した場所って事。今頃、あいつは修行に打ち込んでいるだろうな。何てったって“弓矢”に関する石に触れたんだからな」



 「ちょ、ちょっと待って下さい!! さっき“石一つ一つに異なる魔法陣の図が刻まれている”って仰っていましたけど……まさかそれって……」



 「あぁ、弓矢だけじゃない。ありとあらゆる可能性に対応した石が用意されている」



 正に修行場の宝庫。その圧巻の光景に、真緒達は言葉を失った。



 「もしかして……シーラさんはこれら全部を攻略したんですか?」



 「……いや、残念だが私でもまだ半分も攻略出来ていない」



 「そんなに厳しいんですか?」



 「厳しい。これまでの魔王軍の特訓が可愛く見える程に」



 あの強者であるシーラが厳しいと口にするとは、いったいどの様な内容なのか。真緒達は言い知れぬ恐怖を感じていた。



 「……でも、ここで怖じ気づいていたら、何も始まりませんもんね。私、行きます!!」



 「よく言った!! それじゃあ皆、それぞれ自分に適した石に触れて修行を始めるぞ!!」



 そして真緒達は各々、自分に合っていそうな石の下に移動し始める。



 「準備は良い?」



 「バッチリです」



 「準備万端です」



 「ここまで来たら、やるしかないでしょ」



 「それじゃあ、諸君らの健闘を祈る」



 こうして真緒達の修行は開始した。各々が石に触れて魔力を流し込む。その瞬間、真緒達はその場から姿を消して修行場へと向かうのであった。



 「むぐ……あぐ……あれ? 皆は何処に行っだだぁ?」



 一人を除いて…………。



































 エジタスの屋敷。部屋を行き来する為の長い廊下を歩くエジタスと二代目魔王。特に話す事も無く、しばらく無言のまま歩いていた二人だったが、その途中でエジタスが何気無く二代目魔王に声を掛ける。



 「そう言えばサタニアさんの方は勧誘したのに、マオさん達の方はしなかったんですね~」



 「うん、あの子達には断られちゃったからね。無理矢理連れて来るって方法もあったけど……あまり息子の友達を傷付けたくなかったから……」



 「それなら仕方ありませんね~。にしても惜しいですね~、もしマオさん達もこちら側に引き込めれば、最早敵無しだったのに~」



 「前から思ってたけど、エジタス君は随分とあの子達を警戒しているんだね?」



 「そりゃあそうですよ~。一年前、私はマオさん達に殺されていますからね~」



 「うーん、でもそんなに強そうには見えなかったけどな。だって息子にすら“レーツェル山”に身を隠したらって、哀れみを受けていたからね」



 「…………ちょっと待って下さい。今、何て言いましたか?」



 「いや、あの子達あまりの弱さに息子から“レーツェル山”にでも身を隠したらって、哀れみを受けていたんだよ」



 「…………はぁ~」



 エジタスが深い溜め息を漏らす。それが何を意味するか分からない二代目は、思わず首を傾げる。



 そして次の瞬間、エジタスは二代目魔王の首を掴み、高く持ち上げる。



 「がっ!!? あがぁ!!?」



 「全く……どうして英雄と呼ばれる方々は報告をしないんでしょうかね~。いつも言ってるでしょ~? 何かあったら逐一私に報告して下さいって……報告・連絡・相談……もう子供じゃないんだから……それ位こなして欲しいですよ~」



 そう言うとエジタスは、二代目魔王の首から手を離した。



 「げほっ!! ごほっ!! はぁ……はぁ……」



 「次、報告を怠ったら一度死んで貰いますからね。勿論、その後ちゃんと蘇って貰いますけどね~」



 そしてエジタスは呼吸を整える二代目魔王を置いて、その場を離れて行く。



 「(レーツェル山ですか……確かあそこは魔族にとっての聖地だった筈……そう言えば……そうだ良い事を思い付いちゃいましたよ~)」



 何かを思い付いたエジタスは、陽気に鼻歌を混じらせ、スキップをし始めるのであった。
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