笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第九章 冒険編 蘇る英雄達

要注意人物

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 「それで、おめおめと逃げ帰ったという訳ですか~?」



 屋敷の玄関先にある少し広めの庭。そこではエジタスが一人、ガーデニングに勤しんでいた。そんな土弄りに夢中な彼の背後に立つ魔王サタニア。強張った顔付きで分かりにくいが、何処と無く不機嫌なのが見て取れる。



 「逃げ帰った訳では無い。更なる成長を見越して、わざと見逃したのだ」



 「物は言い様ですね~」



 エジタスの罵りに、ムッとした様子で弁解する魔王サタニア。それに対して呆れた様子で答えるエジタス。すると魔王サタニアは強気な様子で、先程よりも威圧的な声で土弄りをするエジタスに語りかける。



 「大体、殺すなと命令したのは貴様ではないかエジタス」



 「まぁ、そうなんですけどね~。今回、レーチェル山で修行しているマオさん達がどれ位強くなったのか、その力量を確かめる為にあなたを送った訳ですけど……今聞いた感じだと中々強くなっているみたいじゃないですか」



 「あぁ、だがあの程度の実力なら、容易く対処出来る」



 「おぉ、それはそれは頼もしい限りですね~。因みに魔王さんはあの中で誰が一番厄介だと思いましたか~?」



 「そうだな……強いて言うのなら鳥人の男だな。目の前に迫る竜巻と死角から飛んで来る矢は、かなり厄介だと言える」



 魔王サタニアが少し考えて出した要注意人物はフォルス。しかし、その答えにエジタスはそれまで動かしていた土弄りの指を止めた。



 「またまた~、本当に冗談が上手いですね~」



 「……どう言う意味だ……」



 「本当に厄介なのは……勇者である“マオ”さん……でしょ~? そしてその右腕……動かせませんよね~?」



 「!!?」



 魔王サタニアは驚きの表情を隠せなかった。エジタスの言う通り、右腕は全く動かせず、痺れた状態が続いている。



 「最後にマオさんとぶつかったあの時、力勝負にこそ勝ったものの、払った代償は大きかった。その右腕が治るのはしばらく時間が掛かりそうですね~」



 「…………」



 「だから私最初に言いましたよね~? “それで、おめおめと逃げ帰った”って~?」



 「っ……!!」



 まるで全てを見透かされている様だった。確かに実力的な面から見れば、あの中で最も要注意なのはフォルスだが、将来的な事を考えると、本当に注意すべき相手は真緒なのは明白である。



 「それにしても、随分と弱くなりましたね~。二千年前のあの頃に比べて……」



 「それは貴様もだろう。いや、貴様の方がもっと弱くなったんじゃないか? あの頃に感じていた覇気が全く感じられない。まるで何かが欠けているかの様だ……」



 「う~ん、肉体的には全盛期の頃に戻っている筈なんですけどね~。やっぱり記憶と心に問題があるみたいですね~」



 「記憶と心?」



 「知っての通り、私達は一度死にました。でもこうして蘇った。けど記憶と心はそう単純じゃない。一度焼き付いた死への恐怖と苦しみが運動機能に何らかの悪影響を及ぼしているのかもしれません」



 「恐怖と苦しみだと……我がそんな感情を抱くと思っているのか?」



 「例えばの話ですよ。現に私や魔王さん、後はアーメイデさんやコウスケさんなんかも少し弱くなっていますね。まぁ、でも安心して下さい。こうした症状は一時的な物であり、しばらく時間をおけば安定して本来の力を発揮出来る筈ですよ~」



 「……記憶と心……だが貴様の場合、それだけが理由じゃ無いと思うのだがな……」



 「おやおや手厳しいお言葉ですね~。未熟な勇者に片腕、再起不能にされた癖に~」



 「っ……!!」



 痛い所を突かれてしまった。どうやら悪口対決では魔王サタニアに勝ち目は無さそうだ。



 「けど、こうしてきちんと報告してくれたので、良しとしますかね~」



 「そうか……」



 「また何かあったら頼むので、その時はよろしくお願いしますよ~?」



 「気が向いたらな……」



 「さてと、種も植え終えたし、次は水撒きでもしましょうかね~」



 そう言うとエジタスは立ち上がり、魔王サタニアを放置して、側に置かれていた木のバケツを片手に水を汲みに出掛けようとする。



 「…………」



 そんなエジタスの背中を見つめながら、魔王サタニアは何かを考えていた。そしてゆっくりとエジタスの首に向かって、左腕を伸ばす。



 「(完全に無防備状態……今なら確実に殺れる。そもそも我は魔王なのだ。それをどうして元配下であるエジタスの言う事を聞かなければならない。今ここでこいつを殺せば、再び我が全生物の頂点に君臨する事が出来る)」



 振り返る様子は無い。このまま上手く行けば、確実にエジタスの首をへし折る事が出来るだろう。そして遂にエジタスの首に魔王サタニアの左手が当たりそうになる。



 「…………」



 が、途中で伸ばすのを止めて大人しく引っ込めた。そして踵を返してエジタスから離れていく。



 「(止めておこう。今ここでエジタスを殺せば、後で困るのはこの我だ。殺るならもっと準備が整ってからにしよう)」



 一方、魔王サタニアに殺されかけたエジタスは、陽気に鼻歌を歌い始めた。



 「~~♪~~~~♪~~♪~~♪」



 やがて小さな井戸の前まで訪れる。井戸に設置されたバケツを下ろし、水を汲み上げる。そして持って来たバケツに移し変える。



 そんなエジタスの側に現れる人影。どうやら屋敷からずっと付けて来ていた様だった。



 「エジタス……」



 「これはこれはロージェさん。いったいどうしたんですか~?」



 現れた人影の正体はロージェだった。そんなロージェに対してエジタスは特に気にせず、水汲みを続ける。



 「いいのか、放っておいて」



 「それは魔王さんの事ですか~?」



 「あいつはお前の命を狙ったのだぞ? それ相応の罰を与えるべきじゃないのか?」



 「でもまぁ、未遂で終わっている訳ですし、大目に見てあげましょうよ~」



 気が付いていた。魔王サタニアがエジタスを手に掛けようとしていた事を。それを敢えて見逃していた。



 「例え今は大丈夫でも、いつか必ず裏切るぞ」



 「その時はその時で考えますよ~」



 「何なら私が殺して来てやろうか?」



 「止めといた方が良いですよ~。あなたの実力じゃ、返り討ちに合うのが目に見えていますからね~」



 「……そんなに私は弱いか」



 「はい、弱いです。恐らく英雄達の中では一番弱いと思いますよ~」



 「くっ……」



 「まぁまぁ、あなたの役目は戦う事じゃ無いでしょ~」



 「それは……分かっている……」



 「それなら、報告の方をお願いします。まさか今のを聞く為に現れた訳じゃありませんよね~?」



 そう聞くエジタスに、ロージェは小さく頷いた。



 「お前が各英雄達に指示していた人類選別が一通り片付いた。西の大陸は約80%の人口が、東の大陸は約75%の人口が亡くなった」



 「ほぅ、という事はそろそろ第二段階に以降という訳ですか~?」



 「そう言う事だ」



 「良いですね~、皆真面目に仕事をこなしてくれている様で、嬉しいですね~」



 「近々、各地にバラけた英雄達が戻って来るだろう」



 「うんうん、それじゃあ私の方でも準備を進めておくとしましょうかね~」



 そう言うとエジタスは、移し終えたバケツをロージェに押し付ける。



 「おい、何だこれは?」



 「私の代わりにやっておいて下さい」



 「ちょ、ちょっと待っ……!!」



 「頼みましたよ~」



 そう言うとエジタスは、ロージェの返事を待たずに指をパチンと鳴らし、その場から一瞬で姿を消してしまった。



 「……全く……勝手な奴だな……」



 ぶつぶつと文句を言いながらも、エジタスに手渡されたバケツを持って、屋敷へと向かうロージェであった。
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