笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第九章 冒険編 蘇る英雄達

そして少女は再び向かう

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 「はぁ……はぁ……はぁ……」



 真緒は暗い森の中を走り回っていた。頻りに後ろを気にする様子から、何かに追われている事が伺えた。しかし、いくら走れど一向に出口は見えない。



 「はぁ……はぁ……きゃっ!!?」



 不意に何かに躓き、転んでしまう。幸いにも地面が土だったお陰で、軽傷程度で済んだ。ふと、いったい何に躓いたのか無性に気になった真緒は、視線を向ける。



 「ひぃ!!!」



 そこにあったのは、ぐちゃぐちゃで血塗れの死体だった。原型が分からなくなったその死体だが、僅かに残った腕から生えている毛から、誰の死体か察しが付いた。



 「ハ、ハナちゃん……」



 変わり果てたハナコの死体を前に、動揺が隠せない真緒。一刻も早くこの場から離れようと後退りしていると、右手にぬるぬるとした生暖かい何かが触れた。



 「……え……?」



 それは血だった。慌てて触れた場所を確認すると、そこにはリーマの死体が転がっていた。四肢が引き千切られ、瞳孔が開いた目は、まるでこちらを睨んでいるかの様だった。



 「リーマ……そんな……」



 心臓の鼓動が早くなる。息遣いも段々と荒くなり始め、気が動転した真緒は足を滑らせながらも、必死に立ち上がり、その場から急いで逃げ出した。



 「嫌だ……嫌だ……嫌だ……!!!」



 進めば進む程、周りの草木が深く生い茂る。次第に道が狭くなり、通るのに一苦労だ。それでも真緒は無理矢理押し通り、先へと進む。強引に進んだ影響で手足の皮膚や体の衣服が鋭い枝で斬り裂かれ、傷付いていく。



 その時だった。目の前に小さな光が見えた。



 「ひ、光? もしかして出口!!?」



 真緒は慌てて出口へと向かう。途中、草に足を取られてしまい、何度か転んでしまった。それでも何とか光が差す方へと向かう。



 「はぁ……はぁ……はぁ……嘘っ……!?」



 何とか辿り着くも、そこは出口などでは無かった。光の正体は燃え盛る十字架に張り付けにされ、全身丸焼けにされているフォルスだった。



 「フォルスさん……っ!!?」



 そのあまりに突然の出来事に酷く混乱し、思わず後退りする真緒。その時、背中に硬い壁の様な物が当たる。慌てて振り返る真緒。



 振り返った瞬間、真緒は目の前の存在に苦悩の表情を浮かべる。恐怖から全身を細かに震わせ、目から涙を流していた。



 「はぁ……はぁ……はぁ……!!!」



 そこにいたのは魔王サタニア。血塗られたその体と両手に握られたシーラとエレットの生首が非常に生々しく、直視する事が出来なかった。



 「うっ……おげぇえええええ!!!」



 次々と目の前に現れる仲間達の死体、そしてその度に襲われる強烈な腐乱臭に堪えきれず、とうとう吐いてしまう真緒。



 「…………」



 そんな真緒に対して、特に何も反応を示さずに無言で近付いて来る魔王サタニア。



 「……い、いや……死にたくない……死にたくないよ……」



 恐怖から腰が抜けて、上手く立ち上がる事が出来ない。それでも何とか逃げようと四つん這いになりながら、情けない姿で離れようとする。



 「…………」



 「ハナちゃん……リーマ……フォルスさん……皆……」



 が、当然逃げ切れる訳も無く、あっさりと捕まってしまう真緒。首を捕まれ、空中に持ち上げられる。



 「がぁ……あがっ……うぐっ!!!」



 気道を塞がれ、呼吸が出来ない。逃れようと必死にもがくが、焼け石に水だった。



 「あ……あぁ……」



 薄れ行く意識の中、最後に聞こえたのは魔王サタニアの声だった。



 「そんな力じゃ……誰も守れやしない……」



 その言葉を最後に真緒の意識は闇に落ちた。







***







 「っ!!! きゃあああああ!!!」



 真緒は目を覚ますと、悲鳴を上げて飛び起きる。辺りを見回すとそこは村の外れにある小さな池だった。どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。



 「…………妙にリアルな夢だったな……」



 夢の中だったとはいえ、絞められた感覚が残っている。真緒は首元を触り、払拭しようとする。



 「そんな力じゃ……誰も守れない……よし……」



 すると真緒は何を思い立ったのか、一人でレーチェル山へと向かうのであった。



 「…………」



 そんな真緒の様子を遠くから見ていた人影があった。そして真緒がレーチェル山に入った途端、人影もその場から消えてしまった。







***







 一方、部屋で真緒の帰りを待つ仲間達。真緒の事が心配であまり会話が弾まず、終始無言の状態が続いていた。



 そんな中、リーマがポツリと言葉を溢した。



 「マオさん……遅いですね」



 真緒が部屋を出て、既に約十時間が経過していた。ここまで来ると、さすがに心配になってきた。



 「こればっかりは本人の気持ち次第だ。気長に待つしかない」



 「だけど、いつまでもじっとなんかしてられないよ」



 「オラ、ぢょっど迎えに行っで来るだぁ」



 そう言うとハナコは、真緒を迎えに行こうと立ち上がる。



 「止めときな。今のあいつに優しい言葉は逆効果だ」



 「うーん、だげどぉ……」



 それを制止するシーラ。行きたい気持ちと真緒を信じて待つ気持ちが入り交じり、どうして良いか分からず、混乱するハナコ。



 その時だった。部屋の扉がノックされる。



 「もしかしてマオさん!!?」



 「いや、マオなら俺達がここにいる事を知っている筈だから、わざわざノックする訳が……」



 そう考察するフォルスを尻目に、真緒が戻って来たと思ったハナコは何の躊躇いも無く、部屋の扉を開けた。



 「マオぢゃん!! お帰り!! オラ、心配じだんだ……よ?」



 「えっと……こんにちは……」



 そこにいたのは、池の畔で真緒と会話した魔族の青年だった。



 「誰だお前は?」



 「あの……僕はこの村に住む魔族です。実は皆さんの仲間である勇者様についてお話が……」



 「マオぢゃんがどうがじだんだがぁ!!?」



 真緒の話題と分かるや否や、ハナコは青年の胸ぐらを両手で掴み、激しく詰め寄った。



 「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい……く、苦しいです……」



 「おい、ハナコ。ちょった落ち着け」



 「そうですよ、これじゃあ喋れる物も喋れませんよ」



 「ず、ずまないだぁ……づい興奮じぢゃっで……」



 仲間達に制止され、ハナコは掴んでいた青年の胸ぐらを離した。



 「それで? マオがどうかしたのか?」



 「実は先程レーチェル山に登っていく姿を目にして……」



 「レーチェル山に?」



 「何だか思い詰めた様子だったから……仲間である君達に伝えたが良いかなって……」



 「そうか……わざわざありがとう」



 「でも、いったい何の為にレーチェル山へ?」



 「そりゃあやっぱり修行じゃない? もっと強くなりたいとか、思ったんじゃない?」



 「それなら、私達の事を誘ってくれたら良かったのに……どうして?」



 「……多分、心配かけたくなかったんだと思うよ」



 「えっ?」



 仲間達の疑問に対して、青年が代わりに答える。



 「彼女は一人で抱え込むタイプでしょ? 他人の悩みなら兎も角、自分の悩みは自分で何とかしようと思ったんじゃないかな?」



 「そんな……」



 「くそっ、いつも一人で抱え込むなって言ってるのに……」



 「どんな生き物も、一度染み付いた性格は直す事は出来ないんだよ。例えそれが命に関わる事だとしてもね」



 「こうしちゃいられない。俺達も急いでレーチェル山に向かうぞ!!」



 フォルスの言葉に頷く一同。荷物をまとめ、急いで部屋から出ようとする。が、その行く手を遮る青年。



 「止めなよ。彼女が何も言わず一人で向かったって事は、君達に来て欲しくないからじゃないの? 仲間なら信じて待つべきでしょ?」



 「……確かにそうかもしれない……だがな、仲間が間違った方向に行こうとするのを正すのも、仲間の役目なんだよ」



 そう言うとフォルス達は青年の制止を振り切り、部屋を飛び出して行ってしまった。



 その様子を呆然と眺める青年。そしてフォルス達に遅れてゆっくりと部屋を出るシーラ。



 「ああいう連中なのさ」



 そう言いながらシーラは青年の肩をポンポンと叩き、フォルス達の後を追い掛ける。



 「仲間か……よく分からないな……」



 一人残った青年はポツリと呟くのであった。
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