笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第九章 冒険編 蘇る英雄達

獣同然の生活

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 「んっ……」



 目を開けるとそこは、元のレーツェル山に戻っていた。辺りを見回すと、真緒と同じ様に他の皆も戻っていた。



 「皆……」



 「どうやら全員無事に修行を終えられたらしいな」



 「死んだ筈なのに生きてるって……何だか変な感じですね」



 「けど、前よりも確実に強くなったのが分かるよ」



 「どうだった? 結構ハードだっただろう?」



 一足先に戻って来ていたシーラが、真緒達を出迎える。



 「ちょっとシーラさん!! 死ぬまで続く修行だったのなら、先にそう言って下さいよ!! 怖かったんですからね!!」



 「事前に伝えていたら、修行の意味が無いじゃないか。これは死にたくない一心で無我夢中になって戦うからこそ、強くなれるんじゃないか」



 「そ、そうですけど……」



      “…………ォオオ……”



 「ん? 今、何か聞こえた様な?」



 この場にいる者じゃない、他の何者かの声が聞こえて来る。一同は咄嗟に武器を構え、何処から声が聞こえて来るのか、耳を澄ます。



      “……ォオオオオオ”



 獣の雄叫びの様な声が響き渡る。怒りと悲しみが混じり合うその声は、徐々に大きくなっていく。



 「師匠が送り込んだ刺客でしょうか……?」



 「いや、もしかしたらこの山に棲む獰猛な獣かもしれない」



 「どっちにしたって、今の私達の敵じゃないね」



 「修行の成果、見せてあげます」



 「随分と頼もしくなったもんじゃないか」



 やがて声だけで無く、こちらに近付いて来る足音までハッキリと聞こえて来る。草木を激しく揺らしながら、遂に声の主が姿を現した。



 「ハァ……ハァ……」



 それは全身毛むくじゃらの巨大な獣だった。四つん這いで歯茎を剥き出しにしながら、低い唸り声を上げ、今にも真緒達に飛び掛かって来そうだった。大きな手から見える太く鋭い爪は、返り血で真っ赤に染まっており、その獣の狂暴性を物語っていた。



 「す、凄い威圧感……けど私達は負けな『マオぢゃん……』……え?」



 真緒達は耳を疑った。目の前の獣が“マオ”と口にしたのだ。更にその声には聞き覚えがあった。思えば真緒達がここに戻って来た時、その場にその人物はいなかった。真緒は恐る恐る獣に問い掛ける。



 「もしかして……“ハナちゃん”?」



 「ウゥ……ウォオオオオオオ!!!」



 「「「「「!!!」」」」」



 すると獣は叫び声を上げながら二本足で立ち上がり、勢い良く真緒に飛び掛かって来た。



 「マオぢゃーん!! マオぢゃーん!! 会いだがっだだぁ!!」



 と、思いきや真緒を強く抱き締めた。毛むくじゃらな獣の正体はハナコだった。ハナコは泣きながら、真緒の名前を呼び続ける。



 「ハ、ハナちゃん……苦しいよ……」



 「だっで……だっで……」



 強く抱き締められ、息が出来ない真緒。離れる様に説得するが、ハナコは離れようとしない。



 「ちょ、皆……助けて……」



 さすがにこのままでは洒落にならないと判断し、真緒は仲間達に助けを求めた。中々離れようとしないハナコを、何とか全員の力で引き剥がす。



 「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」



 「ずまながっだだぁ。マオぢゃん達に会えだ嬉じざで遂……」



 「会えた嬉しさって……まだ数時間しか経っていないじゃないですか?」



 「何を言っでるだぁ? マオぢゃん達が姿を消じで、もう“一ヶ月”も経っでるだよぉ?」



 「「「「…………はぁ!!?」」」」



 ハナコの口から語られた信じがたい事実に、真緒達は思わず驚きの声を上げる。



 「オラが食事に夢中になっでいる時、気が付ぐど皆いなぐなっでいだだぁ。だがらオラ、必死でごの山の中を捜じ回っだよぉ。時には山に棲む獣達と戦っだり、手を取り合っだりじで、獣同然の生活を送っでいだだぁ。ぞじで遂に今日、懐がじい臭いがじだがら、慌ででごごまでやっで来だんだぁ!!」



 「「「「…………」」」」



 嘘を付いている様子は見られない。そもそもたった数時間で、仲間である真緒達が見間違う程にハナコの毛が伸びる訳が無い。つまりハナコの言う通り、真緒達が修行に行っている間、こっちの空間では一ヶ月の月日が流れていたのだ



 あまりに唐突な事に呆然とする四人。事情を説明して貰おうと、シーラの方に顔を向けると、既にシーラは真緒達と目線を合わせない様にそっぽを向いていた。



 「シーラさん……どういう事ですか?」



 「…………」



 「知らない間に一ヶ月も過ぎているんですけど……」



 「…………」



 「お前、半年前からここで修行しているって言ってたよな? じゃあ、こっちとあっちでは時間の流れ方が違う事も知ってた筈だよな?」



 「…………」



 「どうして私達に黙っていたんですか? ちゃんと答えて下さい」 



 「…………てた……」



 「「「「え?」」」」



 小声で答えるシーラ。聞き取れなかった真緒達は、耳を傾けてもう一度聞き直す。



 「……忘れ……てた……」



 「「「「…………」」」」



 「…………へへっ!!」



 「「「「笑って誤魔化すな!!!」」」」



 シーラの耳元で怒鳴り声を上げる真緒達。そのあまりの煩さに思わず両耳を塞ぐシーラ。



 「……全く、耳障りな連中だな……やはり人間という生き物は下等種族に他ならない……」



 「ちょっとハナコさん、いくら一ヶ月放置されていたからって、そこまで言わなくてもいいじゃないですか!?」



 「今のオラじゃないだよぉ?」



 「えっ、そう言えば……ハナコさんよりもかなり低い声だった気が……いったい誰……っ!!?」



 振り返ると、そこには一人の魔族が立っていた。頭の左右から生える捻れた二本の角、その容姿はお世辞にも美男子とは言えないが、短髪に彫りの深い顔でとても男らしい見た目だった。



 そしてその顔は真緒達やシーラにとって、見覚えのある顔だった。いや、正確には会うのは今回が初めてと言える。



 「サタニア・クラウン・ヘラトス……」



 「この時代の低能な人間でもさすがに知っているか……では改めて名乗ろう、我こそが全魔族の頂点に君臨する唯一無二の存在、“サタニア・クラウン・ヘラトス”である」



 そう言うと魔王サタニアは大きく両手を広げ、自身の名を名乗った。その瞬間、真緒達の背中を悪寒が通り過ぎた。それは恐怖。その時確かに真緒達は明確な恐怖を感じていた。



 「貴様らの様な能無しが、この聖地を土足で踏み荒らすとは……万死に値する。自らの愚かな行いを後悔しながら、死に絶えるが良い」



 修行を経て、パワーアップを果たした真緒達。その筈なのに、目の前にいる絶対的な存在に勝つ光景が全く見えない。言い知れぬ絶望感が真緒達の心を支配していく。



 「う……うぁあああああ!!!」



 しかしそんな中、真緒は勇気を振り絞り、魔王サタニア目掛けて剣を振る。が、魔王サタニアは慌てる様子も無く、わざと真緒の攻撃を受け止める。するとまるで金属にぶつかったかの様な、硬く鈍い音が響き渡る。勿論、魔王サタニアはノーダメージだった。



 「なっ!!?」



 「哀れな……“ダークネスエッジ”」



 その瞬間、魔王サタニアの右手から黒色の刃が次々と生成され、真緒目掛けて放たれた。



 「マオぢゃん!!」



 「はぁあああああ!!!」



 真緒に当たると思われた次の瞬間、シーラが二人の間に割って入り、魔王サタニアが放った黒色の刃を持っていた槍で全て弾いて見せた。



 「シーラさん!!!」



 「邪魔して悪いけど、こいつは私に殺らせて欲しい」



 「何だ貴様? 見た所、ドラゴンの様だが……?」



 「お前だけは絶対に許さない……魔王様が受けた悲しみと苦しみ……何倍にもして返してやる!!!」
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