笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第九章 冒険編 蘇る英雄達

更なる力を求めて

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 「ここは……?」



 気が付くと真緒は真っ暗な空間に佇んでいた。周りは何も見えないが、何故か自分の姿はハッキリと確認する事が出来た。



 『…………』



 「えっ……“私”?」



 そこに突如、真緒そっくりな人物が現れた。年や背格好、装備している武器や鎧まで瓜二つであった。



 そんな偽真緒は何も語らず、只黙って剣を引き抜き、構える。



 「成る程……自分自身を越える事が修行という訳ですか。これは骨が折れそうですね」



 そう言うと真緒は同じ様に剣を引き抜き、偽真緒に向かって構える。



 『…………』



 すると偽真緒は一瞬で間合いを詰め、剣で斬り裂こうとする。



 「っ……速い!!!」



 迫り来る攻撃を何とか剣で防ぐ真緒だったが、偽真緒は間髪入れずにがら空きとなった腹に蹴りを入れる。



 「うぐっ!!」



 『…………』



 衝撃から遠くに吹き飛ばされ、蹴られた痛みから腹部を押さえる。そんな動けない状態の真緒に、偽真緒は上から剣を突き刺そうと勢い良く飛び掛かって来る。



 「!!!」



 咄嗟に体を捻らせ、寸での所で回避する真緒。急いで体制を整え、ある程度距離を取る。



 「よし、少し油断しちゃったけど、もう大丈……夫……っ!!?」



 その時、真緒は気が付いた。体が動かない事を。意識は正常なのに、体は全く動かせなくなっていた。



 「(ま、まさかこれは……)」



 この現象に真緒は見覚えがあった。いや、見覚えがある所の話ではない。何故ならこれは真緒が、いつも使用しているスキルの一つだったから。



 「(“明鏡止水”!!?)」



 『…………』



 目の前にいる偽真緒が、ゆっくりと静かに歩み寄って来る。



 「(動け!! 動け!! 本当は動ける筈だろう私!! このままじゃ殺られちゃう!!!)」



 動けないという錯覚を改める為、心の中で動けると強く意識し始める。すると僅かに指先の感覚が戻り始めていた。



 「(速く!! 速く!!)」



 『…………』



 偽真緒の手に握られた剣が、ゆっくりと真緒の首に近付いて来る。



 「くっ!!!」



 『…………』



 剣が首に触れようとしたその時、体の自由を完全に取り戻した。真緒は剣で偽真緒の剣を弾き飛ばし、逆に偽真緒の体を斬り付けた。



 「はぁ……はぁ……」



 『…………』



 偽真緒は痛がる素振りも見せず、流れる様に倒れ、暗闇に溶け込んで消えてしまった。



 「つ、強かった……今の私よりも遥かに……でもこれで少しは強く……ん?」



 そう思った矢先、遠くから足音が聞こえて来る。それも一人や二人じゃない。もっと多くの足音が聞こえる。音のする方向をじっと見つめる真緒。



 やがて足音の主が姿を現す。その正体に真緒は開いた口が塞がらなかった。



 「そ、そんな……嘘……」



 それは大量の偽真緒の姿であった。年や背格好、どれを取ってもまるっきり同じであった。



 「一人でもあれだけ苦労したのに……こんなに沢山……まさかこれ全部倒さないと先に進めないって事?」



 目の前に広がる偽真緒の大群に、軽い絶望を感じる真緒。逃げ出したい。今すぐここを離れたい。けど、頭や心でそう思っていても実際にここを離れる訳にはいかなかった。



 「ここで逃げ出したら、修行の意味が無くなる……今ここで諦める訳にはいかない!!」



 そう思いながら剣を構える真緒。すると心なしか、先程よりも数が増えた様に感じられる。



 が、当の真緒本人は特に気にする様子は無く、黙って戦いに赴いた。







***







 「はぁ……はぁ……はぁ……」



 さすがに多勢に無勢。最初こそ優勢だった真緒も、徐々に追い詰められて来た。



 周りを偽真緒に取り囲まれ、逃げ道を完全に失ってしまった。



 「斬っても斬っても……切りが無い……いつまで経っても終わりが見えない……」



 あれから数時間、一回も休まずに戦い続けている。しかし何体偽真緒を斬り伏せようとも、一向に数は減らなかった。



 寧ろ真緒が善戦すればする程、数は増していった。更に新たに補充される偽真緒は前より強く、より洗練された動きをする様にパワーアップしていた。



 「はぁ……はぁ……」



 『…………』



 そして遂に偽真緒の一人が、真緒の背中を剣で斬り付ける。



 「あがぁ……!!!」



 背中から吹き出す血飛沫、電流の様な痛みが全身に流れる。そしてこの一年、あまり感じる事の無かった明確な死のイメージ。



 「うっ……うぁあああああ!!!」



 真緒は死に物狂いで偽真緒を斬り伏せる。が、次第に出血多量によって目眩が生じる。足下がおぼつかず、ふらふらする。必死に剣を当てようと振り回すが、かすり傷すら当てられない。



 「はぁ……はぁ……はぁ……」



 やがて真緒は剣を杖代わりにして、何とか倒れない様に体を維持する。呼吸もか細くゆっくりになっていた。



 「(もう駄目だ……力が入らない……少しでも油断すると意識を持っていかれそう……)」



 漸く真緒は悟った。自分は死ぬ。しかし不思議と恐怖は無い。それはこれまで大切な人の死を、この目で見届けて来たからかもしれない。



 「(師匠も……こんな気持ちだったんでしょうか……って、今はもう蘇っているんでした……もし運が良かったら、師匠が蘇らせてくれるかな……?)」



 そんな事を思っている内に、周りを取り囲んでいた偽真緒が剣を突き刺そうと、一斉に襲い掛かって来る。



 「(あれ……周りの動きがゆっくりに見える……そっか、これが死ぬ瞬間に世界がスローモーションに見えるって奴なのか……ハナちゃん、リーマ、フォルスさん……ごめん……どうやら私、ここまでみたい……)」



 そして真緒の体に大量の剣が突き刺さる。激しい痛みと急激な脱力感に襲われながら、真緒は静かに意識を手放した。







***







 気が付くと真緒は真っ暗な空間に佇んでいた。周りは何も見えないが、何故か自分の姿はハッキリと確認する事が出来た。



 「あ……れ……?」



 確かに自分は死んだ筈。そう思う真緒だったが、体には傷一つ付いていなかった。



 「いったいどういう事……?」



 『漸く死んだか……』



 「誰!!?」



 突然の状況に不思議がっていると、真緒ではない別の誰かの声が聞こえて来た。声のした方向に顔を向けると、そこには一人の若い魔族が立っていた。



 『驚く必要は無い。俺はこの空間を管理している者だ』



 「管理って……あなたはいったい何者ですか?」



 『説明が難しいが……ざっくり言うと、この修行場を作り出した魔族の残像思念体だ』



 「残像思念……え、えぇええええ!!?」



 あまりに突拍子もない返答に、驚きを隠せない真緒。



 『驚くのも無理は無いが、少しだけ俺の話を聞いてくれるか?』



 「え、えぇ……それは構いませんが……」



 「よし、まずこの修行場について軽く説明するが、ここは現実とは異なる言わば別次元の空間だ。ここでは何が起きても不思議じゃない」



 「べ、別次元の空間?」



 『つまりここで死んでも大丈夫って事だ』



 「じゃ、じゃあ私が死んでないのも!!?」



 『そう言う事だ。そもそもここの修行が死ぬまで終わらないシステムだからな』



 「えっ、そうなんですか!?」



 『あぁ、生き物は生命の危機に陥る時、初めて己の限界を越える事が出来る。要は死に物狂いで頑張れば、結果的に成長する事が出来るって訳だ』



 「そ、そんな無茶苦茶な……」



 『無茶苦茶かどうか、自分の体に聞いて見たらどうだ?』



 「えっ? あっ、いつもより力が溢れてる……」



 改めて自身の体を確かめると、修行を始める前よりも遥かに力が増している事に気が付いた。



 『だろ? これぞ死んで強くなる方法だ』



 「それじゃあ、私の偽物が絶え間無く現れたのも……」



 『あぁ、お前が中々死んでくれないからな。苦労したよ』



 「もう!! 私、本気で死を覚悟したんですからね!!」



 『はは、そりゃ悪かったな。けど、これでお前は更に力を手に入れられた筈だ』



 「それに関しては……ありがとうございます……」



 すると急に真緒の周りが明るくなり始める。



 『どうやらそろそろ元の場所に戻る時間の様だな』



 「あの、色々とお世話になりました。最後に名前だけでも……」



 『ん? そう言えばまだ名乗っていなかったか、俺は“サタニア・クラウン・ヘラトス”だ』



 「えっ!!?」



 『もしあっちで本体の俺と会ったら、よろしく伝えておいてくれよな』



 「ちょ、ちょっと待っ……!!」



 そう言い終わる前に真緒は光に包まれ、その場から姿を消してしまうのであった。
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