笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第九章 冒険編 蘇る英雄達

マッチポンプ

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 「これはいったい……!?」



 無事に修行を終え、下山して来た真緒達一行。だが、そこで目にしたのは信じられない光景だった。



 赤々と炎に包まれる村。積み上げられた死体の山。まるで潮が満ちるかの様に広がる血の海。正に地獄絵図と言うべき光景だった。



 「何があったんだ!?」



 「た、助けてくれ!!」



 現場の状況に真緒達が混乱していると、一人の魔族が助けを求めてこちらに駆け寄って来る。



 「化物が!!! 皆をっ……!!!」



 それ以上の言葉が発せられる事は無かった。何故ならその魔族の胸には円形状の風穴が空いていたからだ。



 「「「「「「!!?」」」」」」



 この異常事態に言葉を失う一同。パニックにならないのが奇跡だった。



 「もうお兄ちゃんったら、相変わらず爪が甘いんだから。逃げられたりしたら、どうするのよ」



 「あははー、ごめんごめん。あまりにも単純な作業だったから、つい手を抜いちゃってー」



 「全く……お兄ちゃんは私がいないと駄目なんだから」



 そんな地獄の中、平然と立っている二人がいた。無邪気な笑みを浮かべるそれは、年端もいかない子供だった。



 「あ、あなた達はいったい!?」



 「んー? もしかして、あの人達がそうかなー?」



 「きっとそうよ。ねぇ、あなた達って、勇者一行?」



 真緒達の存在に気が付いた二人。その内の少女の方が真緒達に歩み寄り、勇者かどうか訪ねて来た。



 「えっ、あっ、そうだけど……」



 突然の出来事に戸惑いつつも、少女の質問に答える。すると少女は満面の笑みを浮かべ、少年の方に振り返る。



 「やっぱり勇者一行だって!!」



 「良かったー。もし殺した死体の中にいたらどうしようって、焦ったよー」



 「殺したって……やっぱりこれは君達がやったの!?」



 「うん、そうだけど? それが?」



 さも当然の様な反応を示す少年と少女。そんな二人に真緒達は驚きを隠せなかった。



 「それがって……どうしてこんな事を!?」



 「どうしてって言われてもー。うーん……面白いからかなー?」



 「そうね。生き物を殺す時って虫を潰す時の感覚に似ているから、気持ちが良いのよ」



 「…………」



 開いた口が塞がらない。狂っている。戦いが好きだとか、殺しが好きだからという次元じゃない。純粋であるが故の狂気。彼らに倫理観という概念は存在しない。



 「って、そんな話はどうでも良いのよ。あなた達が勇者一行なら、これを見せないとね」



 そう言って少女は、懐から小さな水晶玉を取り出した。



 すると水晶玉は少女の手を離れ、空中に浮かび上がる。そして空に向かって光を照射した。



 「こ、これは!!?」



 そこに映し出されたのは、エジタスの姿だった。周りには何処かの村に住む村人達の姿があった。



 「“スクリーンボール”だ」



 「“スクリーンボール”?」



 「その場で起こった出来事や物事を映像として取り込み、空を反映して映し出す事が出来るマジックアイテムだ」



 「(つまり現実世界でいう、カメラと同じ機能を持っているって事か……)」



 スクリーンボールに妙な親近感を持っていると、映し出された映像が再生される。







***







 『皆さん、初めまして~!! 私は“道楽の道化師”エジタスと申しま~す!!』



 目の前に現れたエジタスに、村人達は酷く困惑していた。そんな村人達を放っておいて、話を続ける。



 『最近、世界各国で何者かによる大量虐殺が行われているのはご存じですよね~?』



 『ご存じも何も、俺達も襲われたんだよ!! そのせいで……俺の……俺の妻は……!!!』



 『私の息子も……うぅ!!!』



 『うぅ……パパ……ママ……会いたいよ……』



 声を荒げた男性が泣き崩れるのを切っ掛けに、次々と村人達が殺された家族や友人、恋人の事を思って泣き出してしまった。



 『あぁ~、皆さん辛い目に遇われたのですね。ですがもうご安心下さい。私はそんな皆さんを絶望から救いに来たのです!!』



 『救いに来ただと?』



 『実は私、ある島を保有していまして、そこでは争いは勿論、差別や虐めなど一切起こらない夢の様な島なのですよ~』



 『皆さん、もう疲れたでしょ~。国同士の無意味な争いに巻き込まれ、無駄と言える差別や虐めに遇って来て……同じ生き物なのに……虚しいだけだと思った事はありませんか~? あるでしょ~?』



 『…………』



 無言。それは肯定と同じ。エジタスは更に話を続ける。



 『そんなしがらみから助け出す為、皆さんを私の島にご招待しに来たのですよ~』



 『招待だと!? そんな怪しい誘いに乗る訳が無いだろう!!』



 『そうだそうだ!!』



 『人に信用されたかったら、まずその仮面を外せ!!』



 『……それならここで死にますか~?』



 『な、何だって……?』



 『いいですか~? 今、世界中で大虐殺が行われている。そんな危険な場所に留まっていたら、またいつ殺しにやって来るか気が気ではない。夜だって安心して眠る事が出来ない。違いますか~?』



 『それは……』



 『あなた達は充分に苦しんだ。ならこれ以上、苦しむ必要は無い。寧ろ、目の前の幸せを掴んだ方が良いんですよ~』



 『けど……妻のいない人生なんて……』



 『奥さんの名前……何て言うんですか~?』



 『そんなの聞いてどうするんだ?』



 『いいからいいから、答えて下さい』



 『……“エミリー”だ』



 『“エミリー”さんですね~』



 そう言うとエジタスは、懐から一枚の紙切れを取り出した。



 『ここで皆さんに朗報をお伝えしま~す。実は私、“死者”を蘇らせるんですよ~』



 ざわつく村人達。当然の反応だ。争いや差別が全く起きない島があるという話の直後なら尚更だ。そんな村人達を両手を広げ、静めるエジタス。



 『その証拠に今ここで彼の妻である“エミリー”さんを蘇らせましょう!! ロージェ、アシスタントお願いしますよ』



 『あぁ……』



 高らかに宣言するエジタスの側にいたロージェは、彼を真っ黒な布で覆い隠した。



 『いいですか、私がいいと言うまで決して布は外さないで下さいよ~』



 そう忠告すると同時に、エジタスを包んでいる布がモゾモゾと動き出した。いったい中で何が行われているのか、村人達は食い入る様に見守っていた。



 モゾモゾと動くのがしばらく続き、やがて動きが収まった。



 『終わりました。それでは準備はよろしいですか~? ワン、ツー、スリー!!』



 エジタスが勢い良く布を取り外す。するとそこにはエジタスの他に、横たわる女性の姿があった。



 その女性の姿を見て、妻が殺されたと嘆いていた男性が驚きの表情を浮かべ、恐る恐る近寄って来た。



 『あ……ああ……エ、エミリー?』



 『……ん……んん……あなた?』



 エミリーと呼ばれた女性は目を覚ました。死んだ筈の彼女が生き返った事に男性は歓喜し、エミリーを強く抱き締めた。



 『ちょ、いったいどうしたのよ!?』



 『良かった!! 本当に良かった!! 妻を生き返らせて頂き、ありがとうございます!! ありがとうございます!!』



 『いやいや~、大した事はしていませんよ~。それで? 他に誰か、蘇らせたい人はいますか~?』



 その瞬間、村人達が一斉に群がり始める。我先にと人が人を押し退け、中には突き飛ばされて怪我を負ってしまった人もいた。



 『お願いします!! 俺の彼女を!!』



 『私の両親を!!』



 『お爺ちゃんを蘇らせて!!』



 『まぁまぁ、皆さん一旦落ち着いて下さい。そんなに焦らなくてもちゃんと蘇らせてあげますから~』



 『『『おぉ!!』』』



 『但し一つ条件があるんですよ~』



 一気に雲行きが怪しくなる。歓喜していた村人達も不安の表情を浮かべていた。



 『その条件とは……私の保有する島に移住して貰う事で~す』



 『『『!!!』』』



 『せっかく大切な人を蘇らせるんですから、その人達と一緒に幸せになって貰いますよ~』



 何と破格の条件。大切な人ともう一度会えるだけじゃなく、争いや差別が無い島で幸せに暮らせるなど、メリットしか無い。村人達は喜びのあまり舞い上がっていた。



 『エジタス様!! 万歳!!』



 誰かがそう叫んだ。それを切っ掛けに村人達の中で、エジタスコールが飛び交う様になった。



 『ではまず、皆さんの安全を保証する為、島の方に移住して貰いましょう!! ロージェ、後はお願いしますよ。私は他の村へと赴きます』



 『分かった』



 そう言うとエジタスは、その場から一瞬で姿を消した。そして一人残ったロージェは村人達の案内を執り行うのであった。







***







 と、ここでスクリーンボールの映像は途切れ、少女の手に再び収まる。



 「これって……完全なマッチポンプじゃないですか!?」



 マッチポンプ。自分で起こしたもめ事の収拾を持ちかけて利を得ようとする事。あの村人達もまさか、エジタスの指示で家族や友人、恋人が殺されたと夢にも思わないだろう。



 「そうかもしれないわね。でもちゃんと蘇らせているんだから、プラスマイナスゼロじゃない?」



 「プラスマイナスゼロの訳が無いでしょ!?」



 「落ち着け、これをわざわざ見せたという事は何か目的があるんだろう?」



 「んー、そっちのサキュバスのおばさんと違ってー、鳥人のお兄さんは理解が早くて助かるなー」



 「お、おばっ!!?」



 今にも殴り掛かりそうなエレットを必死に抑え、二人の話を聞く事にした。



 「それじゃあ改めて自己紹介しようかー。僕は“ヘゼンルーテ”」



 「私は“ヘグレル”」



 「「あなた達をエジタス様の島にご招待します」」
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